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シェアハウス編
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待ち続けた救世主、透さんによるコーディネイト開始!……からの記憶がね……おかしいんだよね……確かに僕の部屋に透さんが入ってきて、スーツはこれっていつも着てるやつ見せて、シャツとネクタイ出して「これだけ!?うそだろ」って透さんの言葉を聞いて──それから……
「……」
僕は、目覚まし時計の音で目覚めていた。目覚めたということは、寝ていたということで。
キッチリ、タオルケットに包まれて。
まだ頭にまとわりつく眠気を引きずったままベッドに起き上って、しばし考える。
えっと……何か大事なことを忘れているような……
部屋をぐるりと見渡して、窓枠の縁にぶら下がっているのが目に入る、ネイビーのスーツ……僕の……
「……!!」
スーツ……!!あれ……!?もう朝ってことは、ぼ、僕もしかして途中で……
ベッドを降りて窓に近づくと、いつもの僕のスーツがなんだか違う。形がスキッとしっかりして、ぱりっとして、僕のスーツってこんなに綺麗だったっけ……合わせてあるいつもの白シャツもキリッっと……
それに、一緒に掛けてあるネクタイ……紺と、水色と、レンガ色のしましま……僕のではないということは、透さんの……
ど、ど、ど、どーしよう……寝てしまった……夜遅くまで仕事をして疲れて帰って来た透さんを奇襲した上に、勝手に先に寝てしまった……
「ほんと、ひどい話だよな」
僕より先に洗面所に来ていた透さんが、呆れ度100パーセントの目で鏡越しに僕を見る。
「こっちは服も着替えず考えてたってのに、振り返ったら腹出して寝てるって。しかもまた渡された服がひどいし。あんた手入れって一切しないんだな。そうだろうなとは思ってたけど。コーディネイト云々の前にちゃんとアイロンかけろ。それだけで全然違う。
まずあと一着スーツを買え。最低でも三着で着まわせ。一着着たら、その日の内にブラシをかけて、スーツの大きなシワはアイロンをかけておく。それから吊るして2、3日休ませる。それの繰り返しだ。ズボンは折りたたんで干すなよ。裾から伸ばして吊るせ。
あんたのスーツ、元はそんなに悪くないのに目詰まりしてテカってるし型崩れしかけてるし、服が泣いてるっての」
どとーーーーーの、お説教。朝から、流石です……
「ゴメンナサイ……」
「ネクタイももう少し色味を足せよ。取りあえず俺のを貸すから、土曜はそれつけてけ。ダブルノットで結んで小剣はズボンの中に入れろよ」
「ダブル……?」
「ダブルノット。分かんなかったらYuTube見ろ」
そのまま完全に目が覚めたカッコイイ眼鏡無し透さんが、僕を残して洗面所を出て行った。
あぁ……反省……ごめんなさい~~~……
歯磨きを終えてリビングに行くと透さんの姿はなかった。多分、自分の部屋に戻って着替えてる。
僕は自己嫌悪でずーんと落ち込んだまま、たまごかけごはんとお味噌汁の朝ご飯を食べ始めた。
失敗続きだ。好きになってもらいたいのに何やってんだろ……白目向いたり、腹出して寝たり、全然だめじゃん……
恋って、どこで生まれるんだろう。
僕はどうして透さんに恋したんだろう。
かっこいいのはもちろんだけど、一番はあの優しさ……かな。じーんと優しい。透さんは。
透さんはどんな人に恋するのかな……
どうしても恋と透さんが結びつかない。四六時中相手のことを考えて、自分の時間がそれでいっぱいになっちゃうような……
それって、絵だな、と思った。
透さんは絵を描くことに恋してる。
絵よりも夢中になる相手なんて──
「いなさそう……」
上でドアが閉まる音がして、階段を透さんが下りてくる。今日はネイビーのスーツにうすいブルーのシャツ、ネイビーに白の水玉のネクタイ。黒フレームの眼鏡と、黒のビジネスバッグ。
どんなものも艶があるように見えるのは、きっと全部ちゃんとお手入れしてるからなんだろうな。
「透さん。ほんとにありがとう。あれ、明日着るから」
「ん」
短い返事もそこそこに透さんが玄関に向かうその流れを、お茶碗と箸を持ったまま目で追ってる。新しい靴を出し、外したシューキーパーを昨日の靴にはめて下駄箱に仕舞い、靴ベラを使って靴を履く。
透さんは所作が綺麗だった。
「明日の朝、ダブルノット教えてやるから」
靴ベラを靴箱の内側のフックに引っかけながら透さんが言った。
「え?」
「あんたが動画を見てうまく出来るならいいけど。じゃあね」
あとは振り返らずに玄関を出てく。
じ~~~~ん……だよ。こうやって惚れさせるんだよ。僕も透さんにこんな風に感じさせたいのに、僕よりなんでも出来る人にそんなこと、不可能じゃない?
王子さまはお姫様と結婚する。
使用人Aとは結婚しないもんね。
シンデレラは使用人って言ったって美人だったし、王子様を一目惚れさせる力があったんだから参考になんない。
透さんが僕を特別に好きになるのなんて、なんかとてつもない大事件でも起きない限り無理だ。
例えば僕にヒートが来て、たまたま透さんが抗フェロモン薬持ってなくて、ふたりは……とか。
うわぁぁ……恥ずかしい……!!
大体、そんなの透さんが一番キライなやつじゃん。あの人は性欲を満たすために誰かを抱く、なんてことはしなさそうだから、もしそんなことになったら心底自分のミスを責めそうだし、もう二度とオメガには近づかない、とか考えそう。
ああ、もっと好かれたい。
透さんに、恋する目で見つめられたい……
神様。どうか僕に秘策を授けてください。惚れ薬とか。寝て起きたら可愛くなってるとか。
……だめだ。考え方が腐ってる。
そこからして好かれそうにない。
「……」
僕は、目覚まし時計の音で目覚めていた。目覚めたということは、寝ていたということで。
キッチリ、タオルケットに包まれて。
まだ頭にまとわりつく眠気を引きずったままベッドに起き上って、しばし考える。
えっと……何か大事なことを忘れているような……
部屋をぐるりと見渡して、窓枠の縁にぶら下がっているのが目に入る、ネイビーのスーツ……僕の……
「……!!」
スーツ……!!あれ……!?もう朝ってことは、ぼ、僕もしかして途中で……
ベッドを降りて窓に近づくと、いつもの僕のスーツがなんだか違う。形がスキッとしっかりして、ぱりっとして、僕のスーツってこんなに綺麗だったっけ……合わせてあるいつもの白シャツもキリッっと……
それに、一緒に掛けてあるネクタイ……紺と、水色と、レンガ色のしましま……僕のではないということは、透さんの……
ど、ど、ど、どーしよう……寝てしまった……夜遅くまで仕事をして疲れて帰って来た透さんを奇襲した上に、勝手に先に寝てしまった……
「ほんと、ひどい話だよな」
僕より先に洗面所に来ていた透さんが、呆れ度100パーセントの目で鏡越しに僕を見る。
「こっちは服も着替えず考えてたってのに、振り返ったら腹出して寝てるって。しかもまた渡された服がひどいし。あんた手入れって一切しないんだな。そうだろうなとは思ってたけど。コーディネイト云々の前にちゃんとアイロンかけろ。それだけで全然違う。
まずあと一着スーツを買え。最低でも三着で着まわせ。一着着たら、その日の内にブラシをかけて、スーツの大きなシワはアイロンをかけておく。それから吊るして2、3日休ませる。それの繰り返しだ。ズボンは折りたたんで干すなよ。裾から伸ばして吊るせ。
あんたのスーツ、元はそんなに悪くないのに目詰まりしてテカってるし型崩れしかけてるし、服が泣いてるっての」
どとーーーーーの、お説教。朝から、流石です……
「ゴメンナサイ……」
「ネクタイももう少し色味を足せよ。取りあえず俺のを貸すから、土曜はそれつけてけ。ダブルノットで結んで小剣はズボンの中に入れろよ」
「ダブル……?」
「ダブルノット。分かんなかったらYuTube見ろ」
そのまま完全に目が覚めたカッコイイ眼鏡無し透さんが、僕を残して洗面所を出て行った。
あぁ……反省……ごめんなさい~~~……
歯磨きを終えてリビングに行くと透さんの姿はなかった。多分、自分の部屋に戻って着替えてる。
僕は自己嫌悪でずーんと落ち込んだまま、たまごかけごはんとお味噌汁の朝ご飯を食べ始めた。
失敗続きだ。好きになってもらいたいのに何やってんだろ……白目向いたり、腹出して寝たり、全然だめじゃん……
恋って、どこで生まれるんだろう。
僕はどうして透さんに恋したんだろう。
かっこいいのはもちろんだけど、一番はあの優しさ……かな。じーんと優しい。透さんは。
透さんはどんな人に恋するのかな……
どうしても恋と透さんが結びつかない。四六時中相手のことを考えて、自分の時間がそれでいっぱいになっちゃうような……
それって、絵だな、と思った。
透さんは絵を描くことに恋してる。
絵よりも夢中になる相手なんて──
「いなさそう……」
上でドアが閉まる音がして、階段を透さんが下りてくる。今日はネイビーのスーツにうすいブルーのシャツ、ネイビーに白の水玉のネクタイ。黒フレームの眼鏡と、黒のビジネスバッグ。
どんなものも艶があるように見えるのは、きっと全部ちゃんとお手入れしてるからなんだろうな。
「透さん。ほんとにありがとう。あれ、明日着るから」
「ん」
短い返事もそこそこに透さんが玄関に向かうその流れを、お茶碗と箸を持ったまま目で追ってる。新しい靴を出し、外したシューキーパーを昨日の靴にはめて下駄箱に仕舞い、靴ベラを使って靴を履く。
透さんは所作が綺麗だった。
「明日の朝、ダブルノット教えてやるから」
靴ベラを靴箱の内側のフックに引っかけながら透さんが言った。
「え?」
「あんたが動画を見てうまく出来るならいいけど。じゃあね」
あとは振り返らずに玄関を出てく。
じ~~~~ん……だよ。こうやって惚れさせるんだよ。僕も透さんにこんな風に感じさせたいのに、僕よりなんでも出来る人にそんなこと、不可能じゃない?
王子さまはお姫様と結婚する。
使用人Aとは結婚しないもんね。
シンデレラは使用人って言ったって美人だったし、王子様を一目惚れさせる力があったんだから参考になんない。
透さんが僕を特別に好きになるのなんて、なんかとてつもない大事件でも起きない限り無理だ。
例えば僕にヒートが来て、たまたま透さんが抗フェロモン薬持ってなくて、ふたりは……とか。
うわぁぁ……恥ずかしい……!!
大体、そんなの透さんが一番キライなやつじゃん。あの人は性欲を満たすために誰かを抱く、なんてことはしなさそうだから、もしそんなことになったら心底自分のミスを責めそうだし、もう二度とオメガには近づかない、とか考えそう。
ああ、もっと好かれたい。
透さんに、恋する目で見つめられたい……
神様。どうか僕に秘策を授けてください。惚れ薬とか。寝て起きたら可愛くなってるとか。
……だめだ。考え方が腐ってる。
そこからして好かれそうにない。
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