雑魚テイマーな僕には美幼女モンスターしか仲間になってくれない件

やすぴこ

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第一章 雑魚テイマーの嘆き

第20話 ごめんなさい

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「……なるほど。その赤い契約紋は大いなる力の封印を解いた所為でそうなった……と言うのね」

「……はい」

 僕は現在絶賛正座中だ。
 そして僕の前には叔母さんとサンドさんが難しい顔をして腕を組みながら立っている。
 自白を強要された僕は、仕方が無くこの森にやって来たところから話す事にした。
 そして丁度封印を解いた時の事を話し終えたところ。
 ちなみにライアは鞍の上に乗ったまま。

 話した事は勿論全てじゃなく、僕の心の弱い部分……。
 解いた本当の理由が皆への復讐心だったなんて事は話す事が出来なかった。
 あくまで頭に響いた声に従ったまで。
 それが封印だとは思わなかった……そう言う筋書きだ。

 あぁあと、『カイザーなんちゃら』ってのは意味不明だから伝えていない。
 モコはコボルトだからね。
 多分封印が間違っちゃったんだろう。

 と、ここまで話を黙って聞いていた叔母さんは、復唱するように少し呆れた声で僕の説明を纏めた冒頭陳述の正否確認をしてきたんだ。
 僕はそれに素直に同意する。

「で、その力を使ってモコちゃんを今の姿に変えたって事?」

「うん。だけど無意識だったんでどうやったのかは覚えていないんだ」

「覚えてないって……」

 これは嘘じゃない。
 夢から覚めて意識が戻った後、僕の胸に顔を埋めて泣くモコを、何とか動いた左手で頭を撫でてやったその瞬間。
 突然頭の中に魔法陣と呪文が浮かんできた。
 僕はそれを意識でなぞっただけ。
 そして、なぞった端から浮かんだ魔法陣も呪文も消えていったんだ。

「信じて貰えないかもしれないけど、封印を解いた後、僕は意識を失っちゃったんだ。そして気付いたらそこで倒れていた。だからこの二日間の記憶も無い。モコ……いやライアが僕を呼ぶ声で目が覚めて、安心させようと頭を撫でてたら、突然頭の中に知らない魔法陣と呪文が浮かんで来てそれを唱えたら……」

「人の姿になっちゃってた……と。それで覚えてないって言うのはどう言う意味? 封印を解いて意識を失ってから今日までの事? それともその呪文がって事?」

「その両方だよ。出口の無い部屋で光に包まれた後、なんで森の中で寝ていたのかって言う事も分からないけど、呪文も唱えた途端頭から消えちゃった」

 僕の説明に「う~ん?」と難しい声をして考えている叔母さんとサンドさん。
 やっぱりこんな突拍子もない話なんて素直には信じられないよね。
 僕だってまだ夢を見てるんじゃないかって思ってるくらいだもん。
 けど、長時間正座してる所為で痺れ出したこの足の感覚が現実だって物語ってる。

「もしかしてだけど、封印されていた力って使い捨てじゃないのかなって思うんだ」

「使い捨て? どうしてそう思うの?」

 僕の言葉に叔母さんが理由を聞いてくる。
 これは僕の仮説だ。
 忘れちゃったと言う事も理由の一つだけど、もう一つ気付いた事が有る。

「うん、それなんだけど、コボルトを人の姿に変える魔法なんて一体どれだけの魔力を使うと思う?」

「そ、それは……私は魔法を使えないから想像もつかないわね。う~ん」

「そうだな。一応俺はティナと違って初歩魔法なら使えるが、それにしても火矢を撃つだけで精一杯さ。少なくともそんな本業の魔術師に及ばない俺なんかじゃ十人居てもその魔力には足りねぇだろうな」

 サンドさんって魔法を使えたんだ。
 戦士だったって聞いてたけど、それなら魔法剣士に近いのかも。
 魔法は使えないけどテイマーの英才教育を受けて来た叔母さんに一応魔法が使えるサンドさん、そんな二人は魔物を人間の姿に造り替える程の魔力を想像して頭を抱えている
 けど、これで変化の魔法の凄さは分かってくれたと思う。

「常識的に考えてみても、僕なんかがそんな大それた呪文を唱えようとしても魔力不足で発動すらしないよ。それにもし万が一発動なんかしちゃってたらすぐに魔力が枯渇して、急性魔力欠乏でショック死しちゃうかもしれない。それなのに変化の魔法が発動しても、僕の魔力は減ってなかったんだ」

 そう、岩石ウサギと対峙した時、僕の魔力は全快だった。
 仮に変化の魔法が異常に魔法効率の良い代物だったとしても、全快って事はないだろう。

「変化の魔法で僕の魔力は減らなかった。と言う事は、封印された力自体が変化の魔法と言う魔力の塊だったんだと思う。多分そんな魔力を取り込んじゃったから、僕の体は魔力過多で気絶しちゃったんじゃないかな」
 
「なるほどねぇ~。けど、ならなんでその手はまだ赤く光ってるの?」

「うっ、そ、それは……」

 叔母さんの言葉に僕は思わず左手の甲を見る。
 そこには相変わらず赤く光る契約紋。
 確かに……。
 使い終わったんだから早く消えてくれると助かるな~。
 これじゃ目立って仕方ないよ。

「痛みとかは無いのか? それか熱いとか、魔力が減っていってるとか」

 サンドさんも心配そうに聞いてくる。
 魔法を使えるから常時発光させる魔力の消費量って言うのがどんなものかも想像がつくみたい。
 特にサンドさんは魔力が魔法使い程は無いようだし特にね。

「ううん、封印を解いた直後はとても熱かったんだけど、今じゃ光るだけで何も感じないんだ。魔力も減ってないみたい。と言うか寧ろ体の調子が良いくらいだよ」

 意識が戻った後、暫く体が動かなかったけど今じゃそんな怠さも嘘みたいに調子が良い。
 魔力も満ちてる気がする。
 さっき使ったキャッチ一発分の魔力もいつの間にか回復しているみたいだ。

「ふぅ~。分からない事だらけね~。あぁ、そうだ。モコちゃん。モコちゃんがマー坊を起こしたのよね? いつから気が付いていたの?」

 叔母さんが馬の鞍の上に乗ったきりだったライアに声を掛けた。
 しかし、その声にライアは反応しなかった。
 それどころか、なぜかじっとしたまま動かない。
 僕は不思議に思い、ライアの感情を読んでみた。
 ……なるほど。

「お姉さん、ライアは馬の上が高くて怖いみたい。すぐに降ろしてあげて」

 僕の言葉に叔母さんとサンドさんが慌ててライアを馬から降ろす。
 そのまま地面に下ろそうとしたらまだ怖いのか叔母さんに抱き着いて離れなかった。
 そんなライアの仕草に地面へ下ろすのを諦めた叔母さんはそのまま抱っこする事にしたようだ。
 赤ちゃんをあやすようにポンポンと優しく背中を叩いてあげている。
 う~ん可哀そうな事をしたよ。
 馬に乗るなんて初めてなのに、そんなライアを置いて僕だけ降りたもんだから、怖くて固まってたんだね。
 多分動くと落ちちゃいそうで動けなかったんだろう。

「で、モコちゃん。いつから目が覚めてたの?」

「あたちライアだお」

「あぁごめんごめん。じゃあライアちゃん。二日間ずっと起きてたって事無いわよね? お腹もすくだろうし、それこそ岩石ウサギの餌食になっててもおかしくないわ」

 そうか、叔母さんの言葉で気付いたよ。
 言われるとおかしい。
 封印の間からなんでここに居たんだって事に気が向いていたけど、言われると二日経ってるのにお腹が全然減っていない。
 寝ていたとは言え、生きてるんだから勝手に減るはずだ。
 岩石ウサギにしてもそうだ。
 いくら僕を襲ったのが叔母さん達が打ち漏らした一匹だったと言っても、なにも人を襲うのが岩石ウサギだけとは限らない。
 幾ら街道に近くて比較的安全な森なんだとしても、人を襲う魔物や獣は存在している。
 それ以上に今日まで雨が降っていたって言ってたけど、服は泥濘の中で寝ていた側しか濡れてないんだもん。
 服が泥水を吸ってべしゃべしゃになっていても良い筈なのに反対側は乾いているなんて有り得ないよ。
 
「えぇと、パパがぴかーってなって、めをぎゅっしてぱちってあけたや、そこにパパがねてたの」

 う~ん、説明になってるんだかなってないんだか。
 ただ、これで分かるのはモコもあの封印の間からここに来た間の事は分かってないって事だ。

「う~ん、ライアちゃんも分からないみたいね。二人ともその封印の間ってところで光に包まれた後、気が付いたらこの場所に居た……と。と言う事は、テレポーターみたいなものかしら?」

「おそらくな。俺達もダンジョンに潜った時に何度か経験があるだろ? まぁ、時間を超えてってのは聞いた事もないが……。しかし、こんな近場の森でそんな代物が眠ってたとは知らなかったぜ」

 叔母さんとサンドさんがライアの情報について話し合っている。
 凄いな、叔母さん達はテレポーターが有るダンジョンに行った事が有るんだ。
 確か危険な古代迷宮や魔族の住処に設置されているって話だけど、叔母さん達って本当に凄い冒険者だったんだね。
 けど、言われてみるとサンドさんの言う通り。
 なんでそんな物がこんな何の変哲もない森に有ったんだ?

「この森になんか伝承とかないの?」

「いやそんな伝承なんて聞いた事もねぇな。俺は元々この地方の出身だが、酔っぱらい爺のホラ話ですら聞いた事がねぇよ。ティナはどうだ?」

「う~ん、あたしも無いわね。従魔術の奥義の封印については以前調べた事が有るけど、その詳細は不明ね。場所については手掛かりすら掴めなかったわ。いまでは封印なんて御伽噺と言う人も居るくらいよ。それがこの森に封印されていたなんて……」

「だよな~。そんな大それた物が馴染みの森に有ったなんてよ……。ここには小さい頃からよく修行がてら遊びに来てたんだがなぁ……。あっ! そうだ。マーシャル。その洞窟に連れてってくれねぇか? もしかしたらまたそこに行けるかもしれねぇしよ」

 サンドさんは、自分が育ったこの森で従魔術の奥義なんて物が封印されていた事に興奮しているみたいで、僕に道案内を頼んできた。

「いいけど、封印解いた事は怒らないの?」

 嘘をついた事で怒られて正座までさせられたけど、事情を話した途端その顔から怒りが消えたみたい。
 てっきり封印を解いた事で怒られるのかと思っていた僕は、その事を不思議に思い二人に尋ねた。

「ん? そんなの怒る訳ねぇだろ? なぁティナ」

「えぇ、嘘ついた事には怒ったけど、その理由を聞かされて怒る訳ないじゃない」

 僕の問い掛けに二人が顔を見合わせて笑い出した。

「え? なんで? だって権力者の命令で封印された力だよ? そんな物を解いたなんて事知られたら……」

「ははははっ。そんな昔の奴の命令なんて冒険者に取っては脅しにもならないわ」

「そうそう、迷宮や遺跡の探索と言や聞こえは良いが、所詮昔住んでいた余所様の住居に押し入って宝を漁るのが冒険者ってもんだ。もし俺がマーシャルだったとしても同じ事をしていたと思うぜ」

 二人はさも当たり前と言う風にあっけらかんとそう言った。
 そんな軽いノリで良いの?
 魔王を倒し得る力だよ?

「け、けど、封印を解いたのが他の人にバレちゃうと皆に迷惑が……」

「あぁ、なるほど。嘘ついたのは私達に迷惑が掛かるからって思ったからなのね。本当にもう、そんな事マー坊が気にする事ないの。お姉さんが守ってあげるわ。もっとあたしを信頼しなさい」

「う……うん。ごめん」

 僕の言葉から嘘をついた事を察した叔母さんが、僕の頭を優しく撫でながらそう言ってくれた。
 その言葉に僕は思わず謝る。
 だって、迷惑が掛かる事もそうだけど、少しだけ封印解いた事を通報されたらどうしようなんて思っちゃってたんだもん。
 叔母さん、本当にごめんなさい。

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