それはもう愛だろ

ゆん

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NARESOME

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 蠱惑的に見えるように瞼を少し伏せて、今は俺より下にある目を見つめて……っつっても妄想と現実は違うし!ちょー好みの顔が目前に迫ったら、ドキドキしすぎて誘惑する前にぽーっとなる。

 なんにも知らないチェリーでもないくせに!なんかこぶし2つ分の距離を縮められずに、近くで見てもすっきりと清潔感のある唇に見惚れてた。そしたら、その唇がそっと開いて──

「このまま徹夜は勘弁だな」

 佐野さんが低く呟いて俺の両脇を子供を抱き上げるみたいに掴み、浮かせてそのままソファへ押し倒してきた。すっげぇ……パワーのある男はやることが違うね……つかこれって妄想シチュじゃん!やべぇ!!

 佐野さんは俺みたいに躊躇することなく唇を重ねてきた。最初から結構ガッツリ……股間直撃のエロいやつ。いつもなら結構俺も積極的に返すけど、実は展開についていけてなくて、応えるのがやっと。

 だって……出会ってからそんなに日は経ってないけど、結構恋の濃度は上がってた。
 ビジュアルはもちろんのこと、ゆったりと構えた年上の余裕と独特の雰囲気はどこを切り取っても俺を夢中にさせる要素しかなくて、しかもノンケだと思ってたのに大逆転でこうしてキスしてるとか、なんか夢みたいな展開なのに絡む舌と湯上りの彼の香りのこのリアリティ……

 ひとしきり貪りあって、唇の離れた間に小さな吐息が零れた。けどインターバルは短い。すぐに口づけは再開してようやく頭が追いついた俺も、もっと、を伝えるために彼の首に腕を回して引き寄せ、口を大きく開いてさらに奥へと導いた。

 熱い……はっきり言って年単位でご無沙汰だったから、キスだけだってのに下までもうカンカン。すぐにでも触りたい、触られたい状態に、思わず余裕なくねだるみたいな甘い声が漏れる。

 このまま、場所も構わずおっぱじめたい……隠さない欲情が現れてるに違いない目で佐野さんを見上げると、彼は獰猛さを微かに感じる情熱的な瞳で俺を見据えたまま、手をゆっくりと滑らせて俺のスエットの中に潜らせた。

「……っ」

 もたらされた快感の鋭さに息を飲んで、武骨そうに見えた大きい手が思ったよりもずっと優しく巧みに俺を追い上げて、それこそあっという間。恥ずかしいくらい早く佐野さんの手に精を吐き出した。

 まるでガキみたいで、いつもはこんなんじゃないって言い訳したくて、でもそれもかっこ悪くて、結果……沈黙する。

 佐野さんは立ち上がってソファを離れ、ティッシュで手を拭いてこっちに戻って来た。その時、彼のスエットの股間が少し張ってるのが目に入って妙に安心した。だって俺ばっか興奮してたんじゃ、恥ずかしさ倍増だから。

 佐野さんがこっちに手を差し出してくる。すぐには意味が分からなくて、手を汚したのをどうにかしろって意味かな?とか……ソファに横たわったまま佐野さんを見上げてた。

「まさかもうオネムか?」
「……眠くない」

 意図に気づいて佐野さんの手を取り、引き起こされるに任せて立ち上がった。そして黙ったまま彼の寝室へ移動して、電気もつけずに互いに服を脱ぎ、ベッドへなだれ込んだ。

 さっきよりも荒々しいキスが官能を煽って、自分から漏れる吐息が掠れるように鼻へ抜ける。彼の舌が俺の胸の先をなぶるのに合わせて体が柔らかくしなる。

 佐野さんの前戯は明らかに俺のためにあるって分かる長さで……かつての恋人たちのそれにおざなりさを感じてた俺の、スタンダードを書き換える濃厚さで……
 
 目からウロコ。泣いたよ。彼が中へ入ってくるときは久しぶり過ぎるその圧迫感に息が詰まったけど、かけらも急く様子がないのが包む空気から伝わってきて俺を安心させて、年単位ご無沙汰だったはずの体が甘く、溶けた。

 肌と肌が密着すると不思議とずいぶん前からこの人を知っているようなそんな気持ちになった。なんでだろう?まるで彼が特別な存在だって、俺に教えてるみたいだ……なんて、ちょっとロマンチスト過ぎかもだけど。

 翌朝目が覚めて、彼の寝顔を見た時の気恥しさ。それを誤魔化すために朝っぱらからおいしんぼうの続きを読んでたけど、当然内容は頭に入んなかった。





 それから──連絡を取り合っては飯を食いに行き、あるいは飲みに行き、佐野さんちや俺んちで夜を過ごして、日曜にはドライブに行ったり映画に行ったり……全部佐野さんがリードしてくれて、気づけば蜜月と呼ばれる時間にどっぷりとひたって過ごして……それは2か月経った頃か3か月経った頃か、ふと。

「ねえ。哲雄と俺、付き合ってんだよね?」

 もう名前で呼ぶようになってた彼にそう訊いたら、「違うのか?」って逆に訊き返されて。

「だって、好きだ!付き合ってくれ!とか……なんかそういうのなかったなーって」

 俺は暗に言ってほしいな~って匂わせたのに、哲雄はまたいつもみたいに小さく笑って、それ以上はもうなんにも答えてくれなかった。

 その後、甘々に愛された俺がバカになって「俺のこと好き?」「好きって言って」とかねだっても哲雄は絶対にそれを言葉にしてくれなかったけど、その代わり、泣きたくなるくらいの濃度で体にそれを伝えてくれたから、俺もそのうちに訊くことはなくなった。

 結局、逢うべくして逢ったってやつだろ。そんな、のろけにしかならない、俺たちの馴れ初め。




END


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