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第二話 ネズミの国
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これは『旅する猫』のお話。
ご主人様を探す為、怪しい蛇の誘いに乗って『世界の穴』に飛び込んでしまった猫のお話です。
ぴゅーーー。
「この穴はどこまで続くのかにゃ? 真っ暗で怖いにゃ」
勢いよく飛び込んだものの、旅する猫は少し後悔してきました。
穴の中は真っ暗で何も見えません。
ずっと暗い中を落ち続けているので、何やら背中がムズムズします。
ぴゅーーー。
きらきらきらん。
「あっ! なんだか明るくなって来たにゃ。出口かにゃ?」
旅する猫が言った通り、下の方が少し明るくなってきました。
その光はどんどん明るくなってきて……。
きらきらきらん。
ぴゅーーーー。
どっしーーーん!!
「にゃん! 痛いにゃん!」
光の中に入ったとたん、旅する猫は空中に放り出され思いっ切りしりもちをついてしまいました。
「キョロキョロキョロ。ご主人様はどこかにゃ? ………ここはどこかにゃ?」
旅する猫は穴先にはご主人様がまっているのだと思った居ましたが、辺りを見渡しても誰も居ません。
もちろんご主人様の家の中しか知らない旅する猫は自分が何処に居るかも分かりません。
「ご主人様ーーーー! どこですかにゃーーーー!」
大声でご主人様を呼びましたが、ご主人様は見つかりません。
『旅する猫』は悲しくて心細くて泣いてしまいました。
「えーんえん。えーんえん。ご主人様はどこにいるにゃ」
泣いても泣いても、いつもの様にご主人様がやって来て抱き上げてはくれませんでした。
「そこに居るのは誰ですちゅー! 」
泣いていると突然、誰かの声が聞えてきます。
ご主人様じゃないけれど、寂しくて泣いていた旅する猫は少しうれしくなって来ました。
顔を上げ目を開けるとそこには騎士の鎧を着た一匹のネズミが槍を構えて立っています。
「って、ひゃあ! 猫だちゅーー!」
うずくまって泣いていたから気付かなかったのでしょう。
旅する猫を見たネズミの騎士は、その姿におどろいて腰を抜かしてしまいました。
ネズミを初めて見た旅する猫にはなぜネズミの騎士が怖がっているのか分かりません。
そのネズミは灰色の鎧に身を包んだ、灰色の体毛のネズミでした。
「灰色違いにゃ! 蛇さんの勘違いにゃ!」
そうです、『普通の猫』を『旅する猫』にした蛇は、『灰色の方』としか言わなかったのです。
確かに目の前にいるネズミの騎士は『灰色の方』と言えるでしょう。
「ひゃぁぁーー。拙者は食べてもおいしくないちゅー。食べないでくれちゅー」
旅する猫の声に驚いたネズミの騎士は食べられると思い命乞いをしました。
「ネズミさん。ネズミさん。僕はネズミさんを食べたりしないのにゃ」
旅する猫は、ずっとぬくぬくとご主人様の部屋で暮らしていたので、狩りなんてしたことありません。
だって、ご主人様が美味しいご飯を作ってくれるんですから。
「本当でちゅか? 食べたりしないでちゅか?」
ネズミの騎士は恐る恐るそう尋ねて来ました。
「本当なのにゃ。そんな事より蛇さんを見なかったかにゃ? 僕は蛇さんの勘違いでここに来ちゃったにゃ」
疑う事を知らない旅する猫は、蛇の勘違いと思い込んでネズミの騎士にそう尋ねます。
蛇に会えればお家に帰れると思って。
「へっ、蛇ですと! おぉなんと言う神さまのお導きちゅー! 蛇の場所なら知っておりますちゅー」
蛇と言う言葉を聞いたとたん、ネズミの騎士はたいそう喜びました。
旅する猫は訳が分からず首を傾げます。
「ネズミさん、蛇さんがどうかしたのかにゃ?」
旅する猫がネズミの騎士にそう尋ねると、ネズミは鼻をふんふんして怒り出しました。
「蛇はとっても悪い奴でちゅー! 拙者の国の姫様をさらっていったでちゅー!」
なんと言うことでしょう。
旅する猫はとても驚きました。
蛇がそんなに悪い奴だとは思わなかったからです。
「ネズミさん。蛇さんのところまで案内して欲しいのにゃ。悪い事したらダメなのにゃ。僕が注意してやるにゃ」
ネズミの騎士は喜びました。
だって、いくら鎧を着ても槍を持ってもしょせんはネズミ。
蛇にとったらヒョイパクと、おいしいゴハンでしかありません。
猫が居れば心強いと思いました。
「猫どの猫どの、こっちだちゅー。蛇は北の国に行きました。拙者の後に付いて来るでちゅー」
野を越え山越えちゅーちゅーちゅー。
旅する猫もネズミの騎士の後をニャーニャーニャー。
はしってはしって、ときには転んで一休み。
なんとかかんとか北の国に付きました。
「猫どの、姫様はあそこの城にとらわれていまちゅ。どうか救い出して欲しいでちゅ」
旅する猫は大きくうなづきました。
あれれ? 最初の目的はどこにいったのでしょう?
ご主人様を探すため? 悪い蛇を探すため?
旅する猫はそんなことも忘れてネズミの騎士の言葉にうなづきました。
「任せて任せてネズミさん。僕が絶対助けるにゃ」
旅する猫はそう言うとさっそうとお城に向かって走り出しました。
毎日毎日のんびりと家でゴロゴロしていても、さすがは猫です。
お城の壁もするする登り、あっと言う間に王の間にスタッと降り立つ旅する猫。
危ないことに蛇はいままさにネズミのお姫様を丸呑みしようとしています。
「蛇さん蛇さん。悪い子にゃ! ネズミの姫様放すのにゃ!」
旅する猫は王の間にいる蛇に向かって言いました。
「お前は誰だ? 私の食事の邪魔をしないで頂戴」
蛇はあんぐり開けた口を閉じて旅する猫に文句を言います。
旅する猫は驚きました。
蛇は蛇でも違う蛇。
どうやら違う蛇のよう。
「違うにゃ違うにゃ。あなたは誰にゃ?」
良く見ると色も形も違います。
どうやら今度も勘違いのようでした。
「私の名前はヌワ。蛇の国の女王です。猫風情が図が高い。すぐにここから立ち去りなさい」
名前も違う、と言っても旅する猫はここに連れてきた蛇の名前は覚えていません。
ただ、もっと長い名前だったという気がしないでもない。
それくらいしか思い出せませんでした。
「嫌にゃん嫌にゃん! お姫様助けるって約束したのにゃ。お姫様を返すのにゃ!」
「それは出来ない話です。ネズミの姫はわたしのご馳走。返せる訳が無いでしょう。皆の者やっておしまい!」
蛇の女王がそう言うと、あら大変あちらこちらから兵士の蛇達が飛び出しました。
兵士の姿は女王と同じ、旅する猫はどれが女王か見分けが付かなくなりました。
それにそれに旅する猫はただの猫。
今までずっとぬくぬく寝床でのんびり暮らし。
狩りどころかケンカさえもしたことありません。
「怖いにゃ怖いにゃ。どうすりゃ良いにゃ?」
蛇達はどんどん近付いてきます。
絶体絶命大ピンチ。
一巻の終わりかと思いきや、旅する猫はおひげがピンピン。
とてもいいことを思いつきました。
「蛇さん蛇さん、こっちに来るにゃん」
旅する猫はパッと飛び出し部屋の中をぐるぐると走り出しました。
壁をそってぐるぐる回る旅する猫。
蛇達はあっちだこっちだと言ったり来たり。
押せや返せやもみくちゃです。
あっと言う間に蛇達の長いからだは、互いのからだで固結び。
大きな蛇玉が出来上がりました。
毛糸玉遊びが大好きだった旅する猫は、蛇達を毛糸に見立てて毛糸玉を作ったのです。
これで終わりではありません。
これはちょっと悲しい思い出。
旅する猫はご主人様に初めて怒られた時の事を思い出しました。
それはちょっとした好奇心だったのですが、とんでもない事になったのです。
「ここはご主人様の家じゃない。だから思いっ切りやっちゃうにゃん」
そう言うと旅する猫は部屋の壁をかけ上がり、なんとシャンデリアの上に飛び乗りました。
そうです。
初めて怒られたその日、ちょっとした好奇心でご主人様の部屋の照明に飛び乗ってしまったのです。
あとの事は想像通り。
丁度シャンデリアの下には蛇玉がうねうねと転がっています。
旅する猫はシャンデリアの上でブランコしました。
ぐらぐら、ぐらーんぐらーん。
ぷっちん。
ひゅーどすん。
とうとうシャンデリアは蛇玉の上に落ちました。
「きゅ~」
蛇達はシャンデリアの下敷きで目を回しています。
今がチャンスです。
「さぁ蛇さん。お姫様を放すにゃん。あれれ?」
目の前にいるのはネズミのお姫様一人。
蛇の女王の姿が見えません。
「蛇の女王は他の蛇と一緒にシャンデリアの下ちゅー」
ネズミのお姫様がそう言いました。
なんと言う幸運でしょう。
見分けが付かなかったので分からなかったのですが、どうやら他の蛇と一緒に蛇玉になっていたみたいです。
「猫さん猫さん。私を食べちゃうちゅ?」
ネズミのお姫様にしたら、蛇も猫も変わりません。
どっちもおいしく食べられちゃう。
ネズミのお姫様は泣きながらそう言いました。
「とんでもないにゃ。僕はネズミの騎士さんのお願いであなたを助けに来ましたにゃ」
旅する猫はここに来た理由を話しました。
「まぁ、それはうれしいちゅ」
食べられてしまうと思っていたネズミのお姫様は喜びました。
「では、お姫様。僕の背中につかまるにゃ」
旅する猫はそう言って、ネズミのお姫様が背中につかまったのを確認すると、一気に走り出しました。
やって来たのと同じ道。
にゃんと飛び降りすたっと着地。
通りを抜けて城壁もあっと言う間に乗り越えて、ネズミの騎士のところに着きました。
「姫様よくぞご無事で。猫どのありがとうございますちゅー」
ネズミの騎士は旅する猫にお礼を言いました。
お礼を言われた旅する猫はおひげをピンピン揺らして自慢げです。
「ありがとうございます猫さま。助けて頂いたお礼に何でも言ってくださいちゅ」
ネズミのお姫様が言いました。
お礼なんてそんなの要らないにゃと言おうとした旅する猫ですが、自分の目的を思い出しました。
「ネズミさん。教えて貰った蛇さんですが、あれは別の蛇さんでしたにゃ。他の蛇さん知らないかにゃ?」
そうです、旅する猫はご主人様の家に戻る為、蛇を探しておりました。
ネズミの二人に尋ねてみたけど、どうやら二人は知らないみたい。
首を傾げて悩んでいます。
どうしましょう?
旅する猫も悩んでしまいました。
うーん、うん。
うーん、うん。
どうしたらいいか悩んでいます。
暫くするとおひげがピンピン動き出しました。
どうやら、旅する猫は何か閃いたようです。
「あっ、それならご主人様を知らないかにゃ?」
うんうん悩んでいた旅する猫はやっとの最初の目的を思い出しました。
旅する猫が旅する理由。
それは、ご主人様を探す事なのです。
「ご主人様ってどんな方ちゅ?」
ご主人様と聞かれてもネズミの二人は分かりません。
二人はきょとんと首を傾げました。
「ご主人様はとっても大きいにゃ」
灰色の髪の毛と言ったのでここに来てしまったので、今度は別の特徴を伝えました。
今度こそ、ご主人様が見付かる筈です。
旅する猫はそう思いました。
「おぉ、それは偶然ちゅー。ちょうど拙者の国に大きい方がいらしているちゅー」
ネズミの騎士が嬉しそうにそう言いました。
それには旅する猫も喜びました。
「よかったよかった。これで会えるにゃ。ネズミさん、あなたの国まで案内してほしいにゃん」
旅する猫はネズミの騎士にご主人様の所まで連れて行ってくれるように頼みました。
「構いませんとも、あなたは拙者の友達ちゅー。大きい方の元まで案内するちゅー」
そう言ってネズミの騎士は先頭切って走り出しました。
旅する猫はネズミのお姫様を背中に乗せて追い掛けます。
「うれしいにゃうれしいにゃ。やっとご主人様に会えるにゃ」
旅する猫の旅はもう少し続きそうです。
果たして旅する猫の行く先にご主人様は居るのでしょうか?
つづく。
ご主人様を探す為、怪しい蛇の誘いに乗って『世界の穴』に飛び込んでしまった猫のお話です。
ぴゅーーー。
「この穴はどこまで続くのかにゃ? 真っ暗で怖いにゃ」
勢いよく飛び込んだものの、旅する猫は少し後悔してきました。
穴の中は真っ暗で何も見えません。
ずっと暗い中を落ち続けているので、何やら背中がムズムズします。
ぴゅーーー。
きらきらきらん。
「あっ! なんだか明るくなって来たにゃ。出口かにゃ?」
旅する猫が言った通り、下の方が少し明るくなってきました。
その光はどんどん明るくなってきて……。
きらきらきらん。
ぴゅーーーー。
どっしーーーん!!
「にゃん! 痛いにゃん!」
光の中に入ったとたん、旅する猫は空中に放り出され思いっ切りしりもちをついてしまいました。
「キョロキョロキョロ。ご主人様はどこかにゃ? ………ここはどこかにゃ?」
旅する猫は穴先にはご主人様がまっているのだと思った居ましたが、辺りを見渡しても誰も居ません。
もちろんご主人様の家の中しか知らない旅する猫は自分が何処に居るかも分かりません。
「ご主人様ーーーー! どこですかにゃーーーー!」
大声でご主人様を呼びましたが、ご主人様は見つかりません。
『旅する猫』は悲しくて心細くて泣いてしまいました。
「えーんえん。えーんえん。ご主人様はどこにいるにゃ」
泣いても泣いても、いつもの様にご主人様がやって来て抱き上げてはくれませんでした。
「そこに居るのは誰ですちゅー! 」
泣いていると突然、誰かの声が聞えてきます。
ご主人様じゃないけれど、寂しくて泣いていた旅する猫は少しうれしくなって来ました。
顔を上げ目を開けるとそこには騎士の鎧を着た一匹のネズミが槍を構えて立っています。
「って、ひゃあ! 猫だちゅーー!」
うずくまって泣いていたから気付かなかったのでしょう。
旅する猫を見たネズミの騎士は、その姿におどろいて腰を抜かしてしまいました。
ネズミを初めて見た旅する猫にはなぜネズミの騎士が怖がっているのか分かりません。
そのネズミは灰色の鎧に身を包んだ、灰色の体毛のネズミでした。
「灰色違いにゃ! 蛇さんの勘違いにゃ!」
そうです、『普通の猫』を『旅する猫』にした蛇は、『灰色の方』としか言わなかったのです。
確かに目の前にいるネズミの騎士は『灰色の方』と言えるでしょう。
「ひゃぁぁーー。拙者は食べてもおいしくないちゅー。食べないでくれちゅー」
旅する猫の声に驚いたネズミの騎士は食べられると思い命乞いをしました。
「ネズミさん。ネズミさん。僕はネズミさんを食べたりしないのにゃ」
旅する猫は、ずっとぬくぬくとご主人様の部屋で暮らしていたので、狩りなんてしたことありません。
だって、ご主人様が美味しいご飯を作ってくれるんですから。
「本当でちゅか? 食べたりしないでちゅか?」
ネズミの騎士は恐る恐るそう尋ねて来ました。
「本当なのにゃ。そんな事より蛇さんを見なかったかにゃ? 僕は蛇さんの勘違いでここに来ちゃったにゃ」
疑う事を知らない旅する猫は、蛇の勘違いと思い込んでネズミの騎士にそう尋ねます。
蛇に会えればお家に帰れると思って。
「へっ、蛇ですと! おぉなんと言う神さまのお導きちゅー! 蛇の場所なら知っておりますちゅー」
蛇と言う言葉を聞いたとたん、ネズミの騎士はたいそう喜びました。
旅する猫は訳が分からず首を傾げます。
「ネズミさん、蛇さんがどうかしたのかにゃ?」
旅する猫がネズミの騎士にそう尋ねると、ネズミは鼻をふんふんして怒り出しました。
「蛇はとっても悪い奴でちゅー! 拙者の国の姫様をさらっていったでちゅー!」
なんと言うことでしょう。
旅する猫はとても驚きました。
蛇がそんなに悪い奴だとは思わなかったからです。
「ネズミさん。蛇さんのところまで案内して欲しいのにゃ。悪い事したらダメなのにゃ。僕が注意してやるにゃ」
ネズミの騎士は喜びました。
だって、いくら鎧を着ても槍を持ってもしょせんはネズミ。
蛇にとったらヒョイパクと、おいしいゴハンでしかありません。
猫が居れば心強いと思いました。
「猫どの猫どの、こっちだちゅー。蛇は北の国に行きました。拙者の後に付いて来るでちゅー」
野を越え山越えちゅーちゅーちゅー。
旅する猫もネズミの騎士の後をニャーニャーニャー。
はしってはしって、ときには転んで一休み。
なんとかかんとか北の国に付きました。
「猫どの、姫様はあそこの城にとらわれていまちゅ。どうか救い出して欲しいでちゅ」
旅する猫は大きくうなづきました。
あれれ? 最初の目的はどこにいったのでしょう?
ご主人様を探すため? 悪い蛇を探すため?
旅する猫はそんなことも忘れてネズミの騎士の言葉にうなづきました。
「任せて任せてネズミさん。僕が絶対助けるにゃ」
旅する猫はそう言うとさっそうとお城に向かって走り出しました。
毎日毎日のんびりと家でゴロゴロしていても、さすがは猫です。
お城の壁もするする登り、あっと言う間に王の間にスタッと降り立つ旅する猫。
危ないことに蛇はいままさにネズミのお姫様を丸呑みしようとしています。
「蛇さん蛇さん。悪い子にゃ! ネズミの姫様放すのにゃ!」
旅する猫は王の間にいる蛇に向かって言いました。
「お前は誰だ? 私の食事の邪魔をしないで頂戴」
蛇はあんぐり開けた口を閉じて旅する猫に文句を言います。
旅する猫は驚きました。
蛇は蛇でも違う蛇。
どうやら違う蛇のよう。
「違うにゃ違うにゃ。あなたは誰にゃ?」
良く見ると色も形も違います。
どうやら今度も勘違いのようでした。
「私の名前はヌワ。蛇の国の女王です。猫風情が図が高い。すぐにここから立ち去りなさい」
名前も違う、と言っても旅する猫はここに連れてきた蛇の名前は覚えていません。
ただ、もっと長い名前だったという気がしないでもない。
それくらいしか思い出せませんでした。
「嫌にゃん嫌にゃん! お姫様助けるって約束したのにゃ。お姫様を返すのにゃ!」
「それは出来ない話です。ネズミの姫はわたしのご馳走。返せる訳が無いでしょう。皆の者やっておしまい!」
蛇の女王がそう言うと、あら大変あちらこちらから兵士の蛇達が飛び出しました。
兵士の姿は女王と同じ、旅する猫はどれが女王か見分けが付かなくなりました。
それにそれに旅する猫はただの猫。
今までずっとぬくぬく寝床でのんびり暮らし。
狩りどころかケンカさえもしたことありません。
「怖いにゃ怖いにゃ。どうすりゃ良いにゃ?」
蛇達はどんどん近付いてきます。
絶体絶命大ピンチ。
一巻の終わりかと思いきや、旅する猫はおひげがピンピン。
とてもいいことを思いつきました。
「蛇さん蛇さん、こっちに来るにゃん」
旅する猫はパッと飛び出し部屋の中をぐるぐると走り出しました。
壁をそってぐるぐる回る旅する猫。
蛇達はあっちだこっちだと言ったり来たり。
押せや返せやもみくちゃです。
あっと言う間に蛇達の長いからだは、互いのからだで固結び。
大きな蛇玉が出来上がりました。
毛糸玉遊びが大好きだった旅する猫は、蛇達を毛糸に見立てて毛糸玉を作ったのです。
これで終わりではありません。
これはちょっと悲しい思い出。
旅する猫はご主人様に初めて怒られた時の事を思い出しました。
それはちょっとした好奇心だったのですが、とんでもない事になったのです。
「ここはご主人様の家じゃない。だから思いっ切りやっちゃうにゃん」
そう言うと旅する猫は部屋の壁をかけ上がり、なんとシャンデリアの上に飛び乗りました。
そうです。
初めて怒られたその日、ちょっとした好奇心でご主人様の部屋の照明に飛び乗ってしまったのです。
あとの事は想像通り。
丁度シャンデリアの下には蛇玉がうねうねと転がっています。
旅する猫はシャンデリアの上でブランコしました。
ぐらぐら、ぐらーんぐらーん。
ぷっちん。
ひゅーどすん。
とうとうシャンデリアは蛇玉の上に落ちました。
「きゅ~」
蛇達はシャンデリアの下敷きで目を回しています。
今がチャンスです。
「さぁ蛇さん。お姫様を放すにゃん。あれれ?」
目の前にいるのはネズミのお姫様一人。
蛇の女王の姿が見えません。
「蛇の女王は他の蛇と一緒にシャンデリアの下ちゅー」
ネズミのお姫様がそう言いました。
なんと言う幸運でしょう。
見分けが付かなかったので分からなかったのですが、どうやら他の蛇と一緒に蛇玉になっていたみたいです。
「猫さん猫さん。私を食べちゃうちゅ?」
ネズミのお姫様にしたら、蛇も猫も変わりません。
どっちもおいしく食べられちゃう。
ネズミのお姫様は泣きながらそう言いました。
「とんでもないにゃ。僕はネズミの騎士さんのお願いであなたを助けに来ましたにゃ」
旅する猫はここに来た理由を話しました。
「まぁ、それはうれしいちゅ」
食べられてしまうと思っていたネズミのお姫様は喜びました。
「では、お姫様。僕の背中につかまるにゃ」
旅する猫はそう言って、ネズミのお姫様が背中につかまったのを確認すると、一気に走り出しました。
やって来たのと同じ道。
にゃんと飛び降りすたっと着地。
通りを抜けて城壁もあっと言う間に乗り越えて、ネズミの騎士のところに着きました。
「姫様よくぞご無事で。猫どのありがとうございますちゅー」
ネズミの騎士は旅する猫にお礼を言いました。
お礼を言われた旅する猫はおひげをピンピン揺らして自慢げです。
「ありがとうございます猫さま。助けて頂いたお礼に何でも言ってくださいちゅ」
ネズミのお姫様が言いました。
お礼なんてそんなの要らないにゃと言おうとした旅する猫ですが、自分の目的を思い出しました。
「ネズミさん。教えて貰った蛇さんですが、あれは別の蛇さんでしたにゃ。他の蛇さん知らないかにゃ?」
そうです、旅する猫はご主人様の家に戻る為、蛇を探しておりました。
ネズミの二人に尋ねてみたけど、どうやら二人は知らないみたい。
首を傾げて悩んでいます。
どうしましょう?
旅する猫も悩んでしまいました。
うーん、うん。
うーん、うん。
どうしたらいいか悩んでいます。
暫くするとおひげがピンピン動き出しました。
どうやら、旅する猫は何か閃いたようです。
「あっ、それならご主人様を知らないかにゃ?」
うんうん悩んでいた旅する猫はやっとの最初の目的を思い出しました。
旅する猫が旅する理由。
それは、ご主人様を探す事なのです。
「ご主人様ってどんな方ちゅ?」
ご主人様と聞かれてもネズミの二人は分かりません。
二人はきょとんと首を傾げました。
「ご主人様はとっても大きいにゃ」
灰色の髪の毛と言ったのでここに来てしまったので、今度は別の特徴を伝えました。
今度こそ、ご主人様が見付かる筈です。
旅する猫はそう思いました。
「おぉ、それは偶然ちゅー。ちょうど拙者の国に大きい方がいらしているちゅー」
ネズミの騎士が嬉しそうにそう言いました。
それには旅する猫も喜びました。
「よかったよかった。これで会えるにゃ。ネズミさん、あなたの国まで案内してほしいにゃん」
旅する猫はネズミの騎士にご主人様の所まで連れて行ってくれるように頼みました。
「構いませんとも、あなたは拙者の友達ちゅー。大きい方の元まで案内するちゅー」
そう言ってネズミの騎士は先頭切って走り出しました。
旅する猫はネズミのお姫様を背中に乗せて追い掛けます。
「うれしいにゃうれしいにゃ。やっとご主人様に会えるにゃ」
旅する猫の旅はもう少し続きそうです。
果たして旅する猫の行く先にご主人様は居るのでしょうか?
つづく。
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感想ありがとうございます。
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