【旧版】探偵令嬢です。夜会で婚約破棄されたのできちんと反論していたら怪盗が宝石を奪いにきました。

白樫アオニ(卯月ミント)

文字の大きさ
上 下
4 / 5

4話 愛の証の宝石を見せびらかされる令嬢

しおりを挟む
「ルミナが怖がっているのが分からないのか!? 探偵言葉に詳しいのはいいが人心が分からないのは貴族としてどうなのだ!」

 ルース殿下はそういうけれど、こんなにも心の底からそっくりそのまま言葉をお返ししたいと思ったのは、十七年生きてきて初めての経験だった。

「人心というのなら私の心のことも考えてください。私はルミナ様に濡れ衣を着せられようとしているのですよ。その忸怩たる思いが分かりますか、私は犯罪などしておりませんからね。掛けられた嫌疑を払う機会くらい、王子殿下なら私に与えてくださいませ」

「うぬぅ……屁理屈女め……」

「だいたいですね、ルース殿下」

「なんだ犯人!」

「犯人ではありません。が、とにかくですね。私たちの結婚は公務なのですよ。それを忘れてもらっては困りますわ」

「だからルミナを公衆の面前で侮辱するというのか!?」

「最初に私を公衆の面前で侮辱してきたのはあなた方でしょう。よろしいですか、私に濡れ衣を掛けてまで殿下と仲良くなりたいそちらのご令嬢、そのご令嬢と愛を語らいたいのでしたらご自由になさればよいのですよ」

「なに?」

「しかしながら、私たちの婚約は国王陛下のご命令です。私たちの婚約を解消するなどというあなたの我が儘は国家の命に反しているのです。あなたは王子でしょう。ならば馬鹿なことをおっしゃられてはいけませんよ!」

「ふん。結局それか。本当に屁理屈だけは一級品だな。一級品の屁理屈悪女めが!」

「そのようなことをいってよろしいのですか? 私から殿下を取り上げてご自分が結婚なさろうとしている方がいらっしゃるようですが。しかも私に濡れ衣を着せてまで。その方こそが悪女ではないでしょうかね」

 とたん、先ほどの怯えた演技はどこへやら。

 ピンク髪ルミナ様がニヤニヤしだした。

「あらぁ、ついに馬脚ぺろりんですのねシルヴィア様ったらぁ」

「ルミナ様? 先ほどのお話はまだ終わっていませんよ。その手首の傷、見せてくださいませ。私は私に掛けられた嫌疑を自分で晴らしたいのです。ですからね」

 ルミナ様は白い包帯の巻かれた手首を後ろに隠しつつ、ピンクの瞳を反らして関係ないことをしゃべり続けるのだった。

「やっぱりとられちゃったらくやしいですものねぇ。殿下も、この宝石もねぇ」

「宝石? なんですか突然」

 宝石といえば、ルミナ様がいやに豪華なピンクダイヤモンドの首飾りをしているけど……。あれのこと?

「ぼっ、防御ソウとかいうのも大事かもしれないですけど、実はもうこんな傷関係ないとこまで話は来ちゃってるんですよねぇ。くすくす……」

 ルース殿下が強く頷く。

「ああそうだ。我らが真実の愛は確定したのだ。突然現れたこの首飾りによってな! ルミナと同じように突然にだ。天使は突然に現れる。色も同じピンクだし、きっとこの首飾りはルミナが天使だという証であろう!」

「……いやに『突然』を強調しますわね。私はそれより身の潔白を証明したいのですが……」

「このお城でルミナが見つけたんですよぅ! それでルース殿下に真実の婚約の証だって貰ったんですぅ!」

「その名も【桃色ブリリアンス・天使の燦然フォスフォレセント・オブ・燐光ピンクエンジェル】! 俺が付けた名だ。真実の婚約を守護する天使、という意味を込めた。華麗なるピンクダイヤモンドにピッタリだろう!」

 分かった分かった。そんなにも手首の傷には触れられたくないのね。

 まあ、ルミナ様がいっていたことも気にはなる。

 私に濡れ衣をかけようとしている大事な傷だというのに、それが関係ないとこまで話が来ているってどういうことなのかしら。

 しかし、殿下がこんな名前を付けるくらいのポッと出の首飾りってなによ?
 しかもルミナ様がハルツハイム城で見つけた……?

 ルミナ様はといえば、美しい宝石を指先でいじって光をキラキラと反射させ、その輝きをうっとりと見つめていた。

 シャンデリアの明かりがピンクダイヤモンドに反射すると、まるで桜の花びらが舞うようにキラキラと光が散るのだ。

 私の視線に気づいたルミナ様が、誇るように首飾りを見せびらかし始める。

「うふっ、綺麗でしょー? ルミナのものなんですよぅ。でもね、この宝石を綺麗だと思う心、それこそが何よりの殺人未遂の証拠ですのよぅー!」

 ニヤニヤニヤニヤ。
 かわいらしいのに人を不愉快にさせる笑顔だ。

「取り返したかったんでしょー? 『これ』も殿下も。でもそうはいかないんですよぅ!」

「まったくだ! 嫉妬に狂った女ほど愚かなものはないな!」

 ルース殿下がうんうんと納得している。

 確かに綺麗な首飾りだ、それは認める。

 だけど……。
 ちょっと待って。

 国王陛下はこのことを知っているのだろうか?

 ルース様の説明では突然出て来たそうだけど、あれだけの豪華な首飾りだ。

 家宝――もしくはそれに類するもの、と考えるのが自然である。
 ハルツハイム城でルミナ様が見つけたということは、仕舞い忘れられていたものをルミナ様が発見したということだろう。

 なんにせよ、価値のあるものなのは一目見れば明らかだ。
 城の主である国王陛下へ報告したのだろうか。そのうえでルミナ様に贈る許可をもらったというのか?

 真実の婚約の証として贈ることを許可したとなれば、国王陛下もルース殿下の心変わりを支持している、ということになるけれど……。

 というかそもそもが、ルース殿下の急な心変わりによる婚約破棄なんて、国王陛下は知っているのかしら。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

さようなら、わたくしの騎士様

夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。 その時を待っていたのだ。 クリスは知っていた。 騎士ローウェルは裏切ると。 だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。

石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。 やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。 失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。 愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。

【完結】己の行動を振り返った悪役令嬢、猛省したのでやり直します!

みなと
恋愛
「思い出した…」 稀代の悪女と呼ばれた公爵家令嬢。 だが、彼女は思い出してしまった。前世の己の行いの数々を。 そして、殺されてしまったことも。 「そうはなりたくないわね。まずは王太子殿下との婚約解消からいたしましょうか」 冷静に前世を思い返して、己の悪行に頭を抱えてしまうナディスであったが、とりあえず出来ることから一つずつ前世と行動を変えようと決意。 その結果はいかに?! ※小説家になろうでも公開中

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

処理中です...