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第1話 濡れ衣は晴らさせてもらいます
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「婚約破棄だ、シルヴィア・ディミトゥール!」
突然そんなことを言ってきた第二王子殿下。
「……言いたいことはそれだけですか?」
「え?」
「え? じゃありませんわよ」
私は呆れ果てて目の前の殿下を見つめた。
この男――ハルツハイム王国第二王子ルース殿下が、私に婚約破棄を突きつけてきたのだ。
理由は言われなくても分かる、彼が浮気女に夢中になってしまったから。
――ここは王宮にある大きくて豪華なパーティーホールで、今は舞踏会の真っ最中だった。
そして殿下は急に楽団に演奏を止めさせ、自分に注目を集めさせたのだ。
まるでなにかの重大発表がある、とでもいわんばかりの態度で。
「なにを寝耳に水みたいな顔をされているのです、ルース殿下。私たちの婚約は国王陛下がまとめられたものですのよ。それをまさか『婚約破棄だシルヴィア』の言葉だけで解消できるとでも思っているのですか?」
「……できるさ! 俺はやれる!」
まあまあ美形のハルツハイム王国第二王子――金髪碧眼のルース殿下は、青い瞳を燃え立たせぐっと拳を握りこんだのだった。
……まったくもって意味不明だわ。
「できません。王命をなんだと思っているのですか。それでも第二王子なのですか、あなたは」
なのにルース殿下はふふんと鼻で笑うのである。
「そんなふうに強がっていられるのも今のうちだからな、シルヴィア・ディミトゥール!」
「ずいぶんな自信ですこと。そちらのご令嬢になにか都合のいいことでも吹き込まれたのかしら?」
と殿下の隣のピンク髪男爵令嬢ルミナ様を見れば、今まさに私の目の前でシナを作ってルース殿下にしがみついたところであった。
「きゃーこわーい! 侯爵令嬢様に睨まれちゃいましたぁ」
「ああ、怖いよな。シルヴィアは怖いんだよ。だがルミナ、安心せよ。お前はこの俺が必ず守ってやるからな!」
「殿下かっこいー!」
なんだこれ…………。
私は思わず遠い目をしてしまう。
「私、べつに睨んでませんけど」
「お前の眼光は鋭すぎるから存在するだけでもはや罪なのだ!」
「は?」
「きゃーこわーい」
「そういうとこだシルヴィア! そういうとこ!」
なんだろうこの茶番劇……。
私は頭痛がしてきた感じがしてこめかみを押さえた。
そんな私にルース殿下が追撃してくる。
「ふん、知らぬは本人のみとということだな。バレているのだぞシルヴィア、お前がルミナ嬢にしたことなどなっ! だから俺はお前との婚約を破棄するのだ!」
「私がなにをしたというのです? どうせくだらない言いがかりなのでしょうけれど、一応お聞きかせ願いましょうか」
「お前、このルミナ嬢を殺そうとした真犯人だそうだな! 探偵令嬢のくせに真犯人とはどういう了見をしているっ! このっ、ほんとは真犯人系探偵め!」
「は?」
私はぽかんとした。
え? 真犯人? 私が? ルミナ様を殺そうとしたですって?
「……殿下。いったいなんの話をされているのですか?」
「しらばっくれても無駄だ! ネタはあがってるんだぞ!」
「ルース殿下、言っちゃってくださいましー!」
「おう、頑張る!」
ルミナ様に応援されたルース殿下は俄然やる気である。
その青い瞳をキリッとさせて私を睨み付けてきた。
「哀れなり探偵令嬢! 探偵小説などという野蛮なものが好きだからこうなるのだ。恥を知るがいい!」
「……二重の意味で意味が分かりませんわね」
「読書家のくせに頭が悪い奴だ!」
「意味を説明しろ、と言っているのですよ」
少し圧をあけると、殿下は「ひいっ」と息を飲み込むのであった。
「たっ、探偵小説は殺人事件を扱うからな。そんな野蛮な本に慣れ親しんだお前のことだ、誰かを殺そうとしてもまったくなんの不思議もないではないか!」
「なんですかその暴論は」
「貴族令嬢なら探偵小説などという野蛮なものではなく宮廷恋愛小説を読め、ということだ!」
ルース殿下は私を指さして喚くのである。
「俺の婚約者なら女らしく俺を立てろ、俺のあとを一歩下がってしずしずと歩け、俺と騎士に同時に言い寄られて悩みに悩んで寝込むくらいのしとやかさをを見せろ、この顔だけ女め! お前が読み規範とすべきは探偵小説ではなく宮廷恋愛小説なのだ!」
「お言葉ですが宮廷恋愛小説も読みますわよ。面白かったらなんでも読むタイプの読者ですからね私は」
「そんなはずはない。シルヴィアといえば図書館で借りた大量の探偵小説片手に内容を早口で説明してくるイメージしかないぞ!」
「私が早口で説明……?」
心当たりはあった。
「それはもしかして【水晶探偵アメトリン】シリーズのことでしょうか?」
……ちなみに。
水晶探偵アメトリンシリーズは、公爵令嬢でありながら探偵業を営むキュートな令嬢アメトリンが主人公の大人気シリーズである。
かくいう私も大ファンだったりする。
我がディミトゥール領にある実家には当然のこととして全巻そろってはいるのだが、王都のタウンハウスにはそろっていなかった。
できるだけシリーズを買い揃えはしたのだがそもそも古い巻はもう売っていないのだ。だから、図書館を利用して読み直すことが多かった。
「ああ、その水晶玉をのぞき込んで犯人を当てるやつだ」
「…………………はぁ」
私は思わずため息をついてしまった。
まあ、興味のない人からしてみればこんなものだとは分かっているけれども。
でもこれはあんまりだ。
「犯人あてはきちんと推理して行います。水晶玉はアメトリンが犯人を仕留めるための物理的な投擲武器ですわよ」
「お前、本当にそんなふざけた小説が好きなのか」
「読んだこともないのによくそのような批評を下せるものですわね。アメトリンの知己にあふれるお洒落な台詞まわし、甘いものには目がないお茶めっぷり、事件を推理していく論理的思考、トリックを暴く爽快感、そしてアメトリンが真犯人に水晶を投げつけるときの決め台詞、『あなたが水晶玉から逃れられる可能性、ゼロパーセント!』の格好良さ。これらすべてが完璧にハマるべき場所にハマった大傑作シリーズだというのに!」
「殿下ぁ、もういいですの。怖いから早くこの人国外追放にしちゃってくださいなぁ。なんなら処刑でもいいですわよぉ」
「お、おう。いいかシルヴィア、そういうところなんだからな!」
「……そうでしたわね。私は嫌疑をかけられていたのでした」
アメトリンシリーズのことを力説していたらつい現実把握が疎かになってしまったわ。これはよくない癖だから直さないといけないと、前々から思ってはいるのだけれどね……。
「……私が殺人未遂犯? なにか証拠でもあるのですか?」
「もちろんだ!」
と、ルース殿下は胸を張るのだった。
「ほう……。その証拠とやら、是非とも拝見いたしたいものですわね」
「ふん、証拠というか証人だがな!」
「証人ですって?」
ありもしない犯罪に証人なんているのかしら。
「そうだ。このルミナ嬢だ!」
「えへへぇ、どうもですわぁ」
「…………」
私は無言になった。
この二人……本気なの?
私を真犯人に仕立て上げようとしている人が証人になるわけないじゃないの。
「あのときはほんとに怖かったんですの……」
唐突に、ルミナ様はしみじみと語りはじめた。
ピンクの髪にピンクの眼、シフォンたっぷりのふわふわピンクドレス、胸にはひときわ豪華に輝くピンクの宝石という全身ピンクの面白――いや、一色で統一したコーディネートをしているルミナ様。
「突然、シルヴィア様がルミナのこと殺そうとナイフで襲ってきたんですの。だからルミナ、怖くて怖くて……」
その全身ピンクのなかでもたった一カ所だけ白い手首――白い包帯を巻いた手首を、ルミナ様はそっと押さえる。
「だけど、なんとか逃げたからこれだけで済みましたの。ほんとに、ほんっとに怖かったんですのよ……」
涙ぐむふりをするルミナ様。
「おお、可哀想なルミナ。まさに九死に一生であったな……」
ルース殿下も涙目になっている。もらい泣きだ。
「そしてシルヴィア、ルミナが無事だったのはお前にとっての計算外!」
ルース殿下は私をビシッと指差した。
「ゆえにお前は国外追放だ、探偵令嬢シルヴィア・ディミトゥール! 婚約破棄も忘れずに!」
……。
あー……。
うん。
そうか。
そういうことね。なるほどなるほど。
冤罪をふっかけてでも何でも、とにかく邪魔者の私を追放したいのね、はいはい。
でも……。
なんだろう、この気持ち。
腹の底からフツフツとわき上がってくるこの感覚は……!
「……ルミナ様」
「え? なっ、なんですのシルヴィア様?」
「証拠は? 証拠はあるのですか?」
「ひっ……」
「いや待てちょっと待てお前……」
殿下が顔を青くして一歩身を引く。
「なっ、何故――笑っている!?」
私は手にもった扇を口元に広げた。
「あら殿下、令嬢の顔をそんなにしげしげと見つめるものではありませんわよ。それに笑ってなどおりませんわ。ですが面白いと思いませんこと? あなたがたは殺人未遂の嫌疑をかけようというのですよ、こともあろうに探偵令嬢のこの私に」
探偵令嬢……。
ルース殿下が悪口としてつけて嫌がらせで広めているあだ名だけれど、実は私、このあだ名自体は好きなのよね。
……昔、大切な人が私のことをそう呼んでいたから。偶然にもそれと同じだったの。
それに大好きな小説【水晶探偵アメトリン】シリーズの主人公アメトリンみたいなのも気に入っている。
もっともアメトリンは【令嬢探偵】だけどね。それと被らないのもポイント高いわ。
「……覚悟なさいませ、ルース殿下、そしてルミナ様」
私はザッと音を立てて扇を閉じた。その扇でゆっくりとルース殿下を差す。
「この真実、私が解き明かしてご覧に入れましょう。そう……探偵令嬢の名にかけて!」
……決まった!
実はこんなシチュエーションが来たときのために何度も何度も練習してたのよね、この決め台詞と決めポーズ。
これも、昔別れたっきりの大切な人のために練習してたことだけど……。
実際にできるなんて感無量だわ!
突然そんなことを言ってきた第二王子殿下。
「……言いたいことはそれだけですか?」
「え?」
「え? じゃありませんわよ」
私は呆れ果てて目の前の殿下を見つめた。
この男――ハルツハイム王国第二王子ルース殿下が、私に婚約破棄を突きつけてきたのだ。
理由は言われなくても分かる、彼が浮気女に夢中になってしまったから。
――ここは王宮にある大きくて豪華なパーティーホールで、今は舞踏会の真っ最中だった。
そして殿下は急に楽団に演奏を止めさせ、自分に注目を集めさせたのだ。
まるでなにかの重大発表がある、とでもいわんばかりの態度で。
「なにを寝耳に水みたいな顔をされているのです、ルース殿下。私たちの婚約は国王陛下がまとめられたものですのよ。それをまさか『婚約破棄だシルヴィア』の言葉だけで解消できるとでも思っているのですか?」
「……できるさ! 俺はやれる!」
まあまあ美形のハルツハイム王国第二王子――金髪碧眼のルース殿下は、青い瞳を燃え立たせぐっと拳を握りこんだのだった。
……まったくもって意味不明だわ。
「できません。王命をなんだと思っているのですか。それでも第二王子なのですか、あなたは」
なのにルース殿下はふふんと鼻で笑うのである。
「そんなふうに強がっていられるのも今のうちだからな、シルヴィア・ディミトゥール!」
「ずいぶんな自信ですこと。そちらのご令嬢になにか都合のいいことでも吹き込まれたのかしら?」
と殿下の隣のピンク髪男爵令嬢ルミナ様を見れば、今まさに私の目の前でシナを作ってルース殿下にしがみついたところであった。
「きゃーこわーい! 侯爵令嬢様に睨まれちゃいましたぁ」
「ああ、怖いよな。シルヴィアは怖いんだよ。だがルミナ、安心せよ。お前はこの俺が必ず守ってやるからな!」
「殿下かっこいー!」
なんだこれ…………。
私は思わず遠い目をしてしまう。
「私、べつに睨んでませんけど」
「お前の眼光は鋭すぎるから存在するだけでもはや罪なのだ!」
「は?」
「きゃーこわーい」
「そういうとこだシルヴィア! そういうとこ!」
なんだろうこの茶番劇……。
私は頭痛がしてきた感じがしてこめかみを押さえた。
そんな私にルース殿下が追撃してくる。
「ふん、知らぬは本人のみとということだな。バレているのだぞシルヴィア、お前がルミナ嬢にしたことなどなっ! だから俺はお前との婚約を破棄するのだ!」
「私がなにをしたというのです? どうせくだらない言いがかりなのでしょうけれど、一応お聞きかせ願いましょうか」
「お前、このルミナ嬢を殺そうとした真犯人だそうだな! 探偵令嬢のくせに真犯人とはどういう了見をしているっ! このっ、ほんとは真犯人系探偵め!」
「は?」
私はぽかんとした。
え? 真犯人? 私が? ルミナ様を殺そうとしたですって?
「……殿下。いったいなんの話をされているのですか?」
「しらばっくれても無駄だ! ネタはあがってるんだぞ!」
「ルース殿下、言っちゃってくださいましー!」
「おう、頑張る!」
ルミナ様に応援されたルース殿下は俄然やる気である。
その青い瞳をキリッとさせて私を睨み付けてきた。
「哀れなり探偵令嬢! 探偵小説などという野蛮なものが好きだからこうなるのだ。恥を知るがいい!」
「……二重の意味で意味が分かりませんわね」
「読書家のくせに頭が悪い奴だ!」
「意味を説明しろ、と言っているのですよ」
少し圧をあけると、殿下は「ひいっ」と息を飲み込むのであった。
「たっ、探偵小説は殺人事件を扱うからな。そんな野蛮な本に慣れ親しんだお前のことだ、誰かを殺そうとしてもまったくなんの不思議もないではないか!」
「なんですかその暴論は」
「貴族令嬢なら探偵小説などという野蛮なものではなく宮廷恋愛小説を読め、ということだ!」
ルース殿下は私を指さして喚くのである。
「俺の婚約者なら女らしく俺を立てろ、俺のあとを一歩下がってしずしずと歩け、俺と騎士に同時に言い寄られて悩みに悩んで寝込むくらいのしとやかさをを見せろ、この顔だけ女め! お前が読み規範とすべきは探偵小説ではなく宮廷恋愛小説なのだ!」
「お言葉ですが宮廷恋愛小説も読みますわよ。面白かったらなんでも読むタイプの読者ですからね私は」
「そんなはずはない。シルヴィアといえば図書館で借りた大量の探偵小説片手に内容を早口で説明してくるイメージしかないぞ!」
「私が早口で説明……?」
心当たりはあった。
「それはもしかして【水晶探偵アメトリン】シリーズのことでしょうか?」
……ちなみに。
水晶探偵アメトリンシリーズは、公爵令嬢でありながら探偵業を営むキュートな令嬢アメトリンが主人公の大人気シリーズである。
かくいう私も大ファンだったりする。
我がディミトゥール領にある実家には当然のこととして全巻そろってはいるのだが、王都のタウンハウスにはそろっていなかった。
できるだけシリーズを買い揃えはしたのだがそもそも古い巻はもう売っていないのだ。だから、図書館を利用して読み直すことが多かった。
「ああ、その水晶玉をのぞき込んで犯人を当てるやつだ」
「…………………はぁ」
私は思わずため息をついてしまった。
まあ、興味のない人からしてみればこんなものだとは分かっているけれども。
でもこれはあんまりだ。
「犯人あてはきちんと推理して行います。水晶玉はアメトリンが犯人を仕留めるための物理的な投擲武器ですわよ」
「お前、本当にそんなふざけた小説が好きなのか」
「読んだこともないのによくそのような批評を下せるものですわね。アメトリンの知己にあふれるお洒落な台詞まわし、甘いものには目がないお茶めっぷり、事件を推理していく論理的思考、トリックを暴く爽快感、そしてアメトリンが真犯人に水晶を投げつけるときの決め台詞、『あなたが水晶玉から逃れられる可能性、ゼロパーセント!』の格好良さ。これらすべてが完璧にハマるべき場所にハマった大傑作シリーズだというのに!」
「殿下ぁ、もういいですの。怖いから早くこの人国外追放にしちゃってくださいなぁ。なんなら処刑でもいいですわよぉ」
「お、おう。いいかシルヴィア、そういうところなんだからな!」
「……そうでしたわね。私は嫌疑をかけられていたのでした」
アメトリンシリーズのことを力説していたらつい現実把握が疎かになってしまったわ。これはよくない癖だから直さないといけないと、前々から思ってはいるのだけれどね……。
「……私が殺人未遂犯? なにか証拠でもあるのですか?」
「もちろんだ!」
と、ルース殿下は胸を張るのだった。
「ほう……。その証拠とやら、是非とも拝見いたしたいものですわね」
「ふん、証拠というか証人だがな!」
「証人ですって?」
ありもしない犯罪に証人なんているのかしら。
「そうだ。このルミナ嬢だ!」
「えへへぇ、どうもですわぁ」
「…………」
私は無言になった。
この二人……本気なの?
私を真犯人に仕立て上げようとしている人が証人になるわけないじゃないの。
「あのときはほんとに怖かったんですの……」
唐突に、ルミナ様はしみじみと語りはじめた。
ピンクの髪にピンクの眼、シフォンたっぷりのふわふわピンクドレス、胸にはひときわ豪華に輝くピンクの宝石という全身ピンクの面白――いや、一色で統一したコーディネートをしているルミナ様。
「突然、シルヴィア様がルミナのこと殺そうとナイフで襲ってきたんですの。だからルミナ、怖くて怖くて……」
その全身ピンクのなかでもたった一カ所だけ白い手首――白い包帯を巻いた手首を、ルミナ様はそっと押さえる。
「だけど、なんとか逃げたからこれだけで済みましたの。ほんとに、ほんっとに怖かったんですのよ……」
涙ぐむふりをするルミナ様。
「おお、可哀想なルミナ。まさに九死に一生であったな……」
ルース殿下も涙目になっている。もらい泣きだ。
「そしてシルヴィア、ルミナが無事だったのはお前にとっての計算外!」
ルース殿下は私をビシッと指差した。
「ゆえにお前は国外追放だ、探偵令嬢シルヴィア・ディミトゥール! 婚約破棄も忘れずに!」
……。
あー……。
うん。
そうか。
そういうことね。なるほどなるほど。
冤罪をふっかけてでも何でも、とにかく邪魔者の私を追放したいのね、はいはい。
でも……。
なんだろう、この気持ち。
腹の底からフツフツとわき上がってくるこの感覚は……!
「……ルミナ様」
「え? なっ、なんですのシルヴィア様?」
「証拠は? 証拠はあるのですか?」
「ひっ……」
「いや待てちょっと待てお前……」
殿下が顔を青くして一歩身を引く。
「なっ、何故――笑っている!?」
私は手にもった扇を口元に広げた。
「あら殿下、令嬢の顔をそんなにしげしげと見つめるものではありませんわよ。それに笑ってなどおりませんわ。ですが面白いと思いませんこと? あなたがたは殺人未遂の嫌疑をかけようというのですよ、こともあろうに探偵令嬢のこの私に」
探偵令嬢……。
ルース殿下が悪口としてつけて嫌がらせで広めているあだ名だけれど、実は私、このあだ名自体は好きなのよね。
……昔、大切な人が私のことをそう呼んでいたから。偶然にもそれと同じだったの。
それに大好きな小説【水晶探偵アメトリン】シリーズの主人公アメトリンみたいなのも気に入っている。
もっともアメトリンは【令嬢探偵】だけどね。それと被らないのもポイント高いわ。
「……覚悟なさいませ、ルース殿下、そしてルミナ様」
私はザッと音を立てて扇を閉じた。その扇でゆっくりとルース殿下を差す。
「この真実、私が解き明かしてご覧に入れましょう。そう……探偵令嬢の名にかけて!」
……決まった!
実はこんなシチュエーションが来たときのために何度も何度も練習してたのよね、この決め台詞と決めポーズ。
これも、昔別れたっきりの大切な人のために練習してたことだけど……。
実際にできるなんて感無量だわ!
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