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第十一章(1) 決戦、軟殻機動隊キンベレラ / 総員有効射程距離
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ディッキンソニアとヨルギアの連携、そしてのオバトスクータムの知略により、アヴァロン連合はジャンボ・キンベレラの制圧に成功した。
しかし被害は甚大だ。十匹参戦したディッキンソニアの戦士のうち、二匹が死亡。重傷者も五匹でている。
死闘から解放されたばかりのルンバは、トーゴとともにアヴァロンの端でバクテリア・カーペットを食み、栄養を補給していた。慣れ親しんだ食糧のはずなのに、今は味がしない。本当はタムタムにもごちそうしたかったのだけれど、どこかへ行ってしまった。お守りのトリブラキディウムも怯え続けているし、ディッキンソニアは殺気立ったままだ。
防衛戦の余韻に浸る間もなく、アヴァロンにさらなる悪い報せが舞い込んできた。血相を変えたタムタムが駆けつけ、告げた。
「ジャンボ・キンベレラの軍団が、アヴァロンに向かっている! 数、約五十匹! 西北西からの侵攻だ――」
アヴァロンの生物たちに衝撃が走る。三匹でも苦戦した相手が、五十匹も襲来するなど、まるで悪夢だ。ドップラー効果で声だけを残しながらタムタムがアヴァロンの中央に泳ぎ去っていった。
トーゴはこの事態を予期していたようで、すぐに行動を開始した。
「ルンバは戦えるヨルギアを集めてくれ。僕はディックに話をつけてくる」
トーゴはディッキンソニアの群れに向かってジャンプしていった。
ルンバは仲間を前に戦士を募った。待ち受けるのは死闘だ。しかし驚くべきことに、若いヨルギアだけでなく、老いてジャンプのできなくなった這い這い生活のヨルギアまでもが名乗り出た。
「アヴァロンに到達する前に、奴らを食い止めなければならない」
「儂は奴らに一矢報いたい」
仲間たちの決意は固い。ルンバは総勢二十匹のヨルギアを引き連れて、アヴァロンの入口へと向かった。
道中、ディッキンソニアのスコッティが合流する。
「ルンバ、おでも仕事に行く」
ヨルギアの行進速度に合わせて、ズズズと並走する巨体。スコッティはこの広い背中にヨルギアを乗せ、アヴァロンまで連れてきてくれた。優しい彼に戦場は似合わない。本音を言えば、残った十匹の小さなヨルギアたちを乗せて遠くへ逃げて欲しい。
ほとんど空になったディッキンソニアの巣から、なめらかな体をした美しい個体が見送りをしている。前に見たときよりも腹が膨れていて、いつ出産してもおかしくなさそうだ。
スコッティが笑顔で外套膜を振った。
「兄ちゃんの子どもが産まれると、おで、叔父さんになる。うれしい」
頭上では物言わぬエオポルピタの透明な体が、キラリ、キラリと太陽光を反射していた。
「来よったか」
ディックはスコッティに呼びかけたあと、ルンバとヨルギアの戦士二十匹を一瞥する。そしてフンと短く息を吐き、トーゴを呼びつけた。
ディッキンソニアのマフィア軍団は全面戦争の構えだ。先の侵略で仲間を失い、ここに集まった戦士の数は十五。
海面近くから水底との中間ゾーンまで、無数のエオポルピタが点在している。今まで見たことがない等間隔の配置だ。漂っているだけだと思っていたエオポルピタが、このように統制のとれた動きをすることにルンバは驚いた。その中にひとつだけ異なる形の影がある。オバトスクータムのタムタムだ。
アヴァロンの生物が一丸となって脅威に立ち向かおうとしている。
アヴァロン連合の指揮をとるトーゴが神妙な面持ちで、作戦を説明した。
「ジャンボ・キンベレラを、僕らに有利な地形で迎撃する」
アヴァロンから伸びる海溝近くの砂平原まで、ジャンボ・キンベレラをおびき寄せるというのだ。その場所はルンバも知っているプテリディニウムの乱立地帯だった。そのうち集団で滑り台遊びに行ったら楽しいだろうと考えていた、プレイ・ラウンド。あそこへ持ち込むのなら、まっすぐアヴァロンへ向ってくる奴らの進路を変えなくてはならないが、トーゴによればすでに手は打たれているのだという。
「奴らの仲間の死骸を囮にしておびき寄せている」
ルンバたちが砂平原への移動を始めると、海中を何かが移動しているのをおぼろげに見ることができた。歩みながら目を凝らすと、それはジャンボ・キンベレラの死骸を運ぶエオポルピタの集合体だった。そこを中心に嫌な臭いが漂ってくる。
タムタムはアヴァロン連合の動きに合わせて移動しながら「進路よし」と逐次報告している。彼が点在するエオポルピタからの情報を整理しているようだ。
やがてプテリディニウムの乱立地帯が見えてきた。
そのさらに前方では、紫の外殻が海底にずらりと並んでいる。
五十の悪魔の軍隊。
百戦錬磨のディックですら、その光景に驚きを隠せなかった。
「こいつはたいぎいのう。頼んだぞ、トーゴ司令」
トーゴが合図をすると、エオポルピタの集合体がジャンボ・キンベレラの目と鼻の先――海溝の際に降り立ち、そして霧散していく。残されたジャンボ・キンベレラの死骸が水流でゆらめく。
ジャンボ・キンベレラがあれに食らいついたら、また凶暴化してさらに厄介なことになるのではなかろうか。ルンバが見ている間にも、悪魔がその仲間の死骸にじりじりと迫っている。
しかし、ここでトーゴの目が光った。飛び跳ねて頭上のエオポルピタに合図を送る。
呼応したエオポルピタが一斉に体の向きを変え、キラキラとした太陽光を砂地に投影させた。
ドン……ッ!
地が揺れた。一瞬、ルンバには何が起こったのかわからなかった。しかし気づけば囮の死骸は海中を舞い、海溝の奈落へと落ちていった。
死骸のあった場所には、エルニエッタのグループが顔を出している。
エルニエッタ地雷だ!
数匹のジャンボ・キンベレラも地から離され、水流によって海溝へと引き込まれていく。
これも仕込まれていたエルニエッタ地雷。砂中に潜んでいた隠密なるエルニエッタ部隊が一斉に起立したのだ!
「意外と効果が少ないのぉ。こりゃあ先が思いやられる」
ディッキンソニアたちが身構えた。
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ニッチ過ぎるこのテーマ、読んでくれて本当にありがとうございます。
今週完結できるよう、執筆継続中です。
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しかし被害は甚大だ。十匹参戦したディッキンソニアの戦士のうち、二匹が死亡。重傷者も五匹でている。
死闘から解放されたばかりのルンバは、トーゴとともにアヴァロンの端でバクテリア・カーペットを食み、栄養を補給していた。慣れ親しんだ食糧のはずなのに、今は味がしない。本当はタムタムにもごちそうしたかったのだけれど、どこかへ行ってしまった。お守りのトリブラキディウムも怯え続けているし、ディッキンソニアは殺気立ったままだ。
防衛戦の余韻に浸る間もなく、アヴァロンにさらなる悪い報せが舞い込んできた。血相を変えたタムタムが駆けつけ、告げた。
「ジャンボ・キンベレラの軍団が、アヴァロンに向かっている! 数、約五十匹! 西北西からの侵攻だ――」
アヴァロンの生物たちに衝撃が走る。三匹でも苦戦した相手が、五十匹も襲来するなど、まるで悪夢だ。ドップラー効果で声だけを残しながらタムタムがアヴァロンの中央に泳ぎ去っていった。
トーゴはこの事態を予期していたようで、すぐに行動を開始した。
「ルンバは戦えるヨルギアを集めてくれ。僕はディックに話をつけてくる」
トーゴはディッキンソニアの群れに向かってジャンプしていった。
ルンバは仲間を前に戦士を募った。待ち受けるのは死闘だ。しかし驚くべきことに、若いヨルギアだけでなく、老いてジャンプのできなくなった這い這い生活のヨルギアまでもが名乗り出た。
「アヴァロンに到達する前に、奴らを食い止めなければならない」
「儂は奴らに一矢報いたい」
仲間たちの決意は固い。ルンバは総勢二十匹のヨルギアを引き連れて、アヴァロンの入口へと向かった。
道中、ディッキンソニアのスコッティが合流する。
「ルンバ、おでも仕事に行く」
ヨルギアの行進速度に合わせて、ズズズと並走する巨体。スコッティはこの広い背中にヨルギアを乗せ、アヴァロンまで連れてきてくれた。優しい彼に戦場は似合わない。本音を言えば、残った十匹の小さなヨルギアたちを乗せて遠くへ逃げて欲しい。
ほとんど空になったディッキンソニアの巣から、なめらかな体をした美しい個体が見送りをしている。前に見たときよりも腹が膨れていて、いつ出産してもおかしくなさそうだ。
スコッティが笑顔で外套膜を振った。
「兄ちゃんの子どもが産まれると、おで、叔父さんになる。うれしい」
頭上では物言わぬエオポルピタの透明な体が、キラリ、キラリと太陽光を反射していた。
「来よったか」
ディックはスコッティに呼びかけたあと、ルンバとヨルギアの戦士二十匹を一瞥する。そしてフンと短く息を吐き、トーゴを呼びつけた。
ディッキンソニアのマフィア軍団は全面戦争の構えだ。先の侵略で仲間を失い、ここに集まった戦士の数は十五。
海面近くから水底との中間ゾーンまで、無数のエオポルピタが点在している。今まで見たことがない等間隔の配置だ。漂っているだけだと思っていたエオポルピタが、このように統制のとれた動きをすることにルンバは驚いた。その中にひとつだけ異なる形の影がある。オバトスクータムのタムタムだ。
アヴァロンの生物が一丸となって脅威に立ち向かおうとしている。
アヴァロン連合の指揮をとるトーゴが神妙な面持ちで、作戦を説明した。
「ジャンボ・キンベレラを、僕らに有利な地形で迎撃する」
アヴァロンから伸びる海溝近くの砂平原まで、ジャンボ・キンベレラをおびき寄せるというのだ。その場所はルンバも知っているプテリディニウムの乱立地帯だった。そのうち集団で滑り台遊びに行ったら楽しいだろうと考えていた、プレイ・ラウンド。あそこへ持ち込むのなら、まっすぐアヴァロンへ向ってくる奴らの進路を変えなくてはならないが、トーゴによればすでに手は打たれているのだという。
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ルンバたちが砂平原への移動を始めると、海中を何かが移動しているのをおぼろげに見ることができた。歩みながら目を凝らすと、それはジャンボ・キンベレラの死骸を運ぶエオポルピタの集合体だった。そこを中心に嫌な臭いが漂ってくる。
タムタムはアヴァロン連合の動きに合わせて移動しながら「進路よし」と逐次報告している。彼が点在するエオポルピタからの情報を整理しているようだ。
やがてプテリディニウムの乱立地帯が見えてきた。
そのさらに前方では、紫の外殻が海底にずらりと並んでいる。
五十の悪魔の軍隊。
百戦錬磨のディックですら、その光景に驚きを隠せなかった。
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トーゴが合図をすると、エオポルピタの集合体がジャンボ・キンベレラの目と鼻の先――海溝の際に降り立ち、そして霧散していく。残されたジャンボ・キンベレラの死骸が水流でゆらめく。
ジャンボ・キンベレラがあれに食らいついたら、また凶暴化してさらに厄介なことになるのではなかろうか。ルンバが見ている間にも、悪魔がその仲間の死骸にじりじりと迫っている。
しかし、ここでトーゴの目が光った。飛び跳ねて頭上のエオポルピタに合図を送る。
呼応したエオポルピタが一斉に体の向きを変え、キラキラとした太陽光を砂地に投影させた。
ドン……ッ!
地が揺れた。一瞬、ルンバには何が起こったのかわからなかった。しかし気づけば囮の死骸は海中を舞い、海溝の奈落へと落ちていった。
死骸のあった場所には、エルニエッタのグループが顔を出している。
エルニエッタ地雷だ!
数匹のジャンボ・キンベレラも地から離され、水流によって海溝へと引き込まれていく。
これも仕込まれていたエルニエッタ地雷。砂中に潜んでいた隠密なるエルニエッタ部隊が一斉に起立したのだ!
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