雑魚テイマーな僕には美幼女モンスターしか仲間になってくれない件

やすぴこ

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第三章 世界を巡る

第63話 後継者

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「じゃ、じゃあ気を取り直して読んでみるね」

 少しばかり湿っぽくなった空気を吹き飛ばす意味も込めてに僕はあえて明るい声を出した。
 母さんも父さんも僕の意図が分かったみたいでにっこり微笑んでる。
 ん? 父さんの笑顔はちょっと引き攣ってるな?
 なんでだろう……あぁさっきの失言のお仕置きで母さんにお尻を抓られているみたい。
 僕も同意しちゃった手前、ちょっと心苦しいな。
 父さん、一人でお仕置き受けさせちゃってごめんね。

「え~と、さっきはライアが側に居るかって話だったね。続きはっと……『既に我の事は覚えていないだろうが、スフィアと暮らした日々は我にとって掛け替えのない幸福な……』えっと……。この後の数行ずっとこんな感じみたいだよ」

 僕は一度始祖からのメッセージを読むのを止めて顔を上げた。
 僕が読み上げなかった数行はずっとライアの事を気に掛けている始祖の言葉だったからだ。
 記憶を消し封印した事に対してのライアへの謝罪と新しい主人の元で幸せに暮らしているのだろうかと言う僕に対する問い掛け。
 これをライアの前で読み上げるのは刺激が強過ぎると思う。
 折角吹き飛ばそうとしたのにこれじゃ逆戻りだよ。
 二人共そんな僕の気持ちを分かってくれたみたいで苦笑していた。

「そうね、声に出さなくていいわ。気になる所だけ覚えておいてね。後で教えてちょうだい」

「うん、分かった。ちょっと待ってて大丈夫そうな所まで読んでみる」

 僕は改めて始祖の残したメッセージに目を通した。
 十行程度の前文の内、後半の殆どがライアについての想いの丈が綴られている。
 それほど封印してまで別れざるを得なかったライアに対して悔恨の念に駆られていたんだろうとは思う。
 うん、それは分かるんだけど相変わらず仰々しい言い回しなので読む方としては読み難い事この上ないので勘弁して欲しい。

 え~と確か当時のライアって身の丈三メートルの毛むくじゃらな獣人の姿をしているんだったよね?
 今僕の膝の上に乗っている可愛いライアなら分かるんだけど、完全体カイザーファングの姿に対してここまで熱く語る人間が居るとは俄かに信じられない……いやすぐ近くに居たよ。
 多分母さんならここに書かれているのと同じくらい熱く語りそうだ。
 もしかすると母さんが昨日言っていた通り、始祖は重度のケモナーって奴なんだろう。
 う~ん、そこら辺の特殊性癖は僕には理解出来ないや。

 …………。
 …………。
 ちょっと待って? もしかして次のページ以降もそんな事ばかり書いてるんじゃないだろうな?

 そんな嫌な予感が頭を過った。
 もしそうだとしたら僕は今何を読まされているんだろう?

 …………。

 いやいや、さすがに始祖がこんなに手を込んだ仕掛けで残したメッセージなんだ。
 さすがにそんな筈は……うん?

 ライアへの想いに関してその文体の読み難さに途中から流し読みし気味だった僕だけど、とうとう辿り着いた前文最後の行を見て目を疑った。
 見間違いかと思い一度目を閉じて瞼を擦る。

「どうしたのマーシャル? 目にゴミでも入ったの? こんな埃っぽい所で目を擦っちゃ炎症を起こすからやめておきなさい。ほらハンカチ」

「いや違うんだよ。そうじゃなくて、やっと最後の行まで来たんだけど、そこに書いている最後の言葉に目を疑ったって言うか……いや、もうなんて言うか」

 母さんにそう説明した後、もう一度その言葉を確認したけどやはり見間違いじゃない。
 え~と、どう言う事?

「マーシャル、何が書いてあったの? 早く教えてよ」

 言葉を濁す僕に母さんは口を尖らせて催促してくる。
 気持ちは分かるんだけど、僕の頭の中で上手く消化出来なかったんで言葉に出せなかったんだよね。
 まぁ一人で悩んでても仕方が無いや、母さん達にも悩んで貰おう。
 本当にだよ。

「いやね……この前文の最後の行なんだけど文の途中で切れているんだよ。そしてそれに続く言葉が……『あ~もう面倒臭い』なんだ」

「ちょっと面倒臭いって、あなた今更何言ってるのよ? 昨日世界一強くなるって母さんに誓ったじゃない」

 僕の言葉に母さんが『なに言ってんだこいつ?』みたいな顔してるけど、自分でもそう思う。
 こりゃ完全に僕が面倒臭がっていると勘違いしているようだ。
 誤解を解かないとお仕置きされちゃうよ。

「違うんだって! ここにそう書いてあるんだよ!」

 母さんからの謂れのない誤解を解こうと書かれている該当部分を指差しながら必死に説明する。
 まぁ、指差しても母さんには見えてないから意味無いんだけど。

「え? ごめん意味が分からない。ちゃんと説明して貰える?」

「それはこっちのセリフだよ。僕にも意味が分からない。最後の行の数行前からケモノ愛って奴が溢れ出して来てたんだけど、最後の行で『我が愛しきスフィアた』って所で文章が途切れてて、その後に『あ~もう面倒臭い』って殴り書きみたいな文字で終わってるんだ」

 僕の説明を聞いた母さんと父さんは渋い顔をしている。
 小さく首を振ったり捻ったりしているんで、どう言う事なのか思案しているんだろう。

「『スフィアた』? 『たん』とでも言おうとしたのかしらね。しかし面倒臭いって……また、なんと言うか……。それでマーシャル。その下にはもう本当に何も書かれてないの?」

「うん……その下は空白だよ。……なんだかページめくるのが怖くなってきちゃった。これ以降のページが真っ白だったらどうしよう?」

「どうしようって……それは無い……と信じたいわね。技術の無駄遣いにも程が有るだろうし……。ねぇ、マーシャル。チラッと捲って見てみてよ」

 母さんは信じたいと口では言ってるけど、その表情には僕の言葉も有り得ると書いているかのように遠い目をしている。 
 いつもは大胆な母さんがチラ見を要求するくらいだもん。

「わ、分かった。じゃあちょっとだけ……どうか文字が書いていますように……」

 僕は目を瞑って神様に祈りながら恐る恐るページを捲る。
 もし何も書かれてなかったらとしたら飛んだ肩透かしだ。
 力を受け継いだ者にしか見えないなんてスッゴク手の込んだ仕掛けしておいて途中まで書いて面倒臭くなったから止めるなんて……もしかして要らなくなったから僕のご先祖様にこの本をあげたなんて事は……ないよね?
 ゆっくりと開かれるページの先、うっすらと目を開けて覗き込んだ。
 そんな僕の目に映るものは……。

「あっ! 何か書いてある!」

 本扉の前文ほど達筆ではなく、どちらかと言うと書き殴りに近い感じの文章がつらつらと書いてあった。
 面倒臭いと書いていたにしては、それなりにページが埋まる量が見開きの両ページともに書いてあるようなので試しに数ページランダムに捲り文字が書いてあるかを確認したんだけど、どのページにも文字が書かれているのが見えた。
 そこで僕は一度ページを元に戻しホッと安堵の溜息を吐く。

「ちゃんと文章っぽい文字が書かれてたよ。適当に後ろのページも捲ってみたけど大丈夫みたい」

「はぁ~それは良かったわ。でも面倒臭いって何の事なのかしらね? まぁいいわ。それを知る為にも続きを読んで貰える?」

「うん、改めてページを捲るね」

 僕は母さんに急かされる通りに意気揚々にページを捲った。
 さぁ、何が書いてあるのかな……。

「ぶふぅぅぅぅぅぅ!!」

 僕は書かれている文章を読んだ瞬間盛大に吹き出した。
 一応咄嗟に首を横に向けたので吹き出した唾とかは禁書には掛かっておらず無事だ。

「ど、どうしたのマーシャル? いきなり噴き出して。何が書いてあったの?」

 突然の僕の奇行に母さんが驚いている。
 そりゃ突然噴出したんだから驚くのは仕方無いけど、一番驚いたのは僕の方だよ。
 なんだこのページに書かれている内容は。
 いや、これを見ると逆に前文の文章って何だったの? と始祖に問い詰めたくなる思いでいっぱいだ。

「ご、ごめん。書いている内容があまりにも衝撃的だったんで……」

 始祖に対して憧れていた憧れがガラガラと崩れ落ちていきそうになるよ。
 二人共僕が言った『衝撃的』と言う語句を言葉通りに受け止めた様で、真剣な表情で僕が読み上げるのを待っている。
 う~ん確かに『衝撃的』って言葉を使ったけど、どちらかと言うと『笑劇的』が近い。
 これはもう僕だけで考えてても始まらないな。
 母さん達にも始祖がどんな人だったか思い知って貰った方が早いと思う。

「コホン……じゃあ読み上げるね」

「ゴクリ」

 僕が宣言すると母さん達は唾を飲んだ。
 僕はそれを見ると始祖が残した本当のメッセージを読み上げた。

「え~と、『やぁやぁ後継者くん……いや『さん』かな? まぁどっちでもいいや。重要なのはあたしと同じケモナー愛に溢れる人物だと言う事だ。初めまして、あたしが従魔術の創設者だよ』」

「ブフゥゥゥゥッ!!」

 一行目を読み終えた所で父さんが盛大に吹き出した。
 咄嗟に首を横に向けて唾が掛からない様にする所とかさすが親子よく似ていると思う。

「ま、待ってマーシャル。それマジで書いてるのかい?」

「うん、さっき僕が吹き出してくれて意味を分かってくれた? 本当に書かれたまま読み上げただけなんだ」

「そ、それは……う~ん、俄かに信じられない……」

 父さんは顔を引き攣らせながら考え込んでしまった。
 こんな所もよく似ているよ。
 僕も信じられないし。
 今出て来た文章だけでも幾つも気になる個所が有る。
 『ケモナー愛』って言葉は母さんの造語だと思ってたけど、もしかして今は廃れた古代の思想的な表現だったんだろうか?
 それに一人称が『あたし』って表現も気になる。
 これじゃまるで……。

「なるほど~。ちょっとばかし始祖に対する認識を変えないといけないみたいね。けど、これで色んな疑問が解消される……」

 母さんはこの笑劇的な文章に吹き出す事も無く、妙に納得したような顔をして頷いていた。
 しかし、色んな疑問が解消されるってどう言う事なんだろう?

「ねぇ、疑問ってなに?」

「え? あぁこちらの話よ。それよりも早く続きを読んで」

「そ、そうだね。そうするよ。じゃあ、え~と『急に言葉遣いを変えてごめんよ。アレイスターくんが師匠として威厳ある文章で書けって言うもんだから頑張ったんだけど、慣れない事をするもんじゃないね。一ページ目でギブアップだよ~。本当に彼ったら真面目なんだから。ハハハハ』……ねぇ、このアレイスターってご先祖様の名前じゃない?」

「あぁなるほど。『面倒臭い』と書かれた意味が納得いったわ。元の禁書に書かれている先祖の文体から察するに、どうも父さんみたいな真面目で頑固者って感じだったのよ。いまマーシャルが読み上げた通り、真面目に書くようにって始祖に要求したんでしょうね」

「と言うと、この文章が始祖の本性って事なのかな? でもこの文章からイメージする人物像ってなんだか……。いや、全部読んでからにするね」

 そう言って僕は続きを読み上げた。
 そこには僕達が今まで想い描いていた始祖の姿からは想像もつかない人物像が浮かび上がってくる。
 思っていたのとは違うけど、始祖の想いを肌で実感出来たと思う。

『本当は後継者に格好いい所を見せたかったんだけど、弟子の人数分あんな感じの文章であたしの言葉を書き記す時間なんてのは、残念ながらこの身体にはもう遺されていないの。
一応この書が第一章のつもりで書いてるけど、そもそもどの弟子の子孫があたしの後継者になるか分からないもんね。最初にあたしの文章を見たのが別の章からだったら驚くでしょ? だからもうあたしの好きなように書くからそのつもりで。それにその方があたしの言葉が伝わると思うんだ。
あっ、恥ずかしいし一人で読んでね? 人前で朗読なんかしないでね?』

 ごめん、思いっきり朗読しちゃってるよ。
 しかし、遺された時間が無いか……。
 前文でも分かる通り、これを書いたのはライアを封印した後のようだ。
 いつの日かライアが目覚め自分の後継者と真の絆を結べる事を夢見てこの文章を書き残した……か。

 ……けど、なんか文章軽くない?
 前文ではもっと湿っぽい印象を受けたんだけど……。
 まぁ、いいか取りあえず続き続き。

『よく考えたら頑固で堅物のアレイスター君の子孫から基本自由人のあたしの後継者が生まれるって想像つかないかも。
可能性が有るとしたら同類のパラケルススちゃんや変わり者のファウストさんに託す日記を一章にすれば良かったかな~?
いやいや、なんか第六感がピーンと来たんだよね。
絶対この章から読んでくれていると信じてるよ。

あぁ、弟子の子孫て書いたけど、もし違ってたらごめん。
あたしの遺志を継ぐのが弟子以外からだとしたらそれは逆に嬉しい事だね。
だってそれは従魔に対しての認識が今の世の中とは異なってるって事だと思うから。
人魔戦争が終わり平和になった。
でもあたしが目指した従魔術はあたしが描いた想いとは掛け離れてしまっているの。
戦争のその先に人と魔物の共存の道が開かれていると信じていたんだけど、巷で横行している従魔術師の蛮行は凄惨を極めるわ。
勿論沢山の人が魔物に殺されたんだから人々が魔物を憎むのは仕方が無いのは分かってる。
分かっているんだけど……』

 あれ? この後の文字がインクが滲んで潰れちゃってる。
 なんて書いてあるのか分からないや。
 でも次の行からはまた戻ってる……一体なんなんだ?
 インクでも零しちゃったのかな?

『ごめんごめん、話を戻そう。ねぇ、君の時代ではどうなのかな? 魔物と仲良くしてる? 従属させていじめたりしてない? 願わくば共存している世界が来ていたらいいな。
でも、そんな世界が本当に来ていたとしたら、あたしの後継者がこうやってこの書を読んでいる訳ないか。

もう一度言うよ。あたしの後継者としてライアスフィアと真の絆を結んでくれてありがとう。
そこに至るにはとても困難な道だったと思う。
なんたって後継者にはうんと過酷な条件を与える事にしたからね。設定したあたしでさえ思わず引き笑いしちゃうくらいの。
正直弟子の皆がそんな奴居ねぇよって突っ込んで来たくらいなんだから。
だけど! 君がこれを読んでるって事は本当に居たって事だから賭けは私の勝ちね。ヤッター!!
でも仕方無いんだよ。チートな能力マシマシ貰ってたあたしでも実現出来なかったんだからさ。
本当に良く頑張ったね。エライエライ』

 ここで僕は一旦読み上げるのを止めた。
 数行に詰められていた情報量が多過ぎてついていけなくなったからだ。
 母さん達も読むのを続けるように促して来ない所を見ると同じ思いみたい。

「ねぇ、母さん。これって……」

「色々ぶっ込んで来たわねぇ。共存の世界が来ていたらこの書を読んでいる訳が無いか……」

 母さんの言葉に父さんが頷いている。
 確かに気になる言い回しだ。
 まるで平和なら後継者が生まれなかったとでも言いたげな始祖の言葉。
 やっぱり新たなる魔王の脅威が迫ってると言う事だろうか?
 けど、当事者の僕としては次の言葉がとても気になった。
 
「そこも気になるんだけど、僕的には過酷な条件って所がとっても気になるんだ。それに困難な道って言葉。この過酷な条件って言うのは多分僕のキャッチが異常な事についてだと思う。確かに僕はその所為で悩んで来たし辛かったと思う。けど困難な道だったかと言うとそんな事は無かったよ。気付いたら後継者になっていたって感じだもん。寧ろこれからの方が困難を極めると思う。下手に強い魔物と契約なんてしたら死んじゃうんだし」

「ふふっ、その顔は困難じゃなかった本当の理由は分かってるみたいね」

「う……」

 母さんにはお見通しだったみたい。
 恥ずかしいから言葉に出来なかったけど、困難な道じゃなかった理由は簡単な事だ。
 それは僕が皆に守られて来たお陰。
 母さん父さん、それに叔母さん。死んだお爺さんも守ってくれていた。
 それに妹もね。
 それだけじゃない、ギルドの皆もこの一年僕の事を見守ってくれていた。

 そして次の言葉を思い浮かべようとした時、少しだけ胸が痛んだ。
 でも言葉にしないとダメだと思う。

 ……あぁそうだよ、グロウ達こそ僕の事を守ってくれていたんだ。
 今でも僕を追放した時のグロウ達の顔を思い浮かべるとムカムカしてくるけど、母さんが言った通り僕は彼らに守られていたからここに居る。
 これは紛れもない事実だ。
 いつの日か再び彼らと笑い合える日が来た時は『ありがとう』って言おう。

 ……少しばかりの皮肉も込めてね。

 それには弱いままじゃ格好つかないよ。
 僕は改めて強くなる事を心に誓った。


「……しかしチートマシマシをとはね。……やっぱり
始祖も私と同じ……」

 新たな決意に胸を震わせていた僕の耳にはそんな母さんの呟きは聞こえてこなかった。
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