龍使いの姫君~龍帝の寵姫となりまして~

白樫アオニ(卯月ミント)

文字の大きさ
上 下
8 / 32

第8話 翼龍・真琉からの報告

しおりを挟む
丹花茶たんかちゃ楽しみー』

 思わぬ好物到来にうきうきな真琉しんるに、私は釘を刺さずにはいられなかった。

「あんまり期待しないほうがいいわよ真琉。ここは後宮なのよ、さすがに龍の口に合うお茶があるとは思えないわ」

『ふっふーん。まぁ見ててよ。きっとすっごい苦いお茶が来るよ』

「龍好みのやつが出てくるといいけどね……ところで真琉、定期報告お願い」

 邪魔者……といったら可哀想だけど部外者の女官・家麗かれいさんがいなくなったことで、私はようやく真琉に本題を振ることができた。

「……お兄さまの様子はどう?」

 やっぱり気になるのはお兄さまのことよね……。

 ……真琉には玖雷国の様子を定期的に見てきてもらっていた。
 兄はあれで結構な短気である。自分の思い通りにならなかったらすぐに不機嫌になるし、感情的になって暴発する。そこが気になっていたのだ。

 ……妹の私を目の前で取り逃した兄。私を龍帝の後宮に入れてしまったわけだし、どれだけ怒っているのだろうか……。

『あー、あいつね。変わりなし、以上』

 あっさりそれだけを真琉はいった。

「……もうちょっと詳しく教えてくれてもいいんじゃない?」

『といわれてもねぇ。ほんとにどこも変わりがないんだよ。君のお兄さんも相変わらず荒れてるしね。君のことを蒼霜国そうりんこくに密告した犯人を必死になってさがしているのも相変わらずだ』

「そう……。犯人は見つかったの?」

『目星はあるみたいだけど、確証がないから泳がせてる状態かな』

「お兄さまにしては我慢強いわね」

『それだけ本気なんだよあいつ。怖い怖い。あ、玖雷きゅうらいでも水氷のことは噂になってるよ。あの姫は龍使いだったのか、それで諸子なのに王宮に召し上げれたのか……ってね。それを発覚と同時に蒼霜の後宮にとられたんだから玖雷としてもいい気はしないよね』

 どこも変わりなし、という真琉の言葉が重くのしかかる。つまり、二ヶ月前からずっと玖雷国には不穏な空気が渦巻いている、ということだ……。

「あのとき私に協力してくれた龍たちは? なにか酷いことされてない?」

『ふふふ、人間ごときが僕らになにができるっていうのさ?』

「……それもそうね」

 龍は人ではない。当たり前だが、龍は龍だ。

 龍は人に対して傲慢だが、その傲慢に似合った力がある。人間などが敵うような存在ではないのだ。

『僕らは楽しいから玖雷に手を貸してやってるんだ。そこにあの変態からの逃亡だよ? 楽しくて楽しくて震えるね。それを止められる義理はないよ』

 そう。基本的に龍たちは人間に『楽しいから手を貸している』に過ぎない。本来なら使役などできない相手を玖雷国が何故使役できているかといえば、だから玖雷国は龍の機嫌をとって導く術に長けた国、ということなのである。

『それから王族たちだけど、水氷すいひょう蒼霜そうりんの後宮に差し出したのは自分たちの手柄です、と言わんばかりな顔してるのも相変わらずだね。ことを荒立てたくないってのは分かるけど、この手のひら返しって胸くそ悪いもんだよね。あれだけ揉めてたのに。あ、一つ変化はあったな。国境にいた蒼霜の兵が完全に引いたよ』

「そう、よかった……」

 ――蒼霜国の兵が完全に引いた。

 私はそのことに思わず安堵のため息をついた。

 だが、それだけだ。真琉のいうとおり、玖雷国側も、そして暗殺を志す私も――私も本当に変化のない二ヶ月間を送ったのだった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

処理中です...