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第九章 宝物の正体
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「種に牛乳、そして魚の缶詰とお皿が二枚か……ムムム、たしかに小太郎が隠しそうな物ばっかりだ……けどよピン子、どうして小太郎は、穴にこんな物を隠してるんだ?」
腕を組んだジョーは、地面に並べたお宝を眺めて、首をひねりました。
ピン子はもういちど、桜の木の根元でかがんで、
「まちがいなく、うちの小太郎くんが隠した物ね。ほかに、なにか落ちていないかな……よいしょ……ん~、暗くて見えないわ」
ぽっかり空いた穴のなかに、顔を突っこみました。
桜の木の穴で見つけたのは、梅干しの種が三つ、空の牛乳パックが二つ、「美味い鯖」と書かれた缶詰が一個に、平たい陶器のお皿が二枚でした。
ぼくにも、これを隠したのが小太郎くんだということは、かんたんに想像がつきました。すこしまえに梅の種蹴りをしたときのことを思い出したからです。
あのとき、ぼくはジョーに見つからないように、ランドセルを入れる棚に隠れていまし
た。偶然ぼくが隠れたのは、小太郎くんのランドセルのなかです。
(たしかランドセルには、ストローと梅干しの種、そして……ええっと、そうだ! 缶詰のふたがたくさん入っていたっけ)
だからぼくは、地面に並べたお宝を見て、ピーンときたのです。
(ランドセルに入っていたのは、コレクションじゃなくて残り物だったんだね……でも、小太郎くんは牛乳や缶詰を、どうして木の穴に隠したんだろう?)
そのとき、ぼくはお皿の上に乗っていた、謎の赤毛を三本発見しました。
「ねえ、見て……この毛って、動物の毛かな?」
ぼくは、一本だけその赤毛をつかんで、ジョーに見せました。
ジョーも、感触を確かめるように、両手で赤毛をつかみます。
「ムムム……人間の毛にしては、ゴワゴワしてて硬いな……小太郎の髪の毛はまっ黒だから、小太郎の毛じゃないってことだけは、たしかだ」
そのときピン子が、「あれ、また地図かしら?」とつぶやく声が聞こえました。
ピン子は穴から顔を引っこ抜くと、こんどは両手を突っこみ、手さぐりでゴソゴソとしはじめたのです。
「ノートの切れ端?」
ピン子が穴から取りだしたのは、丸められたノートの切れ端でした。
ぼくは地面に広げた宝の地図と、丸められたノートの切れ端を見比べて、
「これ、おなじノートだね。ほら、罫線のラインが、おなじ色だよ」
小太郎くんが隠した物だと、気がついたのです。
ピン子は、ぼくとジョーを見てうなずきました。
「よし、みんなで広げてみよう。ジョーとゴーは、反対側を持って」
パラパラ――――パラララっ。
三人で、ノートの切れ端を広げた瞬間、
「小太郎くんの字だわ!」
ピン子はさけんで、一字一句をながめました。
「……う~ん、これは、手紙のつもりかしら?」
「手紙か……あ、手紙の最後に、『小太郎』って、名前が書いてあるよ!」
ぼくがつぶやくと、ジョーの顔がまっ青になりました。
「ちょっと待て……手紙の最初には『猫さんへ』って、書いてあるぞ……じゃあ、さっきの謎の赤毛は、猫の毛だったんじゃねえか!」
猫と聞いて、すぐにぼくの頭に「片目の鈴子」が浮かびました。
「ひいっ……クロスケが言ってた、自分より三倍も体の大きい犬と戦った、凶暴な野良猫だよ……」
「や、やべえぞっ……ぴ、ピン子、どうする? やっぱりこの辺りには、クロスケが注意しろって言ってた、野良猫がいるんじゃねえかっ」
「ピン子! はやく逃げなきゃ」
ところが、ピン子は「だいじょうぶよ」と、静かに言います。
後ろに三歩さがって、ピン子は、手紙から距離をとって立ち、
「正確には、もうだいじょうぶかも、ってところかしらねぇ」
手で口元をさわりながら、手紙ぜんたいを見わたしたのです。
「どういうこと?」
「そうだぜ、だいじょうぶの意味が、わかんねえぞっ」
ぼくとジョーは桜の木に背をむけて逃げる準備をしています。
そんなぼくたちに、ピン子は、手招きしながら言いました。
「ふたりとも、こっちへ来て、よ~く手紙の内容を読んでごらん」
ぼくとジョーは、辺りを警戒しながら、ゆっくりとピン子のとなりに立ちました。
「……食べ物を用意します?」
「クロスケを食べないでくれますか? ……どういうことだ?」
ピン子は、遠くから手紙の文字をなぞるように、人差し指を動かしました。
「つまり、これは野良猫の食事よ」
「え、食事?」
「な、なんのためにだっ?」
ピン子は、人差し指をぼくとジョーに向けてから、もういちど手紙をなぞるように動かします。
「ここはむかし、クロスケが猫に襲われた場所でしょ。だから小太郎くんは、自分が食事を毎日届けるかわりに、もうほかの動物を食べたりしないでって、お願いしてるのよ」
「……てことは、野良猫の腹は、満たされてるってことか?」
ジョーは、きりりとした太いまゆを上げました。
「そういうことね。きっと小太郎くんは、野良猫のお腹を満たせば、もうクロスケのことを襲わないだろうって考えたのね」
ピン子の言葉を聞いて、ぼくは胸がじーんと熱くなりました。
「小太郎くんはなんて優しいんだ。猫がなぜ攻撃したのか、その理由をちゃんと考えて、凶暴な野良猫に食事を届けることにしたんだ」
「さすがは、あたしのもちぬしね! なんだか、胸がほっこりしちゃったわ。いつのまにか、やさしい男の子に育っちゃって、うふふ」
ピン子はうれしそうに微笑んで、ぼくとジョーの肩に手を置きました。
「子どもって、知らないうちに成長するんだねぇ」
「ピン子は、小太郎の親じゃねえだろ!」
そう突っこんだジョーも、小太郎くんが隠したなにかの謎が解けて、いまはどこか誇らしそうに手紙をながめています。
やがて、キーンコーンカーンコーン、と五時間目がはじまるチャイムが鳴りました。
ピン子は、うるうるとした瞳を手でぬぐうと、
「よし! せっかく外の世界にきたんだし、ここを片づけてさ、もっとあそぼうよ!」
地面に並べた梅干しの種や、牛乳パックを、もとの木の穴にもどしはじめました。
「ぼくも手伝う!」
「はやく片づけて、日が暮れるまであそびつくそうぜ、がっはは!」
ぼくとジョーは、手紙をもとのように丸めて、また木の穴にもどしました。
腕を組んだジョーは、地面に並べたお宝を眺めて、首をひねりました。
ピン子はもういちど、桜の木の根元でかがんで、
「まちがいなく、うちの小太郎くんが隠した物ね。ほかに、なにか落ちていないかな……よいしょ……ん~、暗くて見えないわ」
ぽっかり空いた穴のなかに、顔を突っこみました。
桜の木の穴で見つけたのは、梅干しの種が三つ、空の牛乳パックが二つ、「美味い鯖」と書かれた缶詰が一個に、平たい陶器のお皿が二枚でした。
ぼくにも、これを隠したのが小太郎くんだということは、かんたんに想像がつきました。すこしまえに梅の種蹴りをしたときのことを思い出したからです。
あのとき、ぼくはジョーに見つからないように、ランドセルを入れる棚に隠れていまし
た。偶然ぼくが隠れたのは、小太郎くんのランドセルのなかです。
(たしかランドセルには、ストローと梅干しの種、そして……ええっと、そうだ! 缶詰のふたがたくさん入っていたっけ)
だからぼくは、地面に並べたお宝を見て、ピーンときたのです。
(ランドセルに入っていたのは、コレクションじゃなくて残り物だったんだね……でも、小太郎くんは牛乳や缶詰を、どうして木の穴に隠したんだろう?)
そのとき、ぼくはお皿の上に乗っていた、謎の赤毛を三本発見しました。
「ねえ、見て……この毛って、動物の毛かな?」
ぼくは、一本だけその赤毛をつかんで、ジョーに見せました。
ジョーも、感触を確かめるように、両手で赤毛をつかみます。
「ムムム……人間の毛にしては、ゴワゴワしてて硬いな……小太郎の髪の毛はまっ黒だから、小太郎の毛じゃないってことだけは、たしかだ」
そのときピン子が、「あれ、また地図かしら?」とつぶやく声が聞こえました。
ピン子は穴から顔を引っこ抜くと、こんどは両手を突っこみ、手さぐりでゴソゴソとしはじめたのです。
「ノートの切れ端?」
ピン子が穴から取りだしたのは、丸められたノートの切れ端でした。
ぼくは地面に広げた宝の地図と、丸められたノートの切れ端を見比べて、
「これ、おなじノートだね。ほら、罫線のラインが、おなじ色だよ」
小太郎くんが隠した物だと、気がついたのです。
ピン子は、ぼくとジョーを見てうなずきました。
「よし、みんなで広げてみよう。ジョーとゴーは、反対側を持って」
パラパラ――――パラララっ。
三人で、ノートの切れ端を広げた瞬間、
「小太郎くんの字だわ!」
ピン子はさけんで、一字一句をながめました。
「……う~ん、これは、手紙のつもりかしら?」
「手紙か……あ、手紙の最後に、『小太郎』って、名前が書いてあるよ!」
ぼくがつぶやくと、ジョーの顔がまっ青になりました。
「ちょっと待て……手紙の最初には『猫さんへ』って、書いてあるぞ……じゃあ、さっきの謎の赤毛は、猫の毛だったんじゃねえか!」
猫と聞いて、すぐにぼくの頭に「片目の鈴子」が浮かびました。
「ひいっ……クロスケが言ってた、自分より三倍も体の大きい犬と戦った、凶暴な野良猫だよ……」
「や、やべえぞっ……ぴ、ピン子、どうする? やっぱりこの辺りには、クロスケが注意しろって言ってた、野良猫がいるんじゃねえかっ」
「ピン子! はやく逃げなきゃ」
ところが、ピン子は「だいじょうぶよ」と、静かに言います。
後ろに三歩さがって、ピン子は、手紙から距離をとって立ち、
「正確には、もうだいじょうぶかも、ってところかしらねぇ」
手で口元をさわりながら、手紙ぜんたいを見わたしたのです。
「どういうこと?」
「そうだぜ、だいじょうぶの意味が、わかんねえぞっ」
ぼくとジョーは桜の木に背をむけて逃げる準備をしています。
そんなぼくたちに、ピン子は、手招きしながら言いました。
「ふたりとも、こっちへ来て、よ~く手紙の内容を読んでごらん」
ぼくとジョーは、辺りを警戒しながら、ゆっくりとピン子のとなりに立ちました。
「……食べ物を用意します?」
「クロスケを食べないでくれますか? ……どういうことだ?」
ピン子は、遠くから手紙の文字をなぞるように、人差し指を動かしました。
「つまり、これは野良猫の食事よ」
「え、食事?」
「な、なんのためにだっ?」
ピン子は、人差し指をぼくとジョーに向けてから、もういちど手紙をなぞるように動かします。
「ここはむかし、クロスケが猫に襲われた場所でしょ。だから小太郎くんは、自分が食事を毎日届けるかわりに、もうほかの動物を食べたりしないでって、お願いしてるのよ」
「……てことは、野良猫の腹は、満たされてるってことか?」
ジョーは、きりりとした太いまゆを上げました。
「そういうことね。きっと小太郎くんは、野良猫のお腹を満たせば、もうクロスケのことを襲わないだろうって考えたのね」
ピン子の言葉を聞いて、ぼくは胸がじーんと熱くなりました。
「小太郎くんはなんて優しいんだ。猫がなぜ攻撃したのか、その理由をちゃんと考えて、凶暴な野良猫に食事を届けることにしたんだ」
「さすがは、あたしのもちぬしね! なんだか、胸がほっこりしちゃったわ。いつのまにか、やさしい男の子に育っちゃって、うふふ」
ピン子はうれしそうに微笑んで、ぼくとジョーの肩に手を置きました。
「子どもって、知らないうちに成長するんだねぇ」
「ピン子は、小太郎の親じゃねえだろ!」
そう突っこんだジョーも、小太郎くんが隠したなにかの謎が解けて、いまはどこか誇らしそうに手紙をながめています。
やがて、キーンコーンカーンコーン、と五時間目がはじまるチャイムが鳴りました。
ピン子は、うるうるとした瞳を手でぬぐうと、
「よし! せっかく外の世界にきたんだし、ここを片づけてさ、もっとあそぼうよ!」
地面に並べた梅干しの種や、牛乳パックを、もとの木の穴にもどしはじめました。
「ぼくも手伝う!」
「はやく片づけて、日が暮れるまであそびつくそうぜ、がっはは!」
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