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第五章 外の世界
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(お願いっ!)
――つぎ手足がはえたら、外の世界に出発するわよ!
そう約束してから、なんと三日がたってしまいました。
いまは、月曜日の四時間目。
クラスのみんなは、先生が黒板に書いた字を、必死にノートに書きうつしています。
「――いいですか? かんたんに言えば、第一次産業は、自然からめぐみを得る仕事のこと。農業、林業、水産業とあるんだけど、そもそも農業って、なんだと思う?」
今日の社会の授業は、とてもむずかしそうで、先生の言葉はさっぱりでした。
ぼくは、集合場所のランドセルを入れる棚の一段目に、腰をおろしています。
(農業って、なんだろう……いやっ、そんなことより、ぼくだけじゃ冒険は始まらないんだよ……そろそろ、ピン子とジョーにも手足がはえてくれないと)
土曜日と日曜日をはさんだせいもありますが、ぼくはもう限界です。
いつまでたっても、ピン子とジョーは、机から落ちてはくれません。
ぼくは今日だけで、もう三回も手足がはえているのに、ふたりのもちぬしである小太郎くんとサクラさんは、ピン子とジョーを使おうとさえしないのでした。
「農業は、人にとって、有用な植物を育てることなんだ。たとえば稲や野菜にくだもの。そのほか、牛や豚に馬など、有用な動物を育てることも――」
「ふわ~あ……そうだなぁ、ぼくだったら、馬に乗って、くだものを育てる仕事なんかがいいかな……あっ、そんなこと、考えてる場合じゃないよ!」
冒険は、三人がそろわないと、出発することができません。
それなのに三人がそろう気配は、まるでありませんでした。
(まだ、えんぴつのピン子は、チャンスがあるかもしれない。けど、じょうぎのジョーはどうだろう?)
社会の授業で、もちぬしがじょうぎを使うとは思えません。
(だったら、今日も冒険はおあずけ……ぼくもう、まちくたびれたよ)
先生の授業に耳をかたむけ、ぼくはまた、大きなあくびをしました。
(いったい、いつになったら、外の世界に行けるのかな……)
ぼくは、教室の窓を見あげました。
窓の外に、青空が広がっています。
(雲がひとつもないや……たしか、快晴って言うんだっけ?)
快晴は、見ていると胸がわくわくするのですが、何もせずにじっとしていると、なぜか眠たくなってしまいます。
まてばまつほどに、楽しみは、ぼくから遠ざかっていくようでした。
「ふわ~あ……楽しみにしてることって、なかなか実現しないのかな」
ぼくは、ジョーとピン子がいる机を、交互にふりむきました。
(落ちろ! 落ちろ! 落ちろ!)
お願いだよ。
サクラさん、じょうぎを使って。
小太郎くん、にぎったえんぴつ、落として。
(ぼくたちは、約束したんだよ。三人そろって、出発するって……だから、お願い)
文房具なかよし三人組がそろいますように。
「ピン子とジョーが、ゆかに落っこちますように――」
とそのとき。
先生が、黒板に描いた円グラフを、指でさしました。
「じゃあみんな、つぎは国内における、農業、林業、水産業の比率を円グラフにして描いてみよう――」
つぎの瞬間、ぼくは身を乗りだしてしまいました。
サクラさんが、カンペンケースから、ついにジョーを取りだしたのです。
小太郎くんもえんぴつのピン子をにぎりしめ、ノートにむかったのです。
「――あっ」
ポンっ、カっチャン――――ポン、コロコロコロ!
はっきりと、机から落ちていくふたりが、見えました。
「……よそ見のおかげで、ピン子とジョーが落っこちた!」
たまらず、ぼくは立ちあがってこぶしを突きあげました。
黒板の円グラフを書きうつそうとした、ピン子とジョーのもちぬしたちが、あやまってえんぴつとじょうぎを、ゆかに落としてしまったのです。
ふいに、冒険の風が、ぼくを目がけて吹いてきました。
バっ~バババっ!
「や、やった! やっと、ふたりにも手足が生えたよっ」
まちにまった、瞬間でした。
冒険は、もう目のまえです。
「ぴ、ピン子っ! こっちこっち!」
ぼくはもう、これでもか、という想いで大声をだしてさけびました。
「ジョーっ! 走って走って! もちぬしが探してるよっ、逃げて!」
――つぎ手足がはえたら、外の世界に出発するわよ!
そう約束してから、なんと三日がたってしまいました。
いまは、月曜日の四時間目。
クラスのみんなは、先生が黒板に書いた字を、必死にノートに書きうつしています。
「――いいですか? かんたんに言えば、第一次産業は、自然からめぐみを得る仕事のこと。農業、林業、水産業とあるんだけど、そもそも農業って、なんだと思う?」
今日の社会の授業は、とてもむずかしそうで、先生の言葉はさっぱりでした。
ぼくは、集合場所のランドセルを入れる棚の一段目に、腰をおろしています。
(農業って、なんだろう……いやっ、そんなことより、ぼくだけじゃ冒険は始まらないんだよ……そろそろ、ピン子とジョーにも手足がはえてくれないと)
土曜日と日曜日をはさんだせいもありますが、ぼくはもう限界です。
いつまでたっても、ピン子とジョーは、机から落ちてはくれません。
ぼくは今日だけで、もう三回も手足がはえているのに、ふたりのもちぬしである小太郎くんとサクラさんは、ピン子とジョーを使おうとさえしないのでした。
「農業は、人にとって、有用な植物を育てることなんだ。たとえば稲や野菜にくだもの。そのほか、牛や豚に馬など、有用な動物を育てることも――」
「ふわ~あ……そうだなぁ、ぼくだったら、馬に乗って、くだものを育てる仕事なんかがいいかな……あっ、そんなこと、考えてる場合じゃないよ!」
冒険は、三人がそろわないと、出発することができません。
それなのに三人がそろう気配は、まるでありませんでした。
(まだ、えんぴつのピン子は、チャンスがあるかもしれない。けど、じょうぎのジョーはどうだろう?)
社会の授業で、もちぬしがじょうぎを使うとは思えません。
(だったら、今日も冒険はおあずけ……ぼくもう、まちくたびれたよ)
先生の授業に耳をかたむけ、ぼくはまた、大きなあくびをしました。
(いったい、いつになったら、外の世界に行けるのかな……)
ぼくは、教室の窓を見あげました。
窓の外に、青空が広がっています。
(雲がひとつもないや……たしか、快晴って言うんだっけ?)
快晴は、見ていると胸がわくわくするのですが、何もせずにじっとしていると、なぜか眠たくなってしまいます。
まてばまつほどに、楽しみは、ぼくから遠ざかっていくようでした。
「ふわ~あ……楽しみにしてることって、なかなか実現しないのかな」
ぼくは、ジョーとピン子がいる机を、交互にふりむきました。
(落ちろ! 落ちろ! 落ちろ!)
お願いだよ。
サクラさん、じょうぎを使って。
小太郎くん、にぎったえんぴつ、落として。
(ぼくたちは、約束したんだよ。三人そろって、出発するって……だから、お願い)
文房具なかよし三人組がそろいますように。
「ピン子とジョーが、ゆかに落っこちますように――」
とそのとき。
先生が、黒板に描いた円グラフを、指でさしました。
「じゃあみんな、つぎは国内における、農業、林業、水産業の比率を円グラフにして描いてみよう――」
つぎの瞬間、ぼくは身を乗りだしてしまいました。
サクラさんが、カンペンケースから、ついにジョーを取りだしたのです。
小太郎くんもえんぴつのピン子をにぎりしめ、ノートにむかったのです。
「――あっ」
ポンっ、カっチャン――――ポン、コロコロコロ!
はっきりと、机から落ちていくふたりが、見えました。
「……よそ見のおかげで、ピン子とジョーが落っこちた!」
たまらず、ぼくは立ちあがってこぶしを突きあげました。
黒板の円グラフを書きうつそうとした、ピン子とジョーのもちぬしたちが、あやまってえんぴつとじょうぎを、ゆかに落としてしまったのです。
ふいに、冒険の風が、ぼくを目がけて吹いてきました。
バっ~バババっ!
「や、やった! やっと、ふたりにも手足が生えたよっ」
まちにまった、瞬間でした。
冒険は、もう目のまえです。
「ぴ、ピン子っ! こっちこっち!」
ぼくはもう、これでもか、という想いで大声をだしてさけびました。
「ジョーっ! 走って走って! もちぬしが探してるよっ、逃げて!」
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