【完結】アヴァロンの戦士たち | 先カンブリア時代エディアカラ紀―Period of Ediacaran―

駒良瀬 洋

文字の大きさ
上 下
16 / 17

第十三章 そしてカンブリアへ

しおりを挟む
 アヴァロンの戦士たちの勇猛果敢な反撃によって、ジャンボ・キンベレラの脅威は去った。アヴァロンは再び平和を取り戻し、生物たちは日々の営みを再開することができた。

 ぷり、ぷりり。
 ヨルギアのルンバとトーゴが、排泄物を水流に乗せる。海溝のカルディオニクスまで有機物が届くように。

 ぷり、ぷり。
 ヨルギアとディッキンソニアの子どもたちが、ルンバとトーゴに倣って小さな体をいきませている。
 一番小さなディッキンソニアは、ディックの忘れ形見だ。
 ディックの死はアヴァロンに大きな痛みを伴った。ディックだけでなく、他のディッキンソニア、ヨルギア、エルニエッタの戦士たちも命を落とした。彼らの犠牲があってこそ今の平和があると、誰もが知っていた。

 ぷ、ぷ、ぷ。
 小さな小さなヨルギアが、三匹並んでいきんでいる。これはトーゴの子どもたちだ。ついこの間産まれて、ようやく動けるようになったばかりだ。
 ルンバには子どもがいない。まだパートナーすらいないのだから当然のこと。

 ズモモモモ。
 スコッティが子どもたちを迎えに来る。彼の今の仕事は、その大きな背中に子どもたちを乗せて、アヴァロン内の豊かなバクテリア・カーペットをゆっくりと巡回することだ。

 アヴァロンの生物たちは、未来に向けて新たな一歩を踏み出していた。彼らはこれまでの生活に戻るだけでなく、より強固な社会を築くための努力を始めた。
 種族をまたぐ連携、そして進化――

 トーゴによれば、昔、ヨルギアは跳ばなかった。それが、代替わりするごとに跳躍する個体が増え、今の仲間たちは若さと根気があればジャンプができるようにと変化していった。これが生物にとって進化の歩みというものであると。
 ディッキンソニアで初めて跳躍したスコッティもまた、進化のシンボルなのだろう。

 タムタムも語っていた。オバトスクータムである自分がバクテリア・カーペットをほじくっているのも、ジャンボ・キンベレラの侵略行為も、進化の証だと。
「オレっちが思うに、生物は常に進化し続けるんだ。これからは、強いやつが弱いやつを遠慮なく食っていくだろうな。
 バクテリア・カーペットを見てみろよ。黄色いやつは他のバクテリアを食って養分にしちまってるじゃねえか」
 ルンバはウッと息を呑んだ。あの酸っぱい味の黄バクテリア・カーペットを思い出した。バクテリアが他のバクテリアを侵略しているなど、砂粒ほども考えたことがなかった。
「平和だぜ~、アヴァロンは」
 タムタムはまだ小さい赤バクテリアを見つけて、そのか弱い触手でほじくり返そうとした。

「タムタム、おいしいところばかり食べてはいけない」



【エディアカラ紀、終幕】
 やがて、エディアカラ紀はその終わりを迎える。
 時代は移り変わり、新たな生物たちが海を支配するカンブリア紀が訪れた。三葉虫、オットイア、そしてアノマロカリス。彼らはアヴァロンの生物たちとはまったく異なる生態系を築き上げていった。この時代のあらゆる生物が、アヴァロンに生きた生物と「関連性がない」という説が有力だ。

 キンベレラは、エディアカラ紀の末期まで生存していたことと、地球のさまざまな海域で勢力を伸ばしていたということが確認されている。アヴァロンの生物のうち、ヨルギアやディッキンソニアは、キンベレラに駆逐されてしまったのだろうか?

 史実として、カンブリア紀の生物たちは捕食行動を高度に進化させたことが特徴で、弱肉強食の生態系を築いていった。
 アヴァロンの生物たちが新たな捕食者たちに対抗できなかったのか、また別の要因で絶滅したのか? これは現代の科学ではまだ解明しきれていない。


 もうひとつ、興味深い仮説が存在する。
 ディッキンソニアが陸上生物となっていたのではないかという指摘だ。
 ヨルギアとディッキンソニアは広義では同種のグループであり、「ベンドビオンタ」という名称のくくりが存在する。
 ひょっとするとルンバやトーゴ、そしてスコッティの子孫たちは―なんらかの原因で絶滅したものの―、冒険先に「地上」を選び、時代のさきがけとなっていたのかもしれない。


🥞🥞完🥞🥞

お読みいただきありがとうございました。
最後にあとがきを投稿して、完結となります。
いいね💖、歴史・時代小説大賞での投票等いただけると励みになりますので、気が向いたら宜しくお願いいたします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大江戸美人揃

沢藤南湘
歴史・時代
江戸三大美人の半生です。

猿の内政官の息子 ~小田原征伐~

橋本洋一
歴史・時代
※猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~という作品の外伝です。猿の内政官の息子の続編です。全十話です。 猿の内政官の息子、雨竜秀晴はある日、豊臣家から出兵命令を受けた。出陣先は関東。惣無事令を破った北条家討伐のための戦である。秀晴はこの戦で父である雲之介を超えられると信じていた。その戦の中でいろいろな『親子』の関係を知る。これは『親子の絆』の物語であり、『固執からの解放』の物語である。

直刀の誓い――戦国唐人軍記(小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で)

牛馬走
歴史・時代
(時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品)倭寇が明の女性(にょしょう)を犯した末に生まれた子供たちが存在した……  彼らは家族や集落の子供たちから虐(しいた)げられる辛い暮らしを送っていた。だが、兵法者の師を得たことで彼らの運命は変わる――悪童を蹴散らし、大人さえも恐れないようになる。  そして、師の疾走と漂流してきた倭寇との出会いなどを経て、彼らは日の本を目指すことを決める。武の極みを目指す、直刀(チータオ)の誓いのもと。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

ようこそ安蜜屋へ

歴史・時代
 妻に先立たれた半次郎は、ひょんなことから勘助と出会う。勘助は捨て子で、半次郎の家で暮らすようになった。  勘助は目があまり見えず、それが原因で捨てられたらしい。一方半次郎も栄養失調から舌の調子が悪く、飲食を生業としているのに廃業の危機に陥っていた。勘助が半次郎の舌に、半次郎が勘助の目になることで二人で一人の共同生活が始まる。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

江戸の櫛

春想亭 桜木春緒
歴史・時代
奥村仁一郎は、殺された父の仇を討つこととなった。目指す仇は幼なじみの高野孝輔。孝輔の妻は、密かに想いを寄せていた静代だった。(舞台は架空の土地)短編。完結済。第8回歴史・時代小説大賞奨励賞。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

処理中です...