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第12話 結局浮気相手を信じる元婚約者
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「お待ちなさい、ルミナ様。あなたどさくさに紛れて逃げようとしていますわね?」
「そっ、そんなことないですわよ? 宝石の安全を第一に考えてるだけですわよ。これは正当防衛っていうか正当逃亡なのですわぁ!」
「自分で言っていってしまっているではありませんか、逃亡と。そうはいきませんわよ。私もルミナ様についていきますからね!」
ほんとに語るに落ちるって言葉がピッタリな人よね。
このまま逃げおおせるつもりだったのでしょうけど、私が気づけてよかったわよ!
「えぇーでもぉ、シルヴィア様にはやってもらいたいお仕事があるからぁ」
「は?」
「えっと……」
シンキングタイムに入るルミナ様。
いやこれ私になにか仕事を作って自分が自由になりたいだけでしょ。そうはいかないんですからねっ。
「よろしいですかしらルミナさ「シルヴィア様は衛兵さんと一緒に行動してくださいです」」
私の言葉を遮り、ルミナ様はそう言ったのだった。
「……は?」
私が衛兵と? なに? なにを言い出すというの?
「えっとですね、ではここで、ルミナが考えた怪盗誘導作戦の流れを最初から説明しますわね。まずルミナは逃げますでしょ、そしたらルース殿下はここで怪盗を迎え撃ってください」
「なに? 怪盗はルミナを追っていくのではいのか?」
「ルミナが逃げるのってすごくあからさまじゃないですかぁ。怪盗さんも気づいちゃうかもしれないでしょ? だからルース殿下がここにいて怪盗を迎え撃つっていう二段構えの作戦が有効と判断いたしますのよ」
「なるほど……」
深く頷くルース殿下。
まあ、失敗することを考えて、作戦をあらかじめ二段構えにしておくというのは理にかなってはいるか。
「そして、シルヴィア様のお仕事は」
とルミナ様はそのピンクの瞳で私を見た。
「衛兵さんと一緒にルミナのあとを追いかけて欲しいのです。ルミナ様が逃げましたわ! とか叫んでもらって」
「なるほど。怪盗の注意をルミナ様に集める役目、ということですわね」
確かにそれなら私の役目としては不自然ではないわね……。
「はい。それでそれでっ、実はシルヴィア様にはもう一つお願いしたいことがあるんですの」
「これ以上なにをさせようというのです?」
「首飾りを持って、殿下のお部屋にいって欲しいんです」
「首飾りを殿下の部屋に……?」
ルミナ様は一つ頷いて続ける。
「首飾りの安全のためですの。もっとも持っていそうにない人がお宝を持つ。これはトリックの基本中の基本ですのよ」
えっへん。そんな声が聞こえてきそうなルミナ様である。
「まぁ確かにおっしゃることはごもっともですけれども……」
「シルヴィア様はルミナを追っていくふりをしながらルース殿下の部屋にいくんですの。それで宝石をルース殿下のお部屋の金庫に入れたら、宝石は『一抜け』になりますわ。これで宝石はもう安全ですのよ」
「そして俺はここで怪盗と決闘、か」
ぶるっ、とルース殿下が武者震いをした。
「なんだか凄いことになってきたな。だがこれなら確かに怪盗から宝石を守れる」
怪盗から予告状が来た時点でもう十分凄いことになっていると思いますけどね……。
でも、ね。
「私は反対ですわ」
「シルヴィア、なにを言っているのだ」
「あのですねルース殿下。落ち着いて考えて下さい。ルミナ様は逃げようとしているだけですわよ」
「ギクッ」
ああもう、わざわざ言葉でギクッとか言っちゃって。可愛いつもりなの、それ?
私はふぅっとため息をついた。
「……この作戦、ルミナ様が一人になるようになっていますでしょう。一人になってその隙に逃げたいというルミナ様の行動原理が丸見えではないですか」
「酷いですぅ。ルミナは逃げないです、あとでちゃんと出頭するですぅ!」
「嘘おっしゃい!」
「シルヴィア……。少しは人を信じたらどうだ? ルミナは信頼するに足る少女だぞ」
「は?」
え? なにを言っているの、この人?
「え、殿下? あなたはルミナ様に騙されていたのですよ? ぜんぜん信頼になど足らない人だと、先ほど身をもって分かられたはずですわよね?」
「よいかシルヴィア。ルミナは元の可憐な少女にもどったのだ。俺の愛が彼女を悪の道から救ったのだよ」
「は?」
え、ほんとになにを突然言い出すの、この人……?
「ルミナが見せたあの悪人としての姿は偽物だ、虚無だ、幻影だ。何故ならルミナは俺を騙したことを反省したからだ。そうだなルミナ?」
「はいですのぅ! もうめっっっちゃ反省しまくっちゃったですの!」
「ルミナの心を入れ替えたのは俺の真実の愛だ。そうだろうルミナ?」
「モチのロンですの! 殿下の愛ってば深くて深くて足着かないから溺れちゃうんですのよ!」
「俺の愛がルミナを反省させ、元の可憐で奥ゆかしく気の利いた少女に戻したのだ。ならば罪をゆるし受け入れるのもまた俺の愛。それが……真実の愛だ」
「なにを言ってるのですか、殿下? ルミナ様は逃げようとして演技をしているだけですわよ? ありもしない濡れ衣を着せて私を罪に陥れようとした悪人ですのよ?」
「もうそれは済んだことだろうが。俺はもうなんとも思っていないぞ。シルヴィア、もはやお前だけが私的にルミナを憎んでいるに過ぎないのだ」
「なっ……」
「それにだな、仮にこのままルミナが逃げたとしても俺にはなんの痛手にもならん。ならば怪盗誘導作戦を実行してもいいのではないか? ルミナが逃げても逃げなくても、俺は宝石さえ守ることができればそれでいいのだ。まあルミナが逃げるわけがないと俺には分かっているのだがな」
「きゃっ、さすがルース殿下ですわ。ルース殿下がいちばんルミナのことよく分かってくださっているのですわねぇ」
「……わかりましたわ」
私はため息をつく。
「そこまでおっしゃるのなら、殿下に従いますわよ」
結局、押し切られてしまった。
ルミナ様を憎んでいるのはお前だけ、ルミナ様がこのまま逃げても自分にはなんの痛手にもならない、とまで言われてしまっては……。
というか本当に自分好みの女性に弱いのね、この第二王子様……。
「そっ、そんなことないですわよ? 宝石の安全を第一に考えてるだけですわよ。これは正当防衛っていうか正当逃亡なのですわぁ!」
「自分で言っていってしまっているではありませんか、逃亡と。そうはいきませんわよ。私もルミナ様についていきますからね!」
ほんとに語るに落ちるって言葉がピッタリな人よね。
このまま逃げおおせるつもりだったのでしょうけど、私が気づけてよかったわよ!
「えぇーでもぉ、シルヴィア様にはやってもらいたいお仕事があるからぁ」
「は?」
「えっと……」
シンキングタイムに入るルミナ様。
いやこれ私になにか仕事を作って自分が自由になりたいだけでしょ。そうはいかないんですからねっ。
「よろしいですかしらルミナさ「シルヴィア様は衛兵さんと一緒に行動してくださいです」」
私の言葉を遮り、ルミナ様はそう言ったのだった。
「……は?」
私が衛兵と? なに? なにを言い出すというの?
「えっとですね、ではここで、ルミナが考えた怪盗誘導作戦の流れを最初から説明しますわね。まずルミナは逃げますでしょ、そしたらルース殿下はここで怪盗を迎え撃ってください」
「なに? 怪盗はルミナを追っていくのではいのか?」
「ルミナが逃げるのってすごくあからさまじゃないですかぁ。怪盗さんも気づいちゃうかもしれないでしょ? だからルース殿下がここにいて怪盗を迎え撃つっていう二段構えの作戦が有効と判断いたしますのよ」
「なるほど……」
深く頷くルース殿下。
まあ、失敗することを考えて、作戦をあらかじめ二段構えにしておくというのは理にかなってはいるか。
「そして、シルヴィア様のお仕事は」
とルミナ様はそのピンクの瞳で私を見た。
「衛兵さんと一緒にルミナのあとを追いかけて欲しいのです。ルミナ様が逃げましたわ! とか叫んでもらって」
「なるほど。怪盗の注意をルミナ様に集める役目、ということですわね」
確かにそれなら私の役目としては不自然ではないわね……。
「はい。それでそれでっ、実はシルヴィア様にはもう一つお願いしたいことがあるんですの」
「これ以上なにをさせようというのです?」
「首飾りを持って、殿下のお部屋にいって欲しいんです」
「首飾りを殿下の部屋に……?」
ルミナ様は一つ頷いて続ける。
「首飾りの安全のためですの。もっとも持っていそうにない人がお宝を持つ。これはトリックの基本中の基本ですのよ」
えっへん。そんな声が聞こえてきそうなルミナ様である。
「まぁ確かにおっしゃることはごもっともですけれども……」
「シルヴィア様はルミナを追っていくふりをしながらルース殿下の部屋にいくんですの。それで宝石をルース殿下のお部屋の金庫に入れたら、宝石は『一抜け』になりますわ。これで宝石はもう安全ですのよ」
「そして俺はここで怪盗と決闘、か」
ぶるっ、とルース殿下が武者震いをした。
「なんだか凄いことになってきたな。だがこれなら確かに怪盗から宝石を守れる」
怪盗から予告状が来た時点でもう十分凄いことになっていると思いますけどね……。
でも、ね。
「私は反対ですわ」
「シルヴィア、なにを言っているのだ」
「あのですねルース殿下。落ち着いて考えて下さい。ルミナ様は逃げようとしているだけですわよ」
「ギクッ」
ああもう、わざわざ言葉でギクッとか言っちゃって。可愛いつもりなの、それ?
私はふぅっとため息をついた。
「……この作戦、ルミナ様が一人になるようになっていますでしょう。一人になってその隙に逃げたいというルミナ様の行動原理が丸見えではないですか」
「酷いですぅ。ルミナは逃げないです、あとでちゃんと出頭するですぅ!」
「嘘おっしゃい!」
「シルヴィア……。少しは人を信じたらどうだ? ルミナは信頼するに足る少女だぞ」
「は?」
え? なにを言っているの、この人?
「え、殿下? あなたはルミナ様に騙されていたのですよ? ぜんぜん信頼になど足らない人だと、先ほど身をもって分かられたはずですわよね?」
「よいかシルヴィア。ルミナは元の可憐な少女にもどったのだ。俺の愛が彼女を悪の道から救ったのだよ」
「は?」
え、ほんとになにを突然言い出すの、この人……?
「ルミナが見せたあの悪人としての姿は偽物だ、虚無だ、幻影だ。何故ならルミナは俺を騙したことを反省したからだ。そうだなルミナ?」
「はいですのぅ! もうめっっっちゃ反省しまくっちゃったですの!」
「ルミナの心を入れ替えたのは俺の真実の愛だ。そうだろうルミナ?」
「モチのロンですの! 殿下の愛ってば深くて深くて足着かないから溺れちゃうんですのよ!」
「俺の愛がルミナを反省させ、元の可憐で奥ゆかしく気の利いた少女に戻したのだ。ならば罪をゆるし受け入れるのもまた俺の愛。それが……真実の愛だ」
「なにを言ってるのですか、殿下? ルミナ様は逃げようとして演技をしているだけですわよ? ありもしない濡れ衣を着せて私を罪に陥れようとした悪人ですのよ?」
「もうそれは済んだことだろうが。俺はもうなんとも思っていないぞ。シルヴィア、もはやお前だけが私的にルミナを憎んでいるに過ぎないのだ」
「なっ……」
「それにだな、仮にこのままルミナが逃げたとしても俺にはなんの痛手にもならん。ならば怪盗誘導作戦を実行してもいいのではないか? ルミナが逃げても逃げなくても、俺は宝石さえ守ることができればそれでいいのだ。まあルミナが逃げるわけがないと俺には分かっているのだがな」
「きゃっ、さすがルース殿下ですわ。ルース殿下がいちばんルミナのことよく分かってくださっているのですわねぇ」
「……わかりましたわ」
私はため息をつく。
「そこまでおっしゃるのなら、殿下に従いますわよ」
結局、押し切られてしまった。
ルミナ様を憎んでいるのはお前だけ、ルミナ様がこのまま逃げても自分にはなんの痛手にもならない、とまで言われてしまっては……。
というか本当に自分好みの女性に弱いのね、この第二王子様……。
応援ありがとうございます!
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