オトメ途上のヘレイデン 【パイロット版】

エダハ サイ

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第1章

第2話 先輩オトメのヘヴンディ

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 次の日。

 クロト先生と一緒に登校して、上履きに履き替えてすぐのこと。

 《1年生の明上あけがみユキさん、明上ユキさん。お伝えしたい事がありますので、1階生徒会室までお越しください》

 アナウンスが鳴った。

 生徒会室って、どこだろう……?

 1階って言ってたし、壁沿かべぞいに行ってみよう。


『ユキさん、壁に背中を付けて歩かなくてもいいんじゃないか?』

 ユウイチさんがキーホルダーのまま、ヒソヒソと話しかけてくる。

「ふっふっふ。これはねぇ、生徒会室を見つけるまでのミッションなんだよ。ささささっ」

 今の私は、スパイのユキ。このよくわかんない校舎に潜入して、生徒会室を目指すのです。にんにん。

「……何やってんだ、明上」

「ややっ、大堀おおほりくん!」

 しまった。見つかっちゃった。

「おはよう!」

「お、おうおはよう。で、何やってたんだ?」

 昨日のことがあっての今日だけど、なんだか元気そう。良かった。

「スパイしてたの。大堀くんもやる?」

 私の言葉に、顔をムスッとさせた大堀くん。あれ、嫌だったかな。

「やらん。明上、放送は聞いていたか?生徒会長がお呼びだ」

「あ、呼んでた人って生徒会長さんだったの?でもでも、生徒会室がわからなくて」

「やっぱりか。その案内の為に俺がつかわされたってわけだ。着いて来い」

 大堀くんはどこが生徒会室か知ってるんだ。さっすがぁ!

 お客さん用の玄関を通り抜けた隣の部屋が、生徒会室だった。

 大堀くんがノックすると、返事があってから開ける。

「失礼します。会長、明上をお連れしました」

「ご苦労さま、大堀君。では明上さん、いらっしゃい」

 会長さんにうながされて、入る。

「失礼しま~す」

「ようこそ、生徒会へ」

 昨日ぶりに見る会長さんは、ちっちゃくてかわいかった。

 入学式では壇上だんじょうに居たからそこまで感じなかったけど、実際に会ってみると、ちっちゃかった。

「初めまして!明上ユキです!」

「ごきげんよう、速崎はやさきイレーヌです」

 イレーヌ会長が差し出してきた手を握り、握手する。

「会長さん、私に用って、なんですか?」

「まずは……そうね、大堀君。まずは貴方あなたの用から済ませては?」

 握手の手を離すと、大堀くんを見ながらそう言った。

「そうですね、会長。俺としても、このままで済ませるのは決まりが悪い」

 少し離れたところにいた大堀くんがこっちに来て、

「え!?」

 いきなり、頭を下げた。

「ごめんなさい。俺は、あまりの醜態しゅうたいを見せてしまった」

 あ、謝った……意地張って謝らなさそうな大堀くんが!?

 でも、「しゅうたい」ってなんだろう。怪人になったこと?

「それと、ありがとう」

 顔を上げた彼と、目が合う。

「怪人になった俺を、お前が救ってくれた」

 大堀くん。こんなにしっかりとお礼を言って……あれ?助けた時って私は……!

「な、ナンノー、コトーカナ?私はヘレイデンってアーマイターに助けてもらったって、聞いターケド、ナー??」

 そう、私はヘレイデンだった!だから、知らんぷりをしないと!

「いや、取りつくろう事はない。ヘレイデンが明上ということぐらい、昨日で分かっている」

 え。

「えーーー!!!」

「ふふふ。すごい驚きようですわね、明上さん。かくいう私も驚きましたが、それは彼の特性によるものだったのです。ねぇ、大堀君?」

 会長さんが楽しそうに笑う。

「はい。明上、今会長がおっしゃった特性についてだが、俺は人の顔、声、名前をそう簡単には忘れないタチでな。当日中であればより正確に覚えられる」

「えっ!すごーい!」

 思わず、大堀くんに近づく。

「近い」

 下がられちゃった。男の子って、近付いてしゃべらないかも。

「顔が隠れていようと、声が分かれば顔と名前がすぐに出てくるって訳だ。教室で俺が自我を取り戻した時、何か言葉をかけていただろう。その時点ですぐに分かった」

 なーるほど。あれ?

「じゃあなんで、私の名前を聞いたの?」

 そう、私がアーマイターヘレイデンを名乗ったのは、名前を聞かれたからだったのに。

「ワケありであの格好をしていると思ったからな。それに、醜態をさらした身でもある。おたがい、その場では知らないフリをしたほうが良かったと、思ったんだがな……」

 チラリと、会長のほうを見た。

「ま~ぁ!しっかりと考えてらしたのね、大堀君。学級委員長をつとめる気質がしっかりあるようで、私感心しました」

 肩をぽんぽん、と叩いて、私の方に歩み出た。

「新しいアーマイター、ヘレイデンに挨拶あいさつがしたかったので、彼に聞き出して早速さっそく!呼び出させていただきましたわ!」

 にこっと笑う会長。

 かわいい~!それに、お人形さんみたいに綺麗きれい

「えっ、私に会いに!?」

「えぇ!そうです!この学校には、アーマイターは私だけ。そんなところに貴女がやってきてくれた!こんんんなに嬉しいことはありませんわ」

 両手で握手をしてくる。

「私だけって、じゃあ!」

「そうですとも。私がアーマイターヘヴンディです」

 昨日きのうの、白いアーマイター!

「それじゃあ、昨日教室にいたみんな、ここにいるってことですね!」

「そうなりますわね」

 なら、もうひとり紹介しないと。

「じゃあ、ユウイチさんも紹介しますね」

 カバンを下ろすと、そこについていたキーホルダーが光り輝き、

「ほっ」

 剣になってちゅうに浮いたところを、私がつかむ。

「ユウイチさん?もうひとり、協力者がいるのかしら?」

「はい!こちらユウイチさんです!」

 両手でかかえたHELLカリバーを突き出すと、話し始めた。

『えーっと……ご紹介にあずかりました、ユウイチです。ワケがあって、今はこの剣に魂を封じています。どうぞよろしく』

 会長は「まぁ!」と微笑ほほえんで、大堀くんは怪しいものを見る目つきで見ていた。

「剣に魂を!そういうのも有り得るのですね!」

「なっ、待て、いいや!お待ちください!会長。魂がどうのという、オカルトめいた事を信じるのですか?」

 やっぱり、大堀くんはユウイチさんを信じてないみたい。

「大堀くん、身体はこのHELLカリバーだけど、ユウイチさんは人なんだよ?」

「信じられるか。疑似人格を持ったAIの類いだろう。
 明上、昨日今日で少し分かってきたが、お前はだまされやすい気質がありそうだ。今回だって____」

 げ。昨日の演説みたいな長話が始まっちゃう予感……!

「では貴方は、自らが怪人と化した理由を、オカルト抜きにして説明できますか?」

 その言葉に、2人で会長を見た途端とたん

 きんこんかんこーん。

 チャイムが鳴った。あの鐘じゃなくて、録音の音声。

「あら、予鈴が鳴ってしまいましたか。ではまたお昼休みに。他の生徒会のおふたりも、その時に紹介します」



 その言葉で解散となり、私と大堀くんは教室に向かっていた。

「あの女、怪人の成立について何か知ってる可能性があるな」

 生徒会室から少し離れたあたりで、ボソッと言った。

「え、会長さんが?」

 うなずく大堀くん。本人がいないとそう呼ぶあたり、「らしい」なぁ。

「何がオカルト抜きにして説明できますか、だ。自分から、オカルトありきで成立している事を言ってるようなものだ」

「あ、そうなの?」

「さっきの言い分から予想するに、な。ある程度国語力を身につけていれば、そのくらい簡単に見立てが着く」

 へぇ。頭がいいとそんなことができるんだ。

「全然わかんなかった。私もできるかな、そういうの」

「さてな。それはお前のしろ次第しだいだ。俺は、クラス全員の成績を上げる男だからな」

 そうして、教室に着いた。

「あ、おはよーユキちゃ……と、大堀くん!?えー、なんでこの組み合わせ!?」

 教室に入るなり、チカちゃんが挨拶してきた。けど、なんだかびっくりしてる。

「おはよーチカちゃん。大堀くんねぇ、すごいんだよ。もう生徒会室の場所知ってるの」

 アーマイターのことは秘密だけど、会長さんとお話ししたことぐらいだったらいいかな?

「生徒会室?」

「うん、さっき行ってきたんだけどね、会長さんちっちゃくてか~わいいんだよぉ」

 思わず、ニマニマしながら話す。だってだって、思い出すだけでかわいいんだもん。

「えーっ!会長さんに!?遠いからちっちゃく見えるのかと思ってたんだけど、ホントにちっちゃいんだ!」

 カバンをおろしながら、チカちゃんの言葉を聞く。

「そーうなのそうなの!リスさんみたいにかわいいの!それでねそれでね、」

 その時、諸君しょくん!と声がした。

 声のするほうに振り向くと、大堀くんが教卓にいた。

「まだクラスの全員は揃っていないが、俺から報告がある」

 おほん、と咳払いをして、話し始めた。

「まずは、昨日の件の謝罪からさせてほしい。昨日の俺は、肩に力が入りすぎていた。困惑させたことも認める。すまなかった」

 と言って、頭を下げた。

 (えーっ、なんか意外だね。謝らなさそうなのに)

 ヒソヒソ耳打ちされる。私の大堀くんのイメージ、チカちゃんもおんなじみたい。

「さて、昨日決まらなかった、もうひとりの学級委員についてだが……」

 あ、そうそう。そこらへんで怪人になっちゃったから、決まらないまんまだったなぁ。一体誰になるんだろ。

「明上ユキさんとなった」

 へぇ。明上ユキさん。すごいなぁ、大堀くんと一緒に学級委員……

「えっ!?ユキちゃん!?」

 チカちゃんが叫んだ。うわぁびっくりしたぁ。

「そうだ。明上であれば、俺とは違う視点を持ち、俺よりも話しかけやすいと信じるがゆえの、選任理由となる!」

 明上であれば……って、あれ?あけがみ?

「え~~っ!私、学級委員!?」

 大堀くんとこのクラス村を導く、A組村長に!?

「え、今気付いたの!?」

「さっきからそう話している」

 2人からそう言われる。あれ、遅かった?

「おー、決まったか」

 そう言いながら入ってきたのは、

「おはようございます、さ、みんなそろそろ席着いてな」

 クロト先生だった。

「そんで、大堀君。学級委員は、君と明上さんで良いって事ですか?」

「はい。間違いありません」

「じゃ、後で登録しておきますので、席に戻ってくださいね」

 そうしてチャイムが鳴り、1日が始まった。



「クロト先生」

 2時間目、クロト先生の日本史が終わったタイミングで話しに行った。

「お、ユキちゃん。学級委員になったやんなぁ、おめでとうね」

 ニコッと笑ってくれるけれど、相談したいのはそこなんだよね。

「私、学級委員できるかなぁ?大堀くんは頭がいいけど、私はおばかさんだから、ついていけるかなって」

 先生は、一瞬きょとん、とした。

 その後、そうやんねぇ、と話し始めた。

「学級委員っていうのは、頭の良い悪いは関係ないよ。それよりも大事なのは、クラスみんなの話を聞いて、いいクラスにするにはどうすればいいか、考えることやんね」

 みんなの話を、か。

「考えるなら、やっぱり頭がよくないと」

 マジメに話す私に、あはは、って、先生は笑いかける。

「確かに考えることはある。けれど、勉強の『頭がいい』とは違うよ。
 何が『いい事』かを選んで、決めること。その『頭がいい』だけじゃ、これはうまくいかなかったりしてなぁ」

 時計を見る先生。

「んじゃ、ボクも次の授業あるから、またな」

 そう言って、急いで出ていってしまった。


 それから、お昼休みになった。

 学級委員は、みんなにとっての「いい事」を考えないといけない。

 それを聞けるような人に、なれるかなぁ?

「明上、通り過ぎている」

「はっ」

 考えながら歩いてたら、生徒会室を通り過ぎちゃった。

「失礼します」

「失礼しまぁす」

 大堀くん、私の順で生徒会室に入る。

「あら!約束通り来てくれて嬉しいわ、2人とも」

 会長さんがにっこりと出迎えてくれた。何度見てもかわいいなぁ!

「そちらの方々が、今朝けさ会えなかった生徒会メンバーですか?」

 すぐ会長さんに注目しちゃったから見てなかったけれど、生徒会室にはもう2人、知らない人たちがいた。

「えぇ、その通りよ。自己紹介をお願いできますか」

「では、僕から」

 おかっぱの男子生徒が、前に出てきた。

「2年A組、石金いしがねトワです。役職は副会長。1年生のおふたり、よろしくお願いしますね」

「2年B組、鈴森すずもりフクネです!1年生が2人も生徒会に入っていただけるとは!大っ変に嬉しい!清廉潔白せいれんけっぱくに!品行方正ひんこうほうせいによろしくお願いします!」

 その後に自己紹介してきた女子の先輩は、とっても元気な人だった。私と大堀くん、両方の手をしっかり握って握手してきた。

「は、はい!よろしくお願いします!」

 鈴森先輩の声に負けないように、私もおっきめの声で返す。

「鈴森さんは、書記と風紀委員長を兼任されています。元々は風紀委員長のみだったのですが……
 入学式前日までの『災い』の件。覚えていますか?」

 わざわい……?

『ほら、昨日話した、俺とユキさんが出会った日のことじゃないか?』

「あぁ、その日か!すみません、あんまりよく覚えていません」

 ユウイチさんの声で思い出した。なんだかあの日って、夢っぽくて。

「うんうん、素直でよろしいわ」

 会長がにっこりと笑った後、話を続ける。

「突如として大量の怪人が出現した、あの2日間」

「えっ、2日もあったんですか!?」

「えぇ、そうです。普段怪人が発生しない地域にまで魔の手が及んだと聞いていますから、記憶が混濁こんだくしているのでしょう。____その日を、私は『地獄の2日間』と呼んでいます」

 それから、イレーヌ会長を中心に、『地獄の2日間』についてお昼を食べながら話を聞いた。

 私なりにまとめると……


 ある日突然、ハヤサキシティにたくさんの怪人が現れました。

 イレーヌ会長が社長をつとめる大きな会社、ハヤサキ・コーポレーションは、アーマイター部隊を出動させて、それらを倒そうとしました。

 会社のアーマイターだけでなく、ヘヴンディや他のアーマイターも戦いました。

 けれど、怪人はたくさん。

 アーマイター達も倒れていき、時間が進むごとにピンチになっていきました。

 そんな時、伝説のアーマイターがやってきました。

 彼はひとりですが、次々と何人もの怪人を倒し、街を救ったのです。彼にかかれば、壊れた街は元通り。

 でも彼は、それから姿を見せることはありませんでしたとさ。


「伝説のアーマイターのおかげで、街の被害はほぼなくなりました。ですが、人の心の傷までは難しい問題です。

 その為、私達ハヤサキ・コーポレーションと、ハヤサキシティ共同で避難の支援制度を早急に立ち上げました」

 綺麗な白いティーカップで、紅茶を飲む会長。

「支援制度を使う人は多くいました。僕達生徒会のように、怪人の脅威に慣れている人達は、少数ですから」

 その間に、一番早く食べ終わった、石金副会長が続けた。

「その中に、入学予定だった生徒とその家族、そして本校の生徒も、多くが離れていきました。鈴森さんの前任、新海さんも」

「トワ君、それは」

 会長が、少し強い口調で止めた。

「あ……!すみません、会長」

「いいえ。ご家族の都合で離れざるを得ない人も居た、と伝える例としては適していました。ですが、今の書記は鈴森さんです」

 会長は、持ったままのティーカップを置いた。

「そうです!その後に、立候補したのがこの私!鈴森フクネなのです!」

 鈴森さんはラップに包まれたおにぎりを置き、立ち上がって言った。元気いっぱいな人だなぁ。

「時期が時期ですので!私も1年生のおふたりも!同じ生徒会1年生!共に素晴らしい生徒会にしましょうね!」

「はい!よろしくお願いします!鈴森先輩!」

 私もその情熱に圧されて立ち上がる。

「鈴森さん、明上さん。今は会議兼食事の場。立ち上がるのはよろしくなくてよ。それに、明上さんはオトメなのですから、より気をつけなくてはなりません」

 んん?なんで私だけ?

「乙女って、鈴森先輩は違うんですか?」

 そう言った時、みんなが私を見た。あれ?

 《もしかして、アーマイターかどうかが、関係してたりするのか?》

 静まりかけた生徒会室に、ユウイチさんの声が響く。

「あぁ、そうか。会長、明上はアーマイターになったばかり。そのユウイチという剣も含め、オトメについて知らない可能性があります」

 あぁ、という顔をするイレーヌ会長。

「そうでしたか!では教えてさしあげましょう!」

 イレーヌ会長は、サンドイッチが入っていたランチボックスのフタをしめて、話し始めた。

「分かりやすく言えば、昨今のアーマイターの流行の事です。乙女という漢字の真ん中に、闘志の『闘う』という文字を入れて、『乙闘女オトメ』。強力な女性アーマイター達の活躍から、いつの間にかつけられた呼び方を、私達も誇りとして使うようになったのです」

 へぇ、オトメ。乙女の字はわかるんだけど、難しい「たたかう」の漢字だってところまでは思い出せる。

「でも、私は昨日アーマイターになったばかりです。そのオトメって、誰でもなれるんですか?」

 私はおにぎりのラップをお弁当箱にしまいながら、聞いてみる。

「いい質問です、明上さん」

 ニコッと笑い、続ける会長。かわいい!

「乙闘女は誰にでもなれるわけではありません。怪人を退ける強さ、人々を護る強さ、身のこなしの優雅ゆうがさ、仲間や人々を思いやる優しさなどなど。人々から評価される点は様々です。その期待を背負い、人々をまもるのが、乙闘女なのです。アーマイターとしても大切な心構えですが、より気品が求められますよ」

 きひん……!思わず、背筋がピンと伸びる。

「会長さん!気品って、どうすればいいですか!?」

「そうですね、今度、うちにいらっしゃらない?テーブルマナー講座をぜひ明上さんに……」

 ごぉん、ごぉん……

 あ、もうお昼休みが終わるのか。

「総員!対べモリー警戒!」

 会長の顔が真面目な、少し怖いような顔になり、叫ぶ。

「え、会長さん?いま、なんて____」

「明上さんも剣を手になさい。今のは時計塔の鐘。怪人出現の合図です!」

 いつの間にか、右手に銃を持っている。ヘヴンディが持っていた、あの銃!

「わかりました!ユウイチさん!」

『あぁ!』

 ポッケに入っていたキーホルダーが、剣に変わって右手に持つ。

「あ、ああああぁぁっ!」

 書記の鈴森先輩が、頭を押さえる。まさか!

「あ、なたがた、なんデスかそれは。凶器など、風紀の乱れ。粛清しゅくせい、粛清、成敗!どんな生徒も、清廉潔白!品行方正!」

 地面から、黒いススが先輩を包んでいく。

「来ますよ、明上さん!」

「ふぬっ!」

 気合いを入れる。

「校則は人の道!強制的に高速矯正きょうせいしてあげましょう!私がオレがソレガシが!風紀の守護者なりイイィィィ!!!」

 剣道の防具とヒョウが合体したみたいな怪人になった。

「マグナム!」

 《準備は完了しております、お嬢様》

 会長さんの持つ銃から、男の人っぽい電子音声が鳴る。そして、腕を上げて銃口を天井に向けた。

「アーマイト!」

 《チェンジ ヘヴンディ!》

 ばぼん。マグナムさんの音声と共に発射された光弾が、柱になって彼女を包む。

「ユウイチさん、私たちも!」

『あぁ、やってやろう!』 

 剣を構えて、言う。

「アーマイト!」

『チェンジ ヘレイデン!』

 昨日とは違い、ユウイチさんの声で変身が始まった。炎に包まれ、鎧がついて、ヘレイデンへと変身していく!

「天の一撃、平和の号砲。速く、清く、美しく!オトメがひとり、アーマイターヘヴンディ!覚悟の程を、お魅せします!」

 白い鎧に身を包んだ、アーマイターヘヴンディが名乗りを上げる。

「真っ暗闇の悲しみは、夢と希望で、明るく照らす!アーマイターヘレイデン!悪を裁くオトメ、目指します!」

 私も、自然と名乗っていた。あれ、昨日とは格好も変わってる。ちょっと、ヘヴンディっぽい?

「ヘヴンディさん、昨日から不思議なんですけど、この名乗りって……」

「私語ォ!厳禁打ち!」

 ものすごいスピードで、ヒョウ怪人が打ち込んできた!

「わ!」

 HELLカリバーを横に持って、それを防ぐ。

「会長!僕達は避難指示を!大堀君は1階から。僕は4階から順に回る!」

「分かりました、副会長。明上!無理はするなよ」

 そのさなか、2人は行動を開始した。

「ありがとう、大堀くん!」

「お願いしますわ、2人とも」

 ヘヴンディの銃が火を吹き、ヒョウ怪人に当たる。けど……

「何か当て、当てた!当てましたねェェ!粛清執行妨害!執行妨害!」

 私から、ヘヴンディの方へ竹刀を振り下ろす!

「通常の弾では通じないようですね。なら!」

 腰に付けたケースから、カードを取り出した。

 《『二十頭の巨龍トゥエンティーズ・ヘッズ・ギガントドラゴン』ガトリング!》

 大きなドラゴンの頭を束ねたような、ガトリング砲のオーラが銃口の手前に出現する。

「これはどうかしら!」

 どたらたたたた……!と銃弾の雨がヒョウ怪人に打ち付ける。

「非行、非道、許すまじ!ソレガシは屈せず、風紀の為に!鉄血、鉄人!昭和のエンジン!ヤアァァッ!」

 途中から手に持つ竹刀で銃弾をさばいて、ヘヴンディに近づいていく。

『ユキさん!奴はこっちの事に気付いていない!』

「じゃあ、今がチャンスですね!」

 剣に炎が灯る。そして、怪人の横に回り込む。

「せーのっ、どーん!」

 ごん。

 あれ、固い!

「風紀鉄人に、小細工など通用せぬ!校則が暴力に負けるわけ、無いのですからねェ!」

 竹刀を地面に叩きつけると、生徒会室の長机が、黒いオーラに包まれて浮かび上がった。

「整列」

 長机が3脚、ピシッと1列に並んだ。

「突撃!」

 机が私達におそいかかってくる!

「仕方ありません、斬ります!」

「分かりました、ヘヴンディさん!」

 ヘヴンディは新しいカードを銃に読み込ませる。

 《『ライトニング・鬼ソウル』ブレード》

 銃口の先に青いイナズマの剣が出現した。

「私も!」

 HELLカリバーに炎をもう一度、灯す!

「はっ!」

「めーん!」

 2人で長机達を一気に切り裂いた。ばちばきぃーー!と聞いたことない音をたてたので、ちょっとびっくり。

「あなた方ァ!備品を壊しましたね!危険物持ち込み!それに重ねて備品破壊も!校則違反確定です!」

 ピシンピシン!と竹刀を地面に叩きつけて、怒ってる。

「いいえ!生徒会長たる私が許可しています!予算は前年度繰り越し分から!申請は____マグナム!」

 《2秒前に申請送信を完了しました、お嬢様》

 マグナムさんって、ただの武器じゃなくて書類も作れるんだ!

「故に!これは処分予定備品の、生徒会による解体作業!校則には違反しておりませんわ!」

 左指をピンと伸ばして、怪人に向けるヘヴンディさん。よくわかんないけど、校則違反じゃないみたい!

「かァんけい無い!ダメだダメだダメだァ!風紀を乱すヤカラは全て!軒並のきなみ!丸ごと!反省部屋行きです!」

 竹刀に、怪人の全身から黒いモヤモヤが集まっていく。そして、その真ん中に「反省部屋」の文字が光る!

「校則直行!反省部屋ァ!」

 竹刀がこっちに向かって投げられる。

 私も会長も、それを斬ろうと身構えた途端、

 ぴしゃん!

 と扉が閉まった。

「え?」

 さっきまで竹刀が見えていたのに、突然教室の扉がでてきて、閉まった。うぅー。ボタンの掛け違えみたいな、モヤモヤした感じ。

「どうやら私達、閉じ込められた様ですわね」

 あたりを見渡すと、ドア以外は真っ白な壁に囲まれた部屋だった。

「でも、ドアがありますよ!すぐに出ればいいんですよ!」

 そう言って、ドアに走り出す。え、あれ?

「ドアが離れてく~!」

 近付こうとしても、ドアがそのままの位置になきゃ、出られない!

「やはり、ここは特殊な空間。真っ当な脱出方法は通用しないと考えた方が良いのでしょうね」

 ドアがあるのに出られないなんて。どうすればいいんだろう。

「うーん……壁を壊して出る、とかですか?」

「それもおそらく、あの怪人の言うところの『校則違反』になるのでしょうね。

 ここはおそらく『反省部屋』。反省の態度や文を表明すれば出られる……と言った所でしょうか」

 反省か。こういうのって、泣いちゃうと変に怒らせちゃったりして、長引いちゃうものだよね。

「ヘヴンディさん、一緒に『ごめんなさい』しましょう」

「……はい?」

 ヘヴンディことイレーヌ会長は、バイザーの奥で目をぱちくりしている。

「悪いことをしたら、『ごめんなさい』って謝るのが、一番じゃないかなって、私思うんです。今朝、大堀くんが私に『ごめんなさい』って謝ってきて」

「あぁ、今朝のアレですわね。……そうね、確かに効果的かもしれない。校則違反でないように書き換える行動は、現に失敗したものね」

 うん、せっかく会長さんが校則違反じゃないようにやりくりしてたのに。

「ひどいですよね、ダメだダメだーって。校則じゃなくて、ただ自分が認めてないからダメだなんて」

『いるんだよなー、そういうヤツ!』

 突然、ユウイチさんが入ってきた。

『校則だなんだって言いつつ、結局自分が気に入らないから、あることないこと言ってくる。そんな頑固者は、俺達で倒して、頭を冷やしてもらわないとな』

 ユウイチさんも、ああいうタイプに心当たりがあるみたい。

「うん。まずはここから出るために、謝りましょう!」

「えぇ、あなただからこそ、このアイデアが出ました。やってみましょう!」

 2人でドアの方をしっかり見据える。

 ヒソヒソと話し合って、言う内容を決めた!

「せーの!」

「「机を壊してごめんなさい!」」

 ガラガラっ、と扉が開いた!やった!

「反省の態度を見せたことは褒めてやろう、校則違反者ども」

 扉の奥で、怪人がそう話す。

「ならば!もうひと声反省してもらおう!そうすれば出してやる。反省文グラビティ・500枚コース!」

 両足が途端に重くなる。そして、目の前に原稿用紙の山と鉛筆が置かれた。

「さぁ!それを書ききって反省の態度を____」

 《『二十頭の巨龍トゥエンティーズ・ヘッズ・ギガントドラゴン』ガトリング!》

 どぱらたたたたたた!

 さっきも使っていたガトリング砲をいきなり撃ち始めた!

「ドアを開けて身をさらすなど、自ら攻撃してほしいと言っているようなものでしてよ!」

「まだソレガシに反抗を、わ、あぁっ!」

 慌てふためく怪人が、反省部屋に落っこちてきた!

「すごーい!これが狙いですか!?」

「出してもらえないのなら、共に出してもらうまでの事です!」

 カッコよくて、かわいい。会長さん、すごいなぁ。これがオトメか。

「抜かった!し、しかし!ソレガシが監視できるというもの!さぁ書いてもら……おぉ!?」

 ヘヴンディさんの方を見て、驚いている。私もそっちを見ると、ものすごい速さで文を書いていた。

「明上さん!私はあなたがやってきて、嬉しかったんですのよ!この学校は、そもそも怪人が発生しやすい土壌どじょう。それを、私ひとりで、アーマイターとなって戦い続けて2年!生徒会の皆さんも支えてくださいましたが、ほぼ力技で解決してきたようなもの!」

 ものすごいスピードで書きながら、続ける。

「そして3年生になった。あと1年だけですが、されど1年。生徒の皆さんを守りきれるか、不安でした。そんな時!入学式の昨日、あなたがやってきた!2人で一緒に、この学校を守れる!そして、見たところ新米アーマイター。ならば私の知識や経験を、伝えられる!」

 イレーヌ会長、そんな事を思ってたんだ。ひとりぼっちのアーマイターで、2年間。

 さらっと言ってるけど、2年って、長い。話してる以上に、大変なことの連続だったはず。

「明上さんの人柄にも、安心しましたのよ。人あたりが良さそうで、ちょっと不思議な、その人柄。まだ出会って2日で、私はあなたの事を全然知らないけれど、もっと知りたい!仲良くなりたい!アーマイターの事を、もっと伝えたい!」

 話しながら、原稿用紙の山が8割は書き進められてる!反省文って、そんなに何を書いてるんだろう……

『……ユキさん、右手を貸してくれないか?』

 足の重さで、さっき床に突き刺したユウイチさんが言う。

「いいけど、どうしたの?」

『おそらく、イレーヌ会長はヤツの思い通りの反省文なんて書いていない。今話していること……今までのアーマイター活動や、学園生活についての反省文を書いているんだ』

 え?どういうこと?

「それって、アリなんですか?」

『それはヤツ次第だからわからないが、反省文のテーマは、幸いにも指定されていない。ただ反省文を書けと言っているだけなら、俺達にも勝機はある』

 そっか、テーマなしの反省文を書くだけなら……!

「いやいや、でも500枚ですよ?」

『今はアーマイターに変身中だ。身体能力は上がってるし、疲労感も変身前よりは段違いになっている。俺はアーマイター活動の反省文を書く。ユキさんは書けそうなもの、あるか?』

 反省できそうなもの、うーん……あ。

「ちょっと恥ずかしいかもしれないけど、あります」

『どのくらい書けそうだ?』

「勝手に会長さんをかわいいと思ってる事の反省、3枚!」

 書けそうな反省は、このくらいしか思いつかない!

『よしきた!そのくらいは残しておく!右手、借りるぞ!』

 そう言うと、HELLカリバーはその剣の形をしたチャームがついた、ヘアゴムに変わった。そして、右手首にはまる。

『執筆スタートだ!』

 右手が勝手に動いてペンを握り、すごい勢いで書き始める!

「書けましたわ!反省文500枚!」

 びたん!と紙の山が床に叩きつけられる。すごい、私とユウイチさんが会議してる間にもう!

「な、何ィーーー!?バカな、500枚だぞ!?書ききったというのか!」

「書けと言ったのは貴方でございましょう?それともまた、ルールを曲げるおつもりですか?校則に厳しい貴方が、ルールを曲げると?」

 足の重りが解除されたヘヴンディさんが、ずん、ずんと迫る!

「む……ぐっ!ルールは、ルール……!ソレガシに二言なし、確認させてもらう」

 怪人が、パラパラと原稿用紙の山をめくる。

「見たところ、同じ内容の繰り返しや不必要な改行で枚数を稼いでいるわけではない。し、信じられん……」

 私の右手はすごい勢いで書き進められていく。本当にユウイチさんが手を乗っ取っていて、右手はまったく言うことを聞かない。

「私はこの反省文で、自らをかえりみました。次は、ヘレイデンのおふたり。このペースであれば、私同様に500枚は書ききることでしょう。ここから出られるようになるのも、時間の問題ですわね。自業自得のルールで苦しむ様はいかがかしら?」

「ぬ、ぬぅ……!」

 ざっと数えたところ、200枚を超えた。

「すごい、行けるよ、ユウイチさん!」

『ありがとう、ユキさん!アーマイターの戦いで、反省点なんて山のようにあるからな!初期の初期から、書きまくってやるぜ!』

「わ、わかった!お前達の態度はわかった!反省部屋から、出て良し!」

 その声と共に、白い空間が燃えるように消えていき、竹刀に黒い炎として収まった。

「わ!出られた!」

『278枚。まだ書けたが、出られたならもう書くことはないな!』

 私たちは元の生徒会室に戻っていた。

「お、お前達が本当に、反省文を書き切る根性の持ち主ということは……えー、わかった!」

 なんだか、さっきと比べて全然迫力がない。

「では、降参して鈴森さんを返していただけますか?」

「ぬううっ!こ、降参だと!?ソレガシは校則の番人にして風紀委員の権化ごんげ!屈する訳にはいかぬ、いかぬのだ……!」

 ヤケになったのか、竹刀をかかげて突撃してくる……と思いきや、ぴたっ、と動きが止まる。あれ?

「うおおおお!!!おふたりとも!大っ変に!ご迷惑をお掛けしました!」

「鈴森さん!」

「鈴森先輩!戻ってきたんですね!」

 怪人の意識から、鈴森先輩の声がした!

「はい!それはも……な!ややっ!また後ほど~」

 黒い炎のようなオーラが強まった。

「まったく。不良にそそのかされ、ましてや謝るなど。腑抜ふぬけた風紀委員も居たものだ。やはりソレガシが!永久に風紀委員として君臨し続けなければならんようだなァ!」

 黒い炎で、竹刀の剣先が伸びる。

 《『フォトニクル』フォトンタイム!》

「腑抜けてなど……いません!」

 いつの間にか怪人の懐に入り込んでいた彼女が、拳を叩きつけた!

「鈴森さんは、風紀委員長でありながら、書記も兼任してくださった。その申し出が、どれほど嬉しかったか。それを愚弄するのであれば!徹底的に打ちのめします!」

 怒っている。それは、イレーヌさんの語気、バイザー越しの表情、空気。そういうものから感じ取れた。

「校則を守り、地域住民や先生方から褒められる事こそ!学生の本分!本望!本懐!それが分からないとは、学生の風上にも置けぬ。不良生徒としては『らしい』とも言えるかァ?」

 殴り飛ばされてなお、立ち上がりながら、怪人が言う。

「それは違う。違います!」

 私は、それに反論する。

「校則を守ることは、確かに大事かもしれない。でも、それだけじゃないよ!怒られることがあるかもしれないけど、学校のみんなと楽しく過ごす事だって、大切な事です!」

 校則だけ守る学校生活なんて、寂しいよ。校則を破らなくても、楽しい思い出は出来るはず。

「何を言うかと思えばァ!学生は学生として、校則を守らねばならない!ソレガシはそう信じて歩んできた。校則も守れない学生は、ロクな大人になれないと!品行方正に、誰もの手本となるような高潔な人間こそ、ソレガシはワタシはボクは!素晴らしい人間なのだとぉっ……!」

 だんだん、人格がブレてきている。大堀くんの時と同じだ。でも、心がブレていても。言ってることはブレてない。

「ロクな大人って、なんですか?素晴らしい人間に、ならなくちゃいけないんですか?私、よくわからないです」

 多分、ヒョウ怪人の風紀委員さんと私とじゃ、『理想の大人』像が違うんだと思う。

「品行方正、学業優秀。そして高レベルの大学に進み、世界的企業に就職する。そうなる為に、校則をしっかり守った学生である事が!最低限の条件じゃないか。それが素晴らしい人間の道だ。幼稚園に入る前から、全人類に叩き込まれている事だと思っていたがね」

「えっ、なんですかそれ」

 そんな学生の最低条件、聞いたことない。

「……バカな。本当に、知らないと?」

「私の理想の大人は、子どもに優しくできる人です。ヒョウさんの言うような大人も居るかもしれないけど、」

 HELLカリバーが、ヘアゴムから剣に変化。右手に持つ。

「私の目指すものは違います。あなたの理想はあなたのもの。みんなに強制するものじゃないよ!」

 HELLカリバーに炎を宿す。防具の胴の部分に埋め込まれている、懐中時計のようなもの。大堀くんと同じなら、アレを壊して鈴森先輩を助ける!

「行きますわよ、ヘレイデン!」

「はい!」

 《フィニッシュモード、オン。ターゲットを固定しました》

 銃口に、‪✕‬字のエネルギーが集まっていく。

「天罰!ヘヴンディ・ロック!」

 水色のエネルギー弾が撃ち込まれると、ヒョウ怪人の身体が固まった!

「今ですわ!」

「行きます!」

 時計目掛けて、踏み込む!

『悪元両断!』

「ドーン・オブ・ヘレイデン!」

 炎の斬撃を叩き込む!

「……ソレガシの時代に、出会いたかった」

 怪人は爆発してススになり、中に入っていた鈴森先輩が倒れ込む。

「鈴森さん!お怪我は?」

「へへ、面目ないです、会長。身体は元気ですとも」

 ヘヴンディさんがすぐに向かい、完全に倒れる前に支えた。

 そして、HELLカリバーには黒いススが吸い込まれていった。


 副会長と大堀くんの指示で、この戦いでの怪我人は出なかった。鈴森先輩は念の為、病院で検査を受けるんだって。

「アーマイターについての話の続きをしようと思ったのですが。この有様ですもの、ねぇ?」

 校庭から、生徒会室を眺めるイレーヌ会長、大堀くん、私。生徒会室は、窓や壁が壊れていて、とても話のできる部屋じゃない。

「私ん家で良ければ、使いますか?」

「あら、よろしいの?」

「今月中はお父さんもお母さんも、帰ってこられそうにないので」

 散らかってはないはずだから、人をあげても大丈夫!

 会長は少し考えた後、ニコッと笑う。

「では、お言葉に甘えて」

「やったー!」

 嬉しくてジャンプする。

「そうか。では、俺は帰らせていただきます」

 帰ろうと背を向ける大堀くんの肩を、お待ちになって、とガッシリ掴む会長。

「わ、つよ……なんですか会長」

「アーマイターやこの学園に出没する怪人について。一番聞きたいのは貴方ではなくて?」

 そういえば、朝に大堀くんはアーマイターの事を知りたがってた。

「それはそうです、しかし女子の部屋に男がひとりで行くというのは……」

 ためらう大堀くん。なんで?

「ユキちゃん、大堀くんを部屋に呼ぶの、嫌かしら?」

「一緒に行くつもりで話してました。嫌なわけ、ないよ!大堀くん!」

 親指を立てて歓迎してみる。大堀くんって、女子だけのところだと緊張するタイプなのかな?ちょっと意外かも。

「それに、私たちにはマグナムもユウイチさんも居るのです。イノシシが出ても心配ありませんわ。ねぇ?」

 顔をぐい、と近付ける会長。横を向いて目をそらす大堀くん。

「近いです。分かりました、行けばいいんでしょう、行けば」

 よろしい、とにっこり笑って大堀くんから離れる。

「さぁ!行きましょうか!ユキちゃん!」

「はい!イレーヌさん!」

 ぱちん、と指を鳴らすイレーヌさん。

 すると、リムジンカーが校庭に乗り入れてきた!

「さ、これで行きましょう!制御は任せたわ、マグナム」

 《お任せ下さい、お嬢様》

 ということで、車で家に帰る事になったのでした。わーいリッチ!


「ユウイチさん、私、なんで昨日と姿が変わってたんですか?」

 最初の信号を過ぎたところで、ユウイチさんに聞いてみた。

『それは、今どきのアーマイターにしたからだ。ほとんどヘヴンディを参考にしたんだけど、オトメになるんなら、俺のお下がりじゃなくて、もうちょっとオトメらしいものにしてもいいと思ってな』

 オトメ。オトメかぁ。

「イレーヌさん、今日の私、オトメになれそうでしたか?」

「もっちろんよ!あの怪人に対する態度は見事なものでした。兵頭ひょうどう君も、少しは報われるかしら」

 知らない人の名前だ。ひょうどう……ヒョウドー……

「ヒョウさんのお名前ですか?」

「えぇ。あの特徴的な一人称に性格、風紀委員長と絞り込めば、該当がいとうするのはひとりだけ。平成6年度卒業生、兵頭タケミチ君よ」

 平成。平成って、西暦の1990年?あれ、89年だっけ。でも、

「思ったより最近の人なんですね」

「何が最近だ、200年近く前だろう。まぁ、言動を考えると新しくはあるが」

 あ、そっか。200年前か。

 《間もなく、目的地に到着します。停止まで少々お待ちください》

 マグナムさんのアナウンスと共に、家に到着した。

 2人をリビングに通して、お茶とお菓子を用意したあたりで、話が始まった。

「さて、何から話しましょうか」

 大堀くんが手を上げる。

「はい、大堀君」

「怪人の正体について。発生源もそうだが、特に気になるのは、俺の身に何が起こっていたのか。それを知りたいと考えています」

「良いでしょう。発生源は、我が校のシンボルとも言える時計塔、その鐘です」

 誤作動で鳴っちゃうらしい、あの鐘?

「今日、鈴森先輩が怪人化する直前に鳴ったものですか。発生の合図との事でしたが、あの音自体が引き起こすものだったと?」

「そうです。表向きには誤作動としていますが、発生パターンは不規則。誰かが意図的に鳴らしているものと推測すいそくしますが、未だに不明ですわ」

 あ、じゃあクロト先生が言ってたのは表向きの理由だったんだ。

「音が理由なら、鳴らないように縛るとか、鐘を取り外すとかって、出来ないんですか?」

 大きい鐘ってどうすればいいのかわかんないけど、何か対策できそう。

「考えられる対処法は、手を尽くしたつもりです。鐘の撤去、防音加工、ジャミング音波、等々。しかし、それらの試みは全て、元の状態に戻ってしまうのです」

「戻ってしまう?戻している犯人を特定すれば____」

「そう思い、すぐに監視カメラを設置しました。ですが、時計塔に設置した全てが、時間が巻きもどるかのように、時計塔に入れる前の場所へと戻ってしまうのです」

 大堀くんの言葉に対し、残念そうな顔をしながら話す会長。

「……まさか、それが今朝話していたオカルトの事象であると?」

「えぇ。科学的に証明できない事を『オカルト』として定義するのであれば、まさしくオカルトでしょうね」

 大堀くんが、やっぱりかー、といった顔をして目をつぶったあと、ため息をつきながら目を開ける。

「はーい、質問です」

 そこで、私が手を挙げる。

「あら、何かしらユキちゃん」

「ユウイチさんも、オカルトですか?」

 科学で説明できないなら、私に一番身近なのがユウイチさん。剣に身体吸い込まれてるし、キーホルダーとかヘアゴムにもなるし、多分科学じゃ解決できないことをしてる。

「そうですわね。器である剣を自在に変化させ、他人の右腕に憑依ひょういまで可能。ここまでの事は、我がマグナムのような高性能AIでも難しいでしょう。そして彼は、生身の人間であるとも聞きます。オカルトと言わざるを得ないでしょう」

 ユウイチさん、オカルトなんだ!やっぱりなぁ。ふふん、私の推理は当たってたんだ。

「良かったね、オカルトだって!」

 カバンについた、キーホルダーのユウイチさんに話しかける。

『それ、喜んでいい事なのか……?』

 ユウイチさんが困ったような声を出すなか、大堀くんが手を挙げていた。どうぞ、とうながされ、話し始める。

「会長。鐘がオカルトじみた事で妨害されているのは分かりましたが、その後の対策は?」

「鐘が鳴り、霊が取り憑いた生徒を探してそれを追い出す。事が起きてから対処する、後手に回る事しか出来ていないのが現状ですわ」

 お茶を飲むイレーヌさん。様になってるなぁ。茶道とかやってるのかな……んん?今の話……

「あれ?霊が取り憑くんですか?怪人になるんじゃなくて?」

 探偵ユキのカンは、ただのオカルトかどうかセンサーじゃないのです!

「ふふ。そこに気付くとは、鋭いわね」

 褒められちゃった。うれしい。

「えへへぃ」

 おせんべい食べちゃお。

「そうか……あの時俺じゃないナニカが入った感覚。あれは幽霊が入っていたという事か」

 大堀くんがボソッと言う。

「えぇ。ただし、いわゆる死者の霊ではありません。学園内で過ごした生徒たちの残留思念……生き霊に近い存在だという事が分かっています」

 いきりょう?生きているのに、幽霊?むむむ。探偵ユキ、諦めません!

「あれ?でもでも、さっきのひょーどんさん?って人は、200年前の人なんですよね?そんな昔でも、幽霊は生きていられるんですか?」

「兵頭タケミチだ」

「あ、そうそう。ひょーどーさん。へへ、ありがとう大堀くん」

 さすが大堀くん。名前をすぐに覚えてる。

「その霊は、本人が生きているかは関係ありません。
 昨日の入学式でも触れましたが、400年の歴史ある学校であるがゆえに、『そこに生きた学生の想い』は積み重なっていくもの。その一時的な感情・想いが限定的な人格となり、霊となるのです。
 先程の兵頭君や、大堀君に取り憑いた者たちは、全てそうしたものだと言われています」

 学生の想い、かぁ。「風紀を守りたい」とか、「高みを目指したい」とか、思い返してみると、怪人はひとつの事にこだわってたかも。

「つまり、その生き霊達は過去の学生の切り抜きコピーだ、という事でしょうか?」

 お茶を飲んだあと、大堀くんがまとめる。

「えぇ。端的に表すと、そうなります。
 貴方の経験を少しうかがいたいのですが、怪人になった際に、どんな思考で埋め尽くされていたか、覚えていますか?」

 私がふたつめのおせんべいに手を伸ばしたあと、大堀くんが小さいバウムクーヘンを取った。

「思い出せる限りで辿たどってみます」

 バウムクーヘンを食べつつ、腕を組んで思い出している。

「あの時の俺は、自らも含めてクラス全員の学力を上げようと、高みを目指そうと躍起やっきに……いや、ヤケになっていた。
 ただのすべり止めとして受けた学校にやって来たものでな。自分の実力がこの程度だと、認めたくなかったんだ。そして入り込んで来たのが、周囲の人間を見下していた過去を持つ霊達だった」

 ぼりぼり。おせんべいを食べつつ、話を聞く。

「あれ?大堀くんって、自分もみんなも頭をよくしようとしてたんだよね?その幽霊さんたちって、ちょっと違うんじゃない?」

「あぁ。似た要素はあるが、根本的な部分が違うと感じていた。俺に入ってきた2、3人の知らない思い出が垣間かいま見えたが、どれも基本的には周りを見下し、自分だけは周囲とは違うのだという怒りが見えた。
 会長の話と絡めて考えると、俺の考えがそれらと似ているとして引き寄せたんだろう……と、考えます」

 一気に喋ったからか、冷めつつあるお茶をぐいっと飲む大堀くん。

「ありがとうございます、大堀君。今までの事例と合わせて考えると、取り憑く霊はベースとなった、いわゆる『切り抜かれた感情』と近いものを抱えた生徒にかれる傾向があるようですね」

 会長がちらり、と正面の壁にかかっている掛け時計を見る。

「そういえば、なんであの怪人達は時計がついてるんですか?ユウイチさんは、あそこが弱点……えーと、なんて言ってたんだっけ?」

『エネルギーの炉心だ。怪人の心臓、と言った方が分かりやすかったか』

 なるほど、心臓。

「……って、言ってましたけど、やっぱり鐘が時計塔にあるからですか?」

 大堀くんも、鈴森先輩も、そこを壊して助けられた。

「おそらくそうでしょう。それに、時計がひび割れているのは、過去の存在であることを表しているのではないかと」

 《お嬢様、次のスケジュールが近付いております。怪人の名称を伝えて、お開きにするのはいかがでしょうか》

 マグナムさんの声が、腕時計からする。そっか、ユウイチさんみたいに形までは変えられないんだっけ。

「そうですね。では最後に、あの怪人達の呼称をお伝えしてお開きとしましょう」

 そう言って、立ち上がる。

「あの者達の名は、『鐘』によって発生する、切り取られた『思い出』という特性から『べモリー』。そう名付けています。ではごきげんよう、おふたりとも。明日から、生徒会業務の一環として、こうした会議を都度つど開催しますので、お忘れなく」

 そう言って、玄関に歩き出す。

「イレーヌ会長!玄関まで送ります」

「あら!ありがとうユキちゃん。お姉さまと呼んでもよくてよ」

 え!?うーん、確かに年上だし、お姉さんではあるけれど、ちょっと恥ずかしいような。

「えっと、お姉さまって呼ぶの、ふたりっきりの時にっていうのはどうですか?」

 それを聞いた途端、目がキラキラと輝いて、私の手を取った。

「えぇ、えぇ!ふたりっきり。特別でとても良いわ!うふふふ!」

 とっても嬉しそう。良かった、断らないで。

「ではまた明日会いましょう、ユキちゃん」

「はい!え……っと、お姉さま」

 ニコッ!と笑って、私の家をあとにした。

「さて。会長が居なくなったのなら、俺まで長居する事はない」

 カバンをもった大堀くんが、廊下までやってきていた。

「ゆっくりしてけばいいのに」

「学校ならともかく、お前の家でくつろぐわけにもいくまい」

 そっか。自分の部屋でくつろぎたいもんね。大堀くんは私を通り越し、そそくさと靴を履く。

「あの言い分だと、明日も朝から生徒会室に顔を出した方がいいだろう。ハヤサキ建設あたりが、明日には修繕しゅうぜんを終わらせるだろうしな」

 明日に!?

「すごいんだねぇ、イレーヌさんの会社」

昴鐘すばるがね自体が、ハヤサキグループ傘下さんかの学校法人だ。そのトップの指示なら、無理も通りやすいんだろうよ」

 そして、ドアに手をかけた。

「また明日ね、大堀くん」

「あぁ、また明日。それと、お邪魔しました」

 大堀くんが出ていって、一瞬。家がしんと静まり返ったように感じた。

『帰っちゃったな、ふたりとも』

「うん。でも、ユウイチさんがいるから、寂しくない」

『そっか。じゃ、まずは片付けからだな』

「そうだね、やろう!」

 上着を脱いで、ちょっと腕まくりをしながらリビングに戻る。

 この時はまだ、生徒会の仲間入りをしたばっかりで、考えてもなかった。生徒会と同じぐらい、クラスメイトのこともちゃんと仲良くしなきゃ行けないってことに。



 ユキ達が明上家で会議をしていた頃、職員玄関近くの校舎裏で、電話をする者がいた。

「……というわけで、田城ユウイチは見つけたんですが、おかしな事がいくつもあるんです」

 上空では、カラスが列を組んで飛んでいる。

「ユキちゃんはボクが知ってるユキちゃんそのものやし、田城ユウイチは剣のまま、人の姿にならんのですわ」

 夕暮れの角度が変わり、顔を照らし出す。宮間みやまクロト。ユキの担任にして、隣人の男。

「……分かりました、引き続き監視を続けます。その時が来ないよう、こっちも尽力じんりょくします」

 そして、電話が終わった。カラスは四方に飛び去っていく。

「……ユキちゃん、なんでこんな危ないとこに居るやんね」

 誰に言うでもなく、男はそうつぶやいた。


 第2話 終



【あとがき】


 どうも!エダハ サイです。

 ヘレイデン第2話でした!1話、2話と読み進めることで、作品の色がちょっと分かってくるんじゃないかなぁ、と思っています。私という書き手のクセも分かるかもしれません。

 1話執筆当時から比べ、途中で変更になったり、新たに定義された設定もあったりするので、そのあたりも絡めた第2話でした。

 話は変わりまして、私は小説以外にも、ラジオ動画も準備中でございます。音源は既に収録済みなんですが、久々に動画ソフト動かしたら音無し動画が出来上がってしまい、困惑しております。

 以前よく使っていたソフトを使ったのですが、現在のパソコンに負荷がかかっているとか、そのへんの事情かもしれません。何度か試してみて、ヘレイデンについてお話するラジオを皆さんにお届けしたいところです。ラジオ動画内で、キャラクターの立ち絵なんかも紹介予定です。

 動画以外でも、立ち絵が見られる場所があるといいかもしれません。それについては、また考えます。

 それでは、次回もお楽しみに!

 2024年8月

 エダハ サイ

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