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4話 愛の証の宝石を見せびらかされる令嬢
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「ルミナが怖がっているのが分からないのか!? 探偵言葉に詳しいのはいいが人心が分からないのは貴族としてどうなのだ!」
ルース殿下はそういうけれど、こんなにも心の底からそっくりそのまま言葉をお返ししたいと思ったのは、十七年生きてきて初めての経験だった。
「人心というのなら私の心のことも考えてください。私はルミナ様に濡れ衣を着せられようとしているのですよ。その忸怩たる思いが分かりますか、私は犯罪などしておりませんからね。掛けられた嫌疑を払う機会くらい、王子殿下なら私に与えてくださいませ」
「うぬぅ……屁理屈女め……」
「だいたいですね、ルース殿下」
「なんだ犯人!」
「犯人ではありません。が、とにかくですね。私たちの結婚は公務なのですよ。それを忘れてもらっては困りますわ」
「だからルミナを公衆の面前で侮辱するというのか!?」
「最初に私を公衆の面前で侮辱してきたのはあなた方でしょう。よろしいですか、私に濡れ衣を掛けてまで殿下と仲良くなりたいそちらのご令嬢、そのご令嬢と愛を語らいたいのでしたらご自由になさればよいのですよ」
「なに?」
「しかしながら、私たちの婚約は国王陛下のご命令です。私たちの婚約を解消するなどというあなたの我が儘は国家の命に反しているのです。あなたは王子でしょう。ならば馬鹿なことをおっしゃられてはいけませんよ!」
「ふん。結局それか。本当に屁理屈だけは一級品だな。一級品の屁理屈悪女めが!」
「そのようなことをいってよろしいのですか? 私から殿下を取り上げてご自分が結婚なさろうとしている方がいらっしゃるようですが。しかも私に濡れ衣を着せてまで。その方こそが悪女ではないでしょうかね」
とたん、先ほどの怯えた演技はどこへやら。
ピンク髪ルミナ様がニヤニヤしだした。
「あらぁ、ついに馬脚ぺろりんですのねシルヴィア様ったらぁ」
「ルミナ様? 先ほどのお話はまだ終わっていませんよ。その手首の傷、見せてくださいませ。私は私に掛けられた嫌疑を自分で晴らしたいのです。探偵令嬢ですからね」
ルミナ様は白い包帯の巻かれた手首を後ろに隠しつつ、ピンクの瞳を反らして関係ないことをしゃべり続けるのだった。
「やっぱりとられちゃったらくやしいですものねぇ。殿下も、この宝石もねぇ」
「宝石? なんですか突然」
宝石といえば、ルミナ様がいやに豪華なピンクダイヤモンドの首飾りをしているけど……。あれのこと?
「ぼっ、防御ソウとかいうのも大事かもしれないですけど、実はもうこんな傷関係ないとこまで話は来ちゃってるんですよねぇ。くすくす……」
ルース殿下が強く頷く。
「ああそうだ。我らが真実の愛は確定したのだ。突然現れたこの首飾りによってな! ルミナと同じように突然にだ。天使は突然に現れる。色も同じピンクだし、きっとこの首飾りはルミナが天使だという証であろう!」
「……いやに『突然』を強調しますわね。私はそれより身の潔白を証明したいのですが……」
「このお城でルミナが見つけたんですよぅ! それでルース殿下に真実の婚約の証だって貰ったんですぅ!」
「その名も【桃色天使の燦然燐光】! 俺が付けた名だ。真実の婚約を守護する天使、という意味を込めた。華麗なるピンクダイヤモンドにピッタリだろう!」
分かった分かった。そんなにも手首の傷には触れられたくないのね。
まあ、ルミナ様がいっていたことも気にはなる。
私に濡れ衣をかけようとしている大事な傷だというのに、それが関係ないとこまで話が来ているってどういうことなのかしら。
しかし、殿下がこんな名前を付けるくらいのポッと出の首飾りってなによ?
しかもルミナ様がハルツハイム城で見つけた……?
ルミナ様はといえば、美しい宝石を指先でいじって光をキラキラと反射させ、その輝きをうっとりと見つめていた。
シャンデリアの明かりがピンクダイヤモンドに反射すると、まるで桜の花びらが舞うようにキラキラと光が散るのだ。
私の視線に気づいたルミナ様が、誇るように首飾りを見せびらかし始める。
「うふっ、綺麗でしょー? ルミナのものなんですよぅ。でもね、この宝石を綺麗だと思う心、それこそが何よりの殺人未遂の証拠ですのよぅー!」
ニヤニヤニヤニヤ。
かわいらしいのに人を不愉快にさせる笑顔だ。
「取り返したかったんでしょー? 『これ』も殿下も。でもそうはいかないんですよぅ!」
「まったくだ! 嫉妬に狂った女ほど愚かなものはないな!」
ルース殿下がうんうんと納得している。
確かに綺麗な首飾りだ、それは認める。
だけど……。
ちょっと待って。
国王陛下はこのことを知っているのだろうか?
ルース様の説明では突然出て来たそうだけど、あれだけの豪華な首飾りだ。
家宝――もしくはそれに類するもの、と考えるのが自然である。
ハルツハイム城でルミナ様が見つけたということは、仕舞い忘れられていたものをルミナ様が発見したということだろう。
なんにせよ、価値のあるものなのは一目見れば明らかだ。
城の主である国王陛下へ報告したのだろうか。そのうえでルミナ様に贈る許可をもらったというのか?
真実の婚約の証として贈ることを許可したとなれば、国王陛下もルース殿下の心変わりを支持している、ということになるけれど……。
というかそもそもが、ルース殿下の急な心変わりによる婚約破棄なんて、国王陛下は知っているのかしら。
ルース殿下はそういうけれど、こんなにも心の底からそっくりそのまま言葉をお返ししたいと思ったのは、十七年生きてきて初めての経験だった。
「人心というのなら私の心のことも考えてください。私はルミナ様に濡れ衣を着せられようとしているのですよ。その忸怩たる思いが分かりますか、私は犯罪などしておりませんからね。掛けられた嫌疑を払う機会くらい、王子殿下なら私に与えてくださいませ」
「うぬぅ……屁理屈女め……」
「だいたいですね、ルース殿下」
「なんだ犯人!」
「犯人ではありません。が、とにかくですね。私たちの結婚は公務なのですよ。それを忘れてもらっては困りますわ」
「だからルミナを公衆の面前で侮辱するというのか!?」
「最初に私を公衆の面前で侮辱してきたのはあなた方でしょう。よろしいですか、私に濡れ衣を掛けてまで殿下と仲良くなりたいそちらのご令嬢、そのご令嬢と愛を語らいたいのでしたらご自由になさればよいのですよ」
「なに?」
「しかしながら、私たちの婚約は国王陛下のご命令です。私たちの婚約を解消するなどというあなたの我が儘は国家の命に反しているのです。あなたは王子でしょう。ならば馬鹿なことをおっしゃられてはいけませんよ!」
「ふん。結局それか。本当に屁理屈だけは一級品だな。一級品の屁理屈悪女めが!」
「そのようなことをいってよろしいのですか? 私から殿下を取り上げてご自分が結婚なさろうとしている方がいらっしゃるようですが。しかも私に濡れ衣を着せてまで。その方こそが悪女ではないでしょうかね」
とたん、先ほどの怯えた演技はどこへやら。
ピンク髪ルミナ様がニヤニヤしだした。
「あらぁ、ついに馬脚ぺろりんですのねシルヴィア様ったらぁ」
「ルミナ様? 先ほどのお話はまだ終わっていませんよ。その手首の傷、見せてくださいませ。私は私に掛けられた嫌疑を自分で晴らしたいのです。探偵令嬢ですからね」
ルミナ様は白い包帯の巻かれた手首を後ろに隠しつつ、ピンクの瞳を反らして関係ないことをしゃべり続けるのだった。
「やっぱりとられちゃったらくやしいですものねぇ。殿下も、この宝石もねぇ」
「宝石? なんですか突然」
宝石といえば、ルミナ様がいやに豪華なピンクダイヤモンドの首飾りをしているけど……。あれのこと?
「ぼっ、防御ソウとかいうのも大事かもしれないですけど、実はもうこんな傷関係ないとこまで話は来ちゃってるんですよねぇ。くすくす……」
ルース殿下が強く頷く。
「ああそうだ。我らが真実の愛は確定したのだ。突然現れたこの首飾りによってな! ルミナと同じように突然にだ。天使は突然に現れる。色も同じピンクだし、きっとこの首飾りはルミナが天使だという証であろう!」
「……いやに『突然』を強調しますわね。私はそれより身の潔白を証明したいのですが……」
「このお城でルミナが見つけたんですよぅ! それでルース殿下に真実の婚約の証だって貰ったんですぅ!」
「その名も【桃色天使の燦然燐光】! 俺が付けた名だ。真実の婚約を守護する天使、という意味を込めた。華麗なるピンクダイヤモンドにピッタリだろう!」
分かった分かった。そんなにも手首の傷には触れられたくないのね。
まあ、ルミナ様がいっていたことも気にはなる。
私に濡れ衣をかけようとしている大事な傷だというのに、それが関係ないとこまで話が来ているってどういうことなのかしら。
しかし、殿下がこんな名前を付けるくらいのポッと出の首飾りってなによ?
しかもルミナ様がハルツハイム城で見つけた……?
ルミナ様はといえば、美しい宝石を指先でいじって光をキラキラと反射させ、その輝きをうっとりと見つめていた。
シャンデリアの明かりがピンクダイヤモンドに反射すると、まるで桜の花びらが舞うようにキラキラと光が散るのだ。
私の視線に気づいたルミナ様が、誇るように首飾りを見せびらかし始める。
「うふっ、綺麗でしょー? ルミナのものなんですよぅ。でもね、この宝石を綺麗だと思う心、それこそが何よりの殺人未遂の証拠ですのよぅー!」
ニヤニヤニヤニヤ。
かわいらしいのに人を不愉快にさせる笑顔だ。
「取り返したかったんでしょー? 『これ』も殿下も。でもそうはいかないんですよぅ!」
「まったくだ! 嫉妬に狂った女ほど愚かなものはないな!」
ルース殿下がうんうんと納得している。
確かに綺麗な首飾りだ、それは認める。
だけど……。
ちょっと待って。
国王陛下はこのことを知っているのだろうか?
ルース様の説明では突然出て来たそうだけど、あれだけの豪華な首飾りだ。
家宝――もしくはそれに類するもの、と考えるのが自然である。
ハルツハイム城でルミナ様が見つけたということは、仕舞い忘れられていたものをルミナ様が発見したということだろう。
なんにせよ、価値のあるものなのは一目見れば明らかだ。
城の主である国王陛下へ報告したのだろうか。そのうえでルミナ様に贈る許可をもらったというのか?
真実の婚約の証として贈ることを許可したとなれば、国王陛下もルース殿下の心変わりを支持している、ということになるけれど……。
というかそもそもが、ルース殿下の急な心変わりによる婚約破棄なんて、国王陛下は知っているのかしら。
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