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第二章 幼女モンスターな娘達
第31話 口喧嘩
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「ちっ! こんな時に弱虫野郎に会うなんて……ついてねぇ。なんでお前がここに居るんだ」
扉を開けた僕にいきなり罵倒の言葉が飛んで来た。
どうやら向こうもギルドの扉を開けようと開けようとしていたみたい。
僕が先に扉を引いた所為で、開けようとした手が空を掴んじゃっている。
それを見られたのが恥ずかしかったのか、その人物は顔を真っ赤にして僕を睨んでいた。
いや、なんでここに居るんだと言われても困るんだけど……。
これから実家に戻るとは言え、ここのギルド所属には変わりないから居てもおかしくないじゃないか。
「や、やぁグロウ。久し振り……」
扉の外に居たのは先程ギルド内で話題に上がっていたグロウ……と、その後ろにはルクスとジャッジとギルティの姿も見えた。
どうやらタイミング悪くクエスト帰りの彼らと鉢合わせしちゃったみたい。
これだけは避けたかったんだけどな……。
こっちこそグロウ達と会うなんてついてないや。
なにより情けない事に突然現れた元パーティーメンバー達に思わず挨拶をしてしまったのが少しショック。
次に会ったら堂々とライバル宣言をしてやろうっと思っていたのに、目の前に現れた途端、愛想笑いしちゃうんなんて……。
う~そんな弱虫根性な自分に腹が立つ~!
「おい! いつまでも入り口にボーっと立ってんな。邪魔だから退けよ」
グロウはそう言って、空を掴んでいた手で犬を追い払うようにサッサッとギルドの外に向けて振る。
僕は言われる通り扉を出てグロウ達に道を譲った。
グロウはまた舌打ちをしてギルドの扉に手を掛け開けようとしている。
どうしたって言うんだろう? クエスト帰りだと言うのにとても機嫌が悪い。
いつもなら鼻歌交じりで上機嫌に笑っている筈なのに。
グロウの酷い扱いに対して本来腹を立てないといけないんだろうけど、それ以上に違和感の方が先に立ってしまって不思議と怒りも湧いて来なかった。
グロウだけじゃなく他の三人の顔も不機嫌……と言うか顔色が悪い?
まさかそんなに僕と顔を合わせるのが嫌だったって事?
出発前はあれ程僕の事を笑いものにしていたのに……。
ルクスは僕と目が合った途端バツが悪そうに露骨に顔を背けるし、ギルティなんて最初から僕と目を合わせようとしない。
ジャッジは……あれ?
ギルティの陰に隠れる様に立っていた彼の右目の位置に、見慣れない物が着けられているのがチラッと見えた。
「ジャッジ! その右目どうかしたの!?」
「うっ……。な、なんでもない。こっちを見るな」
僕は思わずジャッジに向かってその見慣れない物の存在について尋ねると、彼は慌てて自分の右手で顔を隠して後ろを向いてしまった。
僕の位置からじゃ背の高いギルティと重なっててよく見えなかったんだけど、右目に着けていたアレって『眼帯』だよね?
元から彼はそんな物を着けちゃいないし、馬車ですれ違った時も眼帯なんてしていなかった。
すぐに隠したって事はおしゃれとか魔道具なんかじゃないんだろう。
と言う事は、右目を怪我したんだろうか?
素早い彼がそんなヘマをするなんて信じられ……ない……いや、あれ?
「え? ……み、皆……?」
僕は自分の目を疑った。
少し離れたから気付いたんだけど、よく見るとジャッジだけじゃなく他の皆もあちこちボロボロになって薄汚れている。
服は所々破れて血糊が付いていたし、グロウの鎧にも大きく凹んでいる箇所があった。
既に傷は塞がってるみたいだけど、なんだか満身創痍って言葉がぴったりだ。
四日前に会った時はこんなんじゃなかったのに。
「だ、大丈夫? 皆何が有ったの?」
パーティーに居た時の癖がまだ抜けていないようで、グロウ達のその余りにも酷い有様に僕は思わず心配して駆け寄ってしまった。
その瞬間だけはグロウ達への怒りや憎しみが消えていたと思う。
そしてそのままグロウの肩に左手を当てた。
「え……? な、なに……なんだ?」
突然の僕の行動に驚いたのか、肩に当てた僕の左手を見てグロウは目を見開いて戸惑いの声を漏らす。
「グロウ? どうしたの?」
驚いているグロウを見て僕はグロウに訳を聞いた所で気が付いた。
いや、自分で言っておいて『どうしたの?』じゃないよね。
なんで僕は普通に心配してるんだ?
ほら、我に返ったグロウがまた顔を真っ赤にした。
「さ、触るな! お前には関係無いだろっ! どけよ!」
ドンッ!
「痛っ!」
追い出した雑魚に心配されたのが彼のプライドを傷付けた様で、僕の左手を力一杯払い除けたかと思うと、その手で僕を突き飛ばす様に押して来た。
さすがのグロウも元パーティーメンバーに殴る蹴るなんて言う暴力を振るう気は無いらしく、彼本来の力に比べたら弱い、軽くよろける程度の力だ。
とは言え痛いものは痛い。
突き飛ばすなんて酷いよ!
純粋に心配したのに!
「な、何するんだよ! 痛いじゃないか」
「うるせぇ! お前なんかに心配されたくねぇんだ! とっととどっかに行っちまえ!」
あまりなグロウの態度に少しカッと来た僕はグロウに文句を言うと、グロウはそれ以上に声を荒げて言い返して来た。
その迫力にビビりそうになったけど、今度こそは負けない様にキュッと口を結んで睨んでるグロウの顔を見据える。
ここで引いたら僕はずっと負け犬になってしまう。
一触即発な雰囲気の中、異変に気付いた通行人は遠巻きに僕達の様子を窺っていた。
それに気付いたルクス達がグロウに対して「こんな奴放っておいて早く行こう」と声を掛けているけど、グロウは動かずに僕を睨んだまま。
いくら僕の事が嫌いだからって、グロウのこの態度は少しばかり異常に感じた。
ムキになってると言うか、焦っていると言うか……、なんかいつものグロウじゃない。
本当にどうしちゃったんだよ?
ガチャ! バンッ!
「ゴラァッ! お前らなにギルドの前で騒いでんだっ!」
突然ギルドの扉が勢いよく開いたかと思うと、まるでカミナリの様な大きい怒鳴り声が辺りに響き渡った。
僕達は驚いて睨み合いを止めて一斉にその声の主に目を向けた。
「マ、マスター! いや、こ、これはその……」
「マスター……」
扉から飛び出て来たのはギルドマスターだった。
通りで通行人が喧嘩していると思った様で凄い形相だ。
その睨みでだけで弱い魔物なら逃げ出しちゃうんじゃないだろうか?
ライアなら多分越し抜かして泣いちゃうと思う。
ギルドマスターを見たグロウは先程までの気勢は何処に行ったのかと言うくらい意気消沈して俯いてしまった。
「……お? なんだなんだ。マーシャルにグロウ達じゃねぇか。はぁ……お前ら鉢合わせちまったのか……って、おい……それは」
騒ぎの主が僕達と気付いたギルドマスターは顔を少し困った顔をして溜息を吐いたんだけど、すぐにグロウ達の姿がボロボロな事に気付いたみたい。
驚きで目を剥きながらグロウ達をマジマジと見る。
「……グロウ。一体何が有った?」
「うっ……、そ、それは……その……」
ギルドマスターに訳を聞かれたグロウは、一瞬悲痛な顔をしたかと思うと僕の方をチラチラと見ながら言い淀んでいる。
それでギルドマスターは何となく事情を察したんだと思う。
僕もそこでやっとグロウ達の事情を察した。
恐らく彼らはクエストに失敗したんだと思う。
いや、目的は達成したかもしれないけどモンスターに襲われてボロボロになっちゃったんだろう。
気付くのが遅れたのは仕方無いよ。
だって、まさかあのグロウ達がこんな姿になるなんて思わないもの。
チラッチラッ。
ん? なんだろう? ギルドマスターが僕に目配せしてる。
……あっ、そうか。
「じゃ、じゃあ、僕はこれで……」
グロウがギルドマスターの質問に答えないのは僕が側に居るからだ。
弱くて追放した相手の前でクエスト失敗の報告なんて恥ずかしくて出来る訳ない。
特にグロウはプライドが高いからね。
「あぁ、マーシャル。あとの事は任せておけ。達者でな」
「はい。今までありがとうございました。けど必ずまた戻って来ます。それじゃ、さようなら」
そうギルドマスターに挨拶した僕は、敢えてグロウ達には声を掛けず家に向かって歩き出した。
僕が旅立つって言う事情を知らないグロウ達はキョトンとした顔で僕を見送っているようだ。
少し離れた頃にギルドマスターがグロウ達にギルドに入るように促す声が聞こえて来る。
やがてギルドの扉の閉まる音が聞こえて来た。
僕の事を散々馬鹿にして旅立って行ったグロウ達がボロボロの姿になっている姿を見て正直言うと少しスカッとしたのは本当の気持ちだ。
けれど、それ以上にどうして彼らがあれ程の怪我を負ったのか不思議でならない。
彼らがあんなボロボロな姿になった事への失望や、痛めつけた相手への怒り、それに心配する想いが入り混じってぐちゃぐちゃになっている。
折角の新たな旅立ちの日だって言うのに、家へと向かう僕の心の中はどうしようもないモヤモヤとした感情が渦巻いていた。
扉を開けた僕にいきなり罵倒の言葉が飛んで来た。
どうやら向こうもギルドの扉を開けようと開けようとしていたみたい。
僕が先に扉を引いた所為で、開けようとした手が空を掴んじゃっている。
それを見られたのが恥ずかしかったのか、その人物は顔を真っ赤にして僕を睨んでいた。
いや、なんでここに居るんだと言われても困るんだけど……。
これから実家に戻るとは言え、ここのギルド所属には変わりないから居てもおかしくないじゃないか。
「や、やぁグロウ。久し振り……」
扉の外に居たのは先程ギルド内で話題に上がっていたグロウ……と、その後ろにはルクスとジャッジとギルティの姿も見えた。
どうやらタイミング悪くクエスト帰りの彼らと鉢合わせしちゃったみたい。
これだけは避けたかったんだけどな……。
こっちこそグロウ達と会うなんてついてないや。
なにより情けない事に突然現れた元パーティーメンバー達に思わず挨拶をしてしまったのが少しショック。
次に会ったら堂々とライバル宣言をしてやろうっと思っていたのに、目の前に現れた途端、愛想笑いしちゃうんなんて……。
う~そんな弱虫根性な自分に腹が立つ~!
「おい! いつまでも入り口にボーっと立ってんな。邪魔だから退けよ」
グロウはそう言って、空を掴んでいた手で犬を追い払うようにサッサッとギルドの外に向けて振る。
僕は言われる通り扉を出てグロウ達に道を譲った。
グロウはまた舌打ちをしてギルドの扉に手を掛け開けようとしている。
どうしたって言うんだろう? クエスト帰りだと言うのにとても機嫌が悪い。
いつもなら鼻歌交じりで上機嫌に笑っている筈なのに。
グロウの酷い扱いに対して本来腹を立てないといけないんだろうけど、それ以上に違和感の方が先に立ってしまって不思議と怒りも湧いて来なかった。
グロウだけじゃなく他の三人の顔も不機嫌……と言うか顔色が悪い?
まさかそんなに僕と顔を合わせるのが嫌だったって事?
出発前はあれ程僕の事を笑いものにしていたのに……。
ルクスは僕と目が合った途端バツが悪そうに露骨に顔を背けるし、ギルティなんて最初から僕と目を合わせようとしない。
ジャッジは……あれ?
ギルティの陰に隠れる様に立っていた彼の右目の位置に、見慣れない物が着けられているのがチラッと見えた。
「ジャッジ! その右目どうかしたの!?」
「うっ……。な、なんでもない。こっちを見るな」
僕は思わずジャッジに向かってその見慣れない物の存在について尋ねると、彼は慌てて自分の右手で顔を隠して後ろを向いてしまった。
僕の位置からじゃ背の高いギルティと重なっててよく見えなかったんだけど、右目に着けていたアレって『眼帯』だよね?
元から彼はそんな物を着けちゃいないし、馬車ですれ違った時も眼帯なんてしていなかった。
すぐに隠したって事はおしゃれとか魔道具なんかじゃないんだろう。
と言う事は、右目を怪我したんだろうか?
素早い彼がそんなヘマをするなんて信じられ……ない……いや、あれ?
「え? ……み、皆……?」
僕は自分の目を疑った。
少し離れたから気付いたんだけど、よく見るとジャッジだけじゃなく他の皆もあちこちボロボロになって薄汚れている。
服は所々破れて血糊が付いていたし、グロウの鎧にも大きく凹んでいる箇所があった。
既に傷は塞がってるみたいだけど、なんだか満身創痍って言葉がぴったりだ。
四日前に会った時はこんなんじゃなかったのに。
「だ、大丈夫? 皆何が有ったの?」
パーティーに居た時の癖がまだ抜けていないようで、グロウ達のその余りにも酷い有様に僕は思わず心配して駆け寄ってしまった。
その瞬間だけはグロウ達への怒りや憎しみが消えていたと思う。
そしてそのままグロウの肩に左手を当てた。
「え……? な、なに……なんだ?」
突然の僕の行動に驚いたのか、肩に当てた僕の左手を見てグロウは目を見開いて戸惑いの声を漏らす。
「グロウ? どうしたの?」
驚いているグロウを見て僕はグロウに訳を聞いた所で気が付いた。
いや、自分で言っておいて『どうしたの?』じゃないよね。
なんで僕は普通に心配してるんだ?
ほら、我に返ったグロウがまた顔を真っ赤にした。
「さ、触るな! お前には関係無いだろっ! どけよ!」
ドンッ!
「痛っ!」
追い出した雑魚に心配されたのが彼のプライドを傷付けた様で、僕の左手を力一杯払い除けたかと思うと、その手で僕を突き飛ばす様に押して来た。
さすがのグロウも元パーティーメンバーに殴る蹴るなんて言う暴力を振るう気は無いらしく、彼本来の力に比べたら弱い、軽くよろける程度の力だ。
とは言え痛いものは痛い。
突き飛ばすなんて酷いよ!
純粋に心配したのに!
「な、何するんだよ! 痛いじゃないか」
「うるせぇ! お前なんかに心配されたくねぇんだ! とっととどっかに行っちまえ!」
あまりなグロウの態度に少しカッと来た僕はグロウに文句を言うと、グロウはそれ以上に声を荒げて言い返して来た。
その迫力にビビりそうになったけど、今度こそは負けない様にキュッと口を結んで睨んでるグロウの顔を見据える。
ここで引いたら僕はずっと負け犬になってしまう。
一触即発な雰囲気の中、異変に気付いた通行人は遠巻きに僕達の様子を窺っていた。
それに気付いたルクス達がグロウに対して「こんな奴放っておいて早く行こう」と声を掛けているけど、グロウは動かずに僕を睨んだまま。
いくら僕の事が嫌いだからって、グロウのこの態度は少しばかり異常に感じた。
ムキになってると言うか、焦っていると言うか……、なんかいつものグロウじゃない。
本当にどうしちゃったんだよ?
ガチャ! バンッ!
「ゴラァッ! お前らなにギルドの前で騒いでんだっ!」
突然ギルドの扉が勢いよく開いたかと思うと、まるでカミナリの様な大きい怒鳴り声が辺りに響き渡った。
僕達は驚いて睨み合いを止めて一斉にその声の主に目を向けた。
「マ、マスター! いや、こ、これはその……」
「マスター……」
扉から飛び出て来たのはギルドマスターだった。
通りで通行人が喧嘩していると思った様で凄い形相だ。
その睨みでだけで弱い魔物なら逃げ出しちゃうんじゃないだろうか?
ライアなら多分越し抜かして泣いちゃうと思う。
ギルドマスターを見たグロウは先程までの気勢は何処に行ったのかと言うくらい意気消沈して俯いてしまった。
「……お? なんだなんだ。マーシャルにグロウ達じゃねぇか。はぁ……お前ら鉢合わせちまったのか……って、おい……それは」
騒ぎの主が僕達と気付いたギルドマスターは顔を少し困った顔をして溜息を吐いたんだけど、すぐにグロウ達の姿がボロボロな事に気付いたみたい。
驚きで目を剥きながらグロウ達をマジマジと見る。
「……グロウ。一体何が有った?」
「うっ……、そ、それは……その……」
ギルドマスターに訳を聞かれたグロウは、一瞬悲痛な顔をしたかと思うと僕の方をチラチラと見ながら言い淀んでいる。
それでギルドマスターは何となく事情を察したんだと思う。
僕もそこでやっとグロウ達の事情を察した。
恐らく彼らはクエストに失敗したんだと思う。
いや、目的は達成したかもしれないけどモンスターに襲われてボロボロになっちゃったんだろう。
気付くのが遅れたのは仕方無いよ。
だって、まさかあのグロウ達がこんな姿になるなんて思わないもの。
チラッチラッ。
ん? なんだろう? ギルドマスターが僕に目配せしてる。
……あっ、そうか。
「じゃ、じゃあ、僕はこれで……」
グロウがギルドマスターの質問に答えないのは僕が側に居るからだ。
弱くて追放した相手の前でクエスト失敗の報告なんて恥ずかしくて出来る訳ない。
特にグロウはプライドが高いからね。
「あぁ、マーシャル。あとの事は任せておけ。達者でな」
「はい。今までありがとうございました。けど必ずまた戻って来ます。それじゃ、さようなら」
そうギルドマスターに挨拶した僕は、敢えてグロウ達には声を掛けず家に向かって歩き出した。
僕が旅立つって言う事情を知らないグロウ達はキョトンとした顔で僕を見送っているようだ。
少し離れた頃にギルドマスターがグロウ達にギルドに入るように促す声が聞こえて来る。
やがてギルドの扉の閉まる音が聞こえて来た。
僕の事を散々馬鹿にして旅立って行ったグロウ達がボロボロの姿になっている姿を見て正直言うと少しスカッとしたのは本当の気持ちだ。
けれど、それ以上にどうして彼らがあれ程の怪我を負ったのか不思議でならない。
彼らがあんなボロボロな姿になった事への失望や、痛めつけた相手への怒り、それに心配する想いが入り混じってぐちゃぐちゃになっている。
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