雑魚テイマーな僕には美幼女モンスターしか仲間になってくれない件

やすぴこ

文字の大きさ
上 下
91 / 103
第三章 世界を巡る

第91話 提案

しおりを挟む
「…フフ……フフッ……ハーーーハッハッハッ。ワーハッハッハッ! そうか……そうか……」

 僕が困惑していると、突然イモータルが大声で笑い出した。
 そして何かを確かめるように僕とライアを交互に視線を動かしながら頷いている。
 え? なに? ちょっと怖いんだけど……。
 なんで僕達を見て笑顔で頷いてんの?
 なんかこの状況を打破する為の作戦でも思い付いたんだろうか?
 でも、なんだか僕達を見詰めるその目には既に敵対心なんて微塵も感じられなくなっている。
 それどころか、孫の成長を見て喜んでいるお爺さんの眼差しのように僕の目には映った。

「なぁ小僧よ、一つ教えてくれ。今おぬしは魔力疎外の魔道具……それもパンゲアよりも古い超文明時代の強力なアーティファクトを身に付けておるな? 紋が映らぬところをみると恐らく腕の装具……しかも『覇者の手套』と推測するが、どうじゃ?」

 イモータルはその表情と同じく優しい声で驚くべき質問をして来た。
 今まで起こった事の数々から僕の力が映像に映る以上の力を持っている事に気付いたイモータルは、僕が魔力疎外の魔道具を身に付けていると分かったんだろう。
 だけど、その正体まで言い当てられることに驚きだ。
 『覇王の手套』が有名なのか、それともパンゲア製の魔道具を疎外する程の力を持つ候補が少ないのか不明だけど、今更白を切っても意味が無い気がしたので、母さんの方をチラッと見て僕の正体を教えていいか確認した。
 すると母さんは同意する様にコクリと頷いたのを見て僕は口を開く。

「うん、そうだよ。それと……これ……僕も持ってるんだ」

 僕は言葉に続いて両手から『覇者の手套』を外して左手の甲をイモータルに向けた。
 それを見たイモータルは手を目にかざし眩しそうに顔をしかめる。

「赤い契約紋……それ以上になんと言う身から迸る魔力の輝きじゃ。確かマーシャルと言ったかの? おぬしも人が悪いのう。よもやこの様な少年が『覇者』シリーズの継承者なぞ思い付きもしなかったわい。これではわしが道化ではないか」

 顔は穏やかなまま僕に対して愚痴のような事を零す。
 魔力の輝きってイモータルにはどう言う風に僕が映っているんだろうか?
 それに人が悪いって言われても僕達も生き延びる為に必死だったんだからそう言う風に言われる筋合いは無いと思うんだけどな。

「仕方無いでしょう? あなたの従魔達がマーシャルの事をあなたの探し物って言い出すんだもの。そりゃ大事な息子だもの、隠そうとするわよ」

 まだ少しビビッてる僕が口に出せないでいる愚痴を母さんが代弁するように文句を言った。
 本当に母さんは怖い物知らずだな。

「ほっほっほっ、なるほどのう。それでおおよその状況が掴めたわい。ブリュンヒルド達にはもう少し慎重に行動しろと言っておいたのだがなぁ。恐らく探知機に反応が有ったからといきなり襲って来たのであろう?」

「う、うん。そんな感じ」

 さっきまで僕を殺す気満々だった相手とは思えない程の優しい口調に僕は戸惑ってしまう。
 急に態度変えられると対応に困るよ。

「探知機に反応したのはおぬしじゃなくスフィ……んんっ。ライアじゃよ。何しろその探知機は原初の四体を探す物じゃからな」

「原初の四体だって? もしかして邪竜って……本当にファフニールの事なの?」

「ほっほっほっ、まぁそんなところじゃ。それに『覇者の手套』を身に付けてるおぬしが探知機に反応する筈ないしの」

「そうか、そうだよね……ん?」

 邪竜の卵ってのが本当に邪竜ファフニールの卵ってのには驚いたけど、探知機が僕に反応する筈ないってどう言う事?
 原初の四体に反応する探知機なんだから『覇者の手套』の効果は関係無くない?
 何か意味深な感じだけど、例え話的な意味なのかな? 

「マーシャルよ。改めて聞くがライアはおぬしの母親がマスターなのではなく、おぬしがマスターなのであろう?」

「あぁそうだよ。僕の従魔……ううん、大切な僕の娘だよ」

「あい! ぱぱだいすき」

 情報の整理で頭が追い付かない僕だけど、これだけは何を置いても自信を持って言えるよ。
 ライアは僕の娘だってね。
 その言葉を聞いたライアが僕の膝から起き上がり抱き付いてきた。
 その様子をイモータルはなぜか少し寂しそうな笑みを浮かべて目を閉じ小さく呟く。

「娘か……そうか……。絆は夢幻ではなく、確かに……のだな」

 その言葉は喜怒哀楽様々な感情が込められている様に思えた。
 まるで魂から零れた慟哭の様だ。
 ただそれを言った後に急に溜息を吐き、少しジト目で僕を見てきた。

「ふ~む。しかし、絆の形がとは、おぬしの趣味なのか? 少々将来が心配になってくるのぅ」

「ちょっ! ちょっと待ってよ! 違うって! 趣味なんかじゃないって! それを言うならあなただってダークエルフって美人なお姉さんばかりなのも僕としてはどうかと思うんだけど」

「何を言うか。ダークエルフはロマンじゃぞ」

 うわっ、開き直ったよこの人。
 なんか母さんみたいな事言ってるし、話し合いそうだな二人共。

「わっはっは! 冗談はここまでにしておこうか。それより、すまなかったマーシャルよ。おぬしの事を雑魚だなんだと罵ってしまった事を詫びよう。一連の驚くべき異能の数々。トワコの後継者だけにのみならず、『覇者』の継承者。しかも『万象の加護』まで受けておるとは、いやはや驚きじゃわい。恐らくまだ何か隠しておるのじゃろ? のうマーシャルの母よ」

「まぁね。けれど、これ以上はお口チャックってやつよ」

 聞いた事の無い語句が出て来たので聞こうと思ったのに、話の先が急に母さんに行ってしまったので聞きそびれてしまった。
 『万象の加護』って何?

「お口チャック? チャックとな? わはははは、この世界にチャックなどと言う言葉は有りはせんぞ。そうなのか?」

「う~んどうでしょう? ご想像にお任せするわ。少なくとも私はとだけは言っておくわ」

「なるほど転生……と言う訳か。ふむ、おぬしとは一度ゆっくり話をしたいものよのう」

 なんだか更に僕の理解を超える話が母さんとイモータルの間で繰り広げられている。
 お口チャックってのはたまに母さんが使ってる言葉だから慣れちゃったけど、イモータルにとって興味をそそられる言葉らしい。
 しかし、またテンセイって言葉が出てきたな。
 一体テンセイってなんなんだろう?
 それよりやっぱりこの二人気が合いそうだ。
 敵である老人と仲が良い母さんってのは、なんか嫌だけど。

「あらナンパ? これでも私は現役人妻なんだから、そう言うお誘いはご遠慮させて頂くわ」

「わーーはっはっは。こりゃフラれてしまったわい。まぁ、よかろう。そろそろ邪魔が入りそうだし本題に入るとしようかの。では改めて、マーシャル。良くぞ『絆魔術』を完成させたな。見事じゃ、おぬしこそ我が宿敵に相応しい」

「へ? あっ、はい。どうも」

 急に褒められた僕はどう返したらいいのか分からず、生返事以外返せなかった。
 さっきはついツッコンだりしちゃったけど、この優しい態度は僕達の油断を誘っている可能性は否定出来ないし、いつまた豹変して襲い掛かってくるかと思うと気が抜けない。
 しかし、イモータルはそんな僕の緊張を察したのか、その胸の内を語りだした。

「そう緊張するでない。先程言ったであろう。宿命の相手であるおぬしが弱いと思ったから怒り狂ったまでの事。何の為に儂がこの世に戻されたのか! と。じゃが今は喜びに打ち震えておるのだ。よもやあの試練全てを乗り越えし者が現れてくれるとはな。かの日、試練の数々を聞いて『師匠は馬鹿だ』と怒っていたアレイスターくんだが、自分の子孫が後継者と知ったらどんな顔をしたであろう。そう考えるだけで笑いが止まらぬよ」

 イモータルはとても愉快そうな顔で昔話を語っている。
 三百年前の事をまるで昨日の様に語られるのはなんだか奇妙な感じだ。
 しかし、僕の先祖を『くん付け』で呼ぶなんてそれだけ親しかった間柄なんだろうか?
 なのになんで従魔戦争なんて起こそうとしたんだろう?
 あの世から戻されたって言ってたけど、蘇生の魔法なんて精々死後一日二日しか効力が無い。
 百年以上前に死んだ人間を生き返らせるなんて伝承の中にも存在しないよ。
 サイスはダークエルフの創造主の事をパンゲアの生き残りと疑っていたようだけど、創造主は蘇らされたイモータルだった訳なんだよね。
 しかも蘇った事自体はイモータルも本意でなかった様だし、与えられた試練に憤っていた。
 ……あれ? と言う事はイモータルを蘇らせた奴は別に居て、それが人類を滅ぼそうとしているって事?
 イモータルが僕の宿敵には違いないけど、新たなる魔王は他に居るのか?
 僕がその事を尋ねようと口を開きかけると、又もや先に母さんが喋り出した。

「ねぇ、さっき邪魔が入るって言ってたけど、どう言う意味なの?」

 あっ、そう言えばそんな事を言っていたっけ。
 なんだか驚く事ばかりで頭から抜けていたよ。
 その事も気になるんで僕の質問はその答えを聞いてからにしよう。
 そんな事を思いながらイモータルの回答を待っていたら、その答えはドリーからもたらされた。

「マスター。どうやら冒険者と思われる人間が六人程こちらに近付きつつあります」

「何ですって? 冒険者達が? ここに?」

 僕と母さんはドリーの方に振り返る。
 ドライアドは故郷の森の中では周囲の状況を把握出来る能力を持っている。
 その正確さはダークエルフ達の襲撃で証明済みだ。
 と言う事は本当に冒険者がここに向かっているんだろう。
 助けが来た……と言えるのかな?
 変に和やかになった今の状況的では良く分からなくなってきたよ。

「左様、先程の騒ぎを聞き付けて来たのであろうよ。のうマーシャルよ。提案が有るのじゃが聞き入れてもらえぬか? なに、それなりの報酬は約束しよう」

 報酬てのにはちょっとトキメクけど、今の和やかな雰囲気がおかしいだけで、僕達は敵同士なんだから安易に提案を呑んではいけないと思う。
 一旦はその提案を聞いてから判断してもいいだろう。

「な、なにかな? あんまり変な事だと、うんって言えないんだけど」

「なーに、簡単な事じゃ。儂はまだ冒険者共に存在を知られたくはないのでな、儂らがこのまま撤退するのを黙って見ていて欲しいと言う話じゃよ」

「へ? それだけでいいの?」

 それはある意味願っても無い提案だった。
 元より僕らはそうなる事を狙っていたのだから。
 それともイモータルは何か企んでいるのだろうか?
 う~ん、どう答えたら良いんだろう?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢のRe.START

鮨海
ファンタジー
絶大な権力を持ち社交界を牛耳ってきたアドネス公爵家。その一人娘であるフェリシア公爵令嬢は第二王子であるライオルと婚約を結んでいたが、あるとき異世界からの聖女の登場により、フェリシアの生活は一変してしまう。 自分より聖女を優先する家族に婚約者、フェリシアは聖女に嫉妬し傷つきながらも懸命にどうにかこの状況を打破しようとするが、あるとき王子の婚約破棄を聞き、フェリシアは公爵家を出ることを決意した。 捕まってしまわないようにするため、途中王城の宝物庫に入ったフェリシアは運命を変える出会いをする。 契約を交わしたフェリシアによる第二の人生が幕を開ける。 ※ファンタジーがメインの作品です

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

大聖女の姉と大聖者の兄の元に生まれた良くも悪くも普通の姫君、二人の絞りカスだと影で嘲笑されていたが実は一番神に祝福された存在だと発覚する。

下菊みこと
ファンタジー
絞りカスと言われて傷付き続けた姫君、それでも姉と兄が好きらしい。 ティモールとマルタは父王に詰め寄られる。結界と祝福が弱まっていると。しかしそれは当然だった。本当に神から愛されているのは、大聖女のマルタでも大聖者のティモールでもなく、平凡な妹リリィなのだから。 小説家になろう様でも投稿しています。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

処理中です...