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第二章 幼女モンスターな娘達
第51話 無茶苦茶
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「大体お兄様も酷いですわっ! こんな可愛い妹を冷たい地面にそのまま放置して行くなんて! 普通はお姫様抱っこしてベッドに連れて行く場面でしょうに!」
先程から妹の矛先が僕に僕に向いている。
母さんのあまりにもの軽い受け答えに埒が開かないと思っちゃったんだろうな。
うん、確かに言われるとその通りだとは思うよ。
お兄ちゃんとしては、あのまま放置して行ったのはやっぱりマズかったよなぁ……って少しは反省する気持ちは無い事もない。
だけどちょっと待って?
君にも責任が有ると思うんだ。
寸前までの君の暴走は鬼気迫るものだったからね。
安眠羊の周囲の者を強制的に眠らせると言う能力は凄いんだけど、君は僕なんかよりずっと凄い術者じゃないか。
実は寝た振りで、食虫植物の様に無闇に近付いたりなんかしたらパクッと捕食されちゃうかもって警戒しちゃったんだ。
って、何で僕は頭の中なのに妹に対して敬語で言い訳してるんだ?
とは言え、どんな口調でも言い訳を口にしたりすると返って来る反論が怖いんで適当に謝っておこう。
「ごめんって。ほら、僕ってば馬車の旅で服もドロドロだったし身体も汗臭かったからさ。メアリの服が汚れると思ったんだよ。それにてっきり母さんが回収すると思っていたし、まさかあのまま放置してるなんて……。母さん? 反省してよね」
僕は妹に同情する様な演技をしながらそう言い訳をした。
今考えた事ばかりだけど嘘は言ってない……よね?
最後は妹のヘイトが母さんへ向ける様に仕向けたしこれで安心だ。
「あら、そこでお母さんに話を戻すの? 困った子ねぇ」
困ってるのはこっちだよ!
戻すも何も母さんがした事だからね。
まぁ、妹の暴走から助けてくれた事は感謝しているんだけど。
「そうですわ、お兄様。どんな理由が有ろうとも、こんなにか弱くて可愛い妹を放置なんて許されない事です。別に服が汚れていようが構いませんわ。兄として妹をお姫様抱っこでベッドに連れて行く場面でしょう」
口から『どこにそんな概念を有している人物が存在してるの?』と零れ落ちそうになったけど飲み込んだ。
勿論後が怖いからだ。
くそっ! 妹の矛先を母さんに向けようとしたけどそのまま戻って来たよ。
これは、アレだな。
多分放って置いた事の原因は既にどうでもよくなってるんだと思う。
同じ言葉を二回も繰り返したと言う事からも、それを証明しているようなものだ。
もう妹の頭の中では僕に対して何かを要求する事で決定済みなんだろうな。
経験上こうなったらもう何を言っても無駄だよ。
「お兄様? 聞いてらっしゃるの?」
諦めモードな僕の態度を見て、妹は顔をぐっと近付けてそう言って来た。
眉をしかめてほっぺを膨らませて口を尖らせている。
普段は年齢よりしっかり者と言うか、成人間近の僕なんかよりずっと大人びている妹だけど、こんな年相応の幼い仕草をする所を見た事なんて年単位で久し振りだよ。
なんて少し記憶の中に有るまだ僕の後ろをちょこちょことついて来ていた頃の妹を思い出してほっこりしていると、睨んだまま止まっていると思っていた妹の顔が徐々に近付いて来ている事に気付いた。
しかも、口を尖らせたまんまで。
それだけじゃなく、なんだかまるで獲物を見付けた捕食者みたいな圧を感じる。
って、顔が近い近い!
今の今までゆっくりだったのに、何故か急にスピードを上げたぞ!
突如スピードを上げ迫りくる妹の顔に、とても嫌な予感を感じた僕は反射的に思いっ切り大きく身体を後ろに逸らして避けた。
グラァ~――
うおっとっと! ソ、ソファが、た、倒れ……、ふぅなんとか踏ん張れた。
あまりもの勢いにソファーが後ろに傾いて倒れるかと思ったよ。
椅子に座ったまま急に仰け反ったら危ない……。
ビュンッ! 「え?」
ソファーが倒れない様に何とか踏ん張って堪えた僕が安堵をしていると、次の瞬間目の前ギリギリを掠めながら何かが空を切る音を立て通り過ぎた。
呆気に取られながらその何かを確認すると、どうやら空を切ったのは妹の手の様だ。
しかも僕の頭が有った位置を両手がクロスする様に振り抜いていた。
空振りだった所為か妹はつんのめった感じのまま前屈みになってこちらをジト目で見ている。
「ちっ」
舌打ちしたっ!
僕が避けたのが不満だったのか、妹は舌打ちするとつんのめった腰を元に戻して同じ表情のままこちらに顔を向けた。
その表情は凄く残念そうだ。
一瞬僕への報復の為に両手のビンタで僕の頭をホールドしつつ頭突きでもしようとしたのかと思ったけど、迫りくる妹の顔を思い出すと『そうじゃない』と言う予感がひしひしと湧いて来る。
まだ頭突きの方が良かったかもしれない。
痛いだけだからね。
僕の想定はもっと恐ろしい事で、多分それが正解だろう。
だって迫りくる妹の顔は顎を上げ気味に唇を尖らせていたんだ。
額なんかよりずっと前の位置にね。
そして舌打ちする寸前の唇の位置は先程まで僕の口が有った場所。
…………。
これ以上考えるのは止めよう。
頭突きだったと思っていた方が健全だよ。
「折角キスで手討ちにしてあげようと思っていましたのに、お兄様ったら」
「なに言ってんのお前!?」
さも当然な感じで不満を口にする妹に思いっ切り突っ込んだ。
やっぱり思った通りだった! あれは僕の頭をホールドしてキスしようとしてたんだ!
想定以上に妹の様子がおかし過ぎる! 僕が家を出る前の妹はここまで実力行使はしなかったぞ。
……そりゃベッドに忍び込もうとしてきたりしたけど、一応の言い訳は『久し振りに兄妹水入らずで同じベッドで寝ようと思っただけですわ』とか言っていたし、ワンチャン本当にそうだったかもしれないからね。
あの目は多分違うと思うけど。
「ちょっと母さん! 症状が悪化しちゃってるよ!」
「そーお? 前からこんな感じだったわよ? それにキスぐらい家族でもするわよ」
キスくらいなら家族でもする?
……言われてみると、家族なんだから挨拶代わりのキスはスキンシップの範疇……?
「いや、そうかもしれないけど、でもその場合手討ちとか言う物騒な言葉は出て来ないと思うよ」
「もうお兄様ったらいい加減に諦めたらどうです?」
「何を!?」
「それは決まっていますわ。二人でクロウリー家の支えて行く事です。……ポッ」
兄妹でクロウリー家を支えて行くって事は賛成だけど、なんでそこで頬染めて恥じらう必要が有るの?
理由は想像つくけど直接その口から聞きたくないから聞かないけどさ。
「そして二人で跡取りを作る事ですわ」
やっぱりかっ! ライアの事を二人の娘とかポロっと口走ってたから予想はついてたけども!
「ないないない! ちょっと母さん! さすがに止めないとダメでしょ。ほら何か言ってやって!」
さっきもこんなタイミングで安眠羊の能力で妹を眠らせて止めたんだし、破天荒を絵に書いた様な母さんと言えども兄妹でそんな行為を認めるなんて事はしないだろう。
「う~ん。それはそうなんだけど……正直可愛い子供達に婿も嫁も要らないと思ってるのよねぇ~。それに貴族ならよくある話だし」
「うわぁ~! 最悪だ~! うちは貴族って言っても名誉職みたいなものだから!」
二人共無茶苦茶だ!
やっぱり早くこの家から出て行かなければ!
そして、母さんや妹に匹敵するくらい強いお嫁さんを見付けてやる!
本人の身の安全プラス僕の護衛も兼ねた……ね。
居るかなぁ~? そんな女の子……。
「ん……むにゅ……」
突然阿鼻叫喚なこの部屋の喧騒を鎮めるかのような声が聞こえて来た。
三人がその声の主に注目する。
「あっ……。しぃーーー。ライアちゃんが起きちゃう」
そう言って母さんが人差し指を口の前に立てる。
どうやら母さんの膝の上で寝ていたライアが僕達の声に反応して目が覚めかけているようだ。
「……そう言えばこの子は……私とお兄様の娘……」
「違うよ!」
「……しぃ~。声が大きい。それにしても呆れたわね。メアリまだ気付かないの?」
妹のとんでもない一言に思わず大声を出してしまった僕を母さんがたしなめると共に、妹に対してそう溜息を吐く。
その言葉で我に返った妹はライアを見て「あっ……」と一言呟いた。
「その子は従魔ですのね」
妹はやっと気付いたその事実に口に手を当てて目を見開いている。
遅いよ! 普通テイマーなら目の前の魔物が従魔かどうか魔力の流れですぐ分かるものなのにさ。
それに頭の上にあるまんまるお耳を見れば一目瞭然じゃないか。
特に今は風呂上がりだから偽装のカチューシャをしてないしね。
「そうだよ。僕の従魔でライアって言うんだ」
やっと妹にライアを紹介する事が出来たよ。
さっきはいきなり暴走したからね。
安堵の溜息を吐きながら妹の顔を見るとさっきとは打って変わって真剣な顔でライアを見ていた。
「どうしたの? メアリ?」
「見た事の無い種族ですわね? 獣人? ……にしては人間に近過ぎるし……」
顎に手を当てて何やらブツブツと呟いている。
さすがクロウリー家の跡取り候補。
従魔と意識した途端、どうやらライアの事を真剣に観察しているようだ。
その仕草がなんだか叔母さんが始めてライアを見た時と重なるよ。
妹は研究者に向いてるのかもしれないな。
しかし、カイザーファングって事を言っても良いのだろうか?
そうだけどそうじゃない。
本当のカイザーファングは幼体でも毛むくじゃらコボルトモドキな外見だってのはモコだった時に証明済みだ。
だからこの女の子フォームのライアの正体がカイザーファングだと言っちゃうと、なし崩し的に全部話さなくちゃならなくなる。
その事は今はまだ妹に知られたくないし、どう誤魔化そうか……。
「珍しいでしょ? なんでもティナの話だと、この子はワーベアの変異体らしいわ」
「なるほど、ティナ叔母様が……。それにしても変異体ねぇ」
僕がどう誤魔化そうかと悩んでいると、母さんはサラッと嘘を吐いて妹を納得させた。
なかなか堂に入った演技。
年の甲だろうか……ビクッ!
僕が母さんの今までの人生経験の賜物を感心していたら、急に母さんから殺気が送られて来た。
最近年齢を気にしてるみたいなのは知ってたけど、息子に対して殺気を送る程なの?
って言うか、僕の心を読んでるのっ!?
「さぁおかしな無駄話はここら辺にしておきましょうか。……メアリ? ちょっとこの子を預かって貰えないかしら?」
突然母さんはそう言って妹に顔を向けた。
一体どうしたんだろう? ライアを妹に預けようって言うの?
おかしな無駄話って言うのは、嫁や婿が要らないって事で良いんだよね?
母さんの言葉の意図が分からずに僕と妹は首を傾げる。
「マーシャル、さっきの続きよ。ちょっと地下の実験所に来てもらえないかしら。確かめたい事あるの」
「お母様。私も一緒に行きたいですわ」
「んん? ……むにゃむにゃ……」
「ほら、声が大きいわ。……今は勘弁しなさい。これはマーシャルが貴女に相応しい男になる為に必要な事なの」
やめてよ! 説得させる為だからって、そこでそんな事を言うと親公認のお墨付きみたいじゃないか。
おかしな無駄話を混ぜ返さないで!
「分かりましたわ。お母様。クロウリー家の未来の為ですもの。その子を預かります」
そう言って妹はライアの膝枕権を母さんと交代する形でソファーに座る。
「メアリ、ライアちゃんを可愛がってあげなさい。なんたってマーシャルの事を父親として慕っているのよ? 仲良くしておいて無駄にならないわ」
立ち上がった母さんがそう言って妹にウィンクした。
その言葉に凄く嫌な予感がする。
「まぁ、なるほど。……分かりましたお母様。子はかすがいと言いますもの。この子と仲良くなってママと呼ばせて見せますわ」
やっぱり!
なんて事を言い出すんだ。
「やめてよ! ライアに変な事を吹き込まないで!」
「ううん? ……むにゃ……」
「あっ。むぐぐ」
僕の声でライアが起きそうになったんで慌てて両手で口を塞ぐ。
なんとかライアは目を覚ます事は無くそのまま気持ち良さそうに寝返りを打った。
ホッとするのも束の間、妹のライアを見る顔がまるで自分の子供を愛おしく思っているような物に変っている。
このままじゃマズい何とかしなければ。
母さんの話ってのが何か分からないけど、早く済ませてライアが洗脳されてる前に戻らないと!
「ほら、マーシャル。遊んでないで行くわよ」
そう言って母さんは扉に向かって歩き出した。
遊んでないよ! と声を大にして言いたかったけど、ライアを起こしちゃまずいし何よりこれ以上時間を取られたくないしね。
けれど、少し安心してる事が有るんだ。
なんたってライアと妹の出会いは最悪と言っても過言じゃないからね。
ライアは妹の迫力に完全に怖がってたし、起きた時に目の前に妹が居たら逃げ出しちゃうんじゃないかな?
そう易々と妹の計画が成功するとは思えないよ。
「分かったよ、母さん」
だから僕も素直に母さんの後を付いていく事にした。
先程から妹の矛先が僕に僕に向いている。
母さんのあまりにもの軽い受け答えに埒が開かないと思っちゃったんだろうな。
うん、確かに言われるとその通りだとは思うよ。
お兄ちゃんとしては、あのまま放置して行ったのはやっぱりマズかったよなぁ……って少しは反省する気持ちは無い事もない。
だけどちょっと待って?
君にも責任が有ると思うんだ。
寸前までの君の暴走は鬼気迫るものだったからね。
安眠羊の周囲の者を強制的に眠らせると言う能力は凄いんだけど、君は僕なんかよりずっと凄い術者じゃないか。
実は寝た振りで、食虫植物の様に無闇に近付いたりなんかしたらパクッと捕食されちゃうかもって警戒しちゃったんだ。
って、何で僕は頭の中なのに妹に対して敬語で言い訳してるんだ?
とは言え、どんな口調でも言い訳を口にしたりすると返って来る反論が怖いんで適当に謝っておこう。
「ごめんって。ほら、僕ってば馬車の旅で服もドロドロだったし身体も汗臭かったからさ。メアリの服が汚れると思ったんだよ。それにてっきり母さんが回収すると思っていたし、まさかあのまま放置してるなんて……。母さん? 反省してよね」
僕は妹に同情する様な演技をしながらそう言い訳をした。
今考えた事ばかりだけど嘘は言ってない……よね?
最後は妹のヘイトが母さんへ向ける様に仕向けたしこれで安心だ。
「あら、そこでお母さんに話を戻すの? 困った子ねぇ」
困ってるのはこっちだよ!
戻すも何も母さんがした事だからね。
まぁ、妹の暴走から助けてくれた事は感謝しているんだけど。
「そうですわ、お兄様。どんな理由が有ろうとも、こんなにか弱くて可愛い妹を放置なんて許されない事です。別に服が汚れていようが構いませんわ。兄として妹をお姫様抱っこでベッドに連れて行く場面でしょう」
口から『どこにそんな概念を有している人物が存在してるの?』と零れ落ちそうになったけど飲み込んだ。
勿論後が怖いからだ。
くそっ! 妹の矛先を母さんに向けようとしたけどそのまま戻って来たよ。
これは、アレだな。
多分放って置いた事の原因は既にどうでもよくなってるんだと思う。
同じ言葉を二回も繰り返したと言う事からも、それを証明しているようなものだ。
もう妹の頭の中では僕に対して何かを要求する事で決定済みなんだろうな。
経験上こうなったらもう何を言っても無駄だよ。
「お兄様? 聞いてらっしゃるの?」
諦めモードな僕の態度を見て、妹は顔をぐっと近付けてそう言って来た。
眉をしかめてほっぺを膨らませて口を尖らせている。
普段は年齢よりしっかり者と言うか、成人間近の僕なんかよりずっと大人びている妹だけど、こんな年相応の幼い仕草をする所を見た事なんて年単位で久し振りだよ。
なんて少し記憶の中に有るまだ僕の後ろをちょこちょことついて来ていた頃の妹を思い出してほっこりしていると、睨んだまま止まっていると思っていた妹の顔が徐々に近付いて来ている事に気付いた。
しかも、口を尖らせたまんまで。
それだけじゃなく、なんだかまるで獲物を見付けた捕食者みたいな圧を感じる。
って、顔が近い近い!
今の今までゆっくりだったのに、何故か急にスピードを上げたぞ!
突如スピードを上げ迫りくる妹の顔に、とても嫌な予感を感じた僕は反射的に思いっ切り大きく身体を後ろに逸らして避けた。
グラァ~――
うおっとっと! ソ、ソファが、た、倒れ……、ふぅなんとか踏ん張れた。
あまりもの勢いにソファーが後ろに傾いて倒れるかと思ったよ。
椅子に座ったまま急に仰け反ったら危ない……。
ビュンッ! 「え?」
ソファーが倒れない様に何とか踏ん張って堪えた僕が安堵をしていると、次の瞬間目の前ギリギリを掠めながら何かが空を切る音を立て通り過ぎた。
呆気に取られながらその何かを確認すると、どうやら空を切ったのは妹の手の様だ。
しかも僕の頭が有った位置を両手がクロスする様に振り抜いていた。
空振りだった所為か妹はつんのめった感じのまま前屈みになってこちらをジト目で見ている。
「ちっ」
舌打ちしたっ!
僕が避けたのが不満だったのか、妹は舌打ちするとつんのめった腰を元に戻して同じ表情のままこちらに顔を向けた。
その表情は凄く残念そうだ。
一瞬僕への報復の為に両手のビンタで僕の頭をホールドしつつ頭突きでもしようとしたのかと思ったけど、迫りくる妹の顔を思い出すと『そうじゃない』と言う予感がひしひしと湧いて来る。
まだ頭突きの方が良かったかもしれない。
痛いだけだからね。
僕の想定はもっと恐ろしい事で、多分それが正解だろう。
だって迫りくる妹の顔は顎を上げ気味に唇を尖らせていたんだ。
額なんかよりずっと前の位置にね。
そして舌打ちする寸前の唇の位置は先程まで僕の口が有った場所。
…………。
これ以上考えるのは止めよう。
頭突きだったと思っていた方が健全だよ。
「折角キスで手討ちにしてあげようと思っていましたのに、お兄様ったら」
「なに言ってんのお前!?」
さも当然な感じで不満を口にする妹に思いっ切り突っ込んだ。
やっぱり思った通りだった! あれは僕の頭をホールドしてキスしようとしてたんだ!
想定以上に妹の様子がおかし過ぎる! 僕が家を出る前の妹はここまで実力行使はしなかったぞ。
……そりゃベッドに忍び込もうとしてきたりしたけど、一応の言い訳は『久し振りに兄妹水入らずで同じベッドで寝ようと思っただけですわ』とか言っていたし、ワンチャン本当にそうだったかもしれないからね。
あの目は多分違うと思うけど。
「ちょっと母さん! 症状が悪化しちゃってるよ!」
「そーお? 前からこんな感じだったわよ? それにキスぐらい家族でもするわよ」
キスくらいなら家族でもする?
……言われてみると、家族なんだから挨拶代わりのキスはスキンシップの範疇……?
「いや、そうかもしれないけど、でもその場合手討ちとか言う物騒な言葉は出て来ないと思うよ」
「もうお兄様ったらいい加減に諦めたらどうです?」
「何を!?」
「それは決まっていますわ。二人でクロウリー家の支えて行く事です。……ポッ」
兄妹でクロウリー家を支えて行くって事は賛成だけど、なんでそこで頬染めて恥じらう必要が有るの?
理由は想像つくけど直接その口から聞きたくないから聞かないけどさ。
「そして二人で跡取りを作る事ですわ」
やっぱりかっ! ライアの事を二人の娘とかポロっと口走ってたから予想はついてたけども!
「ないないない! ちょっと母さん! さすがに止めないとダメでしょ。ほら何か言ってやって!」
さっきもこんなタイミングで安眠羊の能力で妹を眠らせて止めたんだし、破天荒を絵に書いた様な母さんと言えども兄妹でそんな行為を認めるなんて事はしないだろう。
「う~ん。それはそうなんだけど……正直可愛い子供達に婿も嫁も要らないと思ってるのよねぇ~。それに貴族ならよくある話だし」
「うわぁ~! 最悪だ~! うちは貴族って言っても名誉職みたいなものだから!」
二人共無茶苦茶だ!
やっぱり早くこの家から出て行かなければ!
そして、母さんや妹に匹敵するくらい強いお嫁さんを見付けてやる!
本人の身の安全プラス僕の護衛も兼ねた……ね。
居るかなぁ~? そんな女の子……。
「ん……むにゅ……」
突然阿鼻叫喚なこの部屋の喧騒を鎮めるかのような声が聞こえて来た。
三人がその声の主に注目する。
「あっ……。しぃーーー。ライアちゃんが起きちゃう」
そう言って母さんが人差し指を口の前に立てる。
どうやら母さんの膝の上で寝ていたライアが僕達の声に反応して目が覚めかけているようだ。
「……そう言えばこの子は……私とお兄様の娘……」
「違うよ!」
「……しぃ~。声が大きい。それにしても呆れたわね。メアリまだ気付かないの?」
妹のとんでもない一言に思わず大声を出してしまった僕を母さんがたしなめると共に、妹に対してそう溜息を吐く。
その言葉で我に返った妹はライアを見て「あっ……」と一言呟いた。
「その子は従魔ですのね」
妹はやっと気付いたその事実に口に手を当てて目を見開いている。
遅いよ! 普通テイマーなら目の前の魔物が従魔かどうか魔力の流れですぐ分かるものなのにさ。
それに頭の上にあるまんまるお耳を見れば一目瞭然じゃないか。
特に今は風呂上がりだから偽装のカチューシャをしてないしね。
「そうだよ。僕の従魔でライアって言うんだ」
やっと妹にライアを紹介する事が出来たよ。
さっきはいきなり暴走したからね。
安堵の溜息を吐きながら妹の顔を見るとさっきとは打って変わって真剣な顔でライアを見ていた。
「どうしたの? メアリ?」
「見た事の無い種族ですわね? 獣人? ……にしては人間に近過ぎるし……」
顎に手を当てて何やらブツブツと呟いている。
さすがクロウリー家の跡取り候補。
従魔と意識した途端、どうやらライアの事を真剣に観察しているようだ。
その仕草がなんだか叔母さんが始めてライアを見た時と重なるよ。
妹は研究者に向いてるのかもしれないな。
しかし、カイザーファングって事を言っても良いのだろうか?
そうだけどそうじゃない。
本当のカイザーファングは幼体でも毛むくじゃらコボルトモドキな外見だってのはモコだった時に証明済みだ。
だからこの女の子フォームのライアの正体がカイザーファングだと言っちゃうと、なし崩し的に全部話さなくちゃならなくなる。
その事は今はまだ妹に知られたくないし、どう誤魔化そうか……。
「珍しいでしょ? なんでもティナの話だと、この子はワーベアの変異体らしいわ」
「なるほど、ティナ叔母様が……。それにしても変異体ねぇ」
僕がどう誤魔化そうかと悩んでいると、母さんはサラッと嘘を吐いて妹を納得させた。
なかなか堂に入った演技。
年の甲だろうか……ビクッ!
僕が母さんの今までの人生経験の賜物を感心していたら、急に母さんから殺気が送られて来た。
最近年齢を気にしてるみたいなのは知ってたけど、息子に対して殺気を送る程なの?
って言うか、僕の心を読んでるのっ!?
「さぁおかしな無駄話はここら辺にしておきましょうか。……メアリ? ちょっとこの子を預かって貰えないかしら?」
突然母さんはそう言って妹に顔を向けた。
一体どうしたんだろう? ライアを妹に預けようって言うの?
おかしな無駄話って言うのは、嫁や婿が要らないって事で良いんだよね?
母さんの言葉の意図が分からずに僕と妹は首を傾げる。
「マーシャル、さっきの続きよ。ちょっと地下の実験所に来てもらえないかしら。確かめたい事あるの」
「お母様。私も一緒に行きたいですわ」
「んん? ……むにゃむにゃ……」
「ほら、声が大きいわ。……今は勘弁しなさい。これはマーシャルが貴女に相応しい男になる為に必要な事なの」
やめてよ! 説得させる為だからって、そこでそんな事を言うと親公認のお墨付きみたいじゃないか。
おかしな無駄話を混ぜ返さないで!
「分かりましたわ。お母様。クロウリー家の未来の為ですもの。その子を預かります」
そう言って妹はライアの膝枕権を母さんと交代する形でソファーに座る。
「メアリ、ライアちゃんを可愛がってあげなさい。なんたってマーシャルの事を父親として慕っているのよ? 仲良くしておいて無駄にならないわ」
立ち上がった母さんがそう言って妹にウィンクした。
その言葉に凄く嫌な予感がする。
「まぁ、なるほど。……分かりましたお母様。子はかすがいと言いますもの。この子と仲良くなってママと呼ばせて見せますわ」
やっぱり!
なんて事を言い出すんだ。
「やめてよ! ライアに変な事を吹き込まないで!」
「ううん? ……むにゃ……」
「あっ。むぐぐ」
僕の声でライアが起きそうになったんで慌てて両手で口を塞ぐ。
なんとかライアは目を覚ます事は無くそのまま気持ち良さそうに寝返りを打った。
ホッとするのも束の間、妹のライアを見る顔がまるで自分の子供を愛おしく思っているような物に変っている。
このままじゃマズい何とかしなければ。
母さんの話ってのが何か分からないけど、早く済ませてライアが洗脳されてる前に戻らないと!
「ほら、マーシャル。遊んでないで行くわよ」
そう言って母さんは扉に向かって歩き出した。
遊んでないよ! と声を大にして言いたかったけど、ライアを起こしちゃまずいし何よりこれ以上時間を取られたくないしね。
けれど、少し安心してる事が有るんだ。
なんたってライアと妹の出会いは最悪と言っても過言じゃないからね。
ライアは妹の迫力に完全に怖がってたし、起きた時に目の前に妹が居たら逃げ出しちゃうんじゃないかな?
そう易々と妹の計画が成功するとは思えないよ。
「分かったよ、母さん」
だから僕も素直に母さんの後を付いていく事にした。
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