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第一章 私の取り巻きイケメンは私の物
第3話 これはマズい
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「お嬢様、今日は朝から頭が……、いえ気分が優れていない様なのですが、大丈夫ですか?」
うっかり口を滑らしながらフレデリカは、ローズの着替えをテキパキと行っていく。
ローズはその働きぶりに心の中で称賛の声を上げながらも、少々『頭が』と言う部分にカチンと来たが、それは仕方無いと思い取りあえず黙った。
少なくとも昨日までの自分はゲームの中の性悪悪役令嬢だったのはフレデリカの態度からも容易に想像出来る。
状況が分からない内は心が入れ替わっている事を知られるのは不味い。
その為にまずは情報収集をしなければとアラサー高校教師 野江 水流もとい現ローズは思った。
『さっきは空腹の所為で何も考えられなかったけど、よく考えるとメイドでさえ違和感を感じているんだし、もしローズの両親が今のあたしを見ちゃうと簡単に偽物とバレちゃうわ』
空腹にかまけてそのまま朝食になだれ込もうとした自分の浅はかさに頭が痛くなったローズは幾つか質問しようと策を練る。
「ねぇ、フレデリカ? そう言えば、お、お父さ、様が出立と言う事ですけど、いつ頃おかえりになるか分かるかしら?」
ゲームの中のローズのグラフィックからすると、今のこの顔とそう時間が離れている訳では無いとローズは思い、取りあえず今が何月なのかを確かめる為にそう聞いた。
いきなり『今は何年の何月?』なんて直接聞くとさらに疑惑の目が強くなる。
だからゲーム開始を基準として、その前後の月を知る事が出来れば状況の把握は可能となる。
何故ならば三徹の間にどのイベントがどのタイミングで発生するのかしっかり学習済みだからだ。
「はい、旦那様は隣国との国境の砦に視察に行かれまして、そのまま四ヶ月……、そうですね、渋草の月まで滞在される予定となっています」
この世界の月は数字ではなく、『○草の月』と言う呼び方で表される。
何の事は無い、設定がそうなっているだけで、月こそゲームシステムの関係上一週間が七日の四週=二十八日で統一されているが、普通に一年十二ヶ月で季節も現実世界と同じで、異世界の雰囲気を出す為か数字の代わりに置き換わっているだけだった。
ローズはゲームしながらその設定に『分かりにくいから普通に数字で良いでしょう!』と難癖を付けていたのを思い出した。
『えーと、渋草の月と言ったら、現実世界では十月だっけ? と言う事は今は雨草……六月って事ね。そしてこのゲームの開始が青草……七月からの筈だったから、一か月くらい前と言う事か。確かゲーム開始は主人公がお屋敷で働きだした少し後って事だったわね。ちょっと確かめてみましょうか』
「えーと、フレデリカ? 最近うちの屋敷に『エレナ』ってメイドが来たって話を聞かない?」
「エレナ……ですか? いえ、聞いた事有りませんね。新人は朝礼の時に紹介される決まりですし」
『なるほど、ゲーム開始前と言う事ね。ふむふむ。エレナってゲーム中イベント画面でしか表示されないんで基本の立ち絵画像が存在しないのよね。早く登場しないかしら? 客観的に見てみたいわ』
このゲームの主人公は『エレナ』。
働き者で天真爛漫、そして誰にでも優しく芯の強い女の子と言う設定だ。
そんなエレナが、悪役令嬢の虐めに遭いながらも健気に頑張る姿に、日頃から悪役令嬢の傍若無人振りに鬱憤が溜まっていた使用人の人々が陰ながら助け、そしてゲームのターゲットである悪役令嬢の取り巻きイケメン達が手を差し伸べ、やがてその中の一人と恋に落ち、ついには悪役令嬢から奪い取ると言うのが基本の流れとなっている。
攻略ルートによって多少の違いが有るが、伯爵家と言う権威によって誰も逆らえない悪役令嬢と言う状況は、物語の後半に父親である伯爵が視察中に敵の矢に倒れ、そのまま回復する事無く死亡すると言う強制イベントが発生する事によって一変する。
それにより徐々に伯爵家は傾いていき、元々伯爵の人柄に惚れて集まっていた周囲の人々は、悪役令嬢から一人また一人と去り、やがて独りぼっちとなってしまう。
全ては、悪役令嬢の傍若無人さが招いた事なのだが、エレナはそんな悪役令嬢を尻目に各ルートのイケメンをゲットして幸せを掴むと言うエンディングを迎えると言うのが大まかなストーリーだ。
『ん? あれ? あれれ? ちょっと待って? 私はローズ。何故だか迷い込んじゃったゲームの中の悪役令嬢よね。もう何故とか今のところ別に良いわ。いまざぁっとゲームのストーリー思い出したんだけど、私がエレナのライバルである悪役令嬢って事は、今の私に取ったらエレナがライバルじゃない? しかも、最終的にはライバルどころか一方的に負け確定じゃないの! こ、これはマズいんじゃない?』
「どうしましたお嬢様? 生まれたての小鹿の様にプルプルしておりますよ?」
やっと自分の置かれた立場に気付いたローズは、これから押し寄せる自身への過酷な運命に目の前が遠くなる思いで、体を震わせているとフレデリカがそう声を掛けて来た。
『この子がローズに虐められてたのって、ローズだけの所為じゃないんじゃないかしら? 結構無礼よね? っと、そんな事より、どうしたらいいの? エレナが来ると私の未来は独りぼっち。取り巻きのイケメンまで取られて……、イケメン?』
ローズは自分の言葉で止まってしまった。
『イケメン』……。
そう、このゲームの攻略対象はローズの取り巻きであるイケメン五人衆だ。
熱血キャラである自身が子爵位を持つオーディック。赤髪で笑顔が似合うナイスガイ。
冷血キャラである第二騎士団の若きホープのディノ。青髪で基本無表情だがそこが良い。
ほのぼのキャラである公爵の三男坊のホランツ。金髪でいつも朗らかな笑顔を浮かべているお兄さんキャラ。
俺様キャラであるこの国の宰相の息子のシュナイザー。黒髪長髪でいつも不敵な笑顔を浮かべ普段は自信過剰だが、たまに失敗して凹む所がチャームポイントだ。
最後にショタキャラである従弟のカナン。茶髪で人懐っこく、遠くに居ても目が合うと満面の笑みで掛けて来る様な癒しキャラ。
何故、悪役令嬢の取り巻きをしているのかという説明は説明書にもゲーム内にも説明は無かったが、兎に角ゲーム開始時には悪役令嬢の事を無条件で慕っているキャラ達である。
要するに現ローズである野江 水流 31歳の事を慕っている『イケメン』達である。
もう一度言おう『彼イコAge』である野江 水流 31歳を事を慕っている『イケメン』達なのである。
『な、な、な、なんてこと……そ、そんな……』
「本当にどうしたのですか? お嬢様、まるで陸に上がった魚みたいにビクンビクンしてますよ?」
相変わらずフレデリカは失礼な物言いだが、ローズの耳には届かない。
そんな事より、心の奥からマグマの如くある決意が湧き上がって来るのを止められなかった。
否! ローズは止めるつもりなんかない。
それは……。
「絶対! あいつなんかに私の素敵なイケメン達を渡すもんですかっ!!」
うっかり口を滑らしながらフレデリカは、ローズの着替えをテキパキと行っていく。
ローズはその働きぶりに心の中で称賛の声を上げながらも、少々『頭が』と言う部分にカチンと来たが、それは仕方無いと思い取りあえず黙った。
少なくとも昨日までの自分はゲームの中の性悪悪役令嬢だったのはフレデリカの態度からも容易に想像出来る。
状況が分からない内は心が入れ替わっている事を知られるのは不味い。
その為にまずは情報収集をしなければとアラサー高校教師 野江 水流もとい現ローズは思った。
『さっきは空腹の所為で何も考えられなかったけど、よく考えるとメイドでさえ違和感を感じているんだし、もしローズの両親が今のあたしを見ちゃうと簡単に偽物とバレちゃうわ』
空腹にかまけてそのまま朝食になだれ込もうとした自分の浅はかさに頭が痛くなったローズは幾つか質問しようと策を練る。
「ねぇ、フレデリカ? そう言えば、お、お父さ、様が出立と言う事ですけど、いつ頃おかえりになるか分かるかしら?」
ゲームの中のローズのグラフィックからすると、今のこの顔とそう時間が離れている訳では無いとローズは思い、取りあえず今が何月なのかを確かめる為にそう聞いた。
いきなり『今は何年の何月?』なんて直接聞くとさらに疑惑の目が強くなる。
だからゲーム開始を基準として、その前後の月を知る事が出来れば状況の把握は可能となる。
何故ならば三徹の間にどのイベントがどのタイミングで発生するのかしっかり学習済みだからだ。
「はい、旦那様は隣国との国境の砦に視察に行かれまして、そのまま四ヶ月……、そうですね、渋草の月まで滞在される予定となっています」
この世界の月は数字ではなく、『○草の月』と言う呼び方で表される。
何の事は無い、設定がそうなっているだけで、月こそゲームシステムの関係上一週間が七日の四週=二十八日で統一されているが、普通に一年十二ヶ月で季節も現実世界と同じで、異世界の雰囲気を出す為か数字の代わりに置き換わっているだけだった。
ローズはゲームしながらその設定に『分かりにくいから普通に数字で良いでしょう!』と難癖を付けていたのを思い出した。
『えーと、渋草の月と言ったら、現実世界では十月だっけ? と言う事は今は雨草……六月って事ね。そしてこのゲームの開始が青草……七月からの筈だったから、一か月くらい前と言う事か。確かゲーム開始は主人公がお屋敷で働きだした少し後って事だったわね。ちょっと確かめてみましょうか』
「えーと、フレデリカ? 最近うちの屋敷に『エレナ』ってメイドが来たって話を聞かない?」
「エレナ……ですか? いえ、聞いた事有りませんね。新人は朝礼の時に紹介される決まりですし」
『なるほど、ゲーム開始前と言う事ね。ふむふむ。エレナってゲーム中イベント画面でしか表示されないんで基本の立ち絵画像が存在しないのよね。早く登場しないかしら? 客観的に見てみたいわ』
このゲームの主人公は『エレナ』。
働き者で天真爛漫、そして誰にでも優しく芯の強い女の子と言う設定だ。
そんなエレナが、悪役令嬢の虐めに遭いながらも健気に頑張る姿に、日頃から悪役令嬢の傍若無人振りに鬱憤が溜まっていた使用人の人々が陰ながら助け、そしてゲームのターゲットである悪役令嬢の取り巻きイケメン達が手を差し伸べ、やがてその中の一人と恋に落ち、ついには悪役令嬢から奪い取ると言うのが基本の流れとなっている。
攻略ルートによって多少の違いが有るが、伯爵家と言う権威によって誰も逆らえない悪役令嬢と言う状況は、物語の後半に父親である伯爵が視察中に敵の矢に倒れ、そのまま回復する事無く死亡すると言う強制イベントが発生する事によって一変する。
それにより徐々に伯爵家は傾いていき、元々伯爵の人柄に惚れて集まっていた周囲の人々は、悪役令嬢から一人また一人と去り、やがて独りぼっちとなってしまう。
全ては、悪役令嬢の傍若無人さが招いた事なのだが、エレナはそんな悪役令嬢を尻目に各ルートのイケメンをゲットして幸せを掴むと言うエンディングを迎えると言うのが大まかなストーリーだ。
『ん? あれ? あれれ? ちょっと待って? 私はローズ。何故だか迷い込んじゃったゲームの中の悪役令嬢よね。もう何故とか今のところ別に良いわ。いまざぁっとゲームのストーリー思い出したんだけど、私がエレナのライバルである悪役令嬢って事は、今の私に取ったらエレナがライバルじゃない? しかも、最終的にはライバルどころか一方的に負け確定じゃないの! こ、これはマズいんじゃない?』
「どうしましたお嬢様? 生まれたての小鹿の様にプルプルしておりますよ?」
やっと自分の置かれた立場に気付いたローズは、これから押し寄せる自身への過酷な運命に目の前が遠くなる思いで、体を震わせているとフレデリカがそう声を掛けて来た。
『この子がローズに虐められてたのって、ローズだけの所為じゃないんじゃないかしら? 結構無礼よね? っと、そんな事より、どうしたらいいの? エレナが来ると私の未来は独りぼっち。取り巻きのイケメンまで取られて……、イケメン?』
ローズは自分の言葉で止まってしまった。
『イケメン』……。
そう、このゲームの攻略対象はローズの取り巻きであるイケメン五人衆だ。
熱血キャラである自身が子爵位を持つオーディック。赤髪で笑顔が似合うナイスガイ。
冷血キャラである第二騎士団の若きホープのディノ。青髪で基本無表情だがそこが良い。
ほのぼのキャラである公爵の三男坊のホランツ。金髪でいつも朗らかな笑顔を浮かべているお兄さんキャラ。
俺様キャラであるこの国の宰相の息子のシュナイザー。黒髪長髪でいつも不敵な笑顔を浮かべ普段は自信過剰だが、たまに失敗して凹む所がチャームポイントだ。
最後にショタキャラである従弟のカナン。茶髪で人懐っこく、遠くに居ても目が合うと満面の笑みで掛けて来る様な癒しキャラ。
何故、悪役令嬢の取り巻きをしているのかという説明は説明書にもゲーム内にも説明は無かったが、兎に角ゲーム開始時には悪役令嬢の事を無条件で慕っているキャラ達である。
要するに現ローズである野江 水流 31歳の事を慕っている『イケメン』達である。
もう一度言おう『彼イコAge』である野江 水流 31歳を事を慕っている『イケメン』達なのである。
『な、な、な、なんてこと……そ、そんな……』
「本当にどうしたのですか? お嬢様、まるで陸に上がった魚みたいにビクンビクンしてますよ?」
相変わらずフレデリカは失礼な物言いだが、ローズの耳には届かない。
そんな事より、心の奥からマグマの如くある決意が湧き上がって来るのを止められなかった。
否! ローズは止めるつもりなんかない。
それは……。
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