たとえ月しか見えなくても

ゆん

文字の大きさ
上 下
39 / 47
第一部

しおりを挟む
暴れすぎて頭が痛くなり、震えて手足に力が入らなくなると、ようやく透の腕の力が緩んだ。

乱れた息で見上げて、彼の頬に涙を見て呆然とした。

眼鏡の向こうの薄い茶色の瞳が、潤んで光を弾いてる。

僕は震える手を伸ばして、濡れている透の頬に触れた。



「透……」

「死なないでくれ……」



僕の目にも新たな涙が盛り上がる。

もったいない。もったいない、僕には……



「俺がどれだけ汚くないと言ってもあんたは納得しないだろう。だからお願いだ。そのままのあんたでいいから俺の傍にいてくれ……」

「僕のせいで透が悪く言われたり、恥ずかしい思いをしたりするのが辛いんだよ……」

「誇張じゃなく、何を言われても、思われても俺は一切気にしない。何を見てもあんたへの気持ちは変わらない。今後もこういうことが無いとは言えないからあんたは辛いかもしれないけど……俺と越えてくれないか」



僕は弱々しく首を振り、その僕を透が優しく抱き寄せる。

そんなの……僕はどうすればいい。この僕が受け取るには素晴らしすぎるものを、どうすればいい。こんなに不釣り合いなものを、どうすればいい。ただ受け取れって……そんなの、そんなの……



「留丸。俺と結婚して」



もう、首を振ることも、声を出すことも出来ない。

汗と涙と鼻水で汚れた顔に、なんで。

僕に、透が──



「僕……オメガだよ……」



弱々しい涙声を絞り出す。透は「今更何言ってる」と言い、僕の顔を見てひどいな、と小さく笑うと、傍にあった僕のカバンのチャックを開けて中を探った。



「あんた、タオルとか──」



透はそう言いつつ、そこには透にまつわるものしか入ってないってことに気付いたのかもしれない。

不意に切なさの滲む笑みを見せてロンTの裾を掴むと、僕の顔をごしごし拭いて性急に口づけた。

吐息さえ飲むように、熱く、甘く──



「……返事は?」



キスの余韻で少し乱れた囁き声に、今解放されたばかりの僕の唇が震える。

ああ、もう何も見えない、聞こえない……僕の世界には透だけ……

はい、と頷いた僕の唇はさっきよりももっと深く塞がれる。

太陽の、祝福を受けて。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

君は俺の光

もものみ
BL
【オメガバースの創作BL小説です】 ヤンデレです。 受けが不憫です。 虐待、いじめ等の描写を含むので苦手な方はお気をつけください。  もともと実家で虐待まがいの扱いを受けておりそれによって暗い性格になった優月(ゆづき)はさらに学校ではいじめにあっていた。  ある日、そんなΩの優月を優秀でお金もあってイケメンのαでモテていた陽仁(はると)が学生時代にいじめから救い出し、さらに告白をしてくる。そして陽仁と仲良くなってから優月はいじめられなくなり、最終的には付き合うことにまでなってしまう。  結局関係はずるずる続き二人は同棲まですることになるが、優月は陽仁が親切心から自分を助けてくれただけなので早く解放してあげなければならないと思い悩む。離れなければ、そう思いはするものの既に優月は陽仁のことを好きになっており、離れ難く思っている。離れなければ、だけれど離れたくない…そんな思いが続くある日、優月は美女と並んで歩く陽仁を見つけてしまう。さらにここで優月にとっては衝撃的なあることが発覚する。そして、ついに優月は決意する。陽仁のもとから、離れることを――――― 明るくて優しい光属性っぽいα×自分に自信のないいじめられっ子の闇属性っぽいΩの二人が、運命をかけて追いかけっこする、謎解き要素ありのお話です。

アルファ貴公子のあまく意地悪な求婚

伽野せり
BL
凪野陽斗(21Ω)には心配事がある。 いつまでたっても発情期がこないことと、双子の弟にまとわりつくストーカーの存在だ。 あるとき、陽斗は運命の相手であるホテル王、高梨唯一輝(27α)と出会い、抱えている心配事を解決してもらう代わりに彼の願いをかなえるという取引をする。 高梨の望みは、陽斗の『発情』。 それを自分の手で引き出したいと言う。 陽斗はそれを受け入れ、毎晩彼の手で、甘く意地悪に、『治療』されることになる――。 優しくて包容力があるけれど、相手のことが好きすぎて、ときどき心の狭い独占欲をみせるアルファと、コンプレックス持ちでなかなか素直になれないオメガの、紆余曲折しながらの幸せ探しです。 ※オメガバース独自設定が含まれています。 ※R18部分には*印がついています。 ※複数(攻め以外の本番なし)・道具あります。苦手な方はご注意下さい。 この話はfujossyさん、エブリスタさんでも公開しています。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

恋というものは

須藤慎弥
BL
ある事がきっかけで出会った天(てん)と潤(じゅん)。 それぞれバース性の葛藤を抱えた二人は、お互いに自らの性を偽っていた。 誤解し、すれ違い、それでも離れられない…離れたくないのは『運命』だから……? 2021/07/14 本編完結から約一年ぶりに連載再開\(^o^)/ 毎週水曜日 更新‧⁺ ⊹˚.⋆ ※昼ドラ感/王道万歳 ※一般的なオメガバース設定 ※R 18ページにはタイトルに「※」

ハッピーエンド

藤美りゅう
BL
恋心を抱いた人には、彼女がいましたーー。 レンタルショップ『MIMIYA』でアルバイトをする三上凛は、週末の夜に来るカップルの彼氏、堺智樹に恋心を抱いていた。 ある日、凛はそのカップルが雨の中喧嘩をするのを偶然目撃してしまい、雨が降りしきる中、帰れず立ち尽くしている智樹に自分の傘を貸してやる。 それから二人の距離は縮まろうとしていたが、一本のある映画が、凛の心にブレーキをかけてしまう。 ※ 他サイトでコンテスト用に執筆した作品です。

月と太陽は交わらない

アキナヌカ
BL
僕、古島葉月αはいつも好きになったΩを、年下の幼馴染である似鳥陽司にとられていた。そうして、僕が生徒会を辞めることになって、その準備をしていたら生徒会室で僕は似鳥陽司に無理やり犯された。 小説家になろう、pixiv、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、fujossyにも掲載しています。

ベータの兄と運命を信じたくないアルファの弟

須宮りんこ
BL
 男女の他にアルファ、ベータ、オメガの性別が存在する日本で生きる平沢優鶴(ひらさわゆづる)は、二十五歳のベータで平凡な会社員。両親と妹を事故で亡くしてから、血の繋がらない四つ下の弟でアルファの平沢煌(ひらさわこう)と二人きりで暮らしている。  家族が亡くなってから引きこもり状態だった煌が、通信大学のスクーリングで久しぶりに外へと出たある雨の日。理性を失くした煌が発情したオメガ男性を襲いかけているところに、優鶴は遭遇する。必死に煌を止めるものの、オメガのフェロモンにあてられた煌によって優鶴は無理やり抱かれそうになる――。 ※この作品はエブリスタとムーンライトノベルズにも掲載しています。 ※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。普段から作中に登場する事柄に関しまして、現実に起きた事件や事故を連想されやすい方はご注意ください。

僕は巣作りが上手くできない

しづクロ
BL
巣作りが壊滅的に下手くそなΩの話

処理中です...