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第十二章 さよなら、アヴァロンの英雄
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スコッティの巨体にジャンボ・キンベレラの凶悪な吻が食らいついた。「ビ」と嫌な衝撃が水を伝わってくる。スコッティが悪魔の吻を振りほどこうと全身で抵抗する。
ルンバは助けに入ろうとするが、戦場をかいくぐることができない。戦士たちの怒号があちこちで交錯している。先程までは頼もしかった水流も、行く手を阻む激しい乱れとなってしまった。
砂地の戦場が轟音に包まれる中、一際目立つディックの姿がジャンボ・キンベレラに突進していった。
ディックはスコッティに食らいついていたジャンボ・キンベレラを剥ぎ取って押さえ、全身を使って力強く叩きつけた。「ブッ」と紫色の外殻が破裂する。
「こっちじゃ、こっちに来んかい!」
ディックの低い声が海底に響き渡る。
ジャンボ・キンベレラがディックの挑発と新鮮な同胞の体液に反応し、みるみる集まってきた。近寄った一匹をディックが叩き潰す。その動作にできた隙をつき、数匹が鋭い吻をディックの体に食い込ませる。ディックの身があまたの攻撃に耐える音。しかし、アヴァロンのボスは力尽きない。
「なんぼのもんじゃい!」
ディックは叫びながら、そのまま這い続け、ジャンボ・キンベレラをぶら下げて海溝の崖まで引きずる。
ジャンボ・キンベレラの吻は、ディックの強靭な肉体によって逆に捉えられていた。脱出を試みてもがくたびに、ディックの体から嫌な音がする。軋むような音がするたび、ディックの体にさらに深く悪魔の吻が取り込まれていく。
なおもディックは止まらなかった。
「カルニオディスクス、ワイをこのまま連れて行くんじゃ。こ、これが男の死に様じゃーッ!」
水の流れが変わった。
海底のカルニオディスクスたちが新たな流れを作るために羽ばたいたのだ。無数のカルニオディスクスが一斉に動き出すことで、水流を操作している。その水の動きは、まるで一つの巨大な生命体が意志を持っているかのようだった。
ディックがジャンボ・キンベレラとともに、その渦に飲み込まれていく。
「スコッティ、アヴァロンを頼んだで……」
ディックの最後の言葉が、海中に響き渡る。
ディックとジャンボ・キンベレラは、海溝のクレバスへと吸い込まれていった。深い奈落の底へと姿が消え、あたりは静寂に包まれた。
生き残ったディッキンソニアの戦士たちが、僅かなジャンボ・キンベレラの残党を処理し切るのに、そう長い時間はかからなかった。
海域は静けさを取り戻した。
戦乱で濁っていた水も、澄んだ色となり落ち着いた景色となっている。
日が沈み、夜が訪れた。
アヴァロンの海域に、キラキラとした光が降り注いでいる。
満月がエオポルピタの透明な体に反射しているのだ。
ルンバとトーゴは傷ついた体を海底に横たわらせて、月明かりが降り注ぐ海面を見上げていた。
スッと、影が手を振りながら水面を横切った。タムタムだった。
スコッティは眠っている。傷を癒やすために。そしてディックの遺志を受け継ぎ、多様な種と互いに支え合うアヴァロンのリーダーとして、全力を尽くすことに備えて。
---
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回、実質的な最終回です。
いいね💖、歴史・時代小説大賞での投票等いただけると励みになりますので、気が向いたら宜しくお願いいたします。
ルンバは助けに入ろうとするが、戦場をかいくぐることができない。戦士たちの怒号があちこちで交錯している。先程までは頼もしかった水流も、行く手を阻む激しい乱れとなってしまった。
砂地の戦場が轟音に包まれる中、一際目立つディックの姿がジャンボ・キンベレラに突進していった。
ディックはスコッティに食らいついていたジャンボ・キンベレラを剥ぎ取って押さえ、全身を使って力強く叩きつけた。「ブッ」と紫色の外殻が破裂する。
「こっちじゃ、こっちに来んかい!」
ディックの低い声が海底に響き渡る。
ジャンボ・キンベレラがディックの挑発と新鮮な同胞の体液に反応し、みるみる集まってきた。近寄った一匹をディックが叩き潰す。その動作にできた隙をつき、数匹が鋭い吻をディックの体に食い込ませる。ディックの身があまたの攻撃に耐える音。しかし、アヴァロンのボスは力尽きない。
「なんぼのもんじゃい!」
ディックは叫びながら、そのまま這い続け、ジャンボ・キンベレラをぶら下げて海溝の崖まで引きずる。
ジャンボ・キンベレラの吻は、ディックの強靭な肉体によって逆に捉えられていた。脱出を試みてもがくたびに、ディックの体から嫌な音がする。軋むような音がするたび、ディックの体にさらに深く悪魔の吻が取り込まれていく。
なおもディックは止まらなかった。
「カルニオディスクス、ワイをこのまま連れて行くんじゃ。こ、これが男の死に様じゃーッ!」
水の流れが変わった。
海底のカルニオディスクスたちが新たな流れを作るために羽ばたいたのだ。無数のカルニオディスクスが一斉に動き出すことで、水流を操作している。その水の動きは、まるで一つの巨大な生命体が意志を持っているかのようだった。
ディックがジャンボ・キンベレラとともに、その渦に飲み込まれていく。
「スコッティ、アヴァロンを頼んだで……」
ディックの最後の言葉が、海中に響き渡る。
ディックとジャンボ・キンベレラは、海溝のクレバスへと吸い込まれていった。深い奈落の底へと姿が消え、あたりは静寂に包まれた。
生き残ったディッキンソニアの戦士たちが、僅かなジャンボ・キンベレラの残党を処理し切るのに、そう長い時間はかからなかった。
海域は静けさを取り戻した。
戦乱で濁っていた水も、澄んだ色となり落ち着いた景色となっている。
日が沈み、夜が訪れた。
アヴァロンの海域に、キラキラとした光が降り注いでいる。
満月がエオポルピタの透明な体に反射しているのだ。
ルンバとトーゴは傷ついた体を海底に横たわらせて、月明かりが降り注ぐ海面を見上げていた。
スッと、影が手を振りながら水面を横切った。タムタムだった。
スコッティは眠っている。傷を癒やすために。そしてディックの遺志を受け継ぎ、多様な種と互いに支え合うアヴァロンのリーダーとして、全力を尽くすことに備えて。
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回、実質的な最終回です。
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