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シェアハウス編
エピローグ
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さすがにくっついてるのが暑くなってきた、とまともなことが考えられるようになったのは、じわっと汗ばんでいることが分かるようになってからだった。
僕の背中を抱き寄せたままの手から抜け出るように身じろぐと、透さんが手を緩めてくれた。
顔が見れない。恥ずかしすぎる……
「上に、行かない……? 喉が渇いたし……」
膝を降りて、にじにじと後ろに下がると透さんが仕方がないな、という風に小さく笑って、ソファから立ち上がった。
玄関に続く階段を、透さんの後ろからついて上がってく。
まだ信じられない。というか、明日になっても、明後日になっても、まだ信じられない気がする。
だって……透さんだよ……? なんで透さんが僕を好きなの。僕が透さんを好きになるのは当然として、なんで透さんが……
もしかして、透さんの絵を見分けられるという僕の特技のせいで、その特別な感情を勘違いしてるとか……!
そんなことを考えて上るのが遅くなってた僕を、透さんが玄関のドアを開けて待ってくれてた。
たたた、と走って追いついて、ドアを締めながら追いついた僕を中に入れた透さんが、そのままの流れで僕を腕の中に捕まえて、「何考えてる?」と閉めたドアに寄りかかって僕を見下ろした。
「え……えと……透さんは、何か勘違いしてるんじゃないかなって……だって透さんが僕を好きだなんて、なんか……」
「ただの勘違いでこうしたくはならない」
僕の後頭部を透さんの大きな手が包んだと思ったら、そのまま唇が重なった。
息が止まった。
鼻に抜けてく透さんの匂い。
頭ではまだ信じられないままでいる僕に、特別な想いを伝える優しいキス。
薬を飲ませてくれた時とは、違う……ただ唇を触れさせてるだけなのに、心臓がドコドコうるさくて……
「透さん……」
「ふたりの時は透でいい」
「や……それは……」
「呼んでみて」
ニヤニヤ笑ってる透さんは、腹立つほどかっこよくて……好きすぎる……
「と……と……透……さ──」
「透」
「透……くん」
途端に「小学生かよ」とツッコミを入れてきた透さんだけど、僕が頑なに呼び捨ては無理って言ったから、透くんでいいってことになった。
透くんでいいなら透さんのままでいいんじゃないかと思ったけど、仕事場とプライベートを一緒にするのは嫌なんだって。キッチリカッチリの透さんらしい。
こうして……僕と透くんのシェアハウスは、同棲、と名前を変えることになった。
梅雨明け宣言が出たばかりの、夏の始めのことだった。
消せない過去も忘れたい記憶も、僕から切り離すことは出来ない。
けど、透くんがいるから。
その出会いはまるで雨上がりに現れた虹のような福音。
激しい雷雨が洗い流した空は、今は綺麗に晴れてる。
だから僕は今日も笑ってる。
大好きな透くんの、隣に座って。
シェアハウス編 END
同棲編に続く
僕の背中を抱き寄せたままの手から抜け出るように身じろぐと、透さんが手を緩めてくれた。
顔が見れない。恥ずかしすぎる……
「上に、行かない……? 喉が渇いたし……」
膝を降りて、にじにじと後ろに下がると透さんが仕方がないな、という風に小さく笑って、ソファから立ち上がった。
玄関に続く階段を、透さんの後ろからついて上がってく。
まだ信じられない。というか、明日になっても、明後日になっても、まだ信じられない気がする。
だって……透さんだよ……? なんで透さんが僕を好きなの。僕が透さんを好きになるのは当然として、なんで透さんが……
もしかして、透さんの絵を見分けられるという僕の特技のせいで、その特別な感情を勘違いしてるとか……!
そんなことを考えて上るのが遅くなってた僕を、透さんが玄関のドアを開けて待ってくれてた。
たたた、と走って追いついて、ドアを締めながら追いついた僕を中に入れた透さんが、そのままの流れで僕を腕の中に捕まえて、「何考えてる?」と閉めたドアに寄りかかって僕を見下ろした。
「え……えと……透さんは、何か勘違いしてるんじゃないかなって……だって透さんが僕を好きだなんて、なんか……」
「ただの勘違いでこうしたくはならない」
僕の後頭部を透さんの大きな手が包んだと思ったら、そのまま唇が重なった。
息が止まった。
鼻に抜けてく透さんの匂い。
頭ではまだ信じられないままでいる僕に、特別な想いを伝える優しいキス。
薬を飲ませてくれた時とは、違う……ただ唇を触れさせてるだけなのに、心臓がドコドコうるさくて……
「透さん……」
「ふたりの時は透でいい」
「や……それは……」
「呼んでみて」
ニヤニヤ笑ってる透さんは、腹立つほどかっこよくて……好きすぎる……
「と……と……透……さ──」
「透」
「透……くん」
途端に「小学生かよ」とツッコミを入れてきた透さんだけど、僕が頑なに呼び捨ては無理って言ったから、透くんでいいってことになった。
透くんでいいなら透さんのままでいいんじゃないかと思ったけど、仕事場とプライベートを一緒にするのは嫌なんだって。キッチリカッチリの透さんらしい。
こうして……僕と透くんのシェアハウスは、同棲、と名前を変えることになった。
梅雨明け宣言が出たばかりの、夏の始めのことだった。
消せない過去も忘れたい記憶も、僕から切り離すことは出来ない。
けど、透くんがいるから。
その出会いはまるで雨上がりに現れた虹のような福音。
激しい雷雨が洗い流した空は、今は綺麗に晴れてる。
だから僕は今日も笑ってる。
大好きな透くんの、隣に座って。
シェアハウス編 END
同棲編に続く
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