25 / 47
第一部
・
しおりを挟む
「これはとある筋から手に入れたものですが、1枚目の画像に写っている建物は森澄香さんのマンションのエントランスです。これがどういうことが、分からないほど馬鹿ではありませんね?」
喉がカラカラで、息がしにくい。
そんな訳ないって即座に否定する僕。でも写ってるのは確かに透と澄香さんだってぐらぐら足元を揺すぶってくるもうひとりの僕。
何故……? あの後、逢ってるの……? 澄香さんの家で、ふたりの時間を……?
思い出してしまった……?
彼女をどれだけ愛していたか──
待って……!
そんなはずない。透はそんなことしない。
何かの間違いに決まってる……!
「森さんはベータですがご両親ともアルファということもあり格としてはぎりぎり。しかし森さん自身が十分なステータスをお持ちですから問題ないでしょう。山王寺の家にも受け入れられると思います。
透様も元々は結婚の意志がおありだったようですから、今後の展開はスムーズでしょう。
あなたさえ身を引いてくだされば、万事うまくいきます。あなたも今は幸せの絶頂で分からないかもしれませんが、分不相応な恋の末路は総じて不幸なものです。そこに透様を巻き込みますか?透様の愛に甘えて、そんなことをしても良いとお思いですか?」
自分自身がここのところ何度も考えたことだからこそ、言い返せない。
僕には過ぎた恋人だってことは最初っから分かってる。
そのことが後々透を苦しめることになるんじゃないかって悩んで、でも透が愛し続けてくれる限り彼が苦しむことも僕は見届けようって覚悟を決めた……そのはずなのに、こうして現実的な話を突きつけられれば途端に足場が危うくなる。
「森さんを妻として迎え、あなたを愛人にするという妥協案も、こちら側にはありません。なぜなら──」
谷光さんは素早くスマホを操作し、今度は僕に再生マークのついた画面を見せ、ひと呼吸おいてから指で画面に触れた。
それはおそらくスマホで撮影されたもの。画面は不安定に揺れ、四方からスポットライトで照らされたステージと、ステージ上で絡みあう四人の人物を映し出している。
僕はそこを知っていた。
だって、僕のもっとも忌まわしい記憶が生まれた場所だったから。
喉がカラカラで、息がしにくい。
そんな訳ないって即座に否定する僕。でも写ってるのは確かに透と澄香さんだってぐらぐら足元を揺すぶってくるもうひとりの僕。
何故……? あの後、逢ってるの……? 澄香さんの家で、ふたりの時間を……?
思い出してしまった……?
彼女をどれだけ愛していたか──
待って……!
そんなはずない。透はそんなことしない。
何かの間違いに決まってる……!
「森さんはベータですがご両親ともアルファということもあり格としてはぎりぎり。しかし森さん自身が十分なステータスをお持ちですから問題ないでしょう。山王寺の家にも受け入れられると思います。
透様も元々は結婚の意志がおありだったようですから、今後の展開はスムーズでしょう。
あなたさえ身を引いてくだされば、万事うまくいきます。あなたも今は幸せの絶頂で分からないかもしれませんが、分不相応な恋の末路は総じて不幸なものです。そこに透様を巻き込みますか?透様の愛に甘えて、そんなことをしても良いとお思いですか?」
自分自身がここのところ何度も考えたことだからこそ、言い返せない。
僕には過ぎた恋人だってことは最初っから分かってる。
そのことが後々透を苦しめることになるんじゃないかって悩んで、でも透が愛し続けてくれる限り彼が苦しむことも僕は見届けようって覚悟を決めた……そのはずなのに、こうして現実的な話を突きつけられれば途端に足場が危うくなる。
「森さんを妻として迎え、あなたを愛人にするという妥協案も、こちら側にはありません。なぜなら──」
谷光さんは素早くスマホを操作し、今度は僕に再生マークのついた画面を見せ、ひと呼吸おいてから指で画面に触れた。
それはおそらくスマホで撮影されたもの。画面は不安定に揺れ、四方からスポットライトで照らされたステージと、ステージ上で絡みあう四人の人物を映し出している。
僕はそこを知っていた。
だって、僕のもっとも忌まわしい記憶が生まれた場所だったから。
0
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説

Endless Summer Night ~終わらない夏~
樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった”
長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、
ひと夏の契約でリゾートにやってきた。
最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、
気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。
そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。
***前作品とは完全に切り離したお話ですが、
世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

僕の追憶と運命の人-【消えない思い】スピンオフ
樹木緑
BL
【消えない思い】スピンオフ ーオメガバース
ーあの日の記憶がいつまでも僕を追いかけるー
消えない思いをまだ読んでおられない方は 、
続きではありませんが、消えない思いから読むことをお勧めします。
消えない思いで何時も番の居るΩに恋をしていた矢野浩二が
高校の後輩に初めての本気の恋をしてその恋に破れ、
それでもあきらめきれない中で、 自分の運命の番を探し求めるお話。
消えない思いに比べると、
更新はゆっくりになると思いますが、
またまた宜しくお願い致します。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

恋した貴方はαなロミオ
須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。
Ω性に引け目を感じている凛太。
凛太を運命の番だと信じているα性の結城。
すれ違う二人を引き寄せたヒート。
ほんわか現代BLオメガバース♡
※二人それぞれの視点が交互に展開します
※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m
※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる