それはもう愛だろ

ゆん

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友郎

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 その衝撃自体が初体験。別に付き合ってる訳じゃねーし、今日は遊べないって言われただけで嘘つかれた訳じゃねーし、何も悪くないんだ。大体恋人がいてもその場のノリで他の男と寝たりしてたのは俺だし、それは浮気じゃねえ、派だしさ。何に衝撃を受けてんだよ。

 いや、ただ……マリはここに来るときは俺のそばにいるもんだと思い込んでたっつーか。俺が教えてやんなきゃいけねーって。

 よく見りゃマリと一緒にいるのはマコトだった。この間『富松』に行ったときに一緒に飲んだ、昔からよく知ってるヤツ。俺とよく似てるっつーか、誰とでもすぐ仲良くなって、恋人は作らず浅く広くがモットーのフットワークの軽い男。

 俺が知らねぇ間に連絡先でも交換してたのか?いやだからそれがどうした。それはマリの自由だっての。

「あれ……あの子、もしかしてマリちゃん?」

 夏希も気付いて訊いてきた。直接会ったことがなきゃ顔で見分けられる距離じゃねぇと思うけど、お馴染みの紺のスーツ姿とちびっこさでピンと来たらしい。

「うん。今日はマコトとつるんでんだな」
「ほんとに付き合ってなかったのか……」
「だからそう言ったじゃん」

 言いながらも腹ん中がモヤモヤして、ゆっくりした足取りでホテル街に向かい始めた二人を目が追ってしまってた。そのせいなのか……マリがふいにこっちを振り向いて目が合って、その途端びっくりしたみたいに足を止めて、一緒に止まったマコトがマリの視線の先に俺を見つけて、「おっすー!」と笑いながら手を上げた。

 こっちも手を上げ返して自然と二人に向かって歩き、その間もマリをじっと見てる。お前、分かっててマコトといんのか?マコトがどういうヤツかはこの間話して知ってるはずで、それでも一緒にいるってことはそれでいいってことかもしんねぇけど、マリには合わねーんじゃねーか……なんて岡ちゃんみたいなこと考えてさ。どーかしてるわ。俺……

「こないだぶりー!夏希はもっとぶりー!」

 マコトの手のひらが、俺と夏希の手をパン、パンと叩く。俺が「今日はマリと待ち合わせてたの?」ときくと、マコトはううん、と首を振ってマリをぎゅっと抱き寄せた。

「今日富松に来たらマリちゃんが一人でいたからさ。思わず声かけちゃって。そんでちょっと悩み相談にのっちゃったりしてたのよ。今から実践でその解決法を教えてあげよーとね!」
「マコトさん……」

 まるで口止めするみたいなマリの顔。なんか。なんかさ。カーッときた。お前誰でもいーのかよって。俺がそんなこと言えた義理じゃねーのはクソムカつくほど分かってるけど、そう感じる気持ちはどーしようもない。

 マコトが言う実践で解決法を、ってのはこの間俺に頼んだような内容なんだろう。会社でまた好きなヤツが出来たんだかなんだか知らねーけど。確かに俺は結局なんも教えてやってねーしな。

「ま、ご指導よろしく。じゃあな。行こうぜ夏希」
「あ、うん……」

 少し強引に夏希の肩を抱いた手に力を入れて二人の横を通り過ぎ、富松の重いドアを開ける。ムカつくモトになってるあいつらとの間を、早く遮断してしまいたかった。

 すると俺に気づいたトミーがハッとした顔になって「友郎くん!ちょうど良かった!」とカウンターからこっちへ小走りにやってきた。

「この間一緒に来た子!今日も来てくれたんだけどマコトと出てっちゃったのよ。なんかね、色っぽくなりたいって言ってて……マコトがなんだかんだ調子のいいこと言ってたから止めてたんだけど、聞かなくて」

色っぽく?やっぱ好きになったやつのため系か。あー……ムカつき再燃。最悪。


「さっき外で会ったよ」
「えっそうなの?止めた?」
「いや。好きにすりゃいーだろ」

 腹が立って腹が立って……トミーの横を通り過ぎてさっさとカウンターに座った。マコトに抱かれるマリの映像が脳ミソいっぱいに広がって怒りが収まんねえ……つーか、なんで怒ってんだよ。どっちに??

 やり切れなくて強く息を吐いたら、夏希が俺を呼んだ。振り向けば、入り口のドアノブを掴んで「行った方がいいんじゃねえの?」と、分かったような顔をしてやがって。実際分かってんのかもしんねーけどさ。夏希の方が頭いいし。けどとにかくムカついてたから「うるせーよ。知ったことか」と夏希に背を向けた。

 そしたら、ドアの開いた気配がした。もしかして夏希が行ったのかと思って振り向いたら案の定そこに夏希にはいなくて、追うように外を覗いたトミーがマジな顔で「友郎くん!」と俺を手招きした。

「マリちゃんが──」

そこで言葉を切るから──そんなん、じっとしてられねーだろ……!!



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