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第三章 世界を巡る
第89話 かつて見えていた世界
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「な、何が起こったのじゃ……?」
『暴風』を唱え終え愉悦を浮かべた顔で僕達が吹き飛び切り刻まれる様を楽しく鑑賞しようとしていた宿敵は、数秒も経たぬ内に驚愕の表情を浮かべてそう呟いた。
『何が起こった?』……宿敵はそう言ったけど、これは正しくない。
『何も起こらなかった』が、今この場で起こったことの正しい状況説明だ。
宿敵が唱えた筈の『暴風』はその効果を発言する事無く、先程までと同じくとても静かで心地良い風が頬を撫でるだけだった。
「……魔法が失敗したの?」
僕が呟いた言葉も間違いだ。
正直言うと、宿敵以上に僕達も訳が分からず、その場でしゃがみ込み呆然としている。
詠唱を噛んでる様子も無かったし、なにより魔力の高まりやそれに呼応する風の精霊の脈動も極大呪文に相応しいものだった。
魔法は間違いなく発動したんだと思う。
だから呪文を唱え終わったと同時に死を覚悟した僕は、咄嗟にすぐ後ろにいたライアを抱き締めたんだ。
例え僕の身体が奴の魔法で切り刻まれようと、僕がライアの盾となる事で少しでも無事にいてくれる様にって願ってね。
だけど、そんな最悪な事態は訪れなかった。
宿敵の『暴風』は効果を発動する事も無く、周辺を包む程の膨大な魔力は一瞬の膨張と共に消え去り、激しく脈動していた風の精霊も今は穏やかに森の中を漂っているだけ。
『何が起こった?』……さっきは宿敵のこの言葉を否定したけど、ごめん。
僕もこの言葉しか出ないや。
「……ねぇ? マーシャル? ちょっといいかしら? 聞きたい事があるんだけど」
突然母さんが僕に声を掛けてきた。
今この場で僕に聞きたい事ってなんだろう?
僕とライアは呆然としたまま、横で立っている母さんの方に顔を向けた。
「こんな時に一体どうしたの母さん?」
「あんた、今『風の壁』使った?」
「え? ううん、使ってないよ。あ、あ~でも朝唱えたところだし、いつも通りならまだ効果時間中だよ。今だってほら、見ての通り風の精霊達は僕の周りをゆっくりと漂ってくれてるし」
「はぁ? あれから何時間経ったって言うのよ。普通は一時間もすれば消えるわよ。本当にあんたって非常識な存在ねぇ」
母さんが呆れた様な声でそう言った。
非常識って酷いや、信じてないみたいだけど本当なんだからね。
いつも一度唱えると冒険の間はずっと僕達パーティーを敵から護ってくれていたんだもん。
あれ? そう言えば、最近似たような事があったな。
……違う、最近じゃなくてついさっきだ。
そうそうあの時は『精霊の矢』を使われたんだよね。
まさか初歩魔術の『風の壁』程度で正式な精霊魔術である『精霊の矢』を防ぐ事が出来るなんて思わなかった……よ?
「ちょっ、ちょっと待って? もしかしてそれが理由なの?」
「それ以外何があると言うの? それにあんた、見ての通りって簡単に言うけど、正式な精霊魔術師でも無いのに周囲の精霊を見るどころか感じられるってのも普通じゃないわよ。お母さんでさえ、意識を集中させてやっとなんとなくそこに存在するって程度しか感じ取れないんだから」
「そ、そんな? だって精霊達は何処にでも居て、いつも僕達を見守ってくれてるじゃない……か」
自分の言ったこの言葉で昔友達に笑われた事を思い出した。
『今日も風の精霊が楽しそうに空を舞っている』
あの時もそう、ふと空を見上げたら風の精霊達が自由に飛びまわっている姿を見て思わずポツリと呟いてしまった。
それを聞いた友達が『またマーシャルがおかしな事を言っている』って笑いだす。
別の日には『偉大な両親にように振舞おうとして嘘を付かなくてもいいよ』なんて事を学校の先生から言われたっけ。
だから僕は人前で変な事を言わないようにって、見える物を無視して常識人であり続けようって思った。
……そして母さんや父さんが凄いからって、僕は特別な存在じゃ無いって思うようにしてきたんだ。
するといつの間にかはっきりと姿が見えていた精霊達は、形も朧な透明な何かに変わっていった。
今では見えると言っても、丸くて淡い光にしか見えなくなっている。
その事を思い出すと心が寂しくなった。
「はぁ……お母さんもまだまだねぇ。マーシャルが従魔術を越える者って自分で言っときながら、それでもまだあなたの事を一般人の範疇で考えていたわ。あの記憶を失くす前と変らず、あなたの目に映る世界の姿は、根本的に私達と違う世界だったと言う訳ね。そりゃ一般人と肩を並べて同じ勉強をしていても伸びない訳だわ。ごめんなさい、今まで分かってあげられなくて」
「そんな、謝らないで……僕はただ……。そ、それにいくら僕が精霊を見えるからって『風の壁』で極大呪文を無効化なんて有り得ないよ」
「いい? マーシャル。これからは頭でっかちに無理とか有り得ないって決め付けるのをやめなさい。使えないと思う事によって本当に使えなくなった『疎通』がいい例だわ。もっと自分の力を信じるの。信じる事が力になるの。だから今あなたがするべき事は自己否定じゃなくて、風の精霊にありがとうって言ってあげる事よ」
「……う、うん。分かった。風の精霊さんいつも僕を護ってくれてありがとう」
僕は母さんに促されるままに風の精霊に心を込めて感謝の想いを言葉にした。
すると最近では輪郭も不確かな姿でしか見る事が出来なかった風の精霊が、その像を明確に結び始める。
そして、精霊達は僕の言葉に喜んでくれたのか、すぅっと僕の周りに集まり優しく包んでくれた。
今はまだ風の精霊しかはっきりとは見えないけれど、見えると認識した事に呼応したのか様々な精霊の存在を今まで以上により鮮明に感じる事が出来る様になってきたようだ。
そうだ……これがかつて僕が見えていた世界……。
「話が見えぬ分からぬ……。おぬし達は何を話しておるのだ?」
懐かしい世界の姿に感動していると、宿敵が困惑した声で話し掛けてきた。
恐らく目の前で起こった事の分析をしていたのだろう。
そこに僕達がその回答とも言える話をし出した為、それに耳を傾けていたのだと思う。
だけど、それがおよそ理解し兼ねる内容だったので思わず口を挟んできたと言う所かな?
それは無理もないと思う。
こんな事を理解出来るのはずっと僕の事を考えていてくれた母さんくらいなもんだ。
当の本人である僕にしても、まさか『風の壁』如きで極大呪文を無効化なんて出来るなんて今でも信じられない。
今僕の周りを笑顔で飛んでいる風の精霊が見える様になるまではね。
「あら? あなたなら今の話で何が起こったのか理解出来たのではなくて? わざと聞こえるように話したんだしね。え~と、イモータルさんとお呼びすればいいのかしら?」
「くっ、馬鹿な……風の精霊が呪文を無視して自らの意思で助けただと? しかも万象紋も持たぬ小僧を……だぞ? そんな馬鹿げた事など有る訳が無い!! どうせ、死神っ! お前の能力で『暴風』を異空間に飛ばしたのであろう!」
母さんの挑発にも似た言葉に宿敵……母さんに習って奴の本名っぽいイモータルと呼ぶようにしようか……そのイモータルは今の話を信じたくないのか、あからさまに僕の方から目を逸らしサイスを睨みつけるように吐き捨てた。
その言葉を受けてサイスは無表情だというのに明らかに馬鹿にしたような目をイモータルを向けた。
「ふん、そんな真似する訳無いだろう。我はこうなる事が分かっていたのだからな。所詮パンゲアの技術を又借りしている程度のお前ではマーシャルの凄さを分かる筈も無いのだ」
「な、なにを!? 何ゆえおぬしが魔王を封印せし者の後を継ぐ小僧に肩入れするのだ。何を以っておぬしにそこまで言わしめる! ブリュンヒルドといい、いまだ力を持たぬそのガキがなんだと言うのか!」
いまだ僕の事を紋章も開く事が出来ない無能だと思い込んでいるようで、サイスの僕を擁護するような言葉に激高している。
擁護しているようなって言うか完全に僕の事を褒めているとしか思えないんだけど……。
甲冑に包まれている所為で表情は分からないけど、聞こえるその声だけは凄く自慢げな感じに弾んでいる。
棒読みは何処へいったの?
僕達は仲間なんかじゃなく停戦協定中なだけの筈なのに。
その声でそんな風に喋られると、あの日のサイスが頭に過ぎるんだよ……。
「……マーシャル。ライアちゃんの右手に思いっ切りブーストを掛けなさい」
「え? どう言う事?」
「しぃ~。静かに。大きい声出さないの。死神ちゃんがあいつの気を引いている今の内よ」
あっ……サイスが僕の事を褒めているのはただの作戦だったのか……。
そ、そうだよね。
僕はただの封印を解く鍵で、サイスにとっては僕が死んじゃったら魔王復活が出来なくなる程度にしか思われてない筈なんだ。
はは……はぁ……分かっているけどなんだか寂しいな。
「もうっ! ぱぱにはらいあがいるお!」
ぎゅうぅぅぅ。
突然ライアのふかふかな指でホッペを抓られた。
「いた、いたたた。ど、どうしたのライア。急に抓ってきたら痛いじゃないか」
「ぶぅぅぅ」
僕のお願いでほっぺを抓るのは止めてくれたけど、ライアは何故だか頬をぷっくり膨らませながら口を尖らせてあきらかに拗ねている。
どうしたんだ? ライアってば何に拗ねてるんだよ。
「あんた達なにやってんの! 早くしなさいっての!」
「ちょっと、母さん。声が大きいって。もう、分かったよ。……良く分からないけど……えっと……ライアの右手に『増幅』!!」
僕達のやり取りに焦れた母さんが僕たちを叱り付けて来たので、僕は大人しくライアの右手に有りっ丈の魔力を込めたブーストを掛けた。
折角秘密の作戦だって言うのに自分で大声出してちゃ世話無いよ。
まぁすぐにブースト掛けなかった僕も悪いんだけどさ。
これ絶対イモータルに気付かれちゃったよね?
でも今更ライアにブーストをしたからと言ってこの状況が変ると思えないんだけど、母さんは何を考えているんだろうか?
「って、あれ? なんだかライアの右手が赤く光ってない?」
局所的にブーストを掛けたライアの右手を見ると赤い光を放っていた。
この光……まるで僕の契約紋のようだ。
何これ? ブースト掛けたからと言ってこんな反応は聞いた事も無いんだけど?
これも僕の力なの? それともカイザーファングとしての力……?
『暴風』を唱え終え愉悦を浮かべた顔で僕達が吹き飛び切り刻まれる様を楽しく鑑賞しようとしていた宿敵は、数秒も経たぬ内に驚愕の表情を浮かべてそう呟いた。
『何が起こった?』……宿敵はそう言ったけど、これは正しくない。
『何も起こらなかった』が、今この場で起こったことの正しい状況説明だ。
宿敵が唱えた筈の『暴風』はその効果を発言する事無く、先程までと同じくとても静かで心地良い風が頬を撫でるだけだった。
「……魔法が失敗したの?」
僕が呟いた言葉も間違いだ。
正直言うと、宿敵以上に僕達も訳が分からず、その場でしゃがみ込み呆然としている。
詠唱を噛んでる様子も無かったし、なにより魔力の高まりやそれに呼応する風の精霊の脈動も極大呪文に相応しいものだった。
魔法は間違いなく発動したんだと思う。
だから呪文を唱え終わったと同時に死を覚悟した僕は、咄嗟にすぐ後ろにいたライアを抱き締めたんだ。
例え僕の身体が奴の魔法で切り刻まれようと、僕がライアの盾となる事で少しでも無事にいてくれる様にって願ってね。
だけど、そんな最悪な事態は訪れなかった。
宿敵の『暴風』は効果を発動する事も無く、周辺を包む程の膨大な魔力は一瞬の膨張と共に消え去り、激しく脈動していた風の精霊も今は穏やかに森の中を漂っているだけ。
『何が起こった?』……さっきは宿敵のこの言葉を否定したけど、ごめん。
僕もこの言葉しか出ないや。
「……ねぇ? マーシャル? ちょっといいかしら? 聞きたい事があるんだけど」
突然母さんが僕に声を掛けてきた。
今この場で僕に聞きたい事ってなんだろう?
僕とライアは呆然としたまま、横で立っている母さんの方に顔を向けた。
「こんな時に一体どうしたの母さん?」
「あんた、今『風の壁』使った?」
「え? ううん、使ってないよ。あ、あ~でも朝唱えたところだし、いつも通りならまだ効果時間中だよ。今だってほら、見ての通り風の精霊達は僕の周りをゆっくりと漂ってくれてるし」
「はぁ? あれから何時間経ったって言うのよ。普通は一時間もすれば消えるわよ。本当にあんたって非常識な存在ねぇ」
母さんが呆れた様な声でそう言った。
非常識って酷いや、信じてないみたいだけど本当なんだからね。
いつも一度唱えると冒険の間はずっと僕達パーティーを敵から護ってくれていたんだもん。
あれ? そう言えば、最近似たような事があったな。
……違う、最近じゃなくてついさっきだ。
そうそうあの時は『精霊の矢』を使われたんだよね。
まさか初歩魔術の『風の壁』程度で正式な精霊魔術である『精霊の矢』を防ぐ事が出来るなんて思わなかった……よ?
「ちょっ、ちょっと待って? もしかしてそれが理由なの?」
「それ以外何があると言うの? それにあんた、見ての通りって簡単に言うけど、正式な精霊魔術師でも無いのに周囲の精霊を見るどころか感じられるってのも普通じゃないわよ。お母さんでさえ、意識を集中させてやっとなんとなくそこに存在するって程度しか感じ取れないんだから」
「そ、そんな? だって精霊達は何処にでも居て、いつも僕達を見守ってくれてるじゃない……か」
自分の言ったこの言葉で昔友達に笑われた事を思い出した。
『今日も風の精霊が楽しそうに空を舞っている』
あの時もそう、ふと空を見上げたら風の精霊達が自由に飛びまわっている姿を見て思わずポツリと呟いてしまった。
それを聞いた友達が『またマーシャルがおかしな事を言っている』って笑いだす。
別の日には『偉大な両親にように振舞おうとして嘘を付かなくてもいいよ』なんて事を学校の先生から言われたっけ。
だから僕は人前で変な事を言わないようにって、見える物を無視して常識人であり続けようって思った。
……そして母さんや父さんが凄いからって、僕は特別な存在じゃ無いって思うようにしてきたんだ。
するといつの間にかはっきりと姿が見えていた精霊達は、形も朧な透明な何かに変わっていった。
今では見えると言っても、丸くて淡い光にしか見えなくなっている。
その事を思い出すと心が寂しくなった。
「はぁ……お母さんもまだまだねぇ。マーシャルが従魔術を越える者って自分で言っときながら、それでもまだあなたの事を一般人の範疇で考えていたわ。あの記憶を失くす前と変らず、あなたの目に映る世界の姿は、根本的に私達と違う世界だったと言う訳ね。そりゃ一般人と肩を並べて同じ勉強をしていても伸びない訳だわ。ごめんなさい、今まで分かってあげられなくて」
「そんな、謝らないで……僕はただ……。そ、それにいくら僕が精霊を見えるからって『風の壁』で極大呪文を無効化なんて有り得ないよ」
「いい? マーシャル。これからは頭でっかちに無理とか有り得ないって決め付けるのをやめなさい。使えないと思う事によって本当に使えなくなった『疎通』がいい例だわ。もっと自分の力を信じるの。信じる事が力になるの。だから今あなたがするべき事は自己否定じゃなくて、風の精霊にありがとうって言ってあげる事よ」
「……う、うん。分かった。風の精霊さんいつも僕を護ってくれてありがとう」
僕は母さんに促されるままに風の精霊に心を込めて感謝の想いを言葉にした。
すると最近では輪郭も不確かな姿でしか見る事が出来なかった風の精霊が、その像を明確に結び始める。
そして、精霊達は僕の言葉に喜んでくれたのか、すぅっと僕の周りに集まり優しく包んでくれた。
今はまだ風の精霊しかはっきりとは見えないけれど、見えると認識した事に呼応したのか様々な精霊の存在を今まで以上により鮮明に感じる事が出来る様になってきたようだ。
そうだ……これがかつて僕が見えていた世界……。
「話が見えぬ分からぬ……。おぬし達は何を話しておるのだ?」
懐かしい世界の姿に感動していると、宿敵が困惑した声で話し掛けてきた。
恐らく目の前で起こった事の分析をしていたのだろう。
そこに僕達がその回答とも言える話をし出した為、それに耳を傾けていたのだと思う。
だけど、それがおよそ理解し兼ねる内容だったので思わず口を挟んできたと言う所かな?
それは無理もないと思う。
こんな事を理解出来るのはずっと僕の事を考えていてくれた母さんくらいなもんだ。
当の本人である僕にしても、まさか『風の壁』如きで極大呪文を無効化なんて出来るなんて今でも信じられない。
今僕の周りを笑顔で飛んでいる風の精霊が見える様になるまではね。
「あら? あなたなら今の話で何が起こったのか理解出来たのではなくて? わざと聞こえるように話したんだしね。え~と、イモータルさんとお呼びすればいいのかしら?」
「くっ、馬鹿な……風の精霊が呪文を無視して自らの意思で助けただと? しかも万象紋も持たぬ小僧を……だぞ? そんな馬鹿げた事など有る訳が無い!! どうせ、死神っ! お前の能力で『暴風』を異空間に飛ばしたのであろう!」
母さんの挑発にも似た言葉に宿敵……母さんに習って奴の本名っぽいイモータルと呼ぶようにしようか……そのイモータルは今の話を信じたくないのか、あからさまに僕の方から目を逸らしサイスを睨みつけるように吐き捨てた。
その言葉を受けてサイスは無表情だというのに明らかに馬鹿にしたような目をイモータルを向けた。
「ふん、そんな真似する訳無いだろう。我はこうなる事が分かっていたのだからな。所詮パンゲアの技術を又借りしている程度のお前ではマーシャルの凄さを分かる筈も無いのだ」
「な、なにを!? 何ゆえおぬしが魔王を封印せし者の後を継ぐ小僧に肩入れするのだ。何を以っておぬしにそこまで言わしめる! ブリュンヒルドといい、いまだ力を持たぬそのガキがなんだと言うのか!」
いまだ僕の事を紋章も開く事が出来ない無能だと思い込んでいるようで、サイスの僕を擁護するような言葉に激高している。
擁護しているようなって言うか完全に僕の事を褒めているとしか思えないんだけど……。
甲冑に包まれている所為で表情は分からないけど、聞こえるその声だけは凄く自慢げな感じに弾んでいる。
棒読みは何処へいったの?
僕達は仲間なんかじゃなく停戦協定中なだけの筈なのに。
その声でそんな風に喋られると、あの日のサイスが頭に過ぎるんだよ……。
「……マーシャル。ライアちゃんの右手に思いっ切りブーストを掛けなさい」
「え? どう言う事?」
「しぃ~。静かに。大きい声出さないの。死神ちゃんがあいつの気を引いている今の内よ」
あっ……サイスが僕の事を褒めているのはただの作戦だったのか……。
そ、そうだよね。
僕はただの封印を解く鍵で、サイスにとっては僕が死んじゃったら魔王復活が出来なくなる程度にしか思われてない筈なんだ。
はは……はぁ……分かっているけどなんだか寂しいな。
「もうっ! ぱぱにはらいあがいるお!」
ぎゅうぅぅぅ。
突然ライアのふかふかな指でホッペを抓られた。
「いた、いたたた。ど、どうしたのライア。急に抓ってきたら痛いじゃないか」
「ぶぅぅぅ」
僕のお願いでほっぺを抓るのは止めてくれたけど、ライアは何故だか頬をぷっくり膨らませながら口を尖らせてあきらかに拗ねている。
どうしたんだ? ライアってば何に拗ねてるんだよ。
「あんた達なにやってんの! 早くしなさいっての!」
「ちょっと、母さん。声が大きいって。もう、分かったよ。……良く分からないけど……えっと……ライアの右手に『増幅』!!」
僕達のやり取りに焦れた母さんが僕たちを叱り付けて来たので、僕は大人しくライアの右手に有りっ丈の魔力を込めたブーストを掛けた。
折角秘密の作戦だって言うのに自分で大声出してちゃ世話無いよ。
まぁすぐにブースト掛けなかった僕も悪いんだけどさ。
これ絶対イモータルに気付かれちゃったよね?
でも今更ライアにブーストをしたからと言ってこの状況が変ると思えないんだけど、母さんは何を考えているんだろうか?
「って、あれ? なんだかライアの右手が赤く光ってない?」
局所的にブーストを掛けたライアの右手を見ると赤い光を放っていた。
この光……まるで僕の契約紋のようだ。
何これ? ブースト掛けたからと言ってこんな反応は聞いた事も無いんだけど?
これも僕の力なの? それともカイザーファングとしての力……?
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