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地下都市ヴェネ編
騎兵と歩兵の乱戦について
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結局鴨の小隊はC小隊を見捨てた。
鴨の不思議なところは、そんな判断をしても隊員たちが付いてくることだ。
元々鴨は自分の美貌を兵器のように捉えていた。それゆえに女のように髪を伸ばしているのだ。その美貌があってこそ、冷徹な判断も冷静と美点扱いされがちなのである。
だが、鴨自身は極端な能力主義に傾倒しており、他人を見下しがちだった。鴨はもし鴨の言うことを完全に聞く部隊を任されれば優秀である。
そこに疑問はない。
だが、鴨の判断だけがすべての判断として軍は動かない。はっきり言うと、鴨にはまだ将器が備わっていなかった。戦略的にも戦術的にも、「ただ切れるだけで重すぎる刃」なのである。
――後方に下がったA小隊。
「鴨隊長、後方のF小隊と合流しました。F小隊の隊長がかなり怒っています。貴重な戦力を、友軍を助けなかったと」
「問題ない。文句があるなら直接言いに来いと伝えておけ」
「ですが……」
「副官、僕は無能だからC小隊を見捨てたわけじゃない。僕らが騎兵ではなかったからだ。歩兵の僕らでは挟撃のために二手に分かれた相手の部隊の後ろに回る機動力がない。また、乱戦に強いのは基本的に歩兵だが、あれだけC小隊が突出していては駆けつけても『乱戦に持ち込む前の体当たり』ではじかれる。僕らが騎兵だったなら、副官が別働隊を率いて二手分かれ、相手を挟撃、内側に囲まれているC小隊と外側の僕たちで相手を圧迫できた。だが、僕らは歩兵だった。それだけだ」
副官は納得し、黙り込んだ。
「馬は恐ろしいよ。僕らはクエーカーじゃないから霊獣の馬も扱えない。ただの馬すらない学生の身分じゃ、歩兵としての訓練が主になる。歩兵には歩兵の役割があり、そしてそれしかない」
鴨は不規則な戦場をチェスのようにしか見られない、頭の固い側面があり、だが、それでもなお優秀な将官たりえているだけの戦術眼を養っていた。
その時、一斉に廃墟街のあちこちから何十本というのろしがあがった。
「なんだ!?」
副官が慌てる。
鴨は上を見上げる。奇妙な音がしていた。
「岩盤が……天井の岩盤が……」
副官が驚いて呆然とつぶやいた。
――天井が崩れ落ちてくる!
鴨はそれを見てなお眉一つ動かさなかった。
そして叫ぶ。
「A小隊、出撃!」
そこから、地下の安全な地帯であるはずの廃墟街での、地下人と廃塵《はいじん》との戦いが始まった。
鴨の不思議なところは、そんな判断をしても隊員たちが付いてくることだ。
元々鴨は自分の美貌を兵器のように捉えていた。それゆえに女のように髪を伸ばしているのだ。その美貌があってこそ、冷徹な判断も冷静と美点扱いされがちなのである。
だが、鴨自身は極端な能力主義に傾倒しており、他人を見下しがちだった。鴨はもし鴨の言うことを完全に聞く部隊を任されれば優秀である。
そこに疑問はない。
だが、鴨の判断だけがすべての判断として軍は動かない。はっきり言うと、鴨にはまだ将器が備わっていなかった。戦略的にも戦術的にも、「ただ切れるだけで重すぎる刃」なのである。
――後方に下がったA小隊。
「鴨隊長、後方のF小隊と合流しました。F小隊の隊長がかなり怒っています。貴重な戦力を、友軍を助けなかったと」
「問題ない。文句があるなら直接言いに来いと伝えておけ」
「ですが……」
「副官、僕は無能だからC小隊を見捨てたわけじゃない。僕らが騎兵ではなかったからだ。歩兵の僕らでは挟撃のために二手に分かれた相手の部隊の後ろに回る機動力がない。また、乱戦に強いのは基本的に歩兵だが、あれだけC小隊が突出していては駆けつけても『乱戦に持ち込む前の体当たり』ではじかれる。僕らが騎兵だったなら、副官が別働隊を率いて二手分かれ、相手を挟撃、内側に囲まれているC小隊と外側の僕たちで相手を圧迫できた。だが、僕らは歩兵だった。それだけだ」
副官は納得し、黙り込んだ。
「馬は恐ろしいよ。僕らはクエーカーじゃないから霊獣の馬も扱えない。ただの馬すらない学生の身分じゃ、歩兵としての訓練が主になる。歩兵には歩兵の役割があり、そしてそれしかない」
鴨は不規則な戦場をチェスのようにしか見られない、頭の固い側面があり、だが、それでもなお優秀な将官たりえているだけの戦術眼を養っていた。
その時、一斉に廃墟街のあちこちから何十本というのろしがあがった。
「なんだ!?」
副官が慌てる。
鴨は上を見上げる。奇妙な音がしていた。
「岩盤が……天井の岩盤が……」
副官が驚いて呆然とつぶやいた。
――天井が崩れ落ちてくる!
鴨はそれを見てなお眉一つ動かさなかった。
そして叫ぶ。
「A小隊、出撃!」
そこから、地下の安全な地帯であるはずの廃墟街での、地下人と廃塵《はいじん》との戦いが始まった。
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