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第一部
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暴れすぎて頭が痛くなり、震えて手足に力が入らなくなると、ようやく透の腕の力が緩んだ。
乱れた息で見上げて、彼の頬に涙を見て呆然とした。
眼鏡の向こうの薄い茶色の瞳が、潤んで光を弾いてる。
僕は震える手を伸ばして、濡れている透の頬に触れた。
「透……」
「死なないでくれ……」
僕の目にも新たな涙が盛り上がる。
もったいない。もったいない、僕には……
「俺がどれだけ汚くないと言ってもあんたは納得しないだろう。だからお願いだ。そのままのあんたでいいから俺の傍にいてくれ……」
「僕のせいで透が悪く言われたり、恥ずかしい思いをしたりするのが辛いんだよ……」
「誇張じゃなく、何を言われても、思われても俺は一切気にしない。何を見てもあんたへの気持ちは変わらない。今後もこういうことが無いとは言えないからあんたは辛いかもしれないけど……俺と越えてくれないか」
僕は弱々しく首を振り、その僕を透が優しく抱き寄せる。
そんなの……僕はどうすればいい。この僕が受け取るには素晴らしすぎるものを、どうすればいい。こんなに不釣り合いなものを、どうすればいい。ただ受け取れって……そんなの、そんなの……
「留丸。俺と結婚して」
もう、首を振ることも、声を出すことも出来ない。
汗と涙と鼻水で汚れた顔に、なんで。
僕に、透が──
「僕……オメガだよ……」
弱々しい涙声を絞り出す。透は「今更何言ってる」と言い、僕の顔を見てひどいな、と小さく笑うと、傍にあった僕のカバンのチャックを開けて中を探った。
「あんた、タオルとか──」
透はそう言いつつ、そこには透にまつわるものしか入ってないってことに気付いたのかもしれない。
不意に切なさの滲む笑みを見せてロンTの裾を掴むと、僕の顔をごしごし拭いて性急に口づけた。
吐息さえ飲むように、熱く、甘く──
「……返事は?」
キスの余韻で少し乱れた囁き声に、今解放されたばかりの僕の唇が震える。
ああ、もう何も見えない、聞こえない……僕の世界には透だけ……
はい、と頷いた僕の唇はさっきよりももっと深く塞がれる。
太陽の、祝福を受けて。
乱れた息で見上げて、彼の頬に涙を見て呆然とした。
眼鏡の向こうの薄い茶色の瞳が、潤んで光を弾いてる。
僕は震える手を伸ばして、濡れている透の頬に触れた。
「透……」
「死なないでくれ……」
僕の目にも新たな涙が盛り上がる。
もったいない。もったいない、僕には……
「俺がどれだけ汚くないと言ってもあんたは納得しないだろう。だからお願いだ。そのままのあんたでいいから俺の傍にいてくれ……」
「僕のせいで透が悪く言われたり、恥ずかしい思いをしたりするのが辛いんだよ……」
「誇張じゃなく、何を言われても、思われても俺は一切気にしない。何を見てもあんたへの気持ちは変わらない。今後もこういうことが無いとは言えないからあんたは辛いかもしれないけど……俺と越えてくれないか」
僕は弱々しく首を振り、その僕を透が優しく抱き寄せる。
そんなの……僕はどうすればいい。この僕が受け取るには素晴らしすぎるものを、どうすればいい。こんなに不釣り合いなものを、どうすればいい。ただ受け取れって……そんなの、そんなの……
「留丸。俺と結婚して」
もう、首を振ることも、声を出すことも出来ない。
汗と涙と鼻水で汚れた顔に、なんで。
僕に、透が──
「僕……オメガだよ……」
弱々しい涙声を絞り出す。透は「今更何言ってる」と言い、僕の顔を見てひどいな、と小さく笑うと、傍にあった僕のカバンのチャックを開けて中を探った。
「あんた、タオルとか──」
透はそう言いつつ、そこには透にまつわるものしか入ってないってことに気付いたのかもしれない。
不意に切なさの滲む笑みを見せてロンTの裾を掴むと、僕の顔をごしごし拭いて性急に口づけた。
吐息さえ飲むように、熱く、甘く──
「……返事は?」
キスの余韻で少し乱れた囁き声に、今解放されたばかりの僕の唇が震える。
ああ、もう何も見えない、聞こえない……僕の世界には透だけ……
はい、と頷いた僕の唇はさっきよりももっと深く塞がれる。
太陽の、祝福を受けて。
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