【完結】アヴァロンの戦士たち | 先カンブリア時代エディアカラ紀―Period of Ediacaran―

駒良瀬 洋

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第八章 強襲ジャンボ・キンベレラ、ディッキンソニアの悲劇

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 二匹は急いでアヴァロンへと引き返した。その道中、ルンバの心には恐怖と不安が渦巻いていた。キンベレラの無残な姿が脳裏に焼き付いて離れない。トーゴも言葉少なに歩を進め、時折、背後を振り返る。
 沈んだ気持ちでアヴァロンを目前にしたルンバとトーゴは、すぐに新たな騒動に巻き込まれた。アヴァロンの入口付近でディッキンソニアが騒ぎ立てているのを目にしたのだ。縄張り意識の強いディッキンソニアは、いつもアヴァロンの入り口付近に仲間を配備して、よそ者に睨みを効かせている。ヨルギアのような小型の生物でも、初めてアバロンを訪れるときにはこってりとしぼられるものなのだ。

「何があったんだ?」
 ルンバが状況を確認できる位置まで駆け寄り、トーゴがそれに続いて状況を確認した。
「大型のキンベレラが一匹、ディッキンソニアと悶着を起こしているみたいだ」
 目に飛び込んできたのは、今まで見たこともないような巨大なキンベレラだった。通常の倍以上の大きさがあり、ディッキンソニアでも油断のできないサイズだ。しかも、不気味な紫の殻と屍肉のように白い外套膜という異様な色彩の組み合わせが恐怖心をあおってくる。
「あんな個体、見たことがない……」
 戦慄したトーゴが震えた声で呟いた。

 巨大なキンベレラは、ディッキンソニアのシュエイと小競り合いをしていた。シュエイはもっぱらアヴァロンの入口で検問の仕事をしていて、在りし日のルンバを詰問したのも彼である。渋々ながらもアヴァロンに通してくれたのもまた彼であった。シュエイはたくましく大きなボディであるが、今はキンベレラの動きに圧倒されている。どうやらキンベレラの個体は相当に凶暴な性格のようだ。

 キンベレラの触手のような吻がシュエイの外套膜に食らいつく。「ビッ」と嫌な衝撃が海底に響いた。凶暴なキンベレラの吻がシュエイの身を引き裂いたのだ。痛みに悶えるシュエイに追い打ちをかけて噛みつくキンベレラ。
「やめろ!」
 ルンバはいてもたってもいられず、巨大なキンベレラの側面に体当たりを仕掛けた。しかしキンベレラは意に介することなく、シュエイをいたぶり続ける。
 何度も何度も体当たりを続けるルンバ。
 騒ぎに気づいたディッキンソニアの仲間たちが次々と集まって加勢し、キンベレラに総攻撃を仕掛けた。ディッキンソニアたちの体当たりによって、ようやくキンベレラは沈黙した。

 しかし、その凶悪な吻はシュエイに食い込んだままだった。シュエイはすでに絶命して動かない。

 ルンバは深い悲しみと無力感に襲われていた。
 トーゴもまた、無言であった。



 その夜、アヴァロンの生物たちはシュエイの死を悼むとともに、此度の凶暴な襲来者について話し合った。ディッキンソニアのディックボスによれば、これはアヴァロン始まって以来の大事件だという。海の最強生物はディッキンソニアであり、過去にも同種による縄張り争いはあった。しかし、キンベレラのようにおとなしい種が歯向かってくることなどはなかったのだ。キンベレラをはじめとしたほとんどの生物は、黙々とバクテリア・カーペットをかじるか、じっとしているかというだけの存在だ。
 トーゴも補足した。ジャンボ・キンベレラ―あの異様な姿の巨大なキンベレラをほかと区別するためにそう名付けた―は捕食者であり、他の生物を侵略する意志を持っている。海中のバクテリアを食する種とはまったく動きが違う。そのため対抗の戦術を考え、より強固な防衛線を築く必要があると訴えた。

 ルンバとトーゴは、寝床への帰路でも新たな防衛策を模索した。昼夜を問わず警戒態勢を維持しなければならないだろう。ディッキンソニアに任せっぱなしにせず、ヨルギアたちも目を光らせておくべきだ。ほかのジャンボ・キンベレラがいないとも限らない。なにより、冒険先の黄バクテリア・カーペットでの出来事も、ジャンボ・キンベレラが襲撃した跡だったかもしれないのだ。
 アヴァロンには、動けない赤ん坊や年寄りがたくさんいる。彼らの安全を確保するために、ジャンボ・キンベレラを一歩たりとも立ち入らせてはならないのだ。
 重苦しい水圧がルンバとトーゴを包み込んでいた。こころなしか、アヴァロンの海水が淀んで見える。海底の夜は静寂と不安に支配されていた。

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お読みいただきホントの本当にありがとうございます。
6月中に完結できるよう引き続き頑張ります。
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