それはもう愛だろ

ゆん

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友郎

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 フリータイムで歌ってお開きは閉店時間の5時ってのはザラだけど、今日はマリが1時を過ぎたあたりですげー眠そうな顔になってきたからそこで終わりにした。一人で歌っててもつまんねーし。

「始発までまだあるし、ウチ来る?」

 そう訊くとマリは、はいと目が半分になった顔で返事して一緒にタクシーに乗り込み、俺は、車の振動に誘われる眠気と戦って必死で目を開けてるマリを見ながら、二日前は完全に寝こけたコイツを運んだよなあと思い出して声に出さずに笑った。

 今日は一応歩いてくれたから担がなくて良かったけど、結局家に着いたら「眠すぎる……」と呟いて、俺が風呂の用意をしてる間にリビング兼ダイニングのソファで寝落ちてた。

「マリ。風呂は?」
「ふ、ろ……んん……ん、と……」
「あーもーいいわ。寝とけ」

 寝入りばなの深い眠りにまともな返事が期待できねーって悟って、ジャケットを脱がせてメガネを外してベッドに運んだ。

 その後俺が風呂に入ってもう一杯引っ掛けて寝室に戻ると、マリがベッドのはじっこに寒そうに体を縮めてて……その丸まった感じがちょー可愛くてさ。脳内映像完全に犬だもん。着ぐるみとかすげぇ似合いそう。

 壁に向かうように背中を丸めてるマリに布団をかけてやると、何とも言えない満足感。犬の世話、疑似体験?犬と一緒の布団で寝るのがスタンダードか知らねーけど。いやほんと、今までにない楽しみ方だわ。新鮮。



 翌朝……っていうか、昼。目が覚めたら、俺の身じろぎでちょうどマリも目を覚ました。寝ぼけまなこでぼーっとこっちを見て、え?って顔になって固まって、あっそーかって納得して、掠れた声で「おはようございます……」と微笑む。

「もう昼だけどな。腹減ったなー……お前は?」
「あー……そうですね。お腹、すいてる、かな」
「んじゃ飯食いにいこーぜ」

 ベッドを降りてぐんと伸びをすると、起き上ったマリの寝癖がすごくて思わず吹き出す。

「頭すげーことになってんな」
「え、ほんとですか?」

 俺に言われて両手でぴょいぴょい押さえる仕草も可愛い。あー見飽きねぇな。まるで俺の中のナゾの遺伝子が目覚めたとしか言いようがないくらい構いたい欲求が生まれて、マリを風呂に入らせて、俺が持ってる服の中からマリが着れそうなヤツを着せてやって。それから近所のファミレスに飯食いに行った。

 色んな話をした。かなりダブついてる服を全然気にした素振りもなく着てるマリは、服には一切興味がないらしい。食にもほとんどこだわりがなくて、朝は市販のシリアル。しかも同じメーカーの同じ製品。昼は社食のサバの塩焼き定食。夜は食べたり、食べなかったり。

「ほとんど食ってねーじゃん、それ。だからちっこいんだろ」
「言わないでくださいよ……でも食べたいってあんま思わないんで、忘れちゃうんですよ」
「お前の体はコーンと牛乳とサバで出来てんだな」
「あはは ほんとにそうかも」

 ふんわり笑うマリを、カツカレーを頬張りながら見てる。あー……ほんとに着ぐるみ着せてぇなー。ドンキで買って来るかな。なかったら、犬耳ついたカチューシャとか。プッ似合いそー……

 マリは終始ご機嫌で、そんなマリを見てる俺もちょーゴキゲン。これ以上なく平和な時間が過ぎて、ほんとなら退屈しそうなのにそれが全くないってのが自分でも不思議で。結局飯の後はウチに戻って何をするっていうんでもない時間を過ごして、マリを家まで送ってった。

 それからというもの、週末になるとマリと遊んだ。バナナボートの他にも俺が好きな店、あちこち連れ回してさ。カラオケ、ボーリング、ビリヤード……ダーツバーにも行った。自分で言うのもなんだけどかなり顔は広いほうだから、ひと月くらい経った頃にあちこちで言われたよ。新しい恋人?って。

 岡ちゃんなんか「照れんなよ!ちょーいい雰囲気じゃん」とか勝手に盛り上がってさ。違うっつってんのに……まぁこれこそ日頃の行いってやつ?マリとはそういうんじゃねーけど、サイコーに居心地がいいからまーいっかって。

 そんなこんなで来たまたの週末。マリが今週は遊べないっつーからさ、久しぶりにひとりでバナナボートに行ったわけ。そしたら誰かいるだろーと思ったそこに、それこそ2か月ぶりくらい?に夏希が来ててさ。

 その時、やっと自分の変化に気付いたんだよ。久し振り~!ってテンション上がったけど、夏希を見た時に感じる胸の奥の疼く感じがすっかりなくなってたから。




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