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同棲編
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僕が入口の前に着く前に透くんが車を停めて外に出てて、傍に行くと僕の両手から袋を取った。
「ふたつも、いいよ」
ひとつ返してもらおうとしたけど、透くんは無視して玄関に向かう階段を上がり始めた。今日は薄いグレーのスーツ。手入れの行き届いた革靴はぴっかぴか。透くんに言われてからなるべくするようにはしてるけど、やっぱり透くんほど丁寧に完璧には出来ない。途中でめんどくさくなっちゃうし。
「今日、暑かったね」
「もう完全に夏だな」
「朝起きたら、汗だくだったよ」
「朝?俺が11時に出る時はまだ起きてきてなかったけど?」
はいはい。朝じゃないです。昼です。2時に起きました。僕はキッチンに入って買ってきたものを冷蔵庫に仕舞って、その間に透くんは部屋に行ってからお風呂の方へ。ダイニングテーブルの上にコンビニのビニール袋が置いてあって、覗いたらお弁当で……多分、今日の透くんの夜ご飯。珍しい。大体は外で食べて帰ってくるのに。もしかして……
「僕とご飯を食べたくて──」
なんて……!!そんなわけないか!透くんがそんなデレたことをね!僕は自分で言って恥ずかしくなってゴシゴシほっぺたを擦った。多分、給料日前だから節約してるとか、そんな感じだよ、きっと。
透くんてば、お金持ちの息子なのにすごい堅実なんだよね。ファッション以外は。軽自動車に乗ってるのも、「小回りが利いて燃費がいい」っていう理由。色が白なのは買取価格がいちばん高いから。至さんは兄弟だけど会話の中でそういう感じのこと言ったのを聞いたことがないし、やっぱり性格だよね?
お風呂から上がった透くんが、グレーのTシャツにサラッと涼しそうな生地のブルーのハーフパンツ姿でキッチンにやってくると、僕は密かにチラ見する。つい、クセで。だって恋人になる前は、いくらカッコイイからって見過ぎたら好きなことがバレるって自制してたから。
もう、堂々と見ていいんだ。透くんを。好きって気持ちが溢れても、構わないんだ。改めて、底の方からじんわり嬉しい。眼鏡をしていない彼の琥珀色のガラス玉みたいな目を、好きなだけ見れると思うと──
「何?」
透くんが飲んでいた炭酸水のペットボトルから口を離してチラリとこっちを見る。目線が合った時の破壊力……!絶対目から何か出てると思う……!
「や、かっこいいな~と思って……」
「ふうん?」
もう一度水を飲んでから蓋をし、それを冷蔵庫に仕舞って改めて僕を見下ろす。身長差20センチは伊達じゃない。ただでさえかっこいいのに僕から見たら部屋の電気を受けて後光が射したみたいになるんだから。
そもそも骨格が違うんだよ。ただのTシャツも様になるっていうか。聞いたら僕も買ってる大衆的なファッションブランドのものだったりもするんだけど、そう見えないもんね。
透くんは僕の顎の下に手をかけて、く、と上を向かせた。キラキラした薄茶色の瞳に魅入られて、キスが来る~って舞い上がったら、その手が僕のほっぺたを両側からムギュって押して「顔、丸いなぁ」って。
「すごいプニプニ。何が入ってんの」
「と、とおりゅくん……」
「ははははは 面白い顔」
ほんとに楽しそうに笑って、そんで僕の顔を解放してリビングの方に行っちゃうの。
えーーキスは?キスが来るかと思ったのに「面白い顔」って……そういう未練がましい気持ちを持っていたせいか、なんか透くんの後ろをついていっちゃって、ソファに座った透くんの傍に立って、じっと見つめてしまった。
「何?」
透くんがうっすら笑ってこっちを見上げて来る。何?じゃないでしょ。分かってるくせに。かと言って、キスして欲しいとは……それを口に出すのは……
ナオトと付き合ってる頃から、自分の欲求を言葉にするのに抵抗がある方だった。なんか……単純に恥ずかしいというか……コンプレックスの塊みたいな自分が、それをすること自体がおこがましいというか……そんなこと言ったらまた透くんに怒られるけど。
「キスしたい?」
透くんが、そのものズバリを言葉にする。返事の代わりに顔が赤くなる。そしたら「してよ」って──
「え」
「キス。留丸から俺に」
「えええーー……」
「なんでえー、なんだよ。簡単だろ」
いや、簡単だけど。キスは口と口くっつけるだけだから簡単だけど。でもされるとするじゃ大分違う。心理的ハードルが高いんだよ、透くん──って、分かって言ってるよね。透くん、意地悪だから……
「ふたつも、いいよ」
ひとつ返してもらおうとしたけど、透くんは無視して玄関に向かう階段を上がり始めた。今日は薄いグレーのスーツ。手入れの行き届いた革靴はぴっかぴか。透くんに言われてからなるべくするようにはしてるけど、やっぱり透くんほど丁寧に完璧には出来ない。途中でめんどくさくなっちゃうし。
「今日、暑かったね」
「もう完全に夏だな」
「朝起きたら、汗だくだったよ」
「朝?俺が11時に出る時はまだ起きてきてなかったけど?」
はいはい。朝じゃないです。昼です。2時に起きました。僕はキッチンに入って買ってきたものを冷蔵庫に仕舞って、その間に透くんは部屋に行ってからお風呂の方へ。ダイニングテーブルの上にコンビニのビニール袋が置いてあって、覗いたらお弁当で……多分、今日の透くんの夜ご飯。珍しい。大体は外で食べて帰ってくるのに。もしかして……
「僕とご飯を食べたくて──」
なんて……!!そんなわけないか!透くんがそんなデレたことをね!僕は自分で言って恥ずかしくなってゴシゴシほっぺたを擦った。多分、給料日前だから節約してるとか、そんな感じだよ、きっと。
透くんてば、お金持ちの息子なのにすごい堅実なんだよね。ファッション以外は。軽自動車に乗ってるのも、「小回りが利いて燃費がいい」っていう理由。色が白なのは買取価格がいちばん高いから。至さんは兄弟だけど会話の中でそういう感じのこと言ったのを聞いたことがないし、やっぱり性格だよね?
お風呂から上がった透くんが、グレーのTシャツにサラッと涼しそうな生地のブルーのハーフパンツ姿でキッチンにやってくると、僕は密かにチラ見する。つい、クセで。だって恋人になる前は、いくらカッコイイからって見過ぎたら好きなことがバレるって自制してたから。
もう、堂々と見ていいんだ。透くんを。好きって気持ちが溢れても、構わないんだ。改めて、底の方からじんわり嬉しい。眼鏡をしていない彼の琥珀色のガラス玉みたいな目を、好きなだけ見れると思うと──
「何?」
透くんが飲んでいた炭酸水のペットボトルから口を離してチラリとこっちを見る。目線が合った時の破壊力……!絶対目から何か出てると思う……!
「や、かっこいいな~と思って……」
「ふうん?」
もう一度水を飲んでから蓋をし、それを冷蔵庫に仕舞って改めて僕を見下ろす。身長差20センチは伊達じゃない。ただでさえかっこいいのに僕から見たら部屋の電気を受けて後光が射したみたいになるんだから。
そもそも骨格が違うんだよ。ただのTシャツも様になるっていうか。聞いたら僕も買ってる大衆的なファッションブランドのものだったりもするんだけど、そう見えないもんね。
透くんは僕の顎の下に手をかけて、く、と上を向かせた。キラキラした薄茶色の瞳に魅入られて、キスが来る~って舞い上がったら、その手が僕のほっぺたを両側からムギュって押して「顔、丸いなぁ」って。
「すごいプニプニ。何が入ってんの」
「と、とおりゅくん……」
「ははははは 面白い顔」
ほんとに楽しそうに笑って、そんで僕の顔を解放してリビングの方に行っちゃうの。
えーーキスは?キスが来るかと思ったのに「面白い顔」って……そういう未練がましい気持ちを持っていたせいか、なんか透くんの後ろをついていっちゃって、ソファに座った透くんの傍に立って、じっと見つめてしまった。
「何?」
透くんがうっすら笑ってこっちを見上げて来る。何?じゃないでしょ。分かってるくせに。かと言って、キスして欲しいとは……それを口に出すのは……
ナオトと付き合ってる頃から、自分の欲求を言葉にするのに抵抗がある方だった。なんか……単純に恥ずかしいというか……コンプレックスの塊みたいな自分が、それをすること自体がおこがましいというか……そんなこと言ったらまた透くんに怒られるけど。
「キスしたい?」
透くんが、そのものズバリを言葉にする。返事の代わりに顔が赤くなる。そしたら「してよ」って──
「え」
「キス。留丸から俺に」
「えええーー……」
「なんでえー、なんだよ。簡単だろ」
いや、簡単だけど。キスは口と口くっつけるだけだから簡単だけど。でもされるとするじゃ大分違う。心理的ハードルが高いんだよ、透くん──って、分かって言ってるよね。透くん、意地悪だから……
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