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出会い編
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お金を貯めて、将来は二人で店を出そうという夢まで持った。
僕は本気でナオトを応援していたし、ボーイよりももっとお金を貯められる仕事はないかと考えていた。そうすればナオトの店に通って彼の売上に貢献できるし、お金を早く貯めて自分たちの店を持てる。
オメガの僕にとって普通の会社に勤めるのは無理だったから、同じ働くなら働いた分だけ実入りが良くなる歩合制の仕事がベストな選択に思えた。
その話をナオトにした後かする前だったか定かじゃないけど、その頃に二番目の店、オメガバー『POISON』をナオトが探してきてくれた。バーという名前がついてはいるけれど、本番アリのいわゆるソープに分類される店だった。
もちろん嫌だった。嫌だったけど、ほんの半年我慢すれば店が持てるのだと言われて……ナオトも僕が他の男に抱かれるのは本当に嫌だけど我慢するから、と。その言葉を、その当時の僕は信じた。
その時仲が良かった店の女の子には、騙されてる、貢がされてると散々止められた。
けど……不思議なもので、自分が相手に惚れこんでると、自分は冷静に判断して決定していると思い込んでしまう。騙されてるわけではなくて、二人のために納得してその道を選んでるのだと。
だってナオトは本番があることも包み隠さず教えてくれている訳だし、僕は事前にそれを知っててそこへ勤めるんだから騙されてるとは言えない、と。そういう結論が導き出せることが冷静である証だと信じて疑わなかった。
だから笑って頷いた。ふたりで頑張ろうって、抱き合った。
『POISON』での仕事は過酷だった。
オメガバーに来る客はほぼ全員アルファの男性で金払いはいいからソープの中でも高級な部類ではあったけど、僕みたいな平凡な容姿をしているオメガが勤められる店は、他のオメガバーでは出来ないようなプレイを求められることがどうしても多くなった。
縛られたり、えげつない道具を使われたり、複数でいたぶられたり……浣腸とか放尿とか汚れたペニスの生フェラとか嫌なことは数知れないけど、一番嫌だったのはヒートの時に生でされることだった。
匂いが薄いだの色気がないだの散々言われながら、それでも僕には快感があったから、その瞬間にはナオトを裏切っている悲しさと苦しさとが快感とせめぎ合って、終わった後の絶望的な気持ちは吐き気を催すくらいだった。
それでも、月収はそれまでの仕事の5倍以上にもなった。
通帳の数字が増えていくたび、ナオトとの夢が近づいてくる。その実感があったからこそ耐えられた。
それから半年。貯金が500万円を超える頃ナオトが自分の貯金と合わせて頭金にして店を出そうと言って来た。その言葉を聞いた瞬間半年の苦しみが全て報われた気持ちになった。
次の日には全額おろしてきてナオトに渡した。その日の夜も仕事があって、首を絞めてくるのが恒例の客だったからゲンナリしたけど、でもさ。もう終わるんだ、この生活が終わるんだって思ったらなんか笑っちゃって。
僕が苦しむ顔が見たかったお客は怒ってたけど、それこそ笑ってごめんなさいって言うしかなかった。そのせいで延長になったから店には喜ばれたけど。
仕事が終わって、そそくさと店を出て。近くのコンビニにコーヒーを買いに入りながらふと思い出してスマホを取り出したらLINEの着信があって、ナオトからで。仕事が終わったらすぐに電話が欲しいって。
良い物件が見つかったのかな?とすっごいテンションが上がって、入りかけたコンビニから出て急いで電話をかけた。
すると少し間を置いて出たナオトの様子が変で。泣いてるみたいで。お金を盗まれちゃったんだって。友達だと思ってた男に騙されたって。
もう……すごいショックだった。そりゃもう、すっごく。
でもきっと僕以上にナオトはショックだろうって思ったら、「大丈夫だよ。もうあと半年頑張ればいいだけだよ」と、馬鹿みたいに明るい声が出た。
ナオトは合わせる顔がないと言って電話を切った。
真夜中のコンビニの光の輪の外でしばらくの間呆然と突っ立って、それからまた、コーヒーを買いに店内に戻った。
もうちょっとこの生活が続くだけだ。
良くも悪くも今の生活に慣れてたから。僕はナオトがいてくれれば……ふたりなら、頑張れるって思った。
家に帰るとナオトはいなくて、僕はナオトがショックでどうにかなっちゃったんじゃないかって心配で……だけど連絡が取れないからどうしようもなくて。LiNEを送ったら既読にはなるから、それだけで生きてるって分かってほっとした。
大丈夫だよ!僕が頑張るから!と一生懸命励まして、待って。半月ほどしてやっと電話が繋がった時はもう、泣きそうだった。
でももし泣いてしまったらナオトは罪悪感で苦しくなって、そうしたらもう二度と帰って来ないかもしれない。そう思った僕はやっぱり笑うしかなくなってて──
僕は本気でナオトを応援していたし、ボーイよりももっとお金を貯められる仕事はないかと考えていた。そうすればナオトの店に通って彼の売上に貢献できるし、お金を早く貯めて自分たちの店を持てる。
オメガの僕にとって普通の会社に勤めるのは無理だったから、同じ働くなら働いた分だけ実入りが良くなる歩合制の仕事がベストな選択に思えた。
その話をナオトにした後かする前だったか定かじゃないけど、その頃に二番目の店、オメガバー『POISON』をナオトが探してきてくれた。バーという名前がついてはいるけれど、本番アリのいわゆるソープに分類される店だった。
もちろん嫌だった。嫌だったけど、ほんの半年我慢すれば店が持てるのだと言われて……ナオトも僕が他の男に抱かれるのは本当に嫌だけど我慢するから、と。その言葉を、その当時の僕は信じた。
その時仲が良かった店の女の子には、騙されてる、貢がされてると散々止められた。
けど……不思議なもので、自分が相手に惚れこんでると、自分は冷静に判断して決定していると思い込んでしまう。騙されてるわけではなくて、二人のために納得してその道を選んでるのだと。
だってナオトは本番があることも包み隠さず教えてくれている訳だし、僕は事前にそれを知っててそこへ勤めるんだから騙されてるとは言えない、と。そういう結論が導き出せることが冷静である証だと信じて疑わなかった。
だから笑って頷いた。ふたりで頑張ろうって、抱き合った。
『POISON』での仕事は過酷だった。
オメガバーに来る客はほぼ全員アルファの男性で金払いはいいからソープの中でも高級な部類ではあったけど、僕みたいな平凡な容姿をしているオメガが勤められる店は、他のオメガバーでは出来ないようなプレイを求められることがどうしても多くなった。
縛られたり、えげつない道具を使われたり、複数でいたぶられたり……浣腸とか放尿とか汚れたペニスの生フェラとか嫌なことは数知れないけど、一番嫌だったのはヒートの時に生でされることだった。
匂いが薄いだの色気がないだの散々言われながら、それでも僕には快感があったから、その瞬間にはナオトを裏切っている悲しさと苦しさとが快感とせめぎ合って、終わった後の絶望的な気持ちは吐き気を催すくらいだった。
それでも、月収はそれまでの仕事の5倍以上にもなった。
通帳の数字が増えていくたび、ナオトとの夢が近づいてくる。その実感があったからこそ耐えられた。
それから半年。貯金が500万円を超える頃ナオトが自分の貯金と合わせて頭金にして店を出そうと言って来た。その言葉を聞いた瞬間半年の苦しみが全て報われた気持ちになった。
次の日には全額おろしてきてナオトに渡した。その日の夜も仕事があって、首を絞めてくるのが恒例の客だったからゲンナリしたけど、でもさ。もう終わるんだ、この生活が終わるんだって思ったらなんか笑っちゃって。
僕が苦しむ顔が見たかったお客は怒ってたけど、それこそ笑ってごめんなさいって言うしかなかった。そのせいで延長になったから店には喜ばれたけど。
仕事が終わって、そそくさと店を出て。近くのコンビニにコーヒーを買いに入りながらふと思い出してスマホを取り出したらLINEの着信があって、ナオトからで。仕事が終わったらすぐに電話が欲しいって。
良い物件が見つかったのかな?とすっごいテンションが上がって、入りかけたコンビニから出て急いで電話をかけた。
すると少し間を置いて出たナオトの様子が変で。泣いてるみたいで。お金を盗まれちゃったんだって。友達だと思ってた男に騙されたって。
もう……すごいショックだった。そりゃもう、すっごく。
でもきっと僕以上にナオトはショックだろうって思ったら、「大丈夫だよ。もうあと半年頑張ればいいだけだよ」と、馬鹿みたいに明るい声が出た。
ナオトは合わせる顔がないと言って電話を切った。
真夜中のコンビニの光の輪の外でしばらくの間呆然と突っ立って、それからまた、コーヒーを買いに店内に戻った。
もうちょっとこの生活が続くだけだ。
良くも悪くも今の生活に慣れてたから。僕はナオトがいてくれれば……ふたりなら、頑張れるって思った。
家に帰るとナオトはいなくて、僕はナオトがショックでどうにかなっちゃったんじゃないかって心配で……だけど連絡が取れないからどうしようもなくて。LiNEを送ったら既読にはなるから、それだけで生きてるって分かってほっとした。
大丈夫だよ!僕が頑張るから!と一生懸命励まして、待って。半月ほどしてやっと電話が繋がった時はもう、泣きそうだった。
でももし泣いてしまったらナオトは罪悪感で苦しくなって、そうしたらもう二度と帰って来ないかもしれない。そう思った僕はやっぱり笑うしかなくなってて──
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