雑魚テイマーな僕には美幼女モンスターしか仲間になってくれない件

やすぴこ

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第一章 雑魚テイマーの嘆き

第8話 謎の声

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「だ、誰か居るの?」

 僕はぽっかり空いた暗闇に呼び掛けた。
 しかし耳を澄ませるが一向に反応は無い。
 もう一度呼び掛けようと思ったその時……。

『……カク……ニン』

「やっぱり、何か聞こえる! モコも今の聞いただろ?」

 先程の声は聞き違いではなく、相変わらず何を言っているのかまでは分からないけど確かにモコが寝ていた隠し穴の向こうから聞こえてきた。
 今のはさすがにモコにも聞こえたはずなので、モコの顔を見ながら確認した。

「コボ~?」

 しかし、モコは相変わらず不思議そうな顔で首を捻りながら僕を見ていた。
 もしかして、僕にだけ聞こえてるの? そんな……まさかお化け?
 そんな想像が背筋に冷たい何かを走らせる。
 慌ててこの洞窟から飛び出て行こうかとも思ったが、振り返った先に見える入り口の先にはザァザァといつしか横殴りになっている嵐の情景が広がっていた。

「う……。これじゃ外に行くのは無理か……。ど、どうしよう?」

 もう一度モコに目を向ける。
 すると僕が謎の声で狼狽している事に怯えているようで涙目でぷるぷると震えていた。

 いけない! 僕がしっかりしないとモコを不安にさせてしまう!
 
 そう思いたった僕は見えない恐怖を無理矢理押し込めて、笑顔でモコの頭を撫でた。
 何が有ってもモコは守ってやる。

「モコ、大丈夫だよ。ちょっと確かめて来るから焚き火の向こう側に行って待ってて」

 僕はモコに優しく話し掛けた。
 もし、隠し穴の奥に例え魔物が潜んでいたとしても、焚き火の反対側に居たらまだ安全だと思う。
 焚き火の上を走ってくる奴なんていないはずだ。
 まぁ本当にお化けの類なら関係無いかもしれないけど……。

「コボコボ!」

 何故かモコは首を振り出した。
 そして顔を上げてキッとした表情で僕を見詰めて来る。

「モコどうしたの?」

 僕が尋ねるとモコはずんずんと歩き僕の横に立って隠し穴の奥の方を見た。
 身体は相変わらずぷるぷると震えている。

「もしかして、一緒に確かめるって言うの?」

 僕の言葉にコクリと頷いた。
 どうやら正解らしい。
 ついこの前まで僕の後ろで震えていたモコが、怖い気持ちを押し込めて僕と並んで立っている。
 その成長がとても嬉しく思った。

「モ、モコ……。よし! 一緒に確かめよう」

 僕は焚き火から火の点いた薪を松明代わりに一本拾い上げて崩れた穴を照らすべく手を伸ばす。
 崩れた土壁の向こう、うっすらと明りに照らされて、少しばかり隠し穴の中が窺う事が出来た。

「あ……れ? やっぱり何もない?」

 モコが寝ていた隠し穴はそんなに広くない。
 人が一人二人入る事が出来る程度で隠れる所など無かった。
 しかし、照らされた範囲には何も無く、ただ地面が見えるだけ。

「も、もしかして、本当にお化けなんじゃ……?」

 お化け……、一応魔物の類らしい。
 ゴーストやらファントムやら呼ばれている存在だけど、正体はよく分かっていないんだ。
 現れる際に魔力を発している事から魔物だと言われている。
 それに人間を襲うしね。
 魔力を放つ事から死んだ魔法使いの魂だとか、負の魔力の塊に自我が目覚めたとか色々な説が有るって叔母さんが言っていたっけ。
 そして退治するにはクレリックが使う神聖魔法が有効なんだけど、僕には使えないや。

 こんな時にルクスが居てくれたら……いや何考えてるんだよ!
 朝の事を忘れたのか! 僕の事を笑って……陰ではモコの悪口を言っていたんだ。
 あんなに可愛い可愛いって撫でてくれていたのに……。

「くそ! あんな奴の事なんて知らないぞ! 僕一人で何とかしてやる!!」

「コボッ!」

 僕が『一人で何とかする』と言った事に反応してモコが僕の事をポンポンと叩いて来た。
 そうだった、『二人一緒に』だね。

「ごめんよモコ。僕達で何とかしよう!」

 一応だけど神聖魔法が無くても、エンチャントの魔法で武器に魔力を覆わせたら一時的にだけど追い払う事は出来る。
 僕はエンチャント魔法は専門外だけど、ただ単に魔力を武器に覆わせるだけなら初歩魔術の範疇だ。
 短時間なら僕でも使えるさ。

「武器は無いから松明に掛けるか……。エンチャンテッドウエッポン」

 僕が魔法を唱えると松明の柄の部分が青白く光る。
 効果は数分しか持たないけど、これでお化けが出ても怖くない。
 勿論相手が僕よりも弱い事が前提だけどね。
 そして大抵のお化けは僕より強かったりする……。

「って、すぐに切れちゃうから急がないと!」

 僕は松明を前に突き出して進む。
 隠し穴の前まで来たけど松明の明りは何も照らさなかった。
 奥にはモコが寝ていた藁の寝床跡が見える。

「念の為、松明だけを差し入れて……。あれ? 天井にも何もないや」

 洞窟やダンジョンには、スライムとか蝙蝠などが天井に張り付いている場合が良くある。
 床ばかり見ていると上から襲って来るんだよね。
 一度スライムの粘液まみれになった事が有ったっけ。
 そんな体験が有ったので、確認したんだけど何もない。

「う~ん、残留魔力も感じないな。お化けじゃないのかも」

 ゴーストやファントムが居るのなら何らかの魔力が残っているはずなんだけど、何も感じなかった。
 じゃあ、さっき聞こえて来た声は?

「気の所為だったのかな~?」

「コボッコボッ」

 僕の言葉にモコも『そうだそうだ』と言っているようだった。
 それにこんなに近づいてももう声も聞こえない。
 もしかしたら吹き込んで来た風の音が反響して言葉に聞こえただけなのかも。
 そう思ったらビビってた自分が恥ずかしくなって来た。

「ははは、そっか気の所為か。モコごめんねびっくりさせちゃって」

「コボコボーー!」

 コボも先程までの不安を吹き飛ばすように笑って飛び跳ねている。
 そして僕は懐かしい気持ちが強くなり二人が出会った運命の隠し穴に足を踏み入れた。
 モコもその後に続く。
 狭いと言っても僕とモコなら十分入る事が出来るスペースは有る。

「ほら、ここにモコが寝ていたんだよ」

「コボッコボッ」

 僕は隠し穴の奥に残っていたモコの寝床を指さした。
 まぁ何回か来てるんで初めてじゃないから感動は薄いんだけどね。
 それでもモコは興味津々と言った感じで寝床を眺めていた。

 モコに両親の記憶は有るのだろうか?
 言葉が通じないから詳しい事は分からない。
 尋ねた時の反応では知らないようなのだけど……。
 少なくとも僕達が初めて来た時には既にコボルトの姿は無かった。
 死体も争った跡も見当たらない。
 いや、ここに魔物が生活したと言う痕跡さえ残っていなかったんだ。
 焚き火の跡は僕達が残したものだし、本当に不思議な話だ。
 魔物学者の叔母さんは『もしかしたら巣穴以外にも子供を隠しておく習性でもあるのかしらね?』と言っていた。
 絶滅のリスク分散とか言っていたけどよく分からないや。
 いつか喋れるようになったら聞いてみよう。

 
 『タイショウヲカクニンシマシタ』

「え? な、なに?」

 モコを見ながら喋れる日が来る事に思いを馳せていたら、突然周囲に声が響いた。
 今度は何を言っているかはっきりと聞こえる。
 今の声……『対象を確認しました』だって? 
 
「気の所為じゃなかった! だ、誰? 今のはどういう意味?」

 僕は辺りをキョロキョロと見回しながら声の主に尋ねる。
 しかし上下左右何処にも姿が見えない。

 『コタイメイ≪カイザーファング≫オヨビテイマートモキジュンチクリア』

 また姿の見えない声が聞こえて来た。
 カイザーなんだって? テイマーって言うのは僕の事だよね?
 何をクリアしたの?

「コボ~?」

 モコが不思議そうな声を出している。
 目を向けるとやはり首を傾げてこちらを見ていた。

「え? こんなに大きい声なのに聞こえてないの? やっぱり僕にだけしか聞こえてないのか?」

 言われてみればおかしい。
 洞窟の更にその奥の穴だ。
 こんな所で大声出したらもっと反響してもいいだろう。
 けど、僕にだけ聞こえて来るこの声は一言一句はっきりと聞こえて来る。
 どうやら僕の頭に直接語り掛けて来ているらしい。
 念話の経験が無い僕にはその違いが分からなかった。

「さっきまで良く聞こえなかったのはこの穴の外だったから? けどなんで?」

 『フウインカイジョショウニン』

「ま、また聞こえた。それに、ふ、封印解除? な、なんかやばいかも。モコ! ここから出よう」

 聞こえてくる言葉が段々と危険な内容を含み出してくる。
 何の封印を解除するのか分からないけど、ここに居たら巻き込まれそうだ。
 僕はモコに声を掛けて隠し穴から出ようと振り向いた。

 『フウインノマニテンソウシマス』

「え? 転送?」

 声が聞こえて来たと同時に視界が歪み出す。
 僕は慌ててモコを抱き締めて目を瞑った。

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