悪役令嬢に転生しましたので、主人公をバッドエンドに叩き込んでやりますわっ!!

やすぴこ

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第二章 誰にも渡しませんわ

第35話 オズの正体

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「では、気を取り直しまして、お嬢様の交友関係をお知り合いになりたいのでしたね」

「そうなのよ。過去に会った事が有る相手に『お初にお目に掛かりまして』なんて言ってしまうと、すごく相手に失礼ですもの」

 フレデリカはそのローズの言葉に『ついこの間までそうされていましたけどね』と笑みを浮かべながらそう言った。

 ローズに絶対の忠誠を誓う前のフレデリカにとって、舞踏会等の社交の場にローズのお付メイドとして付いて行く事は、言わば遊園地に向かう子供の様に心ときめく時間である。
 相手が誰であろうと構わず、しかもその年だけでも三度目の顔合わせと言うのに毎回『お初にお目に掛かりまして』と会釈をするのだった。
 その様子にバルモアは胃に穴が空くような表情で顔を引き攣らせている。
 そんな信管剥き出しの不発弾に対してスイカ割りをする如き光景に、至上の快感を得ていたのだった。

 今のフレデリカはその逆、今までは積み上げられた積み木を一つずつ抜き取り、いつ崩れるかと言うスリルを味わう事で得ていた快感を、一歩先が奈落の底な迷い道、ローズが足を踏み外さないように無事に導けるかと言う事に快感を見出したのだ。
 分かりやすく言うと、ゲームの趣味がジェ〇ガからチク〇クバン〇ンに移ったとても言おうか。
 要するに、傍観者から演出家へ。
 あまりにも無知蒙昧なローズの愚かな行動を、自らの才知を駆使し回避させる事が自分の使命であり、喜びとなっていた。
 
 そんな事は知らないローズは、『ローズなら、そうだよなぁ』と思いながらも、今自分がローズなので次にその人達に会った時どう対応した物かと頭を抱える。
 恥ずかしいなんてもんじゃない、バルモア出立の際に集まってくれた人達は心を入れ替えた演出を見せた事で大丈夫だろうし、何より全員の名前と顔はしっかりと覚えたので次に会った時も問題は無いだろう。
 それに元々、バルモアに対して友好な者達なので多少の粗相は大目に見てくれると思われる。
 しかし、それ以外の貴族達。
 危険な任務の出立に集まって来ない程度の知り合いの場合、今までローズの失態をフォローしてくれていたバルモア不在の現在において、失態の程度を問わずさらす訳にはいかない。
 オズの正体を探る妙案だと軽い気持ちで聞いたのに、とんでもない問題が明るみに浮上してきた事に、ローズは少し眩暈がして来た。
 元のローズの粗忽さに少し感謝していた自分に呆れ返る。

 『何か良い案無いかしら? それぞれ個別で信頼関係を取り戻すのはエレナが登場した以上派手に動けない。それにやっぱり時間が足りないわ。お父様の出立の時みたいにせめて派閥内の人達が一同に介する様な出来事が有れば良いんだけど……』


「お嬢様。過去の交友関係の確認お前にまずお浚いしましょう。先日の旦那様の出立に集まって来て頂いた方々のお名前は覚えておられますか?」

 何か手は無いかと考えていたローズにフレデリカが講義を再開すべく質問してきた。
 丁度今その事を考えていたのだから大丈夫とローズは自信満々に笑う。

「それは大丈夫よ。階段で教えてくれた人も、お父様がお屋敷を立たれた後の皆様へのお礼を言う際に聞いた残りの人も全員容姿と共に覚えているわ。え~っと、まず派閥の長である凛々しいお髭のナイスミドルなベルナルド侯爵でしょ? そしてパッと見冷たい目をしているけど声は優しいカナード伯爵。そしてマッチョで大きいけれど童顔なジェスター子爵。それから……」

 ローズは名前と顔が一致している事をアピールする為、見た目の印象を添えつつ教えて貰った名前をつらつらとあの場に居た総勢20名を越える人達の名前を全員間違わずに答えた。

「お嬢様……。何かと関連付けて物事を覚えておられる発想は素晴らしいとは思いますが、少しばかり邪念が入り気味では有りませんか? 殿方の容姿で何処が良いとか言う感想は貴族の令嬢として少々はしたないかと」

「う……ごめんなさい。つい癖で……」

 元の世界でも、男性の名前を覚える際には容姿の特徴を二つ名として覚える癖が有った野江 水流。
 但し、基本善人の彼女は容姿での差別はせず、少々顔面偏差値の低い男性でもどこか良い所は有る物である。
 鼻が高いとか、目が綺麗とか、そんな感じで。
 そう言った、良かった探しをして一番いい所を二つ名にし、誰彼構わず平等に接していた。
 元より過去好きになった男性も、別に全員イケメンな訳でも白馬の王子様な訳でも無い。
 ことごとく好きになった相手を橋渡しする事になる宿命によって色々と拗れまくった結果、自分に橋渡しを要求して来る者など存在しない程の高嶺の花、すなわち絶対存在しない『白馬の王子』を求める様になってしまったのだった。

「まぁ、良いでしょう。覚えやすいキーワードで覚えるのは基本ですし。では、前回いらっしゃらなかった方々の説明を致しましょう」

「出来れば容姿の説明込みでお願いね」

「……」

 フレデリカは、『もしかして婿候補を物色しようとでもしているのか?』と、嫉妬の炎を燃やしながらも主人が望む様に容姿の説明込みで同じ派閥の貴族達の名前と伯爵家に対する立ち位置の解説を始めた。
 勿論容姿説明は出来るだけローズが相手に興味を抱かない様にと少々ディスり気味にだったが。



      ◇◆◇


「……と、まぁ、以上が伯爵家にとって親交が深い貴族家の説明となります。直近ではこれらの方々の事を覚えていれば十分と思われます。それに社交の場には、私もお供致しますのでフォローいたしますので安心して下さい」

 フレデリカは重要度の高い貴族達の解説を一通り終え、最後に『自分は頼りになる』アピールをした。
 ディスり気味の容姿説明だったのに何人かに喰い付いて来たり、更には年頃の息子が居ないかとの質問に嫉妬した為である。
 勿論それらもディスっておいた。

「ありがとうフレデリカ。その時はお願いね」

 ローズは礼を言いながらも、今の説明の中にオズらしき人物が居なかった事に落胆していた。
 同じ派閥のオーディックにベルナルドの名前を挙げたものだから、派閥貴族の子息と思っていたのにそれらしき人物は居なかった。
 伯爵家に対しての重要度が低い、即ち今回説明が省かれたあまり身分の高くない貴族達も残っているのだが、そこにはオズは居ない筈と言う事は分かっていた。
 何故なら彼は、『オーディックとベルナルド卿』と言ったのだ。
 幾ら仲が良かろうと低い身分の者が、他者へその名を語る際に言うべき言葉ではない。
 少なくとも同等かそれに近しい身分、若しくはそれより上の位の者と言う事になる。
 もしかしたらホランツの様に別派閥の貴族と言う事も考えられるが、ローズの屋敷に遊びに来るホランツが異常なだけだし、何よりホランツもこの屋敷以外で別派閥のオーディックは元より、自らは貴族ではないがバルモアを慕っている騎士団員のディノ、中立的な立場である宰相子息のシュナイザーとも会う事は無いらしい。
 『ここはある意味治外法権だからね。外で会うと大変なんだよ』と、ホランツは笑って言っていた事を思い出した。
 カナンとは会っているみたいだが、それは成人前だからそこまで厳しくないとの事だ。
 『貴族の世界って本当に面倒臭いですわ』と愚痴を零して、皆に『やっぱりローズならそう言うよな』と笑われた。
 ホランツだけは『ローズが派閥とか気にし出されたら、僕は居心地悪くなっちゃうから元に戻って欲しいなぁ~』と言っていたか。
 それを聞いてローズは『なるほど、だから事有る毎に自分に元に戻れと言ってくるのか』と納得した。
 そんな訳だから、他の派閥の貴族が伯爵家の子息にして自身も子爵位を持つオーディックに対して呼び捨てする程仲が良いと言う事は考え難いし、他者であるローズに言う事も無いだろう。

 『と言う事は、もしかしてオズは……』

 数々の仮定を潰して辿り着いた答え。
 どの派閥にも所属せず、貴族を呼び捨てして、侯爵を卿で呼ぶ事が出来る若者。
 こんな事が出来るの者は限られている。
 しかし、逆に言えばその者なら様々な矛盾が矛盾で無くなるのだ。
 ローズはあの時一度は考えたが、すぐに馬鹿な話と一笑に付した可能性。

 『オズは本当に王子様なのかしら?』

 オズの正体が王子ならば、貴族は全てが臣下なのだから呼び捨てだろうが卿呼びだろうが問題は無い。
 屋敷に忍び込んだ事に関しても、バレるとオズだけでなくローズ自身も王宮スキャンダルの当事者として非難される事になるだろう。
 そうなれば伯爵家没落がバルモア死亡イベント前に発生してもおかしくない。
 オズの別れの際の口振りからすると、少なくとも自分を嫌っている感じではなかった。
 むしろ危険を犯してローズに会いに来たと言った風に取れる。
 突然の『白馬の王子』に胸が高まった。

「あ、あのフレデリカ? 小さい頃の話だけど、私って王子様とお会いになった事ってあるのかしら?」

「王子様ですか? えぇ有りますね」

「有るのね!」

 『やはり会った事が有るのね! オズはやっぱり王子様なのだわ!』

 予想が当たったローズは有頂天である。
 一瞬、第10回『イケフェス』の開始の鐘が心の中で高らかに鳴り響き掛けたが何とか踏みとどまった。
 会った時の状況をもう少し詳しく聞かないと質の良い妄想を練れないからだ。

「そうですよ、その際は私も居ましたし」

「え? あなたも居た? どう言う事なの?」

 ローズはフレデリカの答えに戸惑った。
 フレデリカがローズ仕えて十年近い事はゲーム中の愚痴シーンでも何度も出て来た為、知っていた。
 それが王子との面会に立ち会ったと言う。
 しかし、オズはローズと会うのは十数年振りと言っていたではないか。
 二人の言葉に大きな矛盾が生じる事となる。
 どちらかが嘘を付いているか、若しくはオズは王子ではないと言う事だ。
 折角判明したと思ったオズの正体だが、謎は更に深まった。

「あれは五年程前ですか。心入れ替える前のお嬢様が絶好調の頃ですね。謁見を許されてお会いになったんですよ。覚えてないですか?」

「え? う、う~ん、そんな事が有った気もするけど? 印象に残っていないと言う事は、そんなに親しくは無かったのかしら」

 矛盾の困惑でいっぱいいっぱいのローズであったが、何とか元のローズが言いそうな良い訳を言って誤魔化した。
 ちょっとずつディスる言葉を入れて来るいつも通りのフレデリカの言葉で、少し正気に戻ったお陰とも言える。

「まぁ、親しいと言うか相手は王族ですからね。会ったのもそれっきりですよ。旦那様も無事に謁見が済んで良かったと、胸を撫でおろしておりました。そもそも当時の王子はまだ……」


 ―――― コンコン

 その時、フレデリカの喋りを遮って突然扉をノックする音が部屋に響き渡った。
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