たとえ月しか見えなくても

第一部

quiet

今度雛子ちゃんに何か言われたら、ちゃんと言い返すぞ、と心に決めた。

初めて会った時のように、透から別れたいっていうんじゃない限り僕が彼と別れることはありませんって。

そう意気込んでたのに、それ以来、雛子ちゃんがうちに来ることはなかった。

ちょっと拍子抜けして……それでも僕は根が単純だし忘れっぽいから、嵐が過ぎ去ったんだとほっとして、また戻ってきた日常を淡々と過ごした。

透とは最近はまた特に逢えない日々が続いてた。

８月の１０日間のお休みのためにラストスパートなんだろうなって思うから、我慢我慢。

去年は透の方が先にお休みに入ったけど、今年は僕の方が一日早い。透を初めて受け入れることが出来たあの海の家……あそこへ、今年も行ける。とにかく楽しみで仕方ない。なんといっても、朝から晩までずーっと透と一緒にいられるから。



なんか僕は自分でも可笑しいくらい透が好きで、際限なく好きになってく。多分、逢えないからその寂しさが上乗せされてるんだろうなって思う。

透は僕を犬みたいっていうけど、実際本当に飼い犬みたいにいつだって一緒にいたいんだ。家の中でも後ろをついて歩きたいくらい一緒にいたい。

透がソファに座ったら、隣に座る。ぴったりくっついたら「狭い」とか言って透が僕を押すんだ。

でもそれで僕がごめんって離れたら、透は仕方ないな、と言う風に僕を抱き寄せる。

優しさの、その表し方もすごくすごく好き。

だから……お休みが本当に楽しみ。

透と何しよう。何してあげようってそればっかり考えてる。