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第三章 世界を巡る

第79話 闇

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「ば、馬鹿な!!」

 僕が心に響く声に気を取られていると、ロタが何かに驚いている声が聞こえた。
 あっ! そうだ! 矢が迫って来てるんだった!
 なにボケってしてるんだよ。
 我に返った僕は慌てて飛んでくる矢に目を向けた。
 いや、矢のスピードを考えたら既に僕の眉間に刺さってる筈なんだけど。
 今の所、何処も痛くないと言う事は大丈夫なはず……だよね?

「あ、あれ? 矢は何処に?」

 僕が前を向くと先程まで僕に迫って来ていた矢は煙のように消えており、そして視線の先に僕の背後に目を向けているロタの姿が目に映る。
 ブリュンヒルドとその隣のもう一人のダークエルフも同じように僕の後ろを見ているようだ。
 僕も釣られてロタが見ている方に振り返るとそこには木に刺さった矢が見えた。

「え? なんで僕に刺さってないの? 必中の『精霊の矢』だよね?」

 思わず僕はその矢を放ってきた張本人でロタに理由を尋ねてしまった。
 だって理由が分からないんだもん。
 もしかしたらブリュンヒルドの静止の声に応えたのかもしれないしね。
 すると、その答えを返して来たのは矢を放ったロタではなくブリュンヒルドだった。

「ふん、何を白々しい事を。それにロタ。私はやめろと言ったはずだぞ。それは殺すなと言う意味じゃない。と言う意味だ」

 あれ? なんか変な事を言ってるぞ?
 僕の事を白々しいだって? それに撃っても無駄ってどう言う事?
 あなたの静止でロタがわざと外したんじゃないの?

「は~良かった。こうなる事は予想出来てたとはいえ、さすがに息子に危険が迫っている状況で、ただ見てるだけってのは寿命が縮む思いだったわ」

 後ろから母さんの安堵する声が聞こえて来た。
 もしかして今のは母さんが助けてくれたの?

「母さんが守ってくれたんだね。ありがとう」

「え? 違うわよ。……もしかしてあんた気付いてないの?」

「気付いてないって……?」

 なんか母さんが呆れた顔をしているけどどう言うこと?
 僕が困惑した顔をしていると母さんは溜息を付いた。

「全部あんたの『風の壁』のお陰よ」

「え? いや、そんな……だって魔法の不文律が……」

 たかが初歩魔術の『風の壁』で、上位である精霊魔術『精霊の矢』を防げる訳が無い。
 僕がそう説明する為に口を開こうとすると母さんは首を振ってそれを止めた。

「簡単な事じゃない? 上位の魔法が下位の魔法を凌駕する。そうマーシャルの『風の壁』……。ううん、違うわね。マーシャルの魔法お願いが相手の魔法を凌駕した。それだけの事よ」

「ふっ、それだけではあるまい。驚くべき事に今この周囲の風の精霊は全て小僧に味方している。ロタよ、既にお前の攻撃手段は全て封じられたも同然だ。下がっていろ」

 母さんに続いてブリュンヒルドが不適に笑いながらそう続けた。

「ま、まだ私は負けていない! 『精霊の矢』がダメでも私には極大魔法がある。私の『暴風』なら小僧の小細工など……」

 ドガッ!! 「ガハッ」

 僕達は今起こった事に目を疑った。
 なぜなら、まだ戦えると必死に訴えてるロタを、ブリュンヒルドが凄まじいスピードで裏拳を放ち吹き飛ばしたからだ。
 少し離れた位置まで飛ばされたロタは、弱々しく半身だけを起こすと震えながら怯える目でブリュンヒルドを見上げた。
 一瞬仲間割れかと思ったが、どうやらそうではないみたいだ。
 ブリュンヒルドはロタの方に振り返り口を開く。

「愚か者! こんな森の奥でそんな広域魔法を使ってみろ、小僧達どころかその場で倒れているヒルド達の命も無いぞ!」

「戦士としての誇りを失ったヒルドや、幼獣に敗北したヒヨルスリムルなど生き恥を晒すよりも私の魔法で……ひっ!!」

 ブリュンヒルドの言葉に、ロタがそれでも食い下がろうとした瞬間周囲の空気が変った。
 気温が数度下がった……そう感じる程に身体が震え出す。
 いや、実際に下がっているのだろう。
 僕はゴクリと息を飲み、この凍気の発生源であるブリュンヒルドを見詰めた。
 既にその足元には霜が下りて白くなっている。
 何てことだ、ブリュンヒルドは魔力を高めるだけで周囲を凍らせると言うのか。

「今の発言は自分の弱さを認めたくない悔し紛れの戯言として聞かなかった事にしてやる。それに先程もお前はヒルドが死んだと言っていたな? いいか我等の命のみならず髪の毛一本に至るまで全てマスターの所有物なのだ。我等の生死は全てマスターの判断によってのみ決められる。お前如きが勝手にそれを決めていいものではない」

「は……い……も、申し訳有りませんでした」

 ブリュンヒルドの口から出るその言葉一つ一つに静かなる怒りを孕み、身を凍えさすような魔力を感じた。
 それを間近で聞いていたロタは寒さに身体を震えさせながらブリュンヒルドに頭を垂れる。
 その身から発せられる圧倒的存在感。
 魔法を使わず身体から溢れる魔力だけで周囲に影響を与えるなんて……。
 今までの三人を見る限りこれは種族特性とも違うのだろう。
 どうやら今までのブリュンヒルドは力を抑えていたようだ。
 これが本当の力と言う事なのか。

 なんなんだこいつ? こいつは今まで見たどんな奴より強いんじゃないか?
 母さんの武闘派従魔であるぶーちんやみやこ……だけじゃない、もしかして母さんよりも……?

「待たせたな小僧。すまない身内の恥を晒してしまったようだ」

 ブリュンヒルドは振り返ると僕の方を見ながら静かにそう言った。
 最初の印象と全く違う。
 どことなく絶対王者の貫禄さえ感じるその立ち姿。
 僕はブリュンヒルドに返す言葉も出ず、ただその場で立ち竦ことしか出来なかった。

「幼い見掛けに惑わされてこの体たらく……全くマスターの使徒として嘆かわしい事だ。それに比べ初歩魔術とは言え連続魔法に、風の精霊の掌握。実に見事だ。披露してくれたその力に経緯を払わせてもらう。もう名前は知っていると思うが、改めて自己紹介をさせてくれ。我が名はブリュンヒルド。マスターの使徒でありヴァルキリー隊のリーダーを務めさせて頂いている者だ。小さき勝者よ。そなたの名前マーシャルと言ったか? これからはそう呼ばせてもらう」

「う……」

 圧倒的なオーラに声を出す事も出来ない。
 ブリュンヒルドは情けなく狼狽えてまともに動く事も出来ない僕の姿を愉快そうに見ている。

「マーシャル。先程『精霊の矢』が迫っていると言うのに突然おかしな行動をしていたが……お前、声を聞いたな?」

「え? ……う、うん。僕は大丈夫だって……誰かの声が……あれは風の精霊なのかな?」

 ブリュンヒルドの言葉に逆らえない。
 僕は聞かれたまま素直に答えてしまった。

「ふむ、やはりそうか。質問の答えだが、あれは風の精霊などではない。この装置にも強い反応が有った。それは我らが探し求める物の声。やはりお前が捜索のカギの様だな。それに同じような反応がこの場に存在する事を示している。恐らくお前もマスターの探し物の一つなのだろう。殺しはせぬ、大人しく我らと共に来るのだ。捜索が無事終わればマスターとの謁見を許してやろう。光栄に思うがいい」

 有無を言わせぬオーラを発しながら、一歩また一歩ゆっくりと近付いて来るブリュンヒルド。
 僕はその圧力に当てられて攻撃する事も逃げる事さえ出来ない。

 『逆らったら殺される』……その言葉だけが頭の中を支配していた。
 
 ブリュンヒルドはもうそこまで来ている。
 あぁもうダメだ……。


「そうはさせない! 『魔石震ジェムシェーク』」
「マーシャちゃん。今助けるわ」

 動けない僕の背後から母さん達の声が耳に届く。
 その瞬間僕の身体は何かに掴まれ思いっ切り後ろに引っ張られた。
 放物線を描くように後方に飛ばされる中、僕を掴んだ物に目を向ける。
 それは植物の蔦だった。
 どうやらドリーが僕をブリュンヒルドから遠ざける為に僕を引っ張ってくれてるようだ。
 ふと横を見ると僕だけやなくライアも同じ様に蔦によって空中を飛ぶ姿が見えた。
 助かったと安堵した僕はブリュンヒルドを見た。
 飛ばされる寸前に母さんがブリュンヒルドに向かって『魔石震』を放ったのを聞いた。
 あの魔法は従魔術では数少ない攻撃魔法と言える物だ。
 僕ではまだ使う事も出来ない高等従魔術の一つで、魔物の体内にある魔石を振動させ動きを封じる効果がある。
 弱い魔物ならその振動だけで絶命させる事すら出来るらしい。

 しかもそれを唱えたのが稀代の天才と呼ばれる母さんなんだから、従魔限界を超える高位の魔物と思われるブリュンヒルドと言えども、死なないまでも動きを封じる事は出来ると思う。
 動きさえ封じればこちらの物。
 どんな化け物でも僕らが力を合わせたら勝てる筈!


 だけど、そんな期待も空しく僕の目に飛び込んで来たのは信じられない光景だった。

「小賢しい!! こんなモノで私の動きを封じられると思うなよ!!」

「きゃっ! そんなっ」

 ブリュンヒルドの叫びと共に、周囲に衝撃波が走る。
 パリンと言う音と共に母さんの『魔石震』が強制解除されブリュンヒルドが自由を取り戻した。
 母さんはその衝撃に耐え切れず弾かれるように倒れ込む。
 隣に居たドリーも同じ様に吹き飛ばされた所為で、僕とライアを掴んでいた蔦が緩み僕らは地上に落下する。
 しかし、落下した痛みなんて忘れて僕は倒れている母さんを見詰めて呟いた。

「そ、そんな……母さんが負けるなんて……」

 母さんさえ居れば何が起ころうとも大丈夫。
 僕は今までそう信じて来た。
 その想いが一体の魔物によって目の前で破壊され崩れ落ちる。

「フン! 少しは出来る様だが、私にそんな魔法など効かない。無駄な抵抗はやめて息子を差し出せ」

 その場で直立不動で母さんを見下ろしているブリュンヒルドが勝ち誇ったようにそう告げた。
 母さんでさえ歯が立たない化け物にどうやったら勝てるんだ?
 皆が助かるにはどうすれば……?
 僕は必死になって化け物に勝つ為の方法を考えた。

 そして……。

 そうだ……勝つ方法ならあるじゃないか。
 
 僕は頭に浮かんだどす黒い想いに口角が上がるのを止められなかった。

 そうだよ……母さんに止められているけど……『起動』を、いや『起動』はダメだな。
 だって契約済みの魔物はマスターから魔力を供給されるんだから。

 奴等を……奴等を確実に殺すなら魔力を思いっ切り込めた『キャッチ』で……あいつの魔石を……潰す……。

 僕は心の中にどす黒い何かが溢れて来るのを止められない。
 元より止める気すらない。
 母さん達を傷付けた敵を殺す。
 それだけを胸に僕は立ち上がり左手に有りっ丈の魔力を込める。
 さぁ! 死ね! ブリュンヒルド!

「いったたた……。今のはさすがにちょっとびっくりしたわね」

 今まさにどんな魔物だろうと魔石を握りつぶすのに十分な魔力を込めた『キャッチ』を唱えようとした瞬間、まるで大した事など無かったかのような呑気な口調で母さんがひょっこりと起き上がった。

「か、母さん! 大丈夫なの?」

 口から出掛けた呪文の事も忘れ、僕は母さんに声を掛けた。
 良かった! 無事だったんだ!

「えぇ、大丈夫よ。それよりマーシャル。あんた今、私との約束を破ろうとしてたわね」

「えっ! いや……だって……僕は皆を助けようと……」

 どうやら母さんは僕が『キャッチ』でブリュンヒルドを殺そうとした事に気付いていたようだ。
 口調は呑気だけど、その眼の奥には鋭い光が見える。
 どうやら本気で怒ってるみたい。
 もしかすると急に置き上がったのも僕を止めようとしたからなのだろうか?

「だっても案山子も無い! 何があっても使っちゃダメ! あのままならあなた、深い闇へと落ちていたわよ」

「う……」

 母さんの言う通りだ。
 あの瞬間、僕の心の中は闇で染まり掛けていた。
 あのまま『キャッチ』を唱えていたら、僕は二度と光の道に戻れなかったと思う。

「母さん、ごめんなさい。そしてありがとう」

 母さんの言葉で心の中の闇が払われた僕は謝罪と感謝を述べた。
 ただ、僕が闇落ちする事は回避出来たのは良いんだけど、事態は何一つ好転していない。
 母さんには何か策が有るんだろうか?

「何をブツブツ喋っている。今更お前らが何をしようが結果は変わらん。……いや、そうだな。お前達が大人しくマーシャルを差し出すのなら命だけは助けてやろうじゃないか」

 僕達が喋っている事にしびれを切らせたブリュンヒルドが思いがけない事を提案して来た。
 なんだって? 僕が彼女等について行くと皆を助けてくれるの?
 それで皆が助かるなら僕は……。

「あ、あの……」

「ねぇ、あなた? さっきは私を殺せと言ったくせに、どう言う風の吹き回しかしら?」

 僕の言葉を遮るように母さんが声を上げた。
 そう言えばそんな事を言っていたっけ。
 なら僕が大人しく彼女らについて行ったとしても、母さん達が無事な保証はないかもしれない。
 僕はブリュンヒルドの答えを固唾を飲みながら待った。

「ふん、状況が変わっただけの事。お前如き殺すまでもないと思ったのも確かだが、それ以上にマスターの探し物かもしれないマーシャルの存在が大きい。マーシャルはお前達の事を大切に思っているようだからな。もしお前達をここで殺してしまうと我らのみならずマスターをも憎む事になるだろう。もしかすると自暴自棄になって自殺でもし兼ねない。マスターと面会しマーシャルが本当に探し物なのかが判明するまでは、その様な不確定要素を作る訳にはいかない。それだけだ」

 ブリュンヒルドの言葉に僕は納得した。
 どうやら皆を助けてくれるのは本当の様だ。
 確かに母さんを殺したら僕は絶対にこいつらを許さないだろう。
 それこそ約束を破ろうが闇に落ちようが、僕はブリュンヒルド達を今度こそ殺すと思う。

 だから僕さえ大人しく付いて行けば皆が助かる。
 僕はブリュンヒルドが示した皆が助かる道に縋る為、彼女の元に歩こうと立ち上がろうとした。

「なるほど……。お優しい事ね」

「な、なら、僕はっ」

「マーシャルは黙ってなさい!」

「でも……」

「でもも案山子も無いってさっきも言ったでしょ? それよりあんた! ブリュンヒルドって言ったかしら? ちょっと私の魔法を破ったからっていい気にならないで欲しいわね」

 僕の言葉を諫めた母さんは立ち上がりブリュンヒルドに向かって大声で啖呵を切った。
 その姿は格好良いんだけど何か策は有るんだよね?

「ほう? 折角の慈悲を無駄にするとは馬鹿な奴だ。まぁ良い。さっきも言った様に殺しはしない。ただそんな口をきけなくなる程度に痛めつけてやる」

 その言葉と共にブリュンヒルドの身体から魔力が吹き出し、辺りの気温が急激に下がり出した。
 恐ろしいまでの魔力だ。
 本当にこんなのに母さんは勝てるの?
 絶対無理だよ。
 皆を死なせたくない。
 僕は母さんに叫ぶ。

「母さん!僕の事だったら心配しないで。僕さえついて行けば皆が助かるんだ」

「こらマーシャル。そんな訳に行かないでしょう。 私はあなたの母親なのよ? 息子を犠牲にして助かろうとする親がどこに居るの。今あなたがする事は一つ。心の底から思いっ切り『お母さん頑張って』って私を応援する事よ」

「え? ……うん、分かった。お母さん頑張って!」

 僕は母さんの言う通りにさっきブリュンヒルドを殺す為に込めた魔力以上に、沢山の想いを込めて母さんを応援した。
 母さん! 頑張って!!

「ふふふこれで勇気百倍よ。お母さん頑張る」

「な……なに? お前の魔力が急激に上がったぞ? 何をした!」

 突然ブリュンヒルドが狼狽えだした。
 その所為か、辺りの凍気も心なしか薄まった気がする。
 母さんの魔力が上がっただって?
 た、確かに……母さんからブリュンヒルドに匹敵する様な魔力を感じる。 
 もしかして母さん本気出していなかったって事?
 なるほど! これが有ったから何処か余裕が有ったんだね。
 安心したよ。

「う~ん、息子に応援されるなんて母親冥利に尽きるわ。と言ってもまだ安心は出来ないわね。……ねぇ? そろそろ良いんじゃないかしら?」

 母さんはそう言うと少し上を見上げた。
 一体どうしたって言うんだろうか?
 誰に話しているの?

「ハァ? 一体何を言っている? 何がそろそろなんだ?」

 母さんの意味不明な行動に僕と同じ感想を抱いたブリュンヒルドが訝し気に母さんを問い質した。
 う~ん、魔力が上がったのは気の所為で、現実逃避した母さんが妄言を言っているとかじゃないよね?
 それなら嫌なんだけど……。

 僕がそう思った瞬間――。

「ぎゃっ!」「がはっ!」

 突然ブリュンヒルドの背後で悲鳴と何かが倒れる音が聞こえて来た。
 僕らは……ブリュンヒルドでさえ慌ててその音の方に目を向ける。
 そこには倒れているロタと、もう一人まだ名前も知らない残りのダークエルフの姿が有った。

「なっ! 何があった! おいロタ! スケッギョルド! 返事をしろ!! く、クソ! おい! 女一体何をしたんだ」

「あら? 私は何もしてないわ。したのは……ほら、彼女よ」

 母さんが少し離れた虚空を見上げ視線を持って指し示す。
 それにつられて僕達もその視線の先を追った。

 そこにはただ闇が有った。

 森の奥とは言えまだ日が高いので木々の隙間から日は差している。
 しかし、そんな日の光を嘲笑うかのようにただ闇が浮かんでいた。

「な、なんだあれは……?」

 僕の言葉を代弁する様にブリュンヒルドが呟く。
 そうそれは闇としか形容の出来ないモノだ。
 なぜそんな物が浮いているんだ……?

 僕達がそんな疑問を抱いていると、その闇は急に揺らぎ出した。
 そして何かの姿を形どり始める。

「そ、そんな……まさか……?」

 僕はその姿を知っている。
 あの日夢で見た……恐るべき闇の姿……。
 闇の衣……そして銀髪……赤眼……白磁の様な白い肌。

「ま、まさか……死神……?」

 そう僕達の前に姿を現したのは、先史魔法文明を滅ぼし……そして僕の命を狙う死神だった。

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