蛇神様 ――藤本サクヤ創作フォークロア ＃１

６．涙雨（１）

　屋根を叩く激しい雨音が聞こえます。

　時刻は早朝。
　夜明けを迎えてもなお薄暗い部屋の中で、藤吉は膝を抱えて座り込みました。

　女中が運ぶ食事の数を数えれば、あれからもう三晩みばんは経ったことでしょう。

　ここは田之介の家の離れ。
　罪人や狼藉者ろうぜきものを閉じ込めておくための、窓すら無い座敷牢ざしきろうでございます。

　あいつを忘れるまで、ここで頭を冷やせ。
　田之介は藤吉にそう言いました。

　あの日。
　皮膚の病に効くからと田之介に飲まされた薬は、麻の葉か何かを煎せんじた眠り薬だったようです。

　正体もなく寝入ってしまった藤吉は、気付けばこの離れに閉じ込められておりました。

　あいつはな、村とお前に憑とりついた……山の妖あやかしだったんだ。
　木格子きごうしの向こうで語った田之介の言葉が今も、藤吉の胸をえぐります。

　降り注ぐ雨音は、伽耶の涙に思えてなりません。

　背中の鱗うろこのことを田之介が告げた時。
　藤吉が思い出したのは、いつかの白蛇でした。

　きっとあの白蛇が人になって、おらのために、人になって――。

　妖あやかしでも構わないと、藤吉はなおも膝を抱えます。

　おらは会いたい。伽耶に会いたい――。

　藤吉が悲しく肩を震わせた、その刹那せつな。