龍使いの姫君~龍帝の寵姫となりまして~

白樫アオニ(卯月ミント)

文字の大きさ
上 下
25 / 32

第24話 ありがたい忠告

しおりを挟む
「ええと……、君は巫貴妃様の世話女官の亮家麗りょうかれいを知っているよな?」

 世臣さんは慎重にそう言った。
 あくまでも男装している私たちを別人として扱ってくれる、ということなのだろう。

「はいっ、あの、わた……いえ、よく存じ上げておりますぅ……」

 家麗さんがあやうく自己紹介してしまうところだった。
 男装して後宮を抜け出してきているから、自分だ、とはいえないのよね、今は……。

「では、君を後宮関係者の少年と見込んでひとつ伝言を頼みたいのだが、いいかな」

「はい、も、もちろんですわ」

 と、家麗さんは頷いた。

「……今夜、君の主人は身ぎれいにしておいたほうがいい、と亮家麗に伝えてほしい」

「ふぁっ、ふぁっ!?」

 家麗さんの声がまた一段と裏返った。しかも顔も真っ赤になっている。

「いや、なにぶん後宮が開かれて依頼初めてのことになるからな。準備するものも多いだろうと思ってな……」

「……そ、それってあの、そういう……?」

「ああ。君も世話女官なら知っているだろう? いろいろと頑張るんだぞ……と、亮家麗に伝えていただけるとありがたい」

 うろたえまくる家麗さんに、世臣さんは優しく微笑んでみせた。

「私の直感はよく当たるんだ。龍帝陛下に失礼があってはいけないので……、一応、話を通しておこうかと思ってね」

「そ、そうでございますか……!」

 世臣さんは家麗さんの言葉を聞いて満足げに微笑むと、私に向き直った。

「……では、自分はこれで失礼いたします」

「ええ、じゃあね。雇い主によろしく。こっちの伝言くれぐれも忘れないでよ」

「はい、かしこまりました」

「あっ、あのっ」

 くるりと背を向け去って行こうとする世臣さんに、家麗さんが真っ赤な顔で声を掛けた。

「ん? なにかな?」

「あ、ありが……」

 そこまで言って、彼女は口をつぐんだ。そして、ちょこんと小さく膝を折り曲げる礼をした。

「ありがとうございます、世臣様!」

 世臣さんは一瞬目を丸くしたけれど、すぐに優しげに笑って去っていったのだった。

 ……なんか、すごいデキる人なのかも。そんなふうに思わせる去り方だった。

 で、その場に残された私と家麗さんは……。

「どっ、どうしましょうどうしましょうっ」

「え? なにが?」

 さっきから何を動揺してるのかしらね、この人は?

「えっとですね。今宵、巫貴妃様に龍帝陛下のお渡りがあるかもしれないと。そうあの方はおっしゃっておいでなのですわっ」

「は!? なにそれ!?」

 ……お渡りって、夜伽のことよね!?

 って、ちょっと待って。
 後宮を嗅ぎ回るを人を見つけたら龍帝が夜伽しにくるですって!?

 これって、雇い主が龍帝陛下だって答え合わせみたいなものじゃないの!

「こっちは明日、龍帝陛下に伺候しこうするのよ? 明日よ、明日。一晩も待てないっていうの? 今までさんざん放っておいたくせになんなのよ、急にがっつきすぎでしょ」

 どんな心境の変化があったのかは知らないけどさ。いくらなんでも急展開が過ぎない?

 男装した私のこと捜させてたみたいだし、そのことと何か関係があるのかしらね……。

「おおおおお落ち着ついてください、巫貴妃様。後宮に入ったのです、いつ何時なんどきそのようなことがあってもおかしくないのですわっ!!!」

 家麗さんが面白いくらいわたわたしてる。男装してるのに『巫貴妃様』とか言っちゃってるし……。

「家麗さんこそ落ち着いて。私は大丈夫だから」

 最初こそびっくりしたけど、もう落ち着いたわ。
 ……それが目的でここに来たのだしね。お渡りを利用して暗殺するまでよ!

 でも本当に来るの?

「す、すみません。わたしがしっかりしないといけないのに取り乱してしまい……。急いで後宮に戻りましょう!」

「ええ、そうね」

 いろいろ作戦練らないとね。暗殺のための短刀の隠し場所とか、立ち回りとか。

「わたしだって後宮女官ですわ、夜伽についての教育は受けております。おそばにおりますわよ、巫貴妃様。もしもの時はわたしがお助け致しますから遠慮なく申しつけてくださいませっ!」

「そ、そう。ありがとう……」

 家麗さんが近くにいる……? それはそれで困るわね。暗殺の邪魔になる。なんとかして遠ざけないと……。

「それでは早速参りましょうか。準備することは多いですわよっ!」

「ええ……、そうね」

 ふぅ、と息を吸い込む。いつのまにか心臓がドキドキしていた。

 そういえば、明日のために謁見の間たる太龍殿たいりゅうでんを見に行くってことだったけど……それどころじゃなくなってしまったわね。

 落ち着くのよ、私。

 ようやく巡って来た機会よ、ヘマなんかせずに必ず仕留めるのよ!

 でも、龍帝のやつ本当に来るのかしらね? 世臣さんがいってるだけなんだけど……。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

処理中です...