それはもう愛だろ

ゆん

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after that

その1

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 ゆっくり時間をかけて晩飯を食いながら、色んな話をした。哲雄の前の会社で起きたこと、その時の眠れなくなった位の悔しさや怒り、今の仕事のキツさとやり甲斐について。

 俺の今の仕事といつかはやってみたいこと、言っても分からないと思って話したことがなかった、専門的な工夫とこだわりについて。そして……俺が、シゲさんと岡ちゃんみたいになりたいって思ってることも──

「お互いに理解、尊重しあってるってのが伝わってくるしさ。ずーっと一緒にいてそれが変わらないって……ほんと、理想」
「ん……そうだな……」

 まるで一緒にいる時間がずっとなかったなんて嘘みたいな、懐かしい、心地いいフィーリング。

 付き合いだした頃を思い出す。哲雄といるときはいつでも、”楽しい” と ”嬉しい” と ”居心地がいい” が混ざったみたいな、それでいてどきどきするような、そんな時間を過ごせた。

 甘えられる相手ってのもはじめてだったし。それまではどっちかって言うとワガママを聞いて世話を焼かなきゃなんないような、そんな相手ばかりだったから。

 年上の包容力ってこういうのを言うのかなってくらい……別にベッタリするわけじゃないんだけど、なんか……可愛い気分っつーの?つっぱったり頑張ったりしないでいられるっていうか……

 だから……大好きだった。つか過去形じゃねえわ。うすうす分かってたけど、俺、今でも哲雄のことめちゃくちゃ好きじゃん……改めて実感したら、顔熱くなってきた……

「夏希……」

 テーブルの向こうで頬杖をついた哲雄が、不意に俺を呼んだ。今じゃ目線で分かるんだ。哲雄が俺を抱きしめたいって思ってること。多分哲雄も俺の顔が赤くなった理由を、俺の目からなんとなくは読み取ったに違いない。

「哲雄……キス。して」

 唇をチューの形にして、あの頃みたいに素直に言ってみた。そしたら哲雄は可笑しそうに口の端を上げて立ち上がり、傍まで来て片手をテーブルにつくと、様子を伺うように身を屈めてチョンとキスした。

「足んない」
「じゃあもっと口開けろよ」

 腰をすくうように立たされて、ムードに乗ってくように哲雄の首に腕を絡め、うっすら唇を開いて顔を寄せる。ゆっくりと何度も互いの唇を吸い、柔く噛み、やがて深く舌を絡ませあっていくうち、淡い興奮の焔を身体の奥に感じた。どれだけ欲しかったか……嫌ってほど分かったよ。

「あ、」

 哲雄がふと動きを止めた。キスをやめないで欲しくて首に手を回した腕をもう一度引き寄せたら、哲雄が泣き笑いみたいな顔になって俺を見下ろした。

「きそう……夏希、俺……」
「ほんと……?」
「うん……分かんねぇけど、なんか……」

 俺の前で強くなきゃいけないっていうのが、そのくらい重荷だったのかもしれない。哲雄は俺の唇から首筋や耳へ口付けを移し、自分の中の高まりを確かめるように俺を抱きしめた。

 服の中に手のひらを潜り込ませてくる、その懐かしさと温かさ。ただそうやって哲雄に触れられているだけで満たされる。

「途中でダメになるかもしんねぇけど……いい……?」

 俺のケツを丸く揉みながら哲雄が囁く。そんなの……訊かれるまでもない。スキンシップの最終的な形態がどうだってことより、こうやって互いの気持ちが向かい合ってることが何より大事だって今は分かるから──




 結果……哲雄は見事、復活を果たした。

 夕食の後片付けもほったらかしで哲雄の部屋のベッドに行って、青い窓明かりの中、なんか久しぶりすぎて裸になるのも気恥ずかしかった。

 筋肉質で充実した哲雄の重い体に伸しかかられる悦びに、声が記憶以上に甘くなる。途中……「マジかよ……勃った……」って、哲雄が俺の胸に額をくっつけて感極まった感じに呟いて……ヘンなんだけど、そんときは男っていう性を持った同士の気分が勝ってさ。

「やったじゃん!」
「うん……でも、中折れするかも……」
「いい、いい!ストレスが一番悪いんだろ?できる所まででいいよ」

 ムードもへったくれもないけどなんか嬉しくて、強く抱き締めあって、哲雄を元気づけるためにいつもの自分よりもずっとオーバーに快感を表現していた。

 そんな自分に自分が煽られて、結果哲雄も中折れすることなくフィニッシュした。まるで二人三脚でゴールしたみたいな気分になって、自然とふたりで顔を見合わせて笑いあった。


『あたしたちにもこんなことはたくさんあったのよ。いい機会だからちゃんと話をして。そうやって乗り越えてくのよ』

 そんなの無理だ、と思ったシゲさんの言葉が蘇る。俺たち、乗り越えられたね。哲雄。憧れのあのふたりに、ちょっとは近づけたかな?

 俺は少し汗ばんだ哲雄の背中に手を当てたまま、熱気を帯びた目の前の裸の胸に、そっと唇を押し当てた。





END
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