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第一部
oath
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帰りは透の車で眠ってた。
全力で暴れたせいか、色々ありすぎたせいか……とにかく眠たくて、透がシートを倒してくれたのにも気づかないくらい爆睡してた。
おじいさんは、仲直りを心から喜んでくれた。
「また来い。夏はここにおるから」
「はい……ほんとにありがとう……」
「俺は何もしてねぇよ。じゃあな」
僕にじゃれついて来ようとするコテツの頭を撫でてやりながら、手を振って砂浜を元の駅の方向へ歩き出した。
並んで歩く僕らを見てキャーキャー言ってる海の家のバイトの子たちにも頭を下げて。
ほんの少しの時間、おじいさんと僕の人生が交差したことの不思議を感じる。
おじいさんが僕に寄っていくかと声を掛けなかったら、僕は海風で乾いた絶望を頬っぺたにくっ付けてコンビニに行き、お水を買って、そのまま電車で『POISON』に向かっただろう。
透はそのうちに僕を見つけたのかな。
見知らぬ誰かに激しく抱かれた後の僕を見ても、やっぱり同じことを言ってくれたかな。
少し前を歩く透を斜め後ろから眩しく見やる。
……きっと、言ってくれた。
馬鹿なことをするやつだと怒ったり呆れたりしても、決して見放したりしない人だから。
僕はもう、二度と透から離れようなんて考えまい。
神父さんの前の誓いじゃないけど……死がふたりを分かつまで。
車に乗り込んだ後、透のスマホで至さんに電話を掛けた。僕のスマホは、埋まったまま見つからなかったから。
砂浜で「携帯、落としたのか」と訊かれた時、「埋めたらなくなっちゃった」と答えたら透はすごく変な顔をした。
「なんで埋めたの」
「音を聞こえなくしようと思って……」
「通話拒否るとか、電源切るとかあったと思うけど」
「あ、そうか」
「お陰であんたを見つけられたけど。あんたが馬鹿で良かったよ」
そう言って、透は僕の頭をくしゃっと撫でた。
実際のところ、僕の携帯の電源が切れてなかったから、携帯電話会社に融通が利く至さんの知り合いの計らいで微弱電波を探すことが出来たらしい。
携帯の向こうの至さんは、僕にひとつの文句も言うことなく、温かい声で喜んでくれた。
「ほんとに良かったよ。辞表は受理してないから、休みが明けたら普通に来てね。みんなには風邪って言ってあるから」
僕は泣きそうになりながらお礼を言い、携帯を耳に当てたままペコペコ頭を下げた。
僕は恵まれてる。
恵まれ過ぎくらい……
全力で暴れたせいか、色々ありすぎたせいか……とにかく眠たくて、透がシートを倒してくれたのにも気づかないくらい爆睡してた。
おじいさんは、仲直りを心から喜んでくれた。
「また来い。夏はここにおるから」
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「俺は何もしてねぇよ。じゃあな」
僕にじゃれついて来ようとするコテツの頭を撫でてやりながら、手を振って砂浜を元の駅の方向へ歩き出した。
並んで歩く僕らを見てキャーキャー言ってる海の家のバイトの子たちにも頭を下げて。
ほんの少しの時間、おじいさんと僕の人生が交差したことの不思議を感じる。
おじいさんが僕に寄っていくかと声を掛けなかったら、僕は海風で乾いた絶望を頬っぺたにくっ付けてコンビニに行き、お水を買って、そのまま電車で『POISON』に向かっただろう。
透はそのうちに僕を見つけたのかな。
見知らぬ誰かに激しく抱かれた後の僕を見ても、やっぱり同じことを言ってくれたかな。
少し前を歩く透を斜め後ろから眩しく見やる。
……きっと、言ってくれた。
馬鹿なことをするやつだと怒ったり呆れたりしても、決して見放したりしない人だから。
僕はもう、二度と透から離れようなんて考えまい。
神父さんの前の誓いじゃないけど……死がふたりを分かつまで。
車に乗り込んだ後、透のスマホで至さんに電話を掛けた。僕のスマホは、埋まったまま見つからなかったから。
砂浜で「携帯、落としたのか」と訊かれた時、「埋めたらなくなっちゃった」と答えたら透はすごく変な顔をした。
「なんで埋めたの」
「音を聞こえなくしようと思って……」
「通話拒否るとか、電源切るとかあったと思うけど」
「あ、そうか」
「お陰であんたを見つけられたけど。あんたが馬鹿で良かったよ」
そう言って、透は僕の頭をくしゃっと撫でた。
実際のところ、僕の携帯の電源が切れてなかったから、携帯電話会社に融通が利く至さんの知り合いの計らいで微弱電波を探すことが出来たらしい。
携帯の向こうの至さんは、僕にひとつの文句も言うことなく、温かい声で喜んでくれた。
「ほんとに良かったよ。辞表は受理してないから、休みが明けたら普通に来てね。みんなには風邪って言ってあるから」
僕は泣きそうになりながらお礼を言い、携帯を耳に当てたままペコペコ頭を下げた。
僕は恵まれてる。
恵まれ過ぎくらい……
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