笑顔の向こう側

ゆん

文字の大きさ
上 下
55 / 84
シェアハウス編

エピローグ

しおりを挟む
さすがにくっついてるのが暑くなってきた、とまともなことが考えられるようになったのは、じわっと汗ばんでいることが分かるようになってからだった。
僕の背中を抱き寄せたままの手から抜け出るように身じろぐと、透さんが手を緩めてくれた。
顔が見れない。恥ずかしすぎる……

「上に、行かない……? 喉が渇いたし……」

膝を降りて、にじにじと後ろに下がると透さんが仕方がないな、という風に小さく笑って、ソファから立ち上がった。

玄関に続く階段を、透さんの後ろからついて上がってく。
まだ信じられない。というか、明日になっても、明後日になっても、まだ信じられない気がする。
だって……透さんだよ……? なんで透さんが僕を好きなの。僕が透さんを好きになるのは当然として、なんで透さんが……
もしかして、透さんの絵を見分けられるという僕の特技のせいで、その特別な感情を勘違いしてるとか……!

そんなことを考えて上るのが遅くなってた僕を、透さんが玄関のドアを開けて待ってくれてた。
たたた、と走って追いついて、ドアを締めながら追いついた僕を中に入れた透さんが、そのままの流れで僕を腕の中に捕まえて、「何考えてる?」と閉めたドアに寄りかかって僕を見下ろした。

「え……えと……透さんは、何か勘違いしてるんじゃないかなって……だって透さんが僕を好きだなんて、なんか……」
「ただの勘違いでこうしたくはならない」

僕の後頭部を透さんの大きな手が包んだと思ったら、そのまま唇が重なった。
息が止まった。
鼻に抜けてく透さんの匂い。
頭ではまだ信じられないままでいる僕に、特別な想いを伝える優しいキス。
薬を飲ませてくれた時とは、違う……ただ唇を触れさせてるだけなのに、心臓がドコドコうるさくて……

「透さん……」
「ふたりの時は透でいい」
「や……それは……」
「呼んでみて」

ニヤニヤ笑ってる透さんは、腹立つほどかっこよくて……好きすぎる……

「と……と……透……さ──」
「透」
「透……くん」

途端に「小学生かよ」とツッコミを入れてきた透さんだけど、僕が頑なに呼び捨ては無理って言ったから、透くんでいいってことになった。
透くんでいいなら透さんのままでいいんじゃないかと思ったけど、仕事場とプライベートを一緒にするのは嫌なんだって。キッチリカッチリの透さんらしい。

こうして……僕と透くんのシェアハウスは、同棲、と名前を変えることになった。
梅雨明け宣言が出たばかりの、夏の始めのことだった。

消せない過去も忘れたい記憶も、僕から切り離すことは出来ない。
けど、透くんがいるから。
その出会いはまるで雨上がりに現れた虹のような福音。
激しい雷雨が洗い流した空は、今は綺麗に晴れてる。

だから僕は今日も笑ってる。
大好きな透くんの、隣に座って。




シェアハウス編 END

同棲編に続く

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

overdose

水姫
BL
「ほら、今日の分だよ」 いつも通りの私と喜んで受けとる君。 この関係が歪みきっていることなんてとうに分かってたんだ。それでも私は… 5/14、1時間に1話公開します。 6時間後に完結します。 安心してお読みください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

これがおれの運命なら

やなぎ怜
BL
才能と美貌を兼ね備えたあからさまなαであるクラスメイトの高宮祐一(たかみや・ゆういち)は、実は立花透(たちばな・とおる)の遠い親戚に当たる。ただし、透の父親は本家とは絶縁されている。巻き返しを図る透の父親はわざわざ息子を祐一と同じ高校へと進学させた。その真意はΩの息子に本家の後継ぎたる祐一の子を孕ませるため。透は父親の希望通りに進学しながらも、「急いては怪しまれる」と誤魔化しながら、その実、祐一には最低限の接触しかせず高校生活を送っていた。けれども祐一に興味を持たれてしまい……。 ※オメガバース。Ωに厳しめの世界。 ※性的表現あり。

幼馴染から離れたい。

June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。 だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。 βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。 誤字脱字あるかも。 最後らへんグダグダ。下手だ。 ちんぷんかんぷんかも。 パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・ すいません。

たとえ性別が変わっても

てと
BL
ある日。親友の性別が変わって──。 ※TS要素を含むBL作品です。

わざとおねしょする少年の話

こじらせた処女
BL
 甘え方が分からない少年が、おねしょすることで愛情を確認しようとする話。  

処理中です...