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第三章 絶対に負けないんだから
第48話 ベルクヴァイン家
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「ご機嫌麗しゅうございます。ベルナルド様。本日はお招きして頂いて有り難うございます」
ここはオーディックの実家であるベルクヴァイン家の客間。
今日はベルナルド侯爵の控室として使われている。
舞踏会の開催時刻にはまだ早い為、早くに来た貴族達にはそれぞれ客間が控室として宛がわれていた。
勿論ローズにも専用の控室が用意されていたが、まずは派閥長、それに今回のお披露目の場を用意してくれたお礼も兼ねてベルナルドの控室に挨拶に来たのだった。
この部屋にはベルナルド侯爵の他、この舞踏会お披露目計画の発起人であるオーディックも居た。
「おぉ、なんと……。バルモア出立の際に会った時より更に美しいではないか。ふむふむ、おぬしの母君であるアンネリーゼ嬢の若き日の姿にそっくりだわい。よくぞ来たなローゼリンデよ」
ベルナルドは着飾ったローズを見て、懐かしそうな目でそう言った。
彼の目にはアンネリーゼの姿が重なって見えていたのだろう。
ベルナルドとアンネリーゼは大伯父と姪孫の関係で、幼い頃からアンネリーゼの事を実の孫の様に見守っていた。
アンネリーゼを娶ったバルモアがベルナルドの派閥に入ったのはこう言う理由からだった。
必然的にローズとは曾祖伯父と曾姪孫の関係であり、アンネリーゼと同じように幼き頃から見守っていたのだが、不幸にも性悪令嬢に育ってしまった事をバルモア以上に嘆いていた人物であった。
しかし、バルモア出立の際に見せたローズの貴族令嬢としてあれ以上は存在しないだろうと思われる程の立ち振る舞いに歓喜し、そしてその後オーディックから伝え聞いた『夢見の母からの助言』の話。
それを聞いた時の感動は、思わず声を上げて泣き崩れてしまう程だった。
そしてもう高齢であるベルナルドは、残り少ないであろう人生の全てをローズの為に使う事に決めた。
その第一歩が今日のお披露目であり、それ以外にも色々と計画を練っている。
勿論それ以前でも、どれほど性悪女と言われようと曾姪孫でありアンネリーゼの忘れ形見である、かわいいローズを守る為の計画は画策してはいたが、あくまで自分は表に出ず秘密裏に行っていたものばかりだった。
だが、これからは違う。
自らが率先してローズを護るのだと、ベルナルドは息巻いているのである。
とは言え、過去に打ち砕いた筈のローズに纏わるとある問題が、再燃の兆しを見せ火種が燻り始めている事に頭を悩ましていた。
現金なものだと心の中で呆れた声を出す。
いや、それは彼自身ではなく、あの時周りが下した判断なのだから責められる筈もないのだが、それにしても……。
「ベルナルド様? どういたしました?」
ローズは自分を見詰めたまま動かなくなったベルナルドに声を掛けた。
その声に我に返ったベルナルドは「いや、可愛い曾姪孫をこの目に焼き付けておったのだよ」とおどけて見せた。
その問題は、今はどうしようもないのだ。
このままでは、火種の再燃も何もなく表に出る事も無く消え去るもの。
皮肉にもある人物の活躍如何によって、火種が燃え盛るのを後押しする結果になるかもしれない事にベルナルドは溜息を吐く。
後押しすると言う事は、今の平和が脅かされると同義。
ベルナルドはその人物が、今どうしているのかと言う事に想いを馳せる。
本当に頭の痛い事だとベルナルドは心の中で愚痴った。
「おいおい、俺への挨拶はないのかよ」
相手が派閥長だったのだから仕方の無いものの、なかなか自分に声を掛けて来ないローズに対してオーディックが口を尖らせて文句を言った。
と言いながら、ついさっきまで見惚れたまま固まっていたのだが。
それに表面では平静を装っているが、彼の中では恐慌状態の様に様々な想いがぐるぐると回っていた。
言葉にならない想いの乱流だが、無理矢理言葉にしてみるとこんな感じとなる。
『ちょっと待てよ! なんだよこれ! 本当になんなんだよ! 昨日も綺麗だったが、今日はどうなってんだ? まるで全身から光でも放っているようじゃねぇか! 可愛い、可愛すぎる。もう絶対嫁にしたい。残念だがシュナイザーにも……ジェにも譲ってやるもんか。ディノは平民騎士だが、芽が無ぇ訳でもないから要注意だな、うん。カナンにホランツ? あいつらは……』
と言った塩梅である。
一部不明瞭な所が有った事はお詫びしたい。
それだけオーディックの中ではパニックになっているのである。
「ごめんなさい。オーディック様。ご実家にお呼び頂きありがとうございます。え~と、この本邸には、私も昔来た事が有るんでしたよね? こんな造りだったかしら……?」
ローズは思い出す素振りをした。
勿論そんな記憶はいくら思い出そうとしても出て来ない。
だが、ローズがこんな事を言ったのは、ここに来た事が有ると言う情報を知っている。
それはゲーム中に、オーディックが『昔俺の実家に遊びに来ていた頃はあんな性格じゃなかったのにな』と、ローズにいじめられたエレナを慰めるシーンで語っていたからだ。
あえて先にあんまり覚えていないと言う事をアピールして、後からオーディックが『ほら、あそこの××覚えているか?』とか、この屋敷の思い出を語り出して来た時に『やっぱり覚えていない』と言い訳する為の作戦である。
「そうなんだが、やっぱ覚えてねぇか。まぁ、二、三回程度だし仕方ねぇよ。なんせローズだしな」
「まぁ、酷いですわ。でも本当にごめんなさい」
と、忘れていた事を謝るローズだが、心の中では作戦成功のガッツポーズを取っている。
「良いって良いって。なんせ母上は屋敷の模様替えが趣味みたいなものだからな。俺も来る度に変わってるんで驚いてるんだ。しっかし今回は結構大掛かりだったようだな。今日の為に久し振りに実家に帰って来たが屋敷内の壁の色が変わっちまってるんだからよ」
「えぇ、そうですわね。昔は落ち着いた感じの薄い茶色でしたのに」
「おっ? なんだ覚えてるじゃねぇか。そうそう、茶色だったよな。それが今じゃ全部がまっ黄色になってるんだから、我が母上ながら趣味が悪い。こんな事なら別の会場を探すんだった……。ん? どうしたんだローズ。変な顔をして?」
ローズは自分の口から自然に出た言葉に驚いていた。
オーディックの実家の壁の色なんて知らない。
こんな情報はゲーム中に出て来なかった。
なのに何で自分はさも知っている様な口調でこんな事を言ったのか?
しかも、それを発言してその行為に驚いている今でさえ、自分の言葉がその場限りの嘘や、誤魔化す為に適当な事を言ったとは思っていない事に更に驚いていた。
あの言葉が真実だった事はオーディックが認めている。
もしかして、忘れているだけでゲーム中に出て来たのだろうか? と必死にそんなシーンが有ったのかを思い出そうとした。
「おーーい。ローズ? どうしたんだ? 顔色悪いぞ?」
「え? い、いや大丈夫です。ごめんなさい。ちょっと考え事を……」
オーディックの呼びかけに辛うじて反応したローズは言葉を濁した。
ガチャ――!
突然ノックも無しに控室の扉が開いた。
侯爵の控室なのだからノックもしないで開けるなどあってはならない非常識な事。
慌ててローズは振り返った。
そこに居たのは……。
「キャーーーーーー!! とっても可愛いわ。あなたローズちゃんよね? あぁ、本当に大きくなって!! 懐かしいわーーー! 覚えてる? 私の事を覚えてる? 同じ街に住んでるのになかなか会えないんだもの、寂しかったわ。そう言えばローズちゃん色々と悪い噂聞いてたけど、その顔じゃ大丈夫みたいね。本当に貴族って嫌ーーね。そんな嘘の悪い噂を流す輩は馬に蹴られたらいいと私思うわ」
と、突然大声で喧しく捲し立ててくる結構年配だがとても綺麗な女性がローズ目掛けて嵐の様に突進して来た。
そしてそのままローズに抱き着いて来る。
「え、えっと……え?」
突然の事にどう反応していいのか分からず頭が真っ白になるローズ。
そして、その女性の喋りは止まらない。
「あぁ、本当に可愛いわ。ねぇ、ローズちゃんこのままうちの子にならない? オーディックもそれで良いでしょ? あんたも昔からローズちゃんの事を……」
「わぁーーーー! 母上何とんでもない事言ってんだよ!!」
「え……と、母上?」
オーディックの言葉で今自分に抱き着いて来ている女性の正体が分かった。
どうやらこの喧しい女性がオーディックの母であるようだ。
フレデリカに授業では、確か国王の従妹に当たる人物との話だった。
なるほど、侯爵の控室に飛び込んで来るこのフリーダムさは王族だからなのか。
そう言えば、公爵の子息であるオーディックがそれより下の位である侯爵の派閥に入っているのも、このベルクヴァイン家の特殊性によるものと聞いていた事をローズは思い出した。
公爵夫人の王女様、そりゃ侯爵であるベルナルドが文句も言える訳がない。
しかしこんな人物だったとは初耳だと、ローズは半ば呆れながら思った。
「これはこれは、サーシャ様。ご機嫌麗しゅう。今宵はこの館を貸して頂き有り難く思います」
「ごめんなさいね、突然お邪魔して。ベルナルド卿もご壮健なようで何よりですわ。うちの事はいいのよ。だってローズちゃんの為なんでしょ? 本当なら私が率先してやりたかったのだけど、そう言う訳にもいかなくて」
「仕方有りませぬ。王国司法の長である公爵がいくらご子息が組する派閥と言えども、そうそう肩入れする訳にはいきませぬよ。館を貸して頂けるだけで十分です。なにしろ急な事でしたので会場の手配が出来ず困っていましたから」
『そうそう、オーディック様の家ってシュナイザー様同様王国で中立な立場に居ないといけない仕事をしているのよね。そしてオーディック様はうちの派閥に入る為にベルクヴァイン家から離れたんだとか。何でかしらね? しかしゲームには全く出て来ないんだもの、びっくりしたわ。』
ローズはいまだ抱き着かれるままの状態でフレデリカの授業内容を思い出す。
そして、これっていつ解放されるんだろうと途方に暮れていた。
『う~ん、ドレス皺にならないかしら?』
ここはオーディックの実家であるベルクヴァイン家の客間。
今日はベルナルド侯爵の控室として使われている。
舞踏会の開催時刻にはまだ早い為、早くに来た貴族達にはそれぞれ客間が控室として宛がわれていた。
勿論ローズにも専用の控室が用意されていたが、まずは派閥長、それに今回のお披露目の場を用意してくれたお礼も兼ねてベルナルドの控室に挨拶に来たのだった。
この部屋にはベルナルド侯爵の他、この舞踏会お披露目計画の発起人であるオーディックも居た。
「おぉ、なんと……。バルモア出立の際に会った時より更に美しいではないか。ふむふむ、おぬしの母君であるアンネリーゼ嬢の若き日の姿にそっくりだわい。よくぞ来たなローゼリンデよ」
ベルナルドは着飾ったローズを見て、懐かしそうな目でそう言った。
彼の目にはアンネリーゼの姿が重なって見えていたのだろう。
ベルナルドとアンネリーゼは大伯父と姪孫の関係で、幼い頃からアンネリーゼの事を実の孫の様に見守っていた。
アンネリーゼを娶ったバルモアがベルナルドの派閥に入ったのはこう言う理由からだった。
必然的にローズとは曾祖伯父と曾姪孫の関係であり、アンネリーゼと同じように幼き頃から見守っていたのだが、不幸にも性悪令嬢に育ってしまった事をバルモア以上に嘆いていた人物であった。
しかし、バルモア出立の際に見せたローズの貴族令嬢としてあれ以上は存在しないだろうと思われる程の立ち振る舞いに歓喜し、そしてその後オーディックから伝え聞いた『夢見の母からの助言』の話。
それを聞いた時の感動は、思わず声を上げて泣き崩れてしまう程だった。
そしてもう高齢であるベルナルドは、残り少ないであろう人生の全てをローズの為に使う事に決めた。
その第一歩が今日のお披露目であり、それ以外にも色々と計画を練っている。
勿論それ以前でも、どれほど性悪女と言われようと曾姪孫でありアンネリーゼの忘れ形見である、かわいいローズを守る為の計画は画策してはいたが、あくまで自分は表に出ず秘密裏に行っていたものばかりだった。
だが、これからは違う。
自らが率先してローズを護るのだと、ベルナルドは息巻いているのである。
とは言え、過去に打ち砕いた筈のローズに纏わるとある問題が、再燃の兆しを見せ火種が燻り始めている事に頭を悩ましていた。
現金なものだと心の中で呆れた声を出す。
いや、それは彼自身ではなく、あの時周りが下した判断なのだから責められる筈もないのだが、それにしても……。
「ベルナルド様? どういたしました?」
ローズは自分を見詰めたまま動かなくなったベルナルドに声を掛けた。
その声に我に返ったベルナルドは「いや、可愛い曾姪孫をこの目に焼き付けておったのだよ」とおどけて見せた。
その問題は、今はどうしようもないのだ。
このままでは、火種の再燃も何もなく表に出る事も無く消え去るもの。
皮肉にもある人物の活躍如何によって、火種が燃え盛るのを後押しする結果になるかもしれない事にベルナルドは溜息を吐く。
後押しすると言う事は、今の平和が脅かされると同義。
ベルナルドはその人物が、今どうしているのかと言う事に想いを馳せる。
本当に頭の痛い事だとベルナルドは心の中で愚痴った。
「おいおい、俺への挨拶はないのかよ」
相手が派閥長だったのだから仕方の無いものの、なかなか自分に声を掛けて来ないローズに対してオーディックが口を尖らせて文句を言った。
と言いながら、ついさっきまで見惚れたまま固まっていたのだが。
それに表面では平静を装っているが、彼の中では恐慌状態の様に様々な想いがぐるぐると回っていた。
言葉にならない想いの乱流だが、無理矢理言葉にしてみるとこんな感じとなる。
『ちょっと待てよ! なんだよこれ! 本当になんなんだよ! 昨日も綺麗だったが、今日はどうなってんだ? まるで全身から光でも放っているようじゃねぇか! 可愛い、可愛すぎる。もう絶対嫁にしたい。残念だがシュナイザーにも……ジェにも譲ってやるもんか。ディノは平民騎士だが、芽が無ぇ訳でもないから要注意だな、うん。カナンにホランツ? あいつらは……』
と言った塩梅である。
一部不明瞭な所が有った事はお詫びしたい。
それだけオーディックの中ではパニックになっているのである。
「ごめんなさい。オーディック様。ご実家にお呼び頂きありがとうございます。え~と、この本邸には、私も昔来た事が有るんでしたよね? こんな造りだったかしら……?」
ローズは思い出す素振りをした。
勿論そんな記憶はいくら思い出そうとしても出て来ない。
だが、ローズがこんな事を言ったのは、ここに来た事が有ると言う情報を知っている。
それはゲーム中に、オーディックが『昔俺の実家に遊びに来ていた頃はあんな性格じゃなかったのにな』と、ローズにいじめられたエレナを慰めるシーンで語っていたからだ。
あえて先にあんまり覚えていないと言う事をアピールして、後からオーディックが『ほら、あそこの××覚えているか?』とか、この屋敷の思い出を語り出して来た時に『やっぱり覚えていない』と言い訳する為の作戦である。
「そうなんだが、やっぱ覚えてねぇか。まぁ、二、三回程度だし仕方ねぇよ。なんせローズだしな」
「まぁ、酷いですわ。でも本当にごめんなさい」
と、忘れていた事を謝るローズだが、心の中では作戦成功のガッツポーズを取っている。
「良いって良いって。なんせ母上は屋敷の模様替えが趣味みたいなものだからな。俺も来る度に変わってるんで驚いてるんだ。しっかし今回は結構大掛かりだったようだな。今日の為に久し振りに実家に帰って来たが屋敷内の壁の色が変わっちまってるんだからよ」
「えぇ、そうですわね。昔は落ち着いた感じの薄い茶色でしたのに」
「おっ? なんだ覚えてるじゃねぇか。そうそう、茶色だったよな。それが今じゃ全部がまっ黄色になってるんだから、我が母上ながら趣味が悪い。こんな事なら別の会場を探すんだった……。ん? どうしたんだローズ。変な顔をして?」
ローズは自分の口から自然に出た言葉に驚いていた。
オーディックの実家の壁の色なんて知らない。
こんな情報はゲーム中に出て来なかった。
なのに何で自分はさも知っている様な口調でこんな事を言ったのか?
しかも、それを発言してその行為に驚いている今でさえ、自分の言葉がその場限りの嘘や、誤魔化す為に適当な事を言ったとは思っていない事に更に驚いていた。
あの言葉が真実だった事はオーディックが認めている。
もしかして、忘れているだけでゲーム中に出て来たのだろうか? と必死にそんなシーンが有ったのかを思い出そうとした。
「おーーい。ローズ? どうしたんだ? 顔色悪いぞ?」
「え? い、いや大丈夫です。ごめんなさい。ちょっと考え事を……」
オーディックの呼びかけに辛うじて反応したローズは言葉を濁した。
ガチャ――!
突然ノックも無しに控室の扉が開いた。
侯爵の控室なのだからノックもしないで開けるなどあってはならない非常識な事。
慌ててローズは振り返った。
そこに居たのは……。
「キャーーーーーー!! とっても可愛いわ。あなたローズちゃんよね? あぁ、本当に大きくなって!! 懐かしいわーーー! 覚えてる? 私の事を覚えてる? 同じ街に住んでるのになかなか会えないんだもの、寂しかったわ。そう言えばローズちゃん色々と悪い噂聞いてたけど、その顔じゃ大丈夫みたいね。本当に貴族って嫌ーーね。そんな嘘の悪い噂を流す輩は馬に蹴られたらいいと私思うわ」
と、突然大声で喧しく捲し立ててくる結構年配だがとても綺麗な女性がローズ目掛けて嵐の様に突進して来た。
そしてそのままローズに抱き着いて来る。
「え、えっと……え?」
突然の事にどう反応していいのか分からず頭が真っ白になるローズ。
そして、その女性の喋りは止まらない。
「あぁ、本当に可愛いわ。ねぇ、ローズちゃんこのままうちの子にならない? オーディックもそれで良いでしょ? あんたも昔からローズちゃんの事を……」
「わぁーーーー! 母上何とんでもない事言ってんだよ!!」
「え……と、母上?」
オーディックの言葉で今自分に抱き着いて来ている女性の正体が分かった。
どうやらこの喧しい女性がオーディックの母であるようだ。
フレデリカに授業では、確か国王の従妹に当たる人物との話だった。
なるほど、侯爵の控室に飛び込んで来るこのフリーダムさは王族だからなのか。
そう言えば、公爵の子息であるオーディックがそれより下の位である侯爵の派閥に入っているのも、このベルクヴァイン家の特殊性によるものと聞いていた事をローズは思い出した。
公爵夫人の王女様、そりゃ侯爵であるベルナルドが文句も言える訳がない。
しかしこんな人物だったとは初耳だと、ローズは半ば呆れながら思った。
「これはこれは、サーシャ様。ご機嫌麗しゅう。今宵はこの館を貸して頂き有り難く思います」
「ごめんなさいね、突然お邪魔して。ベルナルド卿もご壮健なようで何よりですわ。うちの事はいいのよ。だってローズちゃんの為なんでしょ? 本当なら私が率先してやりたかったのだけど、そう言う訳にもいかなくて」
「仕方有りませぬ。王国司法の長である公爵がいくらご子息が組する派閥と言えども、そうそう肩入れする訳にはいきませぬよ。館を貸して頂けるだけで十分です。なにしろ急な事でしたので会場の手配が出来ず困っていましたから」
『そうそう、オーディック様の家ってシュナイザー様同様王国で中立な立場に居ないといけない仕事をしているのよね。そしてオーディック様はうちの派閥に入る為にベルクヴァイン家から離れたんだとか。何でかしらね? しかしゲームには全く出て来ないんだもの、びっくりしたわ。』
ローズはいまだ抱き着かれるままの状態でフレデリカの授業内容を思い出す。
そして、これっていつ解放されるんだろうと途方に暮れていた。
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