それはもう愛だろ

ゆん

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after that

その2

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 お互い忙しくてもやっぱりコミュニケーションは大事ってことで、一緒に食事をとるようにしようと決めた5月のとある日曜の夜の事。

 今夜の晩飯はサワラの西京焼き、初ガツオとわかめの味噌汁、たこときゅうりの酢の物。なんか魚系に偏っちまったけど、それは結果の話。

 テレビで見た西京焼きが食べたくてわざわざ魚屋に出向いて手に入れた立派な切り身。別にスーパーにパック入りのお得なヤツがいくらでもあるのに、その番組が仕入れからやってたせいか、どうしても新鮮で分厚いのが良くってさ。

 おかげでいいのが手に入った。皮の銀の照りも、みずみずしい桜色の身も、絶対旨いって食う前から分かる美しさ。朝ゆっくり起きてから味噌床を作ってサワラを漬け込んで、夜は焼くだけでいいっていう……しかもその間ずーっときっと旨いだろう西京焼きにワクワクできるっていうおまけ付き。お得だ。

 ほんとは新じゃがとわかめの味噌汁、ほうれん草のおひたしってサブメニューになるはずが、デザートにチーズケーキが食いたいなって思ってクリームチーズを買いに出かけた先でピッチピチの初ガツオに出会っちゃって……しかもその隣の惣菜コーナーにタコ酢が。

 タコ酢!ずいぶん食べてなかったから急に口の中にタコの弾力と甘酢のあまツンな感じが甦って、もうどうしてもタコ酢!ってなっちまって。結果……初ガツオは針生姜を乗っけて味噌汁に、そしてそこにタコ酢も加わって妙にサカナサカナしたメニューが完成したってわけ。

 哲雄はそういうのあんま気にしねぇからいいんだけどさ。でもあんまり真剣に初ガツオを諦めるか、タコ酢は今度でも……って悩みすぎて本命のクリームチーズを買ってくるのを忘れたって言うね。

 もっかい出るのも面倒で、チーズケーキは諦めた。諦めたけど、本命の西京焼きも初ガツオも、タコ酢もちょーー求めてた味でさぁ~……食いたいって思ったやつのど真ん中来ると、もう幸せでしかないよな。

 そんなわけで俺は満たされてたの。でもさ、箸を置いてテレビを見つつお茶を飲んでたら、哲雄が「チーズケーキ作るって言ってなかった?」って……

 意外に甘いもん好きの哲雄は、飯を食い終わった後にデザートが出てくる気配がないのを感じ取って鋭いトコ突っ込んできて、クリームチーズ買ってくんの忘れたって言ったら何気にガーンって雰囲気。吹き出した。

「そんなに食いたかった?買いに行く?」
「いや、そこまでじゃない」

 といいつつ、後ろに見え隠れするほんとの気持ち。分かるよ。あるって思ってたらもう口が食うつもりになってるもんね。

「今から作る気分じゃねぇしなー……ケーキ屋はもう閉まってるだろうし……コンビニにあるかな」
「そんなわざわざ……」
「最近のコンビニスイーツは結構イけるよ?ふわとろスフレ系からしっかりベイクド、定番レアチーズ、抹茶仕立てとかキャラメル風味とか……」
「……」
「ふふ 唾飲んだ」
「お前が煽るからだろ」

 結局、わざわざチーズケーキを買うためにふたりして車で出かけた。哲雄が買ってこようかって言ってくれたけど、好みは微妙に違うから自分で選びたくて。それに、意識的に一緒の時間を取るって大事だって分かった所だしね。デートだよデート。




 近所のコンビニまで車で3分。でも行ってみたらぐぐっと惹かれるヤツがなくって……妥協して買う?いやでもせっかくなら食いたいって思うやつを食いたい。

「哲雄。次いこ、次」
「あぁ?いいだろ、コレで」

 コンビニの明るいスイーツコーナで長身をかがめてカップのチーズケーキを取り上げようとしてた哲雄の手から、ソレを奪って棚に戻す。

「だめ。グッとこない」

 俺がそう言うと、哲雄は欧米人風に眉をひょいと上げて小さくため息をつき、パンツのポッケに手を入れて出口に向かって歩き出した。実はそんなささいな仕草がかっこよくて好きだったりする。だってすげぇ様になってんだもん。背が高いって得だよな。

 それから車で更に5分走った二軒目。そこにあったのは食べたことがあって、かつそれが美味しいことも分かってるスフレが乗っかったプリン……

「これ美味いよ」
「へぇ……じゃあこれに──」

哲雄の伸ばした手の、ゴツい手首をパシッと捕まえてすぐさまストップをかけた。

「けど、今日の気分じゃない。プリンじゃね……プリンは好きだけど。でも今日はチーズケーキが主役じゃなきゃ」
「なんなんだよ」

 哲雄は半笑いの呆れ顔をして、でも俺が ”次” って思ってるのを読み取ったのか、すぐにまた出口に向かって歩き出した。こういうとこ大らかなんだよな。割と強引にことを進めてくクセに、俺のワガママにはさ……えっちょっと惚れ直すじゃん。改めて。

「何笑ってんだよ」

 車に乗り込んでエンジンをかけた哲雄が、可笑しそうに助手席の俺を振り向いた。コンビニから漏れる光でぼんやり照らされた哲雄の顔。鼻筋の通ったすっきりしたそれ。俺とは違う一重の目も、薄くも厚くもない清潔感のある唇も、さすが一目惚れしただけある、俺の好みド・ストライク。ヤバイ。ニヤニヤが止まんねぇ……

「ふふふ……」
「だから何笑ってんだって」
「まぁいいじゃん。次行こ」

 哲雄ははいはい、と自分の疑問を流して、助手席に手をかけながら後ろを確認し、片手でくるくるとハンドルを回して車の向きを変えた。これ女子がキュンとするやつじゃん。もれなく俺もキュンとしてるけど。

 なんなんだ今日は……やけに哲雄がかっけぇ……夜マジックも手伝って、やばいくらいクる。

「哲雄~……」
「何?」
「ドライブいこ」
「はぁ?今から?」
「ちょっとでいいから。ね!」

 ウインカーを出して車道の車が行きすぎるのを待ちながら、哲雄がチラリと俺を見た。そんで、ふ、と笑って俺の頭をそのでかい手で無造作に撫でて、間もなく広くあいた車間を狙ってアクセルを踏んだ。

 あぁ……かっけぇ……惚れた欲目か、白髪が出ようが腹周りが少々太くなろうが王子様は王子様……って30過ぎて王子様とか、俺、痛過ぎる。

 流れていく夜の車窓を眺めながら、にやついたままの唇に触れ、そーゆー痛い俺を哲雄は好きなんだからまぁいいじゃん?と考えてる俺は、想像以上に幸せモンかもしれない。




END
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