雑魚テイマーな僕には美幼女モンスターしか仲間になってくれない件

やすぴこ

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第三章 世界を巡る

第58話 朝

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 チュン……チュン……。

 何処からか小鳥の声が聞こえる……。
 もう朝なのかな?
 とても心地良い微睡みの中、遠くから聞こえる小鳥の声で僕の意識は眠りの淵から緩やかに浮上する。
 え~と、ここは一体何処だろう?
 とってもふかふかの布団に包まれているみたいだ。
 ここ最近馬車の荷台の床に直寝だったんで、こんなに気持ち良いのは久し振りかも。
 叔母さんの家? いや叔母さんちのベッドも結構硬かった。
 なら、ここはどこ? ……あぁそうか、昨日実家に戻って来たんだっけ。
 じゃあここは僕のベッドだ。

 そうだ、だんだんと思い出してきた。
 昨日僕は僕が従魔と契約出来ない本当の理由を知ったんだ。
 何故だか分からないけど僕のキャッチは異質な物らしい。
 普通に唱えても魔力の網の隙間が大き過ぎる、かと言って魔力を込めて隙間を埋めると魔物の魔石を壊してしまう。
 今の僕が魔物と契約するには、巨大な魔石の魔物かそれとも僕の魔石で破壊されない魔石の魔物相手じゃないと無理なんだって。
 だけど、そんな魔物と契約しちゃったら左手に浮かぶ赤い契約紋の『死が二人を分かつまで契約解除が出来ない』と言う、僕にとったら呪いとしか思えない制約の所為で、魔力を吸われ続けて僕は死んでしまうんだ。

 解決する方法は僕が強くなる事。
 それも世界の誰よりも……とっても気の遠くなる話だよ。
 それに新たなる魔王と戦う使命だとか、残り四人の娘を探せだとか頭が痛い事だらけ。
 はぁ~気が重いなぁ~、僕はただ従魔と契約出来る様になればいいだけなのに。
 出来るならこのままベッドでライアとゴロゴロしていたいよ……。
 そんな感じで少しばかり寝起きの気怠さに負けた僕は、左隣からスピスピと寝息を立てているライアを抱き締めようと右手を伸ばした。
 
 ムニュ……。

「え?」

 伸ばした手の平に何かが触れた。
 ムニュムニュと、とても柔らかい感触。
 ライアのぷにぷにほっぺ?
 いやいや今僕はライアを抱き締める為に背中に手を回そうとしたんだから、その向こうはベッドの筈だよね?

 ……あぁなんだ、羽毛布団か。
 最近の羽布団はこんなに弾力のある柔らかさなんだな……。


「もうっ! お兄様ったら大胆ですわね」

 …………。

「ひぃぃぃぃぃーーーー!! なんか居たーーーーー!!」

 突然聞こえて来た柔らかさの主の声に僕の眠気は一気に吹っ飛んだ。
 僕は慌てて掴んでいたを手放してベッドから逃げるように転げ落ちる。
 なになになんでお前が居るの?
 
「お兄様ったら、こんな可愛い妹に対して『』とは酷いですわね」

 ベッドの上に半身になって横たわっている妹が頬を染めながら口を尖らせて文句を言う。
 いつの間に忍び込んだんだ?
 寝る前にはちゃんと部屋の鍵を閉めたって言うのに!!

「酷いも何も無いよ。なんだってメアリが僕のベッドで寝てるんだよ!」

「あら? お兄様の所為ですのよ?」

「僕の所為? えっと……昨日何かしたっけ?」

 僕のベッドでメアリが寝てるのは僕の所為ってどう言う事?
 昨日は確か、母さんに夢の話をしてからは久し振りの家族全員揃って夕飯を皆で食べて……その後は?
 う~ん、確か冒険の事を色々話している内になんだか旅の疲れがドッと出て来て、先に寝ちゃってたライアと共にそのままベッドに直行した……記憶しかないんだけど?
 もしかして、夜中に起きたライアが寝ぼけて何か粗相をしちゃったのかな?
 従魔がした事の責任はマスターが取るものだしね。

「何をしたかですって? しらばっくれるのもいい加減にして下さい」

「し、しらばっくれるってそんな。全く記憶に無いんだけど、ライアがなにかしたの?」

「違いますぅ! ライアちゃんは関係有りません。お兄様が出て行ってからの一年間ずっと私に寂しい想いをさせていたんじゃないですか」

「は? え? それがどう関係有るの?」

「関係大有りです! まだ幼い私にそんな寂しい想いをさせたのですから、久し振りに帰って来た大好きなお兄様と一緒のベッドで寝る権利が私には有るのです」

「無いよ!! 幼いって僕と一歳しか違わないし、もうすぐメアリも成人じゃないか」

「年齢なんて関係有りませんわ」

 ……最初に幼いって言ったのはメアリの方なのに。
 母さんも無茶苦茶だけど、メアリの滅茶苦茶さは方向性が斜め上過ぎるよ。
 しまったなぁ~久し振りだから油断してた。
 僕が成人前に家を飛び出した理由の7割はこれが原因だったじゃないか。

「僕が寝てる間に何か悪戯とかしてないよね?」

「もう! 信用ありませんわね。そんなことしません」

 いや、君はかつてしたからね?
 信用はかなり低いよ?

「ただ、親子三人川の字になって寝ていただけですわ」

「親子三人って母さんか父さんも居るの? 今は……え~と居ないみたいだけど」

 メアリの向こう側に寝ているのかと思ったけど、その姿は見えないや。
 と言うか、如何に実家のベッドが大きいからと言って、さすがに僕とライアとメアリだけでいっぱいだ。
 ここに母さんや父さんが寝るスペースなんてないよ。
 そもそも既に三人だし。

「いえ居ませんよ。それじゃ四人になってしまいますし」

「あっそこは分かってるんだ。じゃあどう言う事?」

「それは勿論、私とお兄様とライアちゃんの親子三人じゃないですか」

「違うよ!! 僕ら兄妹! 兄妹だって」

 やっぱりメアリの症状が悪化しているみたいだ。
 僕が逃げるようにして家を飛び出したこの一年間、確かに寂しい想いをさせたとは言え、原因はメアリ自身だからね?

「そんな小さい事に拘るなんておかしなお兄様。それに……」

「小さくないからね? それにって何だよ。まだ何かあるの?」

のは、お兄様の方ですわ」

 そう言ってメアリは目を伏せる。

 ……?
 なにその意味ありげな態度。
 先にして来たってどう言う事?
 僕何かしたっけ?

 僕がしたと言う悪戯が何なのかを思い出そうとすると、僕の右手に違和感を覚えた。
 違和感と言うか残っている感触……それもぷにぷにむにゅむにゅと言う少しばかり心地良い感触。
 僕は思わず右手の掌をジッと見る。
 この感触の正体はなんだ?
 そしてメアリの方に顔を向けた。

「ポッ……」

 僕と目が合った途端、頬を染めて目を伏せるメアリ。
 え? なんでそんな態度を取るの?
 僕の右手が何をしたって言うの?

 ぷにぷに……むにゅむにゅ……?

 ……まっ、まさか? そんな……。
 もう一度、メアリの顔を見る。
 するとメアリは頬を染めたままコクリと頷く。

 …………?

「うわぁぁぁぁぁぁぁーーーー!! この手の感触を僕の記憶から消してくれぇぇぇぇぇーーーー!!」

 僕は思わず天に向かってそう叫んで床に膝をつく。
 一年前の妹は抱き付いて来た時にあばらの硬さを感じるくらいだった筈。
 たった一年でこれ程だと……?
 いやいやいや! 今の想像も記憶から消えてくれ!!

「その言い方は酷いですわ! お兄様!! この件の責任取って貰いますから」 

「不可抗力だ!! 濡れ衣だ!!」

 訳の分かりたくない事を言ってくるメアリに、負けじとそんな言葉で応戦する僕。
 すると……。

「むにゃむにゃ……。ぱぱうるしゃいよぅ~」

 と、まるでこの阿鼻叫喚な状況を収める天の助けの如き声が僕とメアリの間から聞こえて来た。
 その声に僕らはパッと口を塞いだ。

「……ごめんごめん、ライア。起こしちゃったみたいだね」

 僕がライアに謝ると、ライアは目を擦りながら起き上がって来た。
 どうやら状況がつかめていないのか周りをキョロキョロと見回している。
 馬車の中でもない、ましてやずっと暮らしていた叔母さんの家でもないこの見慣れぬ景色に少しパニックになって来た様だ。
 おろおろしながら僕に助けを求める様な顔をしている。

「ぱぱ……? ここどこ? なんでこんなとこでねてゆの? なんだかふかふかする」

「ライア落ち着いて。ここは僕の部屋だよ」

「……ぱぱのへや? いつもとちがうよ?」

 そう言って首を傾げるライア。
 うん、そうだね。
 叔母さんちの部屋はこんなに広くないし、何より昨日寝たまま連れて来たんだから始めて見る部屋なんだし不安になっても仕方が無いよ。

「そうだよ。昨日実家に帰って来たでしょ?」

「ん~~? あっ! ここおばあちゃんち?」

 どうやら昨日の事を思い出したようで、ライアはぱぁっと目を輝かせる。
 状況が分かったライアは安心したのか、そのままふかふかベッドの柔らかさを楽しむようにきゃっきゃと笑いながらその場で上下しだした。

「ん~~可愛いライアちゃん!」

「ひゃっ」

 嬉しそうに跳ねるライアの姿を見ていたメアリは、その可愛さに辛抱たまらなくなったようで急にライアに抱き付いた。
 その気持ちは分かるけどライアがびっくりしてるじゃないか。

「あ、あれ? めあい? いきなりびっくいしたよぅ」

 ほらやっぱり。
 メアリの奴、あまり怖がらせると嫌われるぞ?

「ちょっと、ライアちゃん。昨日教えたでしょ? 私はママよ」

 ライアがメアリの事を名前で言ったのを聞いて、メアリが慌てて訂正をする。
 違うよ? ライアが正しいよ?
 メアリってば想像通りライアに自分の事をママって教え込もうとしてたんだな。
 洗脳されなくて偉いぞ、ライア。

「ちがうーー。ままはちゃんといるもん」

「え?」「え?」

 今なんて言った? ママは居ると言ったのか?
 叔母さんの事? いやライアは叔母さんの事を『お姉ちゃん』と呼んでいた。
 それに前はママの事を分からないって言っていたし……。
 もしかしてだけど両親の事を思い出したんだろうか?
 カイザーファングって種族の事はよく知らないけど、そりゃ親くらい居るだろう。
 封印されて三百年経ってるから、まだ生きているのか分からないけどね。
 だけど、始祖によって記憶を真っ新にされたみたいなのに覚えてるなんて。
 もしかして父親の事も思い出したんだろうか?

「ねぇライア。ママって……」

 僕は蘇ったかもしれないライアの過去を知りたくて、ベッドに駆け寄り『ママ』とは誰なのか尋ねた。
 謎に包まれたカイザーファングの生態を知る事が出来るかもしれない期待で胸が弾む。
 っと、そこに横からぬぅっと顔を近付けて来る者が……まぁメアリなんだけど。
 一体何なんだ? メアリはライアの事をワーベアの変異体だと思ってるんだから、その母親について身を乗り出す程の興味は無いと思うんだけど。
 それとも変異体って事に興味を抱いているのだろうか? 
 どちらにせよ、顔を近付ける相手は僕じゃなくてライアだろうに。
 そう思ってメアリの方に顔を向けると血走った目で僕を凝視していた。

「おっおっおっ、お兄様!! わ、私を差し置いて誰かいい人でもいますの?」

「ちょっ! 気になってるのそこ!?」

「やっぱり街に行かせるんじゃなかった! 誰? 白状しなさい!」

「い、居ないよ、そんな人!」

 追及してくるメアリに僕は誤解を解こうと必死だ。
 メアリの形相を見てると、実際にそんな女性は居ないけど居たら居たで絶対に言えないや。

「ちょっと待ってって。ライアに聞いてみようよ。僕も気になるし」

 心当たりの無いメアリの追及を逃れる為、僕はそう提案した。
 実際誰の事を言っているのか気になるのは本当の事だしね。
 もし、これでそのママってのがルクスの事なら僕死んじゃうかも。
 ……精神的に。
 メアリは半信半疑な目で僕を見ながらも、渋々その言葉に頷いた。

「ねぇ、ライア。ママって誰の事を言ってるの?」

 メアリの迫力に目を丸くしていたライアに僕はそう尋ねたんだけど、ライアってば『ちゃんといる』と言った割には、なんだか「う~ん」と唸りながら悩みだした。

「どうしたのライア?」

「わかんない」

 しばらく悩んだ後、ライアはそう呟いた。

「わからないって?」

「うん。ままはいたのに、おもいだせないの」

 そう言って顔を上げたライアは顔をくしゃくしゃにして涙を溜めている。
 どうやら母親が居たと言う事だけは朧気に覚えているみたいだけど、始祖の封印に寄るものなのだろう。
 可哀想な事にその記憶が抜け落ちているようだ。
 その記憶の矛盾の所為で混乱したライアは泣いてしまった。

「ごめん! 泣かないでライア。変な事を聞いた僕が悪かったよ」

 泣いたライアの姿を見た僕は、胸を締め付けられる思いに駆られライアを抱き締めながら謝った。
 さすがのメアリも悪い事をしたと反省したようで一生懸命謝っている。

「ライアちゃんごめんなさい。ほら私がママになってあげるから」

 ……違った。
 どうやら反省はしてないみたい。
 本当にこの妹は……。

「いや! めあいはめあいだもん」

「そんなぁ~」

 やっぱり偉いぞライア! 泣きながらもその場の雰囲気に流されない強い意思を持った子だ。
 僕はライアを抱き締めながら頭を撫でる。
 暫くすると落ち着いたのか泣き止んでくれた。
 落ち着いたと言うか、なんで泣いていたか忘れたって言った方が正しいのかな?

 ぐぅ~~。

 いや、お腹が空いたみたい。

「おなかちゅいた~」

「はははは、分かったよライア。それじゃ食堂に行こうか」

「やった~」

 ライアは僕の言葉に嬉しそうだ。
 母さんの事だから多分朝食を作ってくれていると思う。
 もしまだでもぶーちんに頼めば軽食は用意してくれるだろう。
 僕はライアを抱っこしたまま扉に向かって歩き出した。
 
「ちょっと、お兄様待って下さい」

 置いてきぼりにされたメアリが僕の後を追い掛けて来た。
 本当に困った妹だ。

 しかし、ライアには悪いけどカイザーファングの生態を知る事が出来なかったのはちょっと残念かも。
 けど、また泣かれても可哀想だし諦めるか。


 そんな、もやっとした気持ちが湧いたのとムニュっとした妹の成長を知った朝だった。
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