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第九章 アヴァロンに迫り来る危機
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アヴァロンの豊かな海の中央で、連合議会が開かれた。集まったのは、アヴァロンの未来を守るために集結した各種生物の代表たちだ。動けないエルニエッタやトリブラキディウムを囲むようにして、ディッキンソニアやヨルギア、エオポルピタが集う。
議長はトーゴが務めることになった。「やらんか、ワレ」というディックの恐喝によって。しかし冷静で知略に長けたトーゴが選出されたことに異議を唱える者もなく、また彼は誰よりも今回の議題の重さを理解していた。
「皆さん、まずは僕たちが直面している現状について、すべての情報を出して話し合う必要があります」
トーゴが厳しい表情で口を開く。
「ジャンボ・キンベレラは各地で侵略を繰り返していると思われます」
集まった生物たちはざわめき、互いに視線を交わした。場の緊張がさらに高まり、ルンバの身体にもキュウと締め付けられるような感覚が走る。
「まずひとつは、僕とルンバが発見した黄バクテリア・カーペット・エリアでの失踪事件」
トーゴは続けた。
「そして僕たちの最初の集落。ここも、ジャンボ・キンベレラに奇襲を受けた可能性が高いのです」
件のジャンボ・キンベレラの死骸が市中引き回しの刑となった際に、その姿を見たヨルギアの子が一匹ひどくおびえていた。トーゴが子どもを落ち着かせて粘り強く対話すると、襲撃の夜の状況がみえてきた。その子どもは集落から命からがら逃げ出す際に、ジャンボ・キンベレラが迫りくる様を見たのだという。
ヨルギアの集落を壊滅させたとの情報に、一同は驚愕の声を上げた。トーゴは淡々と伝える。
「僕は黄バクテリア・カーペットに残されたキンベレラの死骸を調べました。そしてジャンボ・キンベレラがただの捕食者ではないことに気づきました。彼らは生きるための栄養として他の生物を手を出しただけでなく、命を奪う目的でも襲ったのです。その証拠に、殺害されたキンベレラはその身に多くの有機質を残していました」
その言葉に、会場は重苦しい水圧に包まれ、静まり返った。
沈黙を破るように、トリブラキディウムたちが騒ぎ始める。
(嫌な予感がする)
(何かが来るわ)
その時、オバトスクータムのタムタムが血相を変えて会場に乗り込んできた。
「大変だ、次のジャンボ・キンベレラがアヴァロンに向かってやがる! 数は三匹、西からの侵攻だ」
ディッキンソニアたちが防衛態勢を整えるために駆け出した。ルンバとトーゴも、一刻も早く対策を練る必要があると感じて動き出す。
「ジャンボ・キンベレラが三匹も来るなんて……どうすればいいんだ?」
ルンバは誰ともなしにつぶやいた。瞬間、ベシッと頭を叩かれる。タムタムの触手だ。
「落ち着けルンバ。ディッキンソニアの軍団が万全の態勢で迎え撃てるんだぞ。オレっちの情報の速さに感謝しろよ」
いばるタムタムに、トーゴは冷静さを保ちながら尋ねる。お守りのトリブラキディウムたちが騒ぎ出すのとほぼ同時刻に、タムタムは正確な敵の数と位置を把握して情報を伝達したのだ。
「態勢が整えられるほど早くに、よく発見してくれたね」
「へっ、あたぼうよ。オレっちにはもちろん、エオポルピタにも赤バクテリアをはずむんだぞ」
トーゴとルンバが顔を見合わせる。何をするでもなく、海中を漂っているだけのエオポルピタに貴重な赤バクテリアで謝礼を?
「お前ら、自分たちの言葉が通じないやつのことを意思がないと決めつけてるんだろ。まあ、インテリジェンスなクラゲ同士のコミュニケーションはレベルが高いから、理解できなくても仕方がないな」
タムタムがフフンと得意げなポーズをとる。
トーゴは「なるほど。広範囲に生息するエオポルピタなら、かなり離れた位置からでも伝言ゲームが成立するのか」と納得したようだった。ルンバにしてみれば、挨拶しても反応のないエオポルピタにそんな芸当ができるだなんて、にわかには信じられないのだった。
ルンバとトーゴ、そしてタムタムがアヴァロンの境界にたどり着く頃には、ディッキンソニアの軍団が堅固な防衛線を築いていた。砂地にずらりと並んだ十匹の凶悪な姿。その陣頭をとっているのはディックだ。
「ささらもさらにしちゃれいッ」
「「押忍!」」
ルンバに「ささらもさら」の意味はわからなかったが、ディッキンソニアのスコッティがこの場にいないことに安堵する。心の優しい彼に、こんな戦場は似合わない。
アヴァロンの海域は不穏な雰囲気に包まれていた。遠くからジャンボ・キンベレラの影が見え始める。水の流れに乱れが感じられた。
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お読みいただきありがとうございます。
本作品は6月の連続更新~完結を目指しています。
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議長はトーゴが務めることになった。「やらんか、ワレ」というディックの恐喝によって。しかし冷静で知略に長けたトーゴが選出されたことに異議を唱える者もなく、また彼は誰よりも今回の議題の重さを理解していた。
「皆さん、まずは僕たちが直面している現状について、すべての情報を出して話し合う必要があります」
トーゴが厳しい表情で口を開く。
「ジャンボ・キンベレラは各地で侵略を繰り返していると思われます」
集まった生物たちはざわめき、互いに視線を交わした。場の緊張がさらに高まり、ルンバの身体にもキュウと締め付けられるような感覚が走る。
「まずひとつは、僕とルンバが発見した黄バクテリア・カーペット・エリアでの失踪事件」
トーゴは続けた。
「そして僕たちの最初の集落。ここも、ジャンボ・キンベレラに奇襲を受けた可能性が高いのです」
件のジャンボ・キンベレラの死骸が市中引き回しの刑となった際に、その姿を見たヨルギアの子が一匹ひどくおびえていた。トーゴが子どもを落ち着かせて粘り強く対話すると、襲撃の夜の状況がみえてきた。その子どもは集落から命からがら逃げ出す際に、ジャンボ・キンベレラが迫りくる様を見たのだという。
ヨルギアの集落を壊滅させたとの情報に、一同は驚愕の声を上げた。トーゴは淡々と伝える。
「僕は黄バクテリア・カーペットに残されたキンベレラの死骸を調べました。そしてジャンボ・キンベレラがただの捕食者ではないことに気づきました。彼らは生きるための栄養として他の生物を手を出しただけでなく、命を奪う目的でも襲ったのです。その証拠に、殺害されたキンベレラはその身に多くの有機質を残していました」
その言葉に、会場は重苦しい水圧に包まれ、静まり返った。
沈黙を破るように、トリブラキディウムたちが騒ぎ始める。
(嫌な予感がする)
(何かが来るわ)
その時、オバトスクータムのタムタムが血相を変えて会場に乗り込んできた。
「大変だ、次のジャンボ・キンベレラがアヴァロンに向かってやがる! 数は三匹、西からの侵攻だ」
ディッキンソニアたちが防衛態勢を整えるために駆け出した。ルンバとトーゴも、一刻も早く対策を練る必要があると感じて動き出す。
「ジャンボ・キンベレラが三匹も来るなんて……どうすればいいんだ?」
ルンバは誰ともなしにつぶやいた。瞬間、ベシッと頭を叩かれる。タムタムの触手だ。
「落ち着けルンバ。ディッキンソニアの軍団が万全の態勢で迎え撃てるんだぞ。オレっちの情報の速さに感謝しろよ」
いばるタムタムに、トーゴは冷静さを保ちながら尋ねる。お守りのトリブラキディウムたちが騒ぎ出すのとほぼ同時刻に、タムタムは正確な敵の数と位置を把握して情報を伝達したのだ。
「態勢が整えられるほど早くに、よく発見してくれたね」
「へっ、あたぼうよ。オレっちにはもちろん、エオポルピタにも赤バクテリアをはずむんだぞ」
トーゴとルンバが顔を見合わせる。何をするでもなく、海中を漂っているだけのエオポルピタに貴重な赤バクテリアで謝礼を?
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タムタムがフフンと得意げなポーズをとる。
トーゴは「なるほど。広範囲に生息するエオポルピタなら、かなり離れた位置からでも伝言ゲームが成立するのか」と納得したようだった。ルンバにしてみれば、挨拶しても反応のないエオポルピタにそんな芸当ができるだなんて、にわかには信じられないのだった。
ルンバとトーゴ、そしてタムタムがアヴァロンの境界にたどり着く頃には、ディッキンソニアの軍団が堅固な防衛線を築いていた。砂地にずらりと並んだ十匹の凶悪な姿。その陣頭をとっているのはディックだ。
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アヴァロンの海域は不穏な雰囲気に包まれていた。遠くからジャンボ・キンベレラの影が見え始める。水の流れに乱れが感じられた。
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