8 / 31
after that
その1
しおりを挟む
ゆっくり時間をかけて晩飯を食いながら、色んな話をした。哲雄の前の会社で起きたこと、その時の眠れなくなった位の悔しさや怒り、今の仕事のキツさとやり甲斐について。
俺の今の仕事といつかはやってみたいこと、言っても分からないと思って話したことがなかった、専門的な工夫とこだわりについて。そして……俺が、シゲさんと岡ちゃんみたいになりたいって思ってることも──
「お互いに理解、尊重しあってるってのが伝わってくるしさ。ずーっと一緒にいてそれが変わらないって……ほんと、理想」
「ん……そうだな……」
まるで一緒にいる時間がずっとなかったなんて嘘みたいな、懐かしい、心地いいフィーリング。
付き合いだした頃を思い出す。哲雄といるときはいつでも、”楽しい” と ”嬉しい” と ”居心地がいい” が混ざったみたいな、それでいてどきどきするような、そんな時間を過ごせた。
甘えられる相手ってのもはじめてだったし。それまではどっちかって言うとワガママを聞いて世話を焼かなきゃなんないような、そんな相手ばかりだったから。
年上の包容力ってこういうのを言うのかなってくらい……別にベッタリするわけじゃないんだけど、なんか……可愛い気分っつーの?つっぱったり頑張ったりしないでいられるっていうか……
だから……大好きだった。つか過去形じゃねえわ。うすうす分かってたけど、俺、今でも哲雄のことめちゃくちゃ好きじゃん……改めて実感したら、顔熱くなってきた……
「夏希……」
テーブルの向こうで頬杖をついた哲雄が、不意に俺を呼んだ。今じゃ目線で分かるんだ。哲雄が俺を抱きしめたいって思ってること。多分哲雄も俺の顔が赤くなった理由を、俺の目からなんとなくは読み取ったに違いない。
「哲雄……キス。して」
唇をチューの形にして、あの頃みたいに素直に言ってみた。そしたら哲雄は可笑しそうに口の端を上げて立ち上がり、傍まで来て片手をテーブルにつくと、様子を伺うように身を屈めてチョンとキスした。
「足んない」
「じゃあもっと口開けろよ」
腰をすくうように立たされて、ムードに乗ってくように哲雄の首に腕を絡め、うっすら唇を開いて顔を寄せる。ゆっくりと何度も互いの唇を吸い、柔く噛み、やがて深く舌を絡ませあっていくうち、淡い興奮の焔を身体の奥に感じた。どれだけ欲しかったか……嫌ってほど分かったよ。
「あ、」
哲雄がふと動きを止めた。キスをやめないで欲しくて首に手を回した腕をもう一度引き寄せたら、哲雄が泣き笑いみたいな顔になって俺を見下ろした。
「きそう……夏希、俺……」
「ほんと……?」
「うん……分かんねぇけど、なんか……」
俺の前で強くなきゃいけないっていうのが、そのくらい重荷だったのかもしれない。哲雄は俺の唇から首筋や耳へ口付けを移し、自分の中の高まりを確かめるように俺を抱きしめた。
服の中に手のひらを潜り込ませてくる、その懐かしさと温かさ。ただそうやって哲雄に触れられているだけで満たされる。
「途中でダメになるかもしんねぇけど……いい……?」
俺のケツを丸く揉みながら哲雄が囁く。そんなの……訊かれるまでもない。スキンシップの最終的な形態がどうだってことより、こうやって互いの気持ちが向かい合ってることが何より大事だって今は分かるから──
結果……哲雄は見事、復活を果たした。
夕食の後片付けもほったらかしで哲雄の部屋のベッドに行って、青い窓明かりの中、なんか久しぶりすぎて裸になるのも気恥ずかしかった。
筋肉質で充実した哲雄の重い体に伸しかかられる悦びに、声が記憶以上に甘くなる。途中……「マジかよ……勃った……」って、哲雄が俺の胸に額をくっつけて感極まった感じに呟いて……ヘンなんだけど、そんときは男っていう性を持った同士の気分が勝ってさ。
「やったじゃん!」
「うん……でも、中折れするかも……」
「いい、いい!ストレスが一番悪いんだろ?できる所まででいいよ」
ムードもへったくれもないけどなんか嬉しくて、強く抱き締めあって、哲雄を元気づけるためにいつもの自分よりもずっとオーバーに快感を表現していた。
そんな自分に自分が煽られて、結果哲雄も中折れすることなくフィニッシュした。まるで二人三脚でゴールしたみたいな気分になって、自然とふたりで顔を見合わせて笑いあった。
『あたしたちにもこんなことはたくさんあったのよ。いい機会だからちゃんと話をして。そうやって乗り越えてくのよ』
そんなの無理だ、と思ったシゲさんの言葉が蘇る。俺たち、乗り越えられたね。哲雄。憧れのあのふたりに、ちょっとは近づけたかな?
俺は少し汗ばんだ哲雄の背中に手を当てたまま、熱気を帯びた目の前の裸の胸に、そっと唇を押し当てた。
END
俺の今の仕事といつかはやってみたいこと、言っても分からないと思って話したことがなかった、専門的な工夫とこだわりについて。そして……俺が、シゲさんと岡ちゃんみたいになりたいって思ってることも──
「お互いに理解、尊重しあってるってのが伝わってくるしさ。ずーっと一緒にいてそれが変わらないって……ほんと、理想」
「ん……そうだな……」
まるで一緒にいる時間がずっとなかったなんて嘘みたいな、懐かしい、心地いいフィーリング。
付き合いだした頃を思い出す。哲雄といるときはいつでも、”楽しい” と ”嬉しい” と ”居心地がいい” が混ざったみたいな、それでいてどきどきするような、そんな時間を過ごせた。
甘えられる相手ってのもはじめてだったし。それまではどっちかって言うとワガママを聞いて世話を焼かなきゃなんないような、そんな相手ばかりだったから。
年上の包容力ってこういうのを言うのかなってくらい……別にベッタリするわけじゃないんだけど、なんか……可愛い気分っつーの?つっぱったり頑張ったりしないでいられるっていうか……
だから……大好きだった。つか過去形じゃねえわ。うすうす分かってたけど、俺、今でも哲雄のことめちゃくちゃ好きじゃん……改めて実感したら、顔熱くなってきた……
「夏希……」
テーブルの向こうで頬杖をついた哲雄が、不意に俺を呼んだ。今じゃ目線で分かるんだ。哲雄が俺を抱きしめたいって思ってること。多分哲雄も俺の顔が赤くなった理由を、俺の目からなんとなくは読み取ったに違いない。
「哲雄……キス。して」
唇をチューの形にして、あの頃みたいに素直に言ってみた。そしたら哲雄は可笑しそうに口の端を上げて立ち上がり、傍まで来て片手をテーブルにつくと、様子を伺うように身を屈めてチョンとキスした。
「足んない」
「じゃあもっと口開けろよ」
腰をすくうように立たされて、ムードに乗ってくように哲雄の首に腕を絡め、うっすら唇を開いて顔を寄せる。ゆっくりと何度も互いの唇を吸い、柔く噛み、やがて深く舌を絡ませあっていくうち、淡い興奮の焔を身体の奥に感じた。どれだけ欲しかったか……嫌ってほど分かったよ。
「あ、」
哲雄がふと動きを止めた。キスをやめないで欲しくて首に手を回した腕をもう一度引き寄せたら、哲雄が泣き笑いみたいな顔になって俺を見下ろした。
「きそう……夏希、俺……」
「ほんと……?」
「うん……分かんねぇけど、なんか……」
俺の前で強くなきゃいけないっていうのが、そのくらい重荷だったのかもしれない。哲雄は俺の唇から首筋や耳へ口付けを移し、自分の中の高まりを確かめるように俺を抱きしめた。
服の中に手のひらを潜り込ませてくる、その懐かしさと温かさ。ただそうやって哲雄に触れられているだけで満たされる。
「途中でダメになるかもしんねぇけど……いい……?」
俺のケツを丸く揉みながら哲雄が囁く。そんなの……訊かれるまでもない。スキンシップの最終的な形態がどうだってことより、こうやって互いの気持ちが向かい合ってることが何より大事だって今は分かるから──
結果……哲雄は見事、復活を果たした。
夕食の後片付けもほったらかしで哲雄の部屋のベッドに行って、青い窓明かりの中、なんか久しぶりすぎて裸になるのも気恥ずかしかった。
筋肉質で充実した哲雄の重い体に伸しかかられる悦びに、声が記憶以上に甘くなる。途中……「マジかよ……勃った……」って、哲雄が俺の胸に額をくっつけて感極まった感じに呟いて……ヘンなんだけど、そんときは男っていう性を持った同士の気分が勝ってさ。
「やったじゃん!」
「うん……でも、中折れするかも……」
「いい、いい!ストレスが一番悪いんだろ?できる所まででいいよ」
ムードもへったくれもないけどなんか嬉しくて、強く抱き締めあって、哲雄を元気づけるためにいつもの自分よりもずっとオーバーに快感を表現していた。
そんな自分に自分が煽られて、結果哲雄も中折れすることなくフィニッシュした。まるで二人三脚でゴールしたみたいな気分になって、自然とふたりで顔を見合わせて笑いあった。
『あたしたちにもこんなことはたくさんあったのよ。いい機会だからちゃんと話をして。そうやって乗り越えてくのよ』
そんなの無理だ、と思ったシゲさんの言葉が蘇る。俺たち、乗り越えられたね。哲雄。憧れのあのふたりに、ちょっとは近づけたかな?
俺は少し汗ばんだ哲雄の背中に手を当てたまま、熱気を帯びた目の前の裸の胸に、そっと唇を押し当てた。
END
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる