消しゴムくん、旅に出る

泉蒼

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第十章 こわい夢

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「あれ? きみはたしか、消しゴムのゴーだっけ?」
「んん……」
 とつぜん、ケイタくんのやさしい声が聞こえて、ぼくははっとしました。
(おかしいな……ケイタくんが、ぼくの名前を呼んでいる……ぼくたちがしゃべって動けることは、もちぬしは知らないはずなのに)
 辺りを見まわすと、そこは机の上でした。
 いつも、ケイタくんが宿題をしたり、漫画を描いたりしている、本がたくさん並んだ机の上です。
ぼくはそこで、コロンと転がっていました。
そばにはシャープペンシルに三角じょうぎ。
そして「ロボファイター」を描く、漫画用のノートも置いてあります。
机でほおづえをついたケイタくんは、じっとぼくを見つめていました。
「……そうだ。じつはゴーに、言わなきゃいけないことがあるんだ」
「どっ、どうしたの?」
 胸騒ぎがして、ぼくは立ちあがりました。
 ふいにケイタくんが、ぼくから視線をそらします。
「あ、もしかして……漫画の邪魔をしちゃったのかな?」
 ぼくは漫画用のノートから、そっと距離をとりました。
「ちがうんだよ」
「……あ、ぼくは消しゴムだもんね。ごめんね、気づかなくて。ケイタくんは、消しゴムが必要なんだよね? ぼくが必要なら、気にせず、いくらでも使ってよ!」
 ぼくは、自分のお腹をパンっとたたきました。
 そして、自分をケイタくんに差し出すように、胸をはって立ったのです。
 ところが、ケイタくんは首を左右にふります。
「ゴー、ちがうんだよ」
「……え?」
ケイタくんはなぜか、いつものように、ぼくをつかんではくれません。
それどころか、ぼくに顔を近づけて「は~」とため息をついたのです。
ケイタくんは、バツが悪そうに頭をかきました。
「なんていうか、ゴーには申し訳ないんだけどさ」
 ケイタくんはそう言って、
「じつはね、新しい消しゴムを買ったんだよ」
 ポケットから、見たことのない消しゴムを出し、ぼくに見せたのです。
それは細身のスレンダーな形をした、もちぬしがクルクルと指で回すだけで、中からピンク色の消しゴムが飛び出してくる、最新型の文房具でした。
「言いづらいんだけどさ、その、ぼくはこれからね、この子といっしょに学校に行こうと思ってるんだ」
 とつぜんの告白に、ぼくはきょとんとしました。
「この子と……新しい、消しゴムと」
 ぼくがつぶやくと、ケイタくんは誇らしそうに、最新型の消しゴムをにぎります。
「これ、細長いから机に置いていても、ちっとも邪魔にならないんだ。キャップもついてるから、ふで箱のなかはいつもキレイ。消しゴムのカスに悩まされることもないんだ」
 ケイタくんは、筒から飛び出すピンク色の消しゴムを、うれしそうに眺めました。
 思わずぼくは、二歩三歩と後ろに下がり、ケイタくんから距離を取っていました。
 ケイタくんが、これからなにを言おうとしてるのか、わかってしまったからです。
「ぼくにはもう、ゴーは必要ないんだ」
 ケイタくんは、はっきりとそう言いました。
 必要ない?
「ぼく……必要ないの?」
「ごめんね、ゴー」
「必要が……ない」
 必要ない、必要ない、必要ない、とケイタくんその言葉は、ぼくの頭のなかをグルグルと駆けめぐっていきました。
「ぼっ、ぼくはまだがんばれるよっ!」
そのとき、ケイタくんがついにぼくをつかんだのです。
ところが、そのまま机の横に置いてあるゴミ箱の上へ、ぼくを持っていったのです。
「やだよっ! ぼくを捨てないでよっ! お願いだからっ、ケイタくーんっ――――」
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