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第1章

最終話 オトメ途上のヘレイデン

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人類愛賛じんるいあいさん

部屋にバラ吹雪ふぶきい起こる。バラの花びら、美しいですね。ですが。それより格段かくだんに美しいのは地球に住まう人類の皆さんなのです。

私は、金剛こんごう・P・ハルキ。新時空調停局しんじくうちょうていきょく局長きょくちょうにして、究極星人きゅうきょくせいじんです。

私は今まで、自らの力を用いて『人生プロデュース』を行ってきました。世界Aに住む平凡へいぼんな人生を歩む方を、最も輝ける人生を送ることのできる世界Xに送り、よりよい人生を過ごしてもらいました。

ですが、このプロデュースをするためのリソースは有限ゆうげんなのです。比喩ひゆではなく、自らの寿命を削って行ってきたのですから。

多くの方に感謝されたライフワークを、畳まなければならない時が来たのです。そこで最期さいごに、一世一代いっせいいちだい、最後の大プロデュースをしようと決めました。

究極星人は他の世界ですと、悪の宇宙人とされたところもあるようですので、これを使うことにしました。

私の最期の演出プランは、『悪の宇宙人として、ヒーローに倒される』というもの。そこで、ヒーローが多くいる世界を見定みさだめました。

それが、アーマイター世界。その中でも最強のヒーロー、アーマイターHELLヘル。彼とは私も一戦まじえましたが、その弟子をプロデュースできれば、きっと私を倒してくれることでしょう。

そして、問題はつまらない人生を送ることになる人類探しでしたが、これがすぐに見つかったのです。たまたま見ていた世界のリストの最初のほう。明上夢希アケガミ・ユキさん。

 調査をすればするほど、私の計画にうまく当てはまる確信をました。彼女のために、普段と比べかなり大掛かりなプロデュースを施しました。そして順調に育っている。

そろそろ、育ち具合を直接確かめてみたいと思うのです。プロデューサーが、一度も会っていないのは失礼ですから。





昴鐘すばるがね高校1年A組1番、明上ユキちゃん。

ふわっとしていて、笑顔がかわいくて、たまに何言ってるかわかんないけど、優しくていい子。私の、浅芽アサメチカの、親友第1候補。


入学式で話してみて、すぐに親友第1候補になった。帰ってからすぐに仲良くなるための計画を立てた。

まず前の席だから、授業終わってすぐは話しかけやすい。それに、席替えも1ヶ月くらいは、やらないはず。今の位置にいる時がチャンス。

それと、お昼も一緒に食べる。席替えするまで、一緒の時間をどれだけ過ごせるかが、仲良くなる為のコツ。第1段階はそれでいこう。

入学式翌日。計画を練り直すことになった。

まさか、学級委員になるなんて。なんであの大堀君の隣でやろうと思えるかなぁ?そんなタイプだったとは。

それに、生徒会にも用事があるとか?私との時間が少なくなって、親友になるための計画進行に大幅な影響が出る。いい案が出るまで、生徒会や学級委員の話を聞いてつなごう。


次の日。

2日連続で怪人が出るなんて!

その対応でユキちゃんは居ないし、一緒に帰れなかった!2日連続って何?どういう事?中学とたった2駅しか離れてないのに、ここまで怪人の頻度ひんどが高いことってある?具体的な案が思いつかなくて、また生徒会長がかわいい話を聞くことに。

こうなると、関心が私より生徒会長に向くのも時間の問題。どうにかこっちに引き付けないと。

そんなローカルな話題じゃなくて、もっと女子高生らしい話をしないと。だって女子高生なんだもん!占い、ファッション、都市伝説とかの変なウワサ、あと遊園地とか?

……日々、ユキちゃんと仲良くなるために試行錯誤しこうさくごするうち、5月も半ばに差し掛かっていた。

「おはよ~チカちゃん」

「おはよー、ユキちゃん……ってあれ、めずらしい。今日はひとり?」

そう、いつもは大堀オオホリ君か生徒会長と教室に入ってくるのに、今日は違った。

「うん、今日はイレーヌ会長お休みなんだって。ほら、イレーヌ会長って、おっきな会社の社長さんもやってるんだってねぇ。だから、そのお仕事があるんだって。大変そうだけど、すごいよねぇ」

いつもの調子で話してくれる。

そう。イレーヌは居ないんだ。なら、当初の計画に近い1日が過ごせるかもしれない。

「だって、あのハヤサキだもんね。高校生で社長って、同じ高校生とは思えないね」

いま問題があるとすれば、また。会長の話を聞いているということ。

速崎イレーヌではなく、私を、浅芽チカの方を向いてほしい。

最初こそ、会長さんはちっちゃくてかわいいね、マスコットみたいだね、って話をしていた。でも、段々飽きてきた。学校のシステム上、学級委員が生徒会に出入りするのは普通のことらしい。でも、毎日のように生徒会室に行くことはないと思う。それで頻繁に会ってるからって事で、会長の話をするのはわかる。けど、もっと他の、高校生らしい話をしたい。

「ねぇねぇユキちゃん」

「なにー?」

今日はこれで行ってみよう。

「歳を取らない魔女のウワサ、知ってる?」

「知らなーい」

「若い時の姿のまま、200年近く色んなとこで目撃されてるんだって!しかもアーマイターじゃないかとも言われてるんだとか!」

これで食いつかせて、ホームルームが始まるまで話す!

「魔女さんで、アーマイターなんだぁ。すごい人がいるんだね……あれ?それって」

よし!何か食いついた!

「オトメの人?」

「へ?」

オトメって……!?

「イレーヌ会長が言ってたんだけど、女の人のアーマイターで、みんなにみとめられた人はオトメって呼ばれるようになるんだって」

「え?あぁ、その乙闘女オトメね。どうなんだろう。そんな風に呼ばれるなら結構な有名人だろうし、ウワサになるにしてもアーマイターの名前が出てくるんじゃない?」

あ、あせったぁ。ユキちゃん独自の何かかと思った。でも、また。イレーヌの名前が出てきた……!

「そっかぁ。オトメって、有名人なんだねえ」

何だか、意外だった。ユキちゃんから、アーマイターまわりの話が出てくるなんて。

でも、仕方ないのかも。この学校、怪人の頻度高いし。

「ユキちゃんはさ、その……アーマイターとか怪人とか、怖い?」

意外だったからこそ、気になる。そういうのを、どう思ってるのか。

「怪人さんは、ちょっとこわいかな」

やっぱり。

「でも、大堀くんとか、苦しんでる人が怪人になっちゃうでしょ?だから、そういう人は助けたいし、助けられるオトメの人とかも、すごいなって思うよ。だから、怖いけど、怖くない……かな」

……違った。何それ。怖いだけじゃなくて、助けたい?

大堀君がアレになるの見てたはずなのに、そんなカッコいい事を言っちゃうんだ。前から独自の世界観持った子だと思ってたけど、余計わからなくなった。なんか、ショック。

それからの私は、心ここにあらずだった。親友になるための計画に、全然身が入らなかった。


お昼休み前、また時計塔の鐘が鳴ったけど、何にもなかった。ほんとに誤作動だったらしい。

久しぶりにお昼を一緒に食べれたのに、私から話ができなかった。

「生徒会のお仕事ってねぇ、思ったより大変なんだよ。3年生の先輩がいる階に、ストーブの倉庫があるんだけどね」

「大変ならさぁ」

「んん?」

めちゃえば?生徒会」

生徒会生徒会生徒会!あまりにムカつくから、言ってみた。

「やめないよ、チカちゃん。大変だけど、楽しいから。こうして話してるのは、しんどくてやめたいから、とかじゃないの。私の『こんな事したよ』っていうのを、聞いてほしいだけなんだ。苦しんでるように聞こえたなら、ごめんね」

途中でおにぎりを置いて、そう言ったユキちゃん。……なんか、ばかみたいじゃん、私。


それからは、どう過ごしていたのか覚えてない。放課後になってユキちゃんと大堀君が生徒会室に行って、ようやく落ち着いた気がする。

私は、誰もいない自分のクラスにいた。

「やっちゃったなぁ……」

なんであんな、辞めちゃえばとか言っちゃったんだろう。仲良くなりたいのに、アレじゃ逆だよ。このままじゃ、親友になんかなれない。同じクラスにいるのに、離れる。離れてしまう。

「っ……!」

一瞬、頭痛がした。

その時よぎったのは、知らない教室と、誰かが転校する場面。校庭で誰かが前を走る場面。

「なに、これ」

つかれている自覚はある。でも、これは何?帰った方がいいんだろうな。でも、いつユキちゃんが私から離れるか分からない。

「行かなきゃ」

何をしたいのか分からないけど、ユキちゃんに会わなくちゃ。ちょっと身体が重い。けど、生徒会室に行かなくちゃ。教室を出ようとした時。

「おや、勉強ですか?」

理事長先生とぶつかりそうになった。

「あ、どうもです」

軽く挨拶あいさつして生徒会室に向かおうとした。

「浅芽さん。悩みがあるのなら、聞きましょう。楽になるかもしれませんよ」

なんで私の名前知ってるんだろう。でも、普段会わないおじいちゃんなら、まぁいいかな。

「____という訳で、親友になれないんです」

「そうですか。どうしても仲良くなりたい人がいる。追いかけているのに、離れてしまうかもしれない。そうした悩みを持つ生徒は、この学校に多くいます。歴史ある学校ですから。ほら」

理事長が黒板の方を指さした。すると、ものすごい速度で知らない教室や人が話しているシーンが次々つぎつぎうつし出された。

「え、え?なんですかこれ」

「ほら、ひとりじゃない。学校のヒストリーが、メモリーが、あなたの支えです」

そう。ひとりじゃない。

剣道部の部長の志の高さについていけなくなった剣道部員。

転校してしまう、何人もの生徒。

マラソンで先に行ってしまう友達。

みんな、置いていかれてしまう。

「今度こそ、置いていかれないように」

そう、決意を口にする。その人達の思い出と、同じにはならないために。

「おやおや!何やら素晴らしい指導がされているようですね!」

突然、ドアを開けて知らない人が入ってきた。

「おや、金剛さん」

理事長の知り合いのようだった。銀色の長い髪。性別はどっちなんだろう。どっちにも見える。

「お邪魔したのならすみません、石金イシガネ理事長。私、金剛・P・ハルキと申します。理事長とは友人にして、仕事仲間なのです」

きらびやかなスーツから取り出された、名刺を渡される。新時空調停局、局長きょくちょうけん、人生プロデューサー……?

「今しがた、彼女の悩みの力添ちからぞえをしたところなんですよ。どうです?この決意に満ちた眼差まなざしは」

「ほう?」

ぐい!と、目をのぞき込まれる。

「素晴らしい。もう少し私のリソースがあれば、ぜひプロデュースをさせていただきたかったのですが、いやぁ残念。簡易かんい的なもので良ければ、いかがでしょう?」

お試しで、とせまってくる。

「プロデュースって、どんな?」

「そうは言っても、ひとことアドバイスです」

あ、そうなんだ。アイドル勧誘かんゆうとかかと思った。

「それくらいなら、まぁ」

「では、ひとことさずけましょう」

コホン、と1ぱく置いて、告げられる。

「知らない思い出も、力です」

なんか、目が覚めたような気がする。言ってることは意味わかんないけど、やる気が出てきた。

「ありがとうございます、理事長先生、金剛さん。私、行ってきます!」

重かったはずの私の身体が、あまり気にならなくなっていた。そして、教室を飛び出した。行こう、生徒会室へ!



進捗しんちょく確認ですか、金剛さん」

「まぁ、そんなところです。ふふ、順調かつ、私の力を使いこなせているようで安心しました」

机に腰掛ける金剛。

「大プロデュースの一環いっかんとして、貴方もプロデュースしていますが、貴方の夢、少し早く叶うかもしれません」

「本当ですか!?まだ、エネルギーはやっと半分を過ぎたあたりだというのに」

教室に伸びる影が動く。それは、見た目よりやけに小柄に見えた。

「他の方とのスケジュール調整によりますが、準備が進み次第、また連絡しますよ。石金さん」

髪をなびかせて、教室をあとにする。

「さて、少しゆっくりしすぎましたか。ハヤサキ・コーポレーションの本社ビルで行う彼の計画は、順調でしょうか」



生徒会にたどり着く直前、風紀委員長に声をかけられた。

「どうしましたか。生徒会の鈴森スズモリです。少し……どころではなく、顔が青く見えます。まずは、保健室に行きませんか?メイクであるなら落としたほうが良いです。先生に言われる前に、私のをお貸ししますので____」

「邪魔」

「え?」

「邪魔です!私がユキちゃんに会うのを邪魔するなら!」

地面から、黒い何かが上がってきて、私を包む。

「これは私が、ユキちゃんと一緒に居るための力!だから、邪魔をしないで!」

右手に長い鼻。背が高くなって、何でも踏み潰せそうな靴。見違える姿になったはず。これなら、行ける!

「べモリーでしたか!ならば、立ち向かうまで!」

鈴森委員長が、背負っていたケースから竹刀を取り出す。

兵頭ヒョウドウ先輩、私と共に、風紀を守る力を!BC装置、起動!」


BCベモリウム・コントローラー装置」。
大堀の試作品である、べモリー状態の力の一端を使えるようになる装置である。


黒いマッチ箱みたいな機械を竹刀にこすり付けると、刃にあたるところに、黒い炎が点火する。けど、それがどうしたっていうの!

右腕の「鼻」でなぎ払う!

「ぐっ。まだまだ!」

しかし、燃える竹刀を拾って、また向かってくる。

「邪魔しないでって____言ってるじゃない!」

脚を踏み鳴らすと、地面に大きくヒビが入った。

「おぉ!?」

よろけた、今!

「オモリー・オブ・オブジェ!」

よろけたヒビの中から、ぼこん!と剣道着姿の胸像きょうぞうが飛び出し、台座が委員長の左足にくっついた。

「邪魔しないように、動けなくしてあげるね、委員長」

「なっ、これでは動けま……いえ。私はただの生徒ではありません!」

ズズズズ……!胸像が引きずられている!

「風紀委員長に、こんなオモリは効きません!ましてや私は!」

ズズズズズ!

「生徒会書記!会長のいない今!この学校を守るのは私なのですよぉぉおおおおお!!」

引きずるどころじゃおさまらない!普通に走ってきた!

「来ないで、来ないでよ!」

鼻で叩いても、叩いても、止まらない!ウソでしょ、なんなの!

「あなたが付けたオモリのおかげで、その程度では揺らぎませんよ!」

逃げようにも、今の足じゃ速い動きはできない!

「おおおおぉぉぉっ!」

竹刀をやりのように突き立てて、私が押し込まれる!そんな、そんな!そんなはずじゃ!

渡り廊下のドアを突き破り、校庭に吹っ飛ばされた。

「遠くなったじゃない。ユキちゃんのいる、生徒会室にぃいいいいい!」

私の攻撃を逆手さかてに取るなんて、ナマイキ、ナマイキ、ナマイキっ!

なら潰す!彼女の頭上へ跳び上がる。

「知らない思い出だって、私の力!」

今度は地面のヒビではなく、私の背中に何個もの胸像が生える。先輩達のように、置いていかれるなんて嫌だ!その想いを背負い、胸像から吹き出す黒い炎が、力になる!

「オモリー・スタチュー・スタンプ!」

圧倒的な重さで、押し潰す!

「ぐうっ、あぁ!」

竹刀で私を受け止めようとしたみたいだけど、無駄。

バチン!とすごい音がして竹刀がぜ、私は地面に大穴を空けることになった。

「命拾いしたね、風紀委員長」

爆ぜた時の黒い炎が、私の位置をズラしていたらしい。穴には巻き込めたけど、攻撃は当たらなかった。

「くっ……、アーマイターでない身ではこの程度が限度。しかし!」

「装置の起動信号をキャッチしました。行けるか、明上!」

そこに、聞き覚えのある声がした。あれは、大堀君と……ユキちゃん!ユキちゃんがこっちに来た!

「行くよ、ユウイチさん!」

その手に持ってるのは、金色の剣。……剣?

「ユキちゃん!あぁ、やっと会えた!」

思わず、元の姿に戻る。

「アーマ……あれ?戻った?」

穴の中から、手を振る。

「ユキちゃん。一緒に帰ろ!」

「えっ?ううん、このままじゃ帰れないよ。鈴森先輩を保健室に運んだりしなくちゃ」

剣を背中に隠すユキちゃん。

今度は、そこの委員長を見てる。私じゃない……!


「ねえ。どうして、私を見てくれないの?」

ユキちゃんをにらむ。

「え?見てくれないって、どういう事?」

「ユキちゃん。あなたが私から離れるなら。そんなに生徒会が大事なら!」

下を向いてわめき、顔を上げる。

「親友になりたい、でも!全っ然なれない!なら、忘れられない為に!置いてかれないならなんでもいい!私を、あなたにきざみつける!」

黒い炎がき出し、再びあの姿になる。

「チカちゃん。お友達にはもうなってるよ。でも、一旦その重い服を脱ごう。まずはそこからだよ!」

『あぁ!アレはいつもの彼女じゃないのは明らか!いつもより強敵かもしれないが、やるぞ!』

「うん、ユウイチさん!」

剣が……ユキちゃんと話してる?私じゃない、人じゃないものにまで!

「アーマイト!」

『チェンジ ヘレイデン!』

ユキちゃんは炎に包まれて、見覚えのあるアーマイターに変身した。あのマスク……前に、ヘヴンディの横にいたアーマイター。

「アーマイターヘレイデン!悪を裁くオトメ、目指します!」

「へぇ、ユキちゃんがそのアーマイターだったんだ。みんなを守るヒーロー。かっこいいね。でも!」

右腕の「鼻先」から、強い吸引力きゅういんりょくでこっちに引き込む!

「私のそばには!居てくれなかった!」

剣をを突き立てて踏ん張ろうとしてる。でも!私の前では無駄!鼻先に吸い付けて、手が届く場所にやってきた彼女を、抱きしめる。

「私ね、入学式の時、あなたが前の席で良かった、って思ったんだよ」

「それは私もだよ、チカちゃん。知ってる人のいない学校で、仲良くできそうだなって」

「へぇ。嬉しい。その時は間違いなくお互いに同じ気持ちがあったんだね。なら、今は?」

ぐっ、と。抱き締める力が強くなる。

「今も、変わらずに仲良しだよね?嫌いになんかならないよ」

言葉をしぼり出すユキちゃん。ふふ、私が苦しめている。ユキちゃんは私を意識せざるを得ない!

「へぇ。嫌いにはならないんだ。嬉しい。けどさ!」

強く蹴り飛ばす。仲が良いのは、私だけじゃないくせに!

「ならどうして生徒会なんかに行くの?アーマイターなんかやってるの!?」

今度は、剣を吸い込む!

『うわ!』

「ユウイチさん!」

吸い付いた状態の剣を、ヘレイデンに叩きつける!

「いたっ……くない。あれ?」

えっ?確かに剣は当たったはず。

『ユキさんは傷付けさせない!当たる時だけ、剣を低温の炎にさせてもらったぜ!』

「何よそれ!いらない!」

剣を放り投げる。ムカつく!剣のくせにそんな器用な!地面を踏み鳴らしてヒビを入れ、

「オモリー・オブ・オブジェ!」

ヒビから出した胸像を放り投げる!

「わわ!」

跳んで避けちゃった。まだ1投目とうめだもん、仕方ない。 

「ねぇどうして?最初にクラスで、学校で仲良くなったのは私だよね?」

今度は胸像を鼻で巻き付けて、放り投げる。

「アーマイターは、みんなを守るためにやってるんだよ!」

避けた。次!

「私が戦って、痛い思いや、悲しい思いをしないで済む人たちがいる!生徒会もアーマイターも、だから協力してる。守るみんなの中には、チカちゃん!あなたも入ってるんだよ!」

何それ。この感覚、ついさっきも____

「へぇ。ユキちゃん、そんなにカッコいい事言っちゃうんだ」

4投目!

「カッコよすぎて、まぶしすぎるんだよ!」

『____その通り、だ!』

かきん。

打ち返された。咄嗟とっさに、5投目用だった胸像で防ぐと、どっちも砕け散った。

「ユウイチさん!」

打ち返していたのは、さっき適当に飛ばした剣。あれ?剣が、誰も持ってないのにひとりでに浮いて、打ち返した?

「なんなの、それ!剣のくせに!」

『そんじゃそこらの剣じゃないんだ。石像だって打ち返せるさ!』

そういう事を言ってるんじゃなくて、あぁもう!なんなの、このふたり!

「私は嫌なの。みんなと一緒じゃ!足りないの!ユキちゃんは私の、1番の親友。そうなるはずなのに。守られるいちクラスメイトじゃダメ。だからあなたに私を残す。忘れられない、忘れさせない。綺麗なあなたに、一生消えない傷痕を!」

右腕以外の全身に像を生やして、ひとつのかたまりになる。それは、時計塔に似ていた。

「はああっ!」

もっと大きくなった足で、そして腕でも傷付けようとする。でも、避けられる!

「私を見て、置いてかないで!」

「置いてってないよ!チカちゃん、目を覚まして!」

当たらない。当たれば確実に思い出に残るのに。当たらないなら、他の人を傷付けよう。

「そう。ユキちゃんがダメなら」

私のユキちゃんを連れ出すひとり、

「大堀君!」

ヘンクツな学級委員長が連れ出すからダメなんだ!

「危ない!」

ごん。

その音は、にぶかった。硬い金属のような音。

「それ、まだ動いたんだ」

攻撃は当たらなかった。大堀君と私の脚の間には、黒い炎に燃える、さすまたがあった。

「鈴森先輩のBC装置だ。まだ起動中だったので付け替えた。さて。兵頭先輩、俺もその力をお借りする!」

私に抵抗するつもり?させない。より強く踏む。

「どうしてユキちゃんを学級委員にしたの?そのせいで私が!ユキちゃんと一緒に過ごす時間がないじゃない!」

押し込む。

「くっ!明上は、俺には難しい『寄り添うこと』ができる!クラスをまとめるには必要だ」

少し削り取られているけど、そんなちっぽけな攻撃が効くもんか!

「どうしてお昼休みも連れていくの!?」

「もっともな意見だ。1ヶ月経った今、生徒会室は昼食場所になりつつある。必ずしも会議が必要とも限らない。クラスメイトとの交友に時間を割く考えにいたらなかった、俺のあやまちのひとつだ」

私の方が強い。たかがさすまたでこれだけ防がれるのはシャクだけど、圧倒しているのは私!

だが、と。

大堀君は言葉を続ける。

「明上はひとりの人間だ。何でもお前の思い通りになる人形ではない」

「そんなの……!」

わかってる、と言いたい。言おうとした。でも、本当に?ユキちゃんと仲良くしたい、独り占めしたいこの気持ちは。本当にひとりの人間として、ユキちゃんを見てる?

「ダメええぇぇっ!」

ヘレイデンに横から腰をつかまれ、ズルズルと大堀君から引き離された。

「邪魔しないで!ユキちゃんと私が仲良くなるために、引き離す人は処分しないと!」

「何言ってるのチカちゃん!大堀くんはそんな事してないよ!」

いつの間にか、強化した足で私の方が背が高くなっていた。私を見上げて、訴えている。そんな目で何を言おうと、私は!

「ユキちゃんは、高校で私の親友になるの。なると思ったの!学級委員になったのは嬉しかった。親友としてほこらしいとも思った。でも、生徒会室にばっかり行って、生徒会長の話ばっかりして。もっと普通の高校生しようよ。それなら学級委員も、生徒会もやらないでよ。私と仲良くするのに必要ないこと、全部捨ててよ!」

足で、ヘレイデンを踏み倒す。地面にヒビが入る。

「それはワガママだよ、チカちゃん」

ふぬぅ、と力を込めて私の足を持ち上げていく。しかも、ヒビが入っていく!

「成り行きではあったけど、私はみんなを守りたいし、生徒会の仕事も、学級委員も楽しいよ。だから、どっちも捨てないよ」

そのまま足を持たれ、私が仰向あおむけに転ぶ。

「なんで、ねぇなんで!?私と仲良くしたくないの!?」

「ううん。チカちゃんとは私も仲良くしたい。お昼とか、一緒に帰るとか、時間を作ることはできたのに、やってなかったのはごめんなさい」

「いまごろ、今更いまさら!謝ってほしいわけじゃない!仲良くしたいの!」

起き上がろうとする。なんだろう、身体が重い。あれ?もしかして、いつも通りの身体じゃ……ない?

「私も大堀君も、出来なかった事は反省した。次はチカちゃんの番だよ」

「私……?仲良くなろうとしただけで、私はなにも」

「なら教えてあげるね、チカちゃん。入学式の、初めてべモリー……えっと、怪人!が出た時、覚えてる?」

「え?」

立ち上がろうと上体を起こしたところで、止まる。

な、なに?仲良くなれそうと思ったあの日、何かしたっけ?

「一緒に逃げた時、はぐれちゃったよ、私とチカちゃん」

あ……!

「あの日、あれ?ユキちゃん居なかったんだっけ?」

「うん。はぐれたんだよ、あの時。私はあの後にアーマイターになったけど、なるまでは心細かったし、怖かった!」

私に乗っかってきて、再び地面に押し倒される。

「チカちゃんは私との時間が少ないとか、離したくないって言うけど、最初に離れたのはそっちだよ」

「え、そんな。なら、私は、私は……!」



「うん、おたがいさまだよ。2人とも悪い事をしたね」

あ、あ………?

「ふたりとも?」

「うん。喧嘩両成敗けんかりょうせいばいって、言うんだよね」

マスクが上がり、笑うユキちゃんが見える。

____私は、何を早とちりしてたんだろう。こんな優しい笑顔の人が、私を置いてくわけがないじゃない。

「いいの?ユキちゃん。私、」

「いいよ。これからいっぱい、仲良くなろうね」

これから。そっか。私の計画がうまくいかなかったけど、これから仲良くなればいいんだ。

私にまとわりついた時計塔のオブジェが、紙粘土だったみたいに割れて、砕け散っていく。

「うん、これから……これから『も』!よろしくね、ユキちゃん」

「うん!よーし、じゃあその重い服、脱いじゃおう!」

ナイフのサイズになっていた剣を、逆手に持つ親友。

「だね。お願い」

「わかった。ドーン・オブ・ヘレイデン」

右肩の時計に振り下ろされ、身体が軽くなっていく____


そうして、チカちゃんは元に戻った。大堀くんは、目を覚ました鈴森先輩の無事を確認してくれていたみたい。

その後、足からのジェット噴射ふんしゃで一気に校庭の大穴から出た。

「これで一件落着だね、ユウイチさん」

『あぁ。どうなるかと思ったが、心配はらなかったな!』

カラスの声がして、空を見上げる。もう夕方かぁ。なんだか、夕日がきれい。

それを眺めながら変身を解こうとした、その時。

カァ!カァカァ!

カラスの一団が、私に襲いかかってきた!?

「わー!なになに!」

何か悪いことしたかなぁ?

入学式の時に例えに出して褒めたけど、この勢いで来たら怖いよー!バタバタしてたら、サーっといなくなった。なんだったの?

「へあぁ。びっくりしたねぇ。ユウイチさんは大じょ……あれ?」

カラスが来るまでは持ってたのに、ない。放り投げちゃったかな?

あたりを見渡すと、

「あ!」

あった。クロト先生が持ってる!良かった~。でも、ヘレイデンとして隠さないと。マスクを下ろして、そっちに向かう。

「すみませーん、その剣私のなんです!」

チラリ、とこっちを見る。なんだろう、今までとは違って、怖いような。

「悪いなぁ、ユキちゃん。これ、ボクに必要なものやんね」

ニコッと笑って、そう言った。

「なぁんだ、クロトさん私だって分かってたの?」

「そりゃそうやんね。ちっちゃい時からご近所さんなんだから、なぁ?」

そういえばそうだ。前からずっとご近所さんで____あれ?じゃあどうして、私はここに住んでるんだっけ?引っ越した事なんてないのに。

「あ、あれ?クロトさん。私たちご近所さんなのに、おかしいな。一緒に引っ越した?」

「……いいや。ユキちゃんが先に、ボクの派遣先であるこの街にいた。やっぱり、ボクの知ってるユキちゃんで間違いないみたいやんね。何があった?」

どういう事?派遣先?じゃあ、この町は私のふるさとじゃなくて、引っ越したこともないのに……

混乱こんらんしているかい?我が姫》

その時。いないはずの声がした。

「……なーちゃん?」

見渡しても、いない。

《それはそうだ。ボクとユキは、中学の卒業式で会ったきり、会っていない。そうだろう?》

うん。中学の頃のイメージが浮かぶ。キラキラなタキシードを着た、カッコいいなーちゃん。

「どうしようなーちゃん、私ね、変なの。今まで知らなかったアーマイターっていうのが普通の世界で、でもクロトさんは居るの。どうしよう」

「……明上?」

大堀が追いつくと、ひとりつぶやくユキに気がついた。だが、その声さえ、今のユキには届かない。

《キミの周りが怖いんだね。安心してね、我が姫。誰も信じられなくなっても、ボクがいる》

「うん、そうだよね、なーちゃんがいるもんね」

「ユキちゃん?何をブツブツ……幼なじみのなーちゃんなんて、ここにいる訳が____」

目の前にいるクロトさえ、気にかける。だが、届かない。

『おい!ユキさんが変だ!』

「おっと、田城タシロ優一ユウイチ。アンタは大王さんのところに行ってもらう。もう離す訳にはいかないやんね!」

『大王……そうか、お前そっち側の!』

ユキそっちのけで話を進める1人と1振りがいるなか、鈴森が彼女の肩を掴む。

「明上さん、明上さん!聞こえますか鈴森です!ここは昴鐘高校で、ここは校庭です!明上さん!」

肩を揺さぶりながら呼びかける。

《小うるさいのがいるようだね。ボクらの舞台の邪魔じゃないかい?》

「ん、うーん、そういうのじゃ、ない気がする」

「おい、先生にユウイチ!アンタ達に何の因縁があるかは知らないが、今は明上の事が先決だろう!」

『あぁ、そうだ。悪いな大堀君!そっち周りの事は後だ!ユキさん、ユキさん!』

「なーちゃんは、ユキちゃんの地元の仲良しさんやんね。下手に話を振るのはマズかったか!」

みんなで、ユキに呼びかける。そして、ユキ本人はというと……

《なんだか増えてないかい?外野がいやの声など聞かず、ボクだけを見て、聞いていればいい。今までだって、そうだったじゃないか》

そう。私は、いつもなーちゃんの後ろにいた。

だって、王子様だから。守ってくれたし、安心だった。

忘れかけてたけど、そうだよ。なーちゃんと一緒にいれば、今まで通りに____

『ユキさん!』

ごう。と、私の後ろで炎がついた。

《どうした?ユキ》

思わず、その炎をながめる。

「なーちゃん、私ね、新しいお友達ができたんだ」

《それがなんだって言うんだい?ユキを守れるのは、王子であるボクだけさ》

「明上!」「明上さん!」「ユキちゃん!」

こえが、きこえる。

「なーちゃんは私を守ってくれるけど、新しいみんなは、そうじゃないんだ。みんなの学力を伸ばそうと頑張ってたり、毎朝元気に挨拶してくれるお姉さんがいたり、いつも後ろの席でおしゃべりできたり、社長と生徒会長をどっちもやってるカッコいい先輩もいるの」

炎が大きくなって、その中に光が見える。

《ユキ!キミが友達と思っている彼らは、そもそもキミとは違うモノ達だ!》

あの光に戻るのが、今の私の……!

「なーちゃん。私いま、不安だし怖い。みんなと私の、何が違うのかはわからないけど……みんながいるから、怖くない」

《ユキ!僕はキミの……!》

王子様に背を向けて、走り出す。

それにね。私、戦えるようになったの。もう、守ってもらわなくていいの。それがニセモノの王子様なら、なおさら私が、自分の足で立って戦わないとね。

「あいたぁ!?」

痛みで目が覚めた。

『ユキさん!』「明上!」

みんなが口々に私の名前を呼ぶ。あれ、そういえば変身が解けてる。

「もう、ユキちゃん。私と親友になってくれるんでしょ?」

さっきまで疲れて眠っていたはずのチカちゃんに、そう言われた。

「チカちゃん!目が覚めたの?」

「それはこっちのセリフ。さっきまでユキちゃん、すっごくカッコよかったのに」

チカちゃんのおでこが赤い。そっか、私のおでこをごつんとしたの、チカちゃんだったんだ。

「へへ。なんだか、怖くなっちゃって」

「しっかりしてよ、私の親友。ユキちゃんは、みんなを守るアーマイターなんでしょ?」

ハッとした。今の私は、みんなを守るアーマイターヘレイデン。ヒーローが、ずっと立ち止まってちゃダメだよね。

「ありがとう、元気出た」

チカちゃんはニッと笑うと、そのまま寝ちゃった。

「みんなも、ありがとうございます。びっくりさせちゃったよね」

ずどん!

みんなの返事が聞こえると思ったら、違う音が聞こえた。

「えっ?」

校庭に、何かが落ちてきた。その土煙の中から、こっちに向かって投げられた。

「くっ……逃げなさい。アレは、私達では対処できません」

「イレーヌ会長!?」

投げられたのは、ボロボロのブラウスを着た、イレーヌ会長だった。

「貴女の実力は測れました。いやぁ、とても愛らしい」

土煙が晴れると、そこには銀髪の人が立っていた。

「おや、そちらHELLカリバー。回収ご苦労様です、先生」

クロト先生は怖い顔でにらむ。でも、何も言わない。

「おやおや。まぁ良いでしょう!皆さんにも自己紹介をしなければ。私は新時空調停局の究極人生プロデューサーにして、局長。金剛・P・ハルキと申します。気軽に金剛P、と呼んでください。フフフフ、人類愛賛」

ぶわっ!と、赤い花びらが吹き荒れる。

『人生プロデュース……!ってことは、まだ生きてたか!』

クロトさんが持ったままのユウイチさんが言う。

「だからなぁ、暴れても意味は無いやんね。送り届ける必要が……」

『悪いな、抜けさせてもらう!』

ユウイチさんは、一瞬だけキーホルダー型になって手をすっぽ抜け、再び剣に戻って飛んでいく!

 『ギリギリかもだけど、やるしかない!アーマイト!』

そして、地面に突き刺さる。

《チェンジ HELL》

システム音と共に、HELLカリバーから炎が噴き出す!

「……ほう?」

金剛Pの見つめる中、炎はすぐに人型となり、HELLカリバーを抜き取って駆ける!

「地獄の炎よ、明るい未来を照らせ!アーマイターHELL!お前の相手は俺だ、プライム!」

炎は一部が金色の鎧になる。手足のほとんどは炎のまま。けれどそれは、私があの日見た金色の騎士。

「アーマイター、HELL」

それが、ユウイチさんの本当の姿だった。

キン!

HELLカリバーを、左腕で受け止める金剛P。

「なんですかその身体は。ほとんどが炎ではありませんか」

「こっちにも色々あるんだ。究極星人プライム!まさかまだ生きていたとは思わなかったぜ!」

「それはこちらのセリフですよ。それと、プライムは過去の名前。今は金剛Pでお願いしますよ、アーマイターHELL」 

「お前は光司コウジ月子ツキコさん達と協力して、倒したはずだったんだがな!」

バラ吹雪の風圧で吹き飛ばされるHELL。

「ハハハ!ほろびたのは肉体のみ!我が究極的な魂までには至らなかったようですね。まぁ、150年ほどかかりましたが」

なんだか、とても強そう。人間に見えるけど、HELLカリバーを受け止めてる時点で人間じゃないんだ。私も、ユウイチさんと一緒に

「来るな、ユキさん!」

私が進もうとしたら、止められた。

「私もアーマイターです!戦えるよ!」

「ヘレイデンの力は、俺のHELLの力を再構成したものだ。どっちかしか使えない。使えたとしても、アレは究極星人。ヘヴンディでもかなわない相手だ」

そっか。前に言ってたっけ。でも、ここまでなんて!

「ユキちゃん。くやしいが、田城の言う通りやんね」

突然、金剛PとHELLの戦いが止まる。

「あれ?そうなんですか?HELL」

剣をバラ吹雪で防いだり押し返したりしていた金剛Pの風が止まって、地面に花びらが散らばる。

「なんの事だ」

「明上さんが今、ヘレイデンになれないという事ですよ!」

……え?私?

「ユキさんは関係ないだろ。言ったはずだ、お前の相手は俺だって!」

「いいえ?関係大アリですよ。だって、私は明上アケガミ夢希ユキさんに倒されるんですからね」

へ?私に、倒される、って言った?

「お前何を……いや、待て。プライム、お前は人生プロデュースとめい打った人攫ひとさらいをしていたな。まさかユキさんを!」

それに対して、ハハハハ!と高笑いを始める金剛P。

「人攫いとは人聞きが悪い。人生のステージを移して、よりよい人生を送ってもらっているだけですよ!」

花びらの代わりに、今度は書類がうずを巻き、金剛Pの周りにただよう。

「ほんの一部ですが、これだけの皆さんを最適なステージへ導いた敏腕びんわんプロデューサーが、私なのです。簡易的ではありますが、そちらの浅芽チカさんもプロデュースさせていただきました。本来より強力なべモリーとして活躍できたようで、何よりです」

微笑んだ顔を向けられる。チカちゃんがおかしくなったのは、あの人のせい!?

「そして、明上夢希さん。改めまして、私があなたのプロデューサー、金剛・P・ハルキです。アーマイターの世界はいかがでしょう?記憶の混乱など、起こしていませんか?」

少し私の方に歩みを進めて、丁寧ていねいにお辞儀をされた。

「プロデューサー……?なんですか、いきなり!」

こんな人、知らない。

「プライム!やっぱりお前、ユキさんにプロデュースを!おかしいと思ったんだ。今の世の中で、アーマイターを知らない人なんてあまりに珍しいからな」

「いえいえ。ある程度は植え付けたはずなんですよ、アーマイターや様々な状況について。ですが、お隣さんがイレギュラーでして」

お隣さん?もしかして!

「クロトさん……?」

「ご名答。宮間ミヤマ玄斗クロト先生。まさか、夢希さんの同郷かつ、元々のご近所さんがやって来るとは想定外だったのですよ。そのせいで中途半端に封じた記憶のふたがれてしまったのです。プロデュース自体の進行は遅れなかったので、そこは安心しました」

クロト先生との記憶は、ずっとあったもの。じゃあ____

「私のお母さん達の記憶は、本物じゃないんですか?」

「はい。あなたがいま持っている『お母さんが言っていたこと』の記憶は全て、私の方で植え付けさせていただきました。海外出張などしておりません。そもそも、単身でこの世界に送り込んでいますから」

「プライム!」

「許せんわ、貴様ァ!」

HELLが斬りかかり、クロト先生は合図をしてカラスを飛ばす。

「あれ、あなた方息ピッタリですね?」

剣は浮いたままの書類の束で受け止められ、カラスたちは書類が身体に張り付いてしまって、攻撃が当たってない。

「お前はユキさんをつらい目にわせている!それだけで、お前を攻撃するには充分!」

「任務の為に関わらんと決めてたが、大王だってそんな横暴おうぼう、許すとは思えんね!田城、お前はプライムの件が終わったら必ず連れていく、いいな!」

「あぁ、まずはこっちが先だ!」

クロト先生の背中から、服を突き破って黒い羽が生える。

「ユキちゃん!ホントはボクな、HELLカリバー回収の任務でここに来たやんね。何が正解かはボクもわからんけど、とりあえず……」

チラリ、とこっちを見る。

「キミを守る。先生として、お隣さんとして!」

再び、金剛Pの方を向いたクロトさん。私だって、戦えるのに。

「アーマイト!」

黒い羽が渦を巻き、先生を包み込む。その中で、姿が変わっていった。

「地獄の密命みつめいつばさに隠し、黒き覚悟でまもるは平穏へいおん!アーマイターテンカラス!」

渦が解けると、山伏やまぶしに似た姿のクロトさん……ううん、アーマイターテンカラスが、そこにいた。

「カラス式で、行かせてもらおう」

杖を構えて、金剛Pに戦いを挑んでいった。

「……っ、ユキちゃん」

「イレーヌ会長!」

後ろを振り返ると、包帯ほうたいで傷をふさがれた会長が、鈴森先輩の支えで起き上がっていた。

「ケガ、大丈夫なんですか?」

「明上がそちらに目を奪われている間、俺と先輩で救急箱から応急処置をした」

《私の指示で、いまできる最大限の処置を施していただきました》

大堀くんやマグナムさんから、そう告げられる。そうなんだ、全然気づかなかった。

「あれはアーマイターHELL。そうですか、あの剣のユウイチさんというのは、田城ユウイチさんの事でしたのね」

「会長、ユウイチさんのこと知ってたんですか!?」

《アーマイターHELLは、世間では200年無敗、不死身のアーマイターという伝説が伝わっています。ただ、多くの人はただのウワサだとして、信じられてはいません。しかし、俺はそれが真実である事を知っている》

マグナムさんの口調が、最後だけ崩れた?

「HELLであれば、私よりはるかに強く、安心できます。……が、それは万全の力を取り戻せている場合に限ります」

表情がくもる。

「あの姿を見るに、不完全なまま戦いをいどんだのでしょう。おそらく、私達を守るために」

バラや書類の吹雪に、果敢かかんに挑む2人のアーマイターを眺める。

「私、戦えるようになったんだって思ってたんです。でも、それはユウイチさんが居たからで、なんにもできないのが、嫌です」

2人でべモリーを倒してきたのに、突然、ユウイチさんだけ先に行っちゃった。

あぁ、そっか。ゾウのべモリーになってたチカちゃんが言ってた「置いてかれたくない」って、こういう事だったんだ。

「それぞれが、できることをやるしかないわ。アーマイターにならずに立ち向かえるような相手ではありません。ユウイチさんや先生が時間を稼いでいる間に、この場を離れ____」

「ぐああっ!」

校舎に激突する音がした。

振り向くと、変身が解けて倒れていたのは____

「クロトさん!」

思わず駆け出す。そんな。そんな、クロトさんが!

「あ……く、」

立ち上がろうとしている彼に駆け寄る。

「先生、しっかりして!」

「へへ、ユキちゃんに言われるなんて、とんだドジをしたやんね」

羽がたくさん落ちている。

「クロトさん!どうして!」

その手を握る。

「ユキちゃんを護るのは任務であり、ボクがやりたい事。怖い目に遭った小さい子を護るのは、当たり前やんね」

「守るって!私、戦えるよ!私を守って、傷付くほうが嫌だよ!」

一瞬、驚いたような顔をした。

「……そう、か。ダメやんね、ボク。なんでか幼い頃のままで、ユキちゃんを見てたらしいな」

そう言った途端、クロト先生の身体がすうっ、と消えていく。

「や、やだ!いなくならないで!」

「はは。こりゃ強制送還きょうせいそうかんされてるだけやんね。任務だし、ヤバくなったから命綱いのちづなで引き上げられてるっていう、な。でも……戦えるなら、ちょっと起こすぐらいはしとくか」

そう言って、私のおでこに指を当てるクロトさん。ちょっと、チカちゃんの頭突きのせいもあってヒリヒリする。 

「____」

何か呟いた。だけど、何を言ったのかは聞き取れなかった。

「よし、これで戦える。いいか、ユキちゃん。キミはそこらの人間より強い。万全のHELLには勝てないにしても、自分の力で戦って、みんなを守ることはできる。というか、守ることを最優先にしないといけない。それを忘れず戦うこと」

みんなより強い?どういう事?

「クロトさん、それって」

聞こうとしたら、クロトさんは消えかかっていた。

「時間やんね。あっちで、待ってるよ」

それだけ言うと、消えてしまった。

「ユキさん逃げろ!こっちは俺に任せて!」

HELLの、ユウイチさんの声が聞こえる。

「おぉ!予定外だったとはいえ、こんなドラマチックに消えてくださるとは!良いですね、イベント企画の労力がひとつ減りました!」 

イヤな声も聞こえる。

地面を見ながら、立ち上がる。

「明上、しっかりしろ!」

「ユキちゃん!」

そして、前を向く。

「ありがとう、大堀くん、イレーヌ先輩。私は大丈夫だよ」

かけっこの始まりみたいに、足を開く。

私は強いし、みんなを守れるんだって。

「こっちは私とユウイチさんに、」

いちについて、よぉい……

「任せて」

どん!

地面を蹴る。走る!走る!いつもより、身体が軽い。そして、ずっと速い。後ろから、叫ぶ金切り声が聞こえる。

ごめんね、お姉さま。でも私、死ぬために行くんじゃなくて、戦うために行くの。

「ユキさん!?何をやってる、逃げるなら真逆に走るんだ!」

「良いではないですかHELL!私の計画完遂かんすいの為、自ら進んでやってきているのですよ?」

目指すはまっすぐ、金剛P!あと少し、あと2秒、今!

「やぁぁあああっ!」

肩から、思いっきり体当たり!

「____はい、そこまで」

私が当たったのは、書類1枚。文字通り、紙一重かみひとえで届かなかった。

「あまり感心しませんよ、明上さん。あなたはアーマイターとなって、私を倒すんです。その前に命を捨てるなど、おおっ!?」

でもその衝撃は、地面を揺らして、体勢を崩した。

「ユキさん……!」

HELLが、こっちを見る。

「なるほどなるほど、計算違いをしていたようです。やはり、イレギュラーはイレギュラーですね。こんなに早く解放してくるとは」

視線を落として両手を見ると、黒くなっている。塗った黒じゃない。見た事のある黒い手だ。ずっと前、知ってる手。

「ユウイチさん。私たち、ずっと一緒に戦ってきたのにズルいよ、ひとりだけ」

「今までもそうだったが、今のでもっと確信した。ユキさん、ただの人間じゃないなぁ?」

語尾の上げ方で、ちょっとふざけた感じで言ってるのがわかる。

「へへ、そうかも。だから一緒に戦わせて!守られてるだけなのって、イヤだからさ!」

手を差し出す。

「……あぁ。俺はずっと君に負い目を感じていた。けど、ヘレイデンに変身してなんともないんだ、普通の女の子なわけがなかったな!」

その手は、ぎゅっ!と握り返された。

「一緒に戦おう、ユキさん!」

「うん!私を好き勝手してる宇宙人さんは、ここでやっつけます!」

2人で金剛Pを見据える。

「これでは、叶わないではありませんか!私のプロデュースプランが!田城優一!あなたのHELLカリバーを明上さんに戻して、ヘレイデンを出してください!」

「はっ、そんなに都合つごうよく行くかよ!何人もの人生を好き勝手してきたんだ、自分の人生の勝手が通らないことぐらい、承知しょうちの上だろうが!」

HELLカリバーから、炎が噴き出す!

「ボルケイノスラッシュ!」

剣から炎が飛んでいく。けど、金剛Pのバラ吹雪が防ぐ。

「やぁあああっ!」

その炎を、拳で押し込む!

「まさか!」

どんどん押し込んでいって、バラを出していた手のひらに叩き込む!

「おし、こみぃいい!」

「ぬぅっ!」

パァン!と乾いた音がして、金剛Pが地面をすべって吹き飛ばされていく。

「炎を、手で押し込むとは。目の当たりにすると厄介ですね、あなた方の種族は」

何をすればいいのか考える前に、身体が動いていた。だから、私もびっくり。

「私、熱さには強いみたいです!」

この黒い手は、炎に触ってもなんともないみたい。

「まずは、HELLを封じる必要がありますね。いいでしょう!想定外ですが、これでプロデュースを完遂させます!」

金剛Pの胸が、いきなり光り出す。

「究極・異識託界いしきたっかい!『金剛星海こんごうせいかいプライム』、オープン!」

その光が強くなって、思わず目をつぶる。そして、目を開くと。

「えっ!?」

宇宙だった。

上下左右、どこを見ても夜空の、宇宙。

「えーっ!?宇宙!?」

「驚いていただけて何より!」

その声のほうを見る。金剛Pだ。あれ、スーツのジャケットがなくなって、シャツとベストになってる。暑かったのか、本気を出しますよ、の合図か、どっちだろう。

「これは私が旅してきた、宇宙の風景。範囲が銀河系ひとつにおよぶ結界を、昴鐘高校に上書きしているのです」

んん?結界?あぁ、ヒョウべモリーの反省部屋の、すっごく大きい版か。

「あれ?でも宇宙なのに、立ってる?」

宇宙っていうと、ふわふわ浮いてるイメージなのに、何も無いところに立ててるのが、なんか変。

「上書きして間もないですから……というより、自力で浮くことの出来ない人類の皆さんに勝っても、意味がありません。ですから、足場は用意しているのです」

「なら、存分にお前を倒せるわけだな?プライム!」

後ろから、HELLの声がする。

「あれ、イレーヌさん達が……いない!」

「この銀河には、あなた方2人のみを引き込みました。ベースである夢希ユキさん、素材のアーマイターHELL。ヘレイデンを成立させて、私を倒していただくことが最終目的になるわけですから、不確定要素は排除したのです」

どうやっても、私をヘレイデンにさせたいらしい。

「お前はユキさんと俺の2人で倒す!ヘレイデンじゃなくて、な!」

駆け出すHELL。背中から炎を噴射し、猛接近する!

「ふふ、『光速時間フォトン・タイム』」

「なっ!?」

「えっ!?」

フォトン・タイムって、ヘヴンディの技のはず!

光の速さで動き、格闘で圧倒していく金剛P。普段なら速すぎて見えない。そのはずなのに、

「……見える」

手が黒いのと関係あるのかわかんないけど、なんでか見える。見えるなら、できるかも。横から邪魔して、ユウイチさんを助けられそう!

「そこぉ!」

「なっ、あっ!」

飛び込んで、どーんと手で押しのけた。体勢が崩れた金剛Pは、スピンしながら地面を転がって、止まった。

「光速移動中に、事故、とは……はぁっ、ふうっ……きもが冷えました。私をとらえるほどの目を持っているとは、驚きです」

よろよろと立ち上がる。なんか、思ったよりうまくいってる?

「お前、なんでハヤサキのアーマイターでもないお前がそれを使える!」

「ハハ!それは、私が速崎のアーマイターをプロデュース中だからですよ。イレーヌさんではなく、あなた方の知らない方にはなりますがね」

ズボンをはたきながら、HELLの質問に答える。

「それと、この結界の中では、過去にプロデュースした皆さんの力が使えるワケです。今回の為に手配した方も居たのですが……彼らの力は今!この私が使うこととしましょうか!」

そして、ぱん!と両手を合わせる。

「限定異識託界、『忍者夜山にんじゃやざんワッショイ』!」

突然、金剛Pが10人くらい増えた。

「忍者!?」

「忍者だから分身ってワケか。だが、忍術が本体と同じ強度とは思えない!」

ボルケイノスラッシュを放つと、分身がひとり消えた。

「ほんとだ!私も!」

走り幅跳びみたいに跳んで、

「ばーん!」

飛び込みながら両手を叩きつける!

分身の金剛Pは半分ぐらい埋まって、消えていった。

「そうですとも。分身は、本体ほどの強度はありません。言うなればハリボテですが、問題ありません!」

倒すたびに、分身が増えていく。どこからこの声がするのか、わからない!

「忍者もスパイも、情報を撹乱かくらんする者ですからねぇ!」

HELLに向けて投げられた手裏剣は、黄金の剣で弾かれた。

「悪いな、プライム。お前が復活までにかかっていた150年、俺は戦い続けてるんだ。そんな奇襲、俺に通じると思ったか!」

突然、金剛Pの分身たちが一気に撃ち抜かれ、消えた。

「む!まさか!」

水色のエネルギー弾。これ、もしかして!

「こちら側に入ってくるとは思いませんでした」

彼が目線を向けるのは私の背後。

「天の一撃、平和の号砲。速く、清く、美しく!オトメがひとり、アーマイターヘヴンディ!覚悟の程を、お魅せします!」

理事長さんの肩に手を回したヘヴンディが、そこにいた。

「お姉さま!」

「最終決戦に、私が置いてきぼりなのは我慢なりませんので。それに、理事長とも利害が一致しました」

そう、理事長さんが一緒にいる事が気になってた。

「石金さん。どういう風の吹き回しです?」

「金剛さん。貴方のプロデュースは、明上さんが最優先だ。それさえ果たせれば、ボクのようにサブでプロデュースしている者など、切り捨てるのだろう?この学園に溜めたエネルギーが吸われていることぐらい気付くさ」

サブでプロデュース……って事は、理事長もプロデュースされてた側の人!?

「流石ですね。おっしゃる通りですよ、石金さん。全てはメインプランの為。サブの方々はメインの糧になっていただければ、それで良い。ですので、貯蓄ちょちくは使わせていただきました」

一見、爽やかな笑顔を見せる金剛 P。けれど、言ってることは真逆。

「そんな事だろうとは思っていたよ金剛。なら、まだ使ってない分は、どう使おうと構わないな!?」

手を前に突き出し、地面……足場?から、黒い炎がメラメラと燃え上がる。

「異識託界、『塔影想園とうえいそうえんスバルガネ』!」

炎が燃え広がり、私達の足場が、学校の校庭に変わった。そして、時計塔がそびえ立つ。

「究極の異識託界に、通常の異識託界で立ち向かうとは。普段であれば愚かと断じるでしょう。ですが!今回は足場を作り出した。私も余計なことにリソースを割かなくて良くなる、というもの。ですので、許可しましょう。どの程度戦えるか!見せてもらいましょうか!」

「後悔しないことだ、金剛。さぁ、HELL!明上さん!我が校に蓄積ちくせきした力、君達に与えよう!」

ごーん、ごーん……と、時計塔から鐘が鳴る。そして、地面から噴き出た黒い炎が、私とHELLに集まっていく!

「この力、地獄のカケラが混ざってるのか!ありがたく使わせてもらうぜ!」

黒い炎の中で、HELLの鎧の面積が増えていく。

「はァッ!」

炎を振り払う。首元からは炎が出てるけれど、それはマントのようにたなびく。

「8割、ってところか。カケラ自体の割合はまだまだだけど、かなり力が戻ったぜ!」

焦げたような色の鎧に、刻まれた赤い文字が光る。

そして、私の方に集まってきた炎は、ひとつのカタチになって、地面に突き刺さった。

「これ、HELLカリバー!」

覚えてる。1番初め。大堀くんを助けに行く直前、HELLカリバーを引き抜いた入学式。

ここから始まったんだ。ここから新しい人達に出会って、戦えるようになった。

でもそれは、金剛Pに仕組まれた事だった。この世界に来てからのズレの原因は、人生プロデュースで飛ばされたから。それで違和感はほとんどなくなった。仕組まれた事を知らないまま、流されてここまで来ちゃった。

中学生までの私のままだったら、ずっとなーちゃんの後ろを、なんとなくついて行くだけだったかもしれない。

結局のところ、私は、ふわふわと浮いたままだ。

「歩かなきゃ」

中学までの私のまま生きる人生に、戻りたいわけじゃない。かといって、金剛 Pの計画通りの人生もイヤだ。

HELLカリバーのつかを握ると、炎が灯る。

「私の、明上夢希の人生を、歩かなきゃ!」

どっちもイヤなら、創り出すしかない!

「私の人生は、私で斬り拓く!」

燃え盛る剣を抜き取って、掲げる。

「真っ暗闇でも、中身がなくても、地獄の炎で、満たして照らす!アーマイター・ヘレイデン!」

全身が、炎に包まれる。そして、ヘレイデンの鎧を身に纏う。

「私の人生の好き勝手、もうさせないよ!」

炎を斬り裂いて、切っ先を向ける。

「ふ、フハハハハハ!ここに運命は手繰たぐり寄せられた!変身しましたね、アーマイターヘレイデンに!今まで変身しないようにしていましたが、他ならぬ夢希さん自身が!自らの意思で!変身してしまうとは!これで計画が進められます!」

嬉しそうに拍手する金剛P。

「ユキさん、その姿……」

「うん」

驚くユウイチさん。でも、ユウイチさんだからこそ、分かるはず。

「……HELLの鎧の力が、ひとつも入ってない。姿かたちは俺が組んだ通りなのに。どちらかというと、」

「べモリーみたい?」

「……なんですって、べモリー?」

私とHELLの会話に入ってくる宇宙人。

「もう、邪魔しないでよ。今の私、アーマイター・ヘレイデンっぽいだけだよ」

今持ってるHELLカリバーは、理事長の結界の力で作られたもの。

「金剛!貴殿きでん目論見もくろみは叶わないぞ。べモリーはそもそも、この時計塔にるされた、隕石で作られた鐘が見てきた思い出をもとに生まれるもの。ヘレイデンの活躍も、この学園内に存在する思い出のひとつだ。いわば今の彼女は、アーマイターヘレイデン・べモリー!純正ではなく、もどきのヘレイデンというワケさ!」

「な、何ですって!石金さん!それでは……私の計画には当てはまらない!私はねぇ!HELLの弟子になった明上さんのアーマイターで倒されるプロデュース計画なんです!もう時間がないというのに……そのもどきに倒されるなど最悪です!ここまで舞台が整っておきながら、アーマイターではない明上さんに倒されるなんて、そんな事!」

分かりやすくあわてている。うん、これでいい。

「私、あなたの計画にはもう乗らないよ!」

「いいえ、乗ってもらいます!あなたが今、ここに居るのは私のプロデュースによるもの。ここまで仕立てておきながら、勝手に降りるなど……」

「私、人生を変えたいとか言いましたか!?」

「は?」

そう、そもそもそれがおかしい。

「前の人生のままが良いとは思えないけど、誰かの操り人形みたいな人生も嫌です!だから感謝なんかしない。それどころか……!」

走る。この言葉を、絶対に叩きつけないと!

「迷惑です!」

言葉と一緒に、HELLカリバーを叩きつける。

どしん、と。その衝撃で、地面にヒビが入り、金剛Pは少し沈んだ。

「迷惑、迷惑と言いましたか!?私はその人の人生を、より豊かにしているだけなのですよ!?」

「私は豊かにしてほしいとか言ってません!」

「生きとし生けるもの、皆与えられた時間を豊かにしたいはずだ!究極的に素晴らしい人生を送りたいと!みな思っているはずでしょう!」

バラ吹雪の風圧で、HELLカリバーを退けられた。それでも、金剛Pからは目を離さない。

「何が幸せかは、人によって違います!勝手に決めて、勝手に連れて行って。そんな事、もうさせない!」

「その意気です、ヘレイデン!」

後ろから、水色の弾幕が通り抜ける。

「お姉さま!」

支えなしで、ヘヴンディがやってきた。

「金剛……いえ、究極星人プライム。貴方は、その身勝手な人生プロデュースに、ユキちゃんを巻き込んだ。それだけで、倒される理由としては充分です!」

《プライム、再び引導を渡してやろう》

HEAVENマグナムを向ける。イレーヌさんも、マグナムさんも、私の味方をしてくれる。

「多勢に無勢、ですか。ならば仕方ありません!田城タシロ優一ユウイチ明上アケガミ夢希ユキ!あなた方2人を倒し、アーマイター・ヘレイデンを成立させ、どんな手を使おうと私を倒してもらいましょうか!限定異識託界、『征煌舞皇せいこうぶおうライロード』!」

金剛Pの右手が光ると、剣が握られていた。そして、その背後には西洋のお城みたいなものが、地面から生えてきた。

「本来の使い手たる、彼女の才能の再現とまではいきませんが……どうあっても!私のプロデュースは完遂させます!」

小隕石が金剛Pの合図で、私達に降り注ぐ!

「エネルギーウォール!」

私達の頭上にバリアのようなものが張られて、それに当たった隕石は砕け散った。

「大丈夫か、2人とも」

それは、HELLが使ったバリアだった。

「すごい、ユウイチさん!」

「まだまだ、こんなもんじゃないぜ。行けるか、ユキさん、イレーヌさん!」

「もちろんですわ」

「うん!私達で金剛Pを、やっつけよう!」

私の言葉を号令として、それぞれ金剛Pに向かっていく!

「行け、HELLカリバー!」

HELLの指示で、何本ものHELLカリバーが宙を舞い、金剛Pに突撃していく!

「究極ブラックホール!」

しかし、右手から出現した小型のブラックホールが、それらを吸い込んでいく。

《『天使隊長アカエル』『二十頭の巨龍トゥエンティースヘッド・ギガント・ドラゴン』コンボ!ウィングガトリング!》

マグナムさんの音声がして、天使の羽根で飛ぶヘヴンディが、その背後を狙う!

「当たりませんよ、『光速時間』!」

「あら、ハヤサキの専売特許で、逃げられるとでも?」

《『フォトニクル』フォトン・タイム!》

「だったら俺も!デュアル・アーカイブ、『光速時間』!」

金剛Pを初めとして、ヘヴンディとHELLが3人ともフォトン・タイムを使って、ハイスピードでの戦いが始まった。

なんでHELLまでアレを使えるのか分からないけど、置いてけぼりにされた気がする。

でも私は使えるわけじゃないし、ただただ眺めることしかできない。けど、さっき体当たりしたら、『肝が冷えた』って言ってたような。なら、タイミングを見てぶつかるだけ!

剣での打ち合い、今じゃない。銃弾を避けた……今!

「たあっ!」

HELLカリバーで、ちょっとはたく!

「またですか!」

金剛Pの身体が光って、次の瞬間には、腕で剣を防がれていた。

「いやぁ、危なかった。時間を少しスキップさせていただきました」

持っていた剣が光ると、その光が爆発して、吹っ飛ばされた。なに、時間をスキップ?

「今度こそ、当てます!」

その声と共に、ヘヴンディがエネルギーで出来たガトリング砲を発射する。

「ハハハ!時間をスキップすればそんな……」

突然、金剛Pが前に吹っ飛ばされる。

「そんな、スキぁああああっ!」

ガトリングの直撃を受ける金剛Pの背後には、蹴り飛ばした姿勢のままのHELLがいた。

「時間をスキップするって言ったって、それには『始まり』と『終わり』がある。なら、『始まり』の時点で時間を止めて攻撃すればいい」

各所が焼き焦げた金剛Pが振り返る。

「そんな力技で時間スキップを無効化するとは……!」

「時間をどうこうするのが相手なら、視野を広げて対応すればいい。それだけだ!」

え、時間って、スキップとか止めるとか、できるものだっけ?

「田城優一、以前はそこまでの力を持っていなかったはず。いつから我々時空調停局のような力を!」

隕石がHELLに降り注ぐ!

「何が我々だよ、プライム。その屋号やごうは、そもそもお前のものじゃないだろ」

隕石は、踊るように宙を駆けるHELLカリバーたちが粉々に斬り裂いていく。

「私も!」

足から炎をジェット噴射して、金剛Pに迫る!

「厄介な、ぐあっ!」

今度は、突然上に吹っ飛んだ。いつの間にか、地面から爆発が起こっていた。

「お前がスキップしようとすれば、こうして必ず俺が攻撃する。これが嫌なら、普通に戦うことだな!ヘレイデン、もう一振りの追加サービスだ!」

宙を舞っていたHELLカリバーのうちのひとつが、目の前の地面に突き刺さる。

「ありがとう!よーし!」

HELLカリバーの二刀流でいってみよう!

「アーマイターHELL……!まさかここまでとは!」

金剛Pが剣を地面に突き立てると、四角く切り取られた地面が、ぼん!とバネみたいに、彼を空へ打ち上げた。

「明上さん。あなたが先です!」

空を走り、私に上から斬り掛かる!

「わっ!」

右手の剣で受け止めたけど、金剛Pの剣がピカピカ光って、ぐるん!と地面が回り、吹っ飛ばされた。

「あれ!?」

二振りの剣を支えにして地面に踏ん張る。

「やはり、馴染なじむのに時間はかかりますね。ですが……ようやく!ライロードの力が使えるようになってきました!」

《『天使ガンナー・タイナ』ビーム!》

「吹き飛びなさい、プライム!」

HEAVENマグナムから、巨大なビームが発射される!

「このプロデュースは、一世一代の大事業。私の為のもの。すなわち!」

どん!と空から、スポットライトが5つ吊り下げられた柱が地面に突き刺さって、ライトが彼を照らし出す!

「私が主役です!」

ライトに照らされた金剛を、ビームが2つに分かれて避けた。

「ボルケイノスラッシュ!」

それを見た途端、HELLが柱を斬り裂いて、壊した。

「お前の本質はやっぱり、私利私欲に生きる究極星人。だからお前の星は滅んだんだ」

「自らの最大限を発揮出来ずに終わる地球人のほうが、我々より愚かですよ。あまりに勿体無もったいない」

2人が話してる間に、追いついた!

「愚かじゃ、ない!」

両手のHELLカリバーで、斬り掛かる!

「2人が、揃った!今こそまさに好……」

「はぁあああああ!!!」

そのまま、金剛Pを押し込む!ズルズルと地面を削りながら進む!行けるかは分からないけど、これでライロードの剣を壊す!

「ストップ、ストッ、照明!」

どしん!と、何かに激突した。壁みたいな照明だった。

「何故です、明上夢希。貴女はアーマイターとして、戦えるようになった。であれば、巨悪である私を!アーマイターとして倒して賞賛しょうさんを得て、乙闘女オトメとして認められたい。そうではないのですか?」

あぁ、この人。プロデューサーって言ってるけど、私の事をまるで分かってない。

「そうじゃないです!」

照明に、ビシビシとヒビが入る。

「私はアーマイター・ヘレイデンで、オトメも目指してる。でも、褒められたくて戦ってるわけじゃない。アーマイターは、皆を守るために戦う力。それは!」

照明が、粉々に壊れる!

「姿かたちに、本物かどうかに囚われてるようなあなたには!私は、明上ユキは分からない!」

悲しかったり、苦しかったりする人を助けられるのがアーマイター。悪者を倒したり、褒められたりするのは、後からついてくるもの。誰かを助けたい気持ちがあれば、この鎧が偽物でも関係ない!

両手の剣に炎が宿る!

「ツイン・ボルケイノスラッシュ!」

ライロードの剣を叩き割りながら、金剛Pを斬り飛ばす!

「な、にぃぃいい!」

ライロードによって出てきた西洋の城に激突し、ガラガラと崩れていく。

「よく言った、ヘレイデン」

「プライムは、ユキちゃんの数値しか見ていない。ただ伸び率の高い人間をアーマイターにして、自分を倒させようとしているだけ。そんな宇宙人、ここで打ち倒しましょう」

「ユウイチさん、イレーヌさん!」

3人で、金剛Pを見据える。サービスのHELLカリバーは、今の攻撃を最後に砕け散った。けど、やっぱりひとつだけのほうが、戦いやすい。

「まだ、です……!私は金剛・P・ハルキ!人間と融合した、まだ見ぬ究極星人なのですから!」

折れたライロードの剣を捨て、立ち上がった。

「ヘレイデン。私達が道を示します」

「決着は君自身で着けるんだ、ユキさん」

HELLの持つHELLカリバーが燃えて、大きな槍のようになる。

「わかりました!」

「HELLランス、キャノンモード!」

HELLランスというそれは、穂先が4つに割れて、中からキャノン砲がでてきた。そして、ヘヴンディは銃にカードを読み込ませる。

《『リミッター・カット』パワーチャージ!》

2人がそれぞれの武器を構える。

「HELLキャノンバースト!」

「ヘヴンディ・フォトンエンド!」

2本のビームが発射され、ひとつに混ざり合って、道になる。

「行ってきます!」

そのビームの道に飛び乗って、走り出す。ユウイチさんとの出会いと、イレーヌさん達、高校の皆との出会い。初めは仕組まれていたとしても、私は私の道を進む!

悪元卒業あくげんそつぎょう!」

そのために、私の人生に、もう!金剛Pはいらない!

「ロード・トゥ・ヘレイデン!」

距離を詰め、ブラックホールを盾にしようとするも、それを斬り裂きながら、剣を振り抜く!

「せっかくの計画が、台無しですね」

金剛Pの身体は燃え上がり、自ら隕石を落下させ、爆発した。

そして、結界が解けて宇宙の空が、青空へと変わっていく。

「ユキちゃん!」

ヘヴンディとHELLが、こっちにやってくる。

「決着、着けたのね」

「うん。着けました」

「あの終わり方だ。もしかすると、いつか復活するかもしれない。けど、今はそうじゃないか。やったな、ユキさん!」

「はい!」

にっこり笑う。復活しちゃったら、その時また倒せばいい。

そして、3人一緒に変身を解いた。

「あれ、ユウイチさんって……思ったより若いんですね」

変身を解いたユウイチさんは、クロトさんとあまり変わらないくらいの年代の、男の人だった。

「見た目だけな。人じゃなくなった、22歳で止まってる」

「人間でないのなら、世に出回っている都市伝説も、おかしくはありませんわね。寿命が長くなったのでしょう?」

「あぁ。多分長くなってる。けど、この姿も今だけみたいだ」

よく見ると、足下から透け始めている。

「そうなんだ。せっかく、一緒に戦えると思ったのに」

「一緒に戦うのには変わりないさ。今までみたいに、俺はユキさんの剣として、戦うんだからな」

少し日が沈んで、夕焼け空に近づく。

「うん、そうだよね。いつもの私達に戻るだけだよね」

「そういう事だ。ほら、皆のところに行ってあげてくれ」

「わかった。行ってくる!」

空間が戻って、こっちにやって来た皆のところに、駆け出す。

ユウイチさんを通り過ぎたあたりで、地面に何か、刺さる音がした。いつもの剣に、戻ったみたい。

「明上!倒したのか、奴を」

「うん!イレーヌさんとユウイチさんのおかげで、ぶい!だよ」

Vサインを向けて、大堀くんに報告する。

「やりましたね、明上さん!」

「あぁ、おめでとう」

鈴森先輩と石金先輩のがお祝いしてくれ……て……あれ?

「石金副会長、いつのまに?」

そう。石金副会長だけ、ず~っといなかったのに、突然祝われた!なんで!?

「他の生徒たちへの避難指示などを行っていたので、合流が今になった。そうですね、トワ君」

「そ、そうですそうです、そうなのです会長!」

後ろからやって来たイレーヌさんが、そう言いながらやって来た。

なーんだ。そういう事……と、思いたかった。元の世界の事をビミョーに思い出した今だと、そんな風には思えない。ウソっぽいなぁって思う。だって、大堀くんも鈴森さんも、「あっ」って顔してたもん。

「なーんだ。そういう事だったんですね、副会長」

でも、みんなの前では、今までの私でいい気がした。

今は正しいかどうかよりも、大きな事件が片付いたことを、みんなと喜ぶほうが大事だから。

ぴーぽー、と音がして、3台くらい車が校庭にやって来た。

《弊社の医療チームを手配しました。皆さんお疲れでしょう、どうぞ手当てを受けてください》

マグナムさんやるぅ!

早速、鈴森先輩が背負っていたチカちゃんを、車に運ぶ。お姫様抱っこの体勢で運んでいると、チカちゃんのおでこも腫れてる事に気付く。

「ありがとう、チカちゃん」

今日1日で、チカちゃんとは色々あったけど、知らなかった事が、いっぱい分かった。学校に戻ってきたら、いっぱい話して、もっと友達になろう。



それから、2日後。

「ユキちゃーん!学校行こ!」

「チカちゃん!?」

朝、家を出ようとしてた時に訪ねてきたのはチカちゃんだった。バタバタと家を出る。

「おっはよー!」 

「おはよう。チカちゃん、もう大丈夫なの?」

「うん、元気元気!この間はごめんね、ヒドい事いっぱい言っちゃったかも」

チカちゃんが歩き出すので、慌ててついていく。良かった、思ったより元気そう。

「私さ、なんだか焦りすぎてたの。べモリーのせいもあったけど、早く友達に、親友にならないと、って思って」

えへへ、と笑いながら、続ける。

「でも、ぶつかって分かったの。ゆっくり、友達になればいいんだって。ユキちゃんのおかげで気付けたんだよ」

私の前に立って、しっかり目を見て、そう言った。

「気づいてくれたなら、良かった」

目を見て言ってくれたことが嬉しい。だから、にっこり笑って返す。

「言ってくれないとわかんない事って、あるよね。チカちゃんがそんな風に思ってたなんて知らなかったし、怖かった」

再び、学校へと歩き出す。

「どうにかして、ユキちゃんの印象に残らないとって必死すぎたね」

「一番最初に話しかけてくれた時点で、充分印象深いよ、チカちゃん」

「えっ、そう?」

「そうだよ!」

あははは、と笑いながら歩いてたら、いつの間にか到着した。

「おはようございます!!おぉ、明上さんに浅芽さんではないですか!」

大きな声で挨拶してきたのは、書記で風紀委員長の鈴森先輩だった。

「おはようございます!」

「おはようございま~す」

2人で挨拶を返す。

「うん、うん!おふたりとも、お元気そうでなにより!特に浅芽さんは、今日から復学ですね!」

「そうそう、鈴森先輩にも謝らないと」

と言って、深々と頭を下げるチカちゃん。

「ごめんなさい!べモリーの影響もあるけど、私、自分が何をやったか覚えてるんです」

「そんなそんな!頭を上げてください、浅芽さん」

肩を揺さぶられ、顔を上げる。

「浅芽さん。私だってべモリーになって、皆さんに迷惑をかけました。なので、この前の明上さんではありませんが……お互い様!です!」

にかっ、と笑う。

「鈴森先輩~!」

その手を取って、感激するチカちゃん。 

「それと、私達はべモリーになったぶん、この学校の歴史を肌で感じられたはずです」

背中に背負った竹刀袋しないぶくろを見ながら言う。

「べモリーになった事は、悪いことばかりではないのかもしれません。浅芽さんも、何か気付けた事があれば、教えてくださいね」

昇降口にやって来た私達。上履きに履き替えたところで、とうとうこの話を切り出さなくちゃならなくなった。

「そのぉ、チカちゃん。私、生徒会室に~……」

「行ってきなよ。今まではさ、生徒会で何してるのかわかんなかったから、嫌だった。でも、みんなを守るために生徒会やってるって、今は分かったから。応援する!」

「ありがとう、チカちゃん」

「ふふっ!じゃあ、教室で待ってるね」

チカちゃんに手を振って、生徒会室に向かう。

『彼女、心配してたほどじゃなかったな』

キーホルダーのユウイチさんが話しかけてきた。

「うん、もっとぎこちないかと思った。けど、あれはホントの気持ちだなあって、思うんだ」

そして、生徒会室のドアを開ける。

「おはよう、明上」

「おはよ、大堀くん」

私が生徒会室に入ると、ドアの近くにいた大堀くんが挨拶してくれた。

「おはようございます、ユキちゃん」

「おはようございます!イレーヌ会長!」

そして、会長席に座るイレーヌさんにも、挨拶。

「あれ?石金副会長は?」

「この際ですから、お話ししましょう。今日、トワ君は忌引きびきの為お休みです。理事長が、昨年死亡していた事が判明しましたので」

え、理事長!?

「待ってください、去年ですか?この前、金剛Pとの戦いの時は居ましたよね?」

「えぇ。ですが、その日までこの学校の時計塔は、意識託界と呼ばれる結界の一種に支配されていた状態。真相は分かりませんが、あの理事長は時計塔の見ていた夢、だったのかもしれませんわね」

夢、か。

この前副会長と会った時、何かウソっぽいものを感じたけど、多分この理事長まわりの事だったんだろうな。

「会長、明上も来たことですし、時計塔の件についてお話してもよろしいですか?」

「えぇ、そうね。お願いできますかしら、大堀君」

私が席に着くと、大堀くんが話し始めた。

「一昨日の金剛P……もとい、究極星人プライムとの戦いで、べモリーに関する事件は、幕を閉じる事となった」

「あ、そっか。結界がなくなったから?」

「そうだ。それに、会長の話によると、理事長がエネルギーを明上やHELLに与えたと聞いた。簡易的な調査しか出来ていないが、エネルギーは確かに枯渇こかつしたようだ。BC装置開発時に計測器を作っていたんだが、まさかこんな形で役立つとはな」

大堀くんが、ボイスレコーダーみたいな機械を机に置いた。へぇ、そんなの作ってたんだ。

「じゃあ、べモリーはもう出ないんだね」

「おそらくは、な。だが、発生源となった時計塔の鐘については、引き続き調査を進める。べモリーが発生していた本格的なメカニズムや、鐘の素材調査など、ただの鐘ではないからな」

「素材?」

「えぇ、鐘は隕石で出来ていますから」

紅茶を一口飲んだ会長が、そう言った。

「隕石である以上、どこかから降り注いだということは確実。その調査が、新しい星の発見につながるかもしれないのです」

楽しそうに話す会長。かわいい。

『新しい星か。それなんだけど、ユキさんの故郷探しに応用できないかな?』

ユウイチさんが話に入ってきた。

「え、私の?」

『そうだ。ユキさんはプライムによって、この世界に連れてこられた。ただの宇宙ではなく、時空を飛び越えてしまっているわけだが、何か手がかりが欲しいんだ』

少しの間しん、と静かになった後、大堀くんが口を開く。

「確かに。鐘は過去を記録していた。宇宙から飛来したものに、時空に干渉する機能があるかもしれない」

「えぇ、ユキちゃんは自分の意思でここに来たわけではありません。であれば、」

「あの!」

なんか、話がどんどん進んでる気がする。だから、一旦言わないと。

「どうした、明上?」

「私、もしふるさとが見つかったら……帰らなくちゃいけないんでしょうか」

気になるのは、そこ。今はまだ、クロト先生がお隣さんだったことぐらいしか思い出せてない。それに、帰りたいと思ってるわけじゃない。

「いいえ、『しなくてはならない』と、強制するわけではありません。ですが、帰り道が分からない今より、それが見えている状態にした方が良いものですわ。見えた上で、どうするかを決める。貴女の道は、貴女が決めるものです」

目をしっかりと見て、そう言われた。私が決める。そっか、

「金剛Pを倒した時みたいに、私が決めるんですね、イレーヌ先輩」

「そういう事です。今後の私達の方針としては、ユキちゃんの故郷となる世界を探しつつ、アーマイターとして、この学校や地域の平和を守る……というものにしていきたいと思っていますが、いかがでしょうか」

私のふるさとを探してくれて、アーマイターとしても、このままでいられる。嬉しい。

「ありがとうございます、イレーヌ先輩。それと、大堀くんも。私、まだここでアーマイターやってていいんだね」

私のふるさとはわからないけど、この学校のみんなが居てくれるのは、とっても嬉しい。今の私には、それが大事だから。

「すぐに帰り道が見つからない以上、今まで通りの生活をしてもらうしかないだけだ。それに、地域を守るのもアーマイターとしての務めだろう。ですよね、会長」

「えぇ。残念ながらこの世界は、悪さをするモノがどこかに出てきます。そのためのアーマイターシステムですし、それを悪用する者も居ます。なのでユキちゃんには、私と共に。このハヤサキシティのアーマイターとして、一緒に活動していただきたいのです」

「はい!私、一緒にアーマイター、やります!」

手を挙げながら立ち上がって言う。中学までの私からは、考えられない事だけど。今の私は、アーマイターヘレイデンだから。

「では!一緒に頑張りましょうね、ユキちゃん!」

立ち上がって、私の手を握ってくれるイレーヌさん。

「よろしくお願いします!イレーヌさん、大堀くん!」


**


一方その頃。ユキの故郷の世界。

「はい、はい、ありがとうございます。今日から復帰です。あっちの世界での報告は、送った通りです」

宮間クロトは、病院をあとにしつつ、電話をしていた。 

「田城優一はHELLカリバーと一体化していて、邪魔が入らなければ確保出来たんですが……アハハ、はい。あぁ、あの人行くんですか。ボクよりかは確かに、連れ戻せるかもしれませんねぇ……」

通話は続き、話題が変わっていく。

「で、ボクの部隊が潜入中のあそこ、どうなってます?……はい、はい。あー……やっぱり、手強てごわそうですね。アーマイターライロード。あの宇宙人、まさかウチにも仕掛けてくるとは。アーマイターなんて、この世界にありませんからね」

河原かわらを歩きながら、遠くを見つめる。

「やるだけやってみます。娘さんがいつ帰ってきてもいいように、この世界を守るのが、今のボクの仕事。そうでしょう?」

見つめる先にあるのは、上部が雲に覆われた、西洋の城。周囲が薄暗いが、その城だけは不自然に光り輝く。

「いつまでも部下だけに任せるわけにはいきませんから。では、また後ほど」

電話を切り、端末をズボンのポケットに突っ込む。

「さてと。ユキちゃんのためにも、ライロードを止めないけんね」

黒い翼をはためかせ、空へ飛び上がる。

「こっちは任せるやんね、ユキちゃん!」

ビュン!と大きく飛び、一直線に城へと向かって飛んでいく。

本来、ヒーローのいない世界に現れたアーマイター。

ライロードの侵略を止められるのは、潜入時の護身用とはいえ、テンカラスの力を手に入れているクロトのみ。

息をつく間も無く、決戦の火蓋ひぶたが切って落とされようとしていた。

ユキが元の世界へ帰れるのはいつなのか、それはまだわからない。

けれど、遠く離れても、その帰りを待つ者は居る。

「____それでも、待っているよ、我が姫。君を迎え入れるため、世界を敵に回したのだから!どうか忘れないでくれたまえよ、夢希。孔雀院クジャクイン夏輝ナツキが、王となって待っているからね!」

オトメ途上のヘレイデン【パイロット版】





【あとがき】

こんにちは、エダハ サイです。

えー、色々ありまして、この3話までで今のヘレイデンは一旦!幕を閉じることになりました。

そのため、タイトルには【パイロット版】と付けております。

この話を書いている途中で一度閉じることを決めたので、今回のべモリーが倒されたあたりまでは、話が続くつもりで書いていました。

なぜ一度閉じるのかと言いますと、1話をやり直そうと思ったからです。

2話、3話と書き進めていると、1話はかなりゆっくり、落ち着きすぎた始まりをしてしまったなぁ、と気付いたのです。ヘレイデンの相談相手の友人からは2話の時点で言われていたのですが、3話で私も分かったのです。

そのため、急に幕を閉じる事になったヘレイデン。これがもう、大変でした!

ここからはネタバレを含みます。ヘレイデン本編を飛ばしていきなりあとがきを見るタイプの人は居ないと思いますが、念の為。

さてさて、3話はクロト先生がHELLカリバーを奪い、金剛Pがヘヴンディを倒したところで、「続く」になり、そこから先は4話で描くつもりでした。ちょうどそれを書いていたあたりで、「一旦締めよう!」と決めたので、4話以降の話を一気に持ってくることになりました。

金剛Pが出てきたのは、本来顔見せのためでした。最終決戦は15話あたりのつもりだったので、ふわっとした事しか決まっていなかったのに、かなり前倒しで行ったわけです。

他にも、様々なものを前倒しにしました。宇宙に行ったり、クロト先生がアーマイターになったり、ほぼ完全体のHELLが出てきたり、などなど。

「こういう流れにできたらなぁ」と思ってたことばかりだったので、繋げ方はかなり土壇場で行ったのですが、なんでかうまくいったものが多かったように思います。

前倒しではないこともあります。金剛Pとの決着の着け方や、理事長についてはこのルートだけのものになるはずです。

多くのことを前倒しにして、飛ばしたものがあったからこそ、昴鐘高校という土壌を活かした決着になりました。

「金剛Pと決着を着ける」ことと、「HELLとヘレイデンが並び立って戦う」は本来別々の章で行うはずだったので、書いている私でさえ「こんなのが見れるんですか!?」と驚きました。

ヘレイデンを書いてる時って、書き手は確かに自分なのに、どこか読み手になっている時があるんですよ。「こんな美味しいの、いいんですか!?」「良いのです。書き手は己自身。好きを詰め込む!止めるものは居ない、少なくとも、書き途中の今だけは!ユキは、ユウイチは、金剛Pはどう動く!答えは見えているだろうならば!書き上げるのみだッ!」……といったテンションで戦闘シーンを書いていました。

ヘレイデンという作品は、今回パイロット版ということで一度幕を閉じますが、数ヶ月休止の後、また再開します。今度はパイロット版ではないもので、昴鐘高校を飛び出したユキちゃん達の活躍を描けるかと思います!その準備期間として、数ヶ月お休みします!待っててね!

さてさて。エダハはYouTube活動も再開したのですが、つい最近は合成音声を使ったラジオ動画を投稿しました。

今年行った現地イベントの感想ではあるのですが、ぜひ最後まで見てほしいなと思います。隕石を自分に落として、そのまま退場したラスボス宇宙人がいますよね?彼が混ざっているの、かも?ということで。

YouTubeにて、「エダハラジオ#1.5」、といったタイトルですので、ぜひご覧ください!

それでは、またお会いしましょう!


2024.11  

エダハ サイ
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