笑顔の向こう側

ゆん

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出会い編

新居へ

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次の日の早朝、透さんが白のワンボックスカーで現れた。街で社用車として使われているのをよく見かける大きな車で、サイズはむしろ透さんに合うのに僕は軽に乗ってる透さんが好きだと思った。

車を降りてきた透さんは、いつもとは違うテンプルに白いラインの入った眼鏡をかけ、袖まくりをした白いシャツに濃いデニム、ベージュのモカシンっていういつもよりカジュアルだけどやっぱどこかイタリアンな匂いがする装いだった。

「おはようございます!今日はありがとうございます!」
「ん」

にこにこ出迎えた僕の横をすり抜けた透さんは、昨日の夜に玄関に運んでおいたダンボールの量を見て「ひとり暮らしだろ」と呟き信じられない、という顔をした。

「これでも少し宅配便で送ったんですよ……」
「は?これで全部じゃないの?」
「はい、あの……頑張って捨ててたんですけど、最後は時間がなくなってどんどん詰めて」
「……」

呆れてる……いや、僕も多いなって思ったけどでもどれも大事なものばっかりだし捨てることが出来ないなら持っていくしかないわけで──

怒られる、と思ったけど透さんはため息をひとつついただけで、箱をもくもくと運び始めた。慌てて、僕も後に続く。がらんどうの車内に綺麗に荷物が詰められてく。歩幅とパワーの違いで透さんに何度も追い抜かされた。

すべて積み終わると、僕は入社以来お世話になってる寮にぺこりとお辞儀をして助手席に乗り込んだ。

走り出してしばらくして、透さんが「ちょっと訊いてみるんだけど」と低い声で言った。まだ何も聞いてないうちから、自分が何かやらかしたんじゃないかって予感がする。

「箱の表面に何も書いてなかったけど。何か目印でもあるわけ」
「目印?」

え、なんの目印?

「まさかとは思うけど、中身の確認は全部開けてするつもりだったとか」
「え。はい。だめ、ですか?」
「……まぁいいけど。あんたがやることだし」

どうせ全部開けるし、開けたら一目瞭然だしって思った。実際僕は困ってなかったんだけど、新居に着いて荷解きを始めると、その様子を見守ってた透さんがほら見ろ、という顔をして「やっぱり書いとけば良かっただろ」と言った。

「え??」
「いや……やってみても分かんないの?効率が悪いって」
「効率……」
「中身を書いておけば最初から仕舞う場所に運んで置いておけるし、奥に仕舞うものから開封すれば、こんなふうに部屋中に口の開いた段ボールが広がることもない」
「あぁ~……なるほど……」

言われてみればそうかもしれない。僕は箱を開ける、中身を仕舞う、しか考えてなかった。

透さんは「ま、がんばって」と僕を部屋へ残して行ってしまった。

今から絵を描くのかな?この家の玄関にも絵があったし、早く終わらせて、もし透さんがいいって言ってくれたら他の絵も見せてもらいたいな。




新居は、新社屋と同じく満さんの設計で、同地域のこれまた変形地に建つ三階建てだった。満さんは変形地が好きなんだって。他より安いし、不便で使い勝手の悪そうなその場所を活かす家を建てるのが生きがいらしい。

木とガラスが第一印象の新社屋とは対照的に外壁も内壁もコンクリート打ちっぱなしで、でも要所要所で大きくとった開口部や面白いレイアウトが不思議なぬくもりを感じる造りになってた。

僕がいっとう好きだったのは、2階の玄関へ繋がるL字の階段だ。コンクリートの壁に外階段で見かけるような鉄製のものが付いてて、1階全部がだだっ広い土間のワークスペースになってるから、そこを見下ろすように上がっていくのが楽しくて。

面白いよね。外から中に入ったのにまた外がある感じ。

その1階部分が、透さんのアトリエだった。

荷物を運ぶのに一生懸命だったからよくは見れてないけど、透さんの身長よりも大きいカンバスとか、何か彫りかけた木とか、面白そうなものがたくさん置いてあった。

2階はリビングと水回り、3階に僕が借りる1部屋ともう1部屋。寮の部屋より大きいし、コンクリート打ちっぱなしの壁一面のクローゼットに木製の作り付けの棚や引き出しがあって収納力もばっちり。

さー早く片付けよう!さくさくと!さくさくーっとね!!








「おい、片付い──……」

透さんがドアを開けて、固まった。僕も固まっちゃってた。なぜなら、片付けが、一向に、終わる気配が、ないから……

いや、進んでるんだよ。ちゃんとひとつひとつ、こうやって引き出しに──

「どうしよう……終わる気がしない……」
「なんで段ボールが減ってないの」
「えっと……減ったはずです……そこと、そこと、あっちのは空っぽで──」
「終わったのは潰せよ」

透さんが部屋の床一面に広がった段ボールを跨ぐようにして中へ入り、空いた箱のガムテープを剥がして次々と平たく畳んだ。手際が良くて、ぼーっと見とれてしまう。

「おい……手、動かせ。終わんないだろ。俺、昼飯買いにいくけど。あんた、どうする」
「もうそんな時間……」

お腹が、”やっと気づいてくれたか!”と言わんばかりにグーッと鳴ってその存在を主張する。でも片付けないと。ごはん食べてる場合じゃ──





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