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第10章 本の完成まで、あともう少し?!
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そのころ川辺でナバービは、落ちこむ馬たちを元気づけようとしていた。
「気もちがいいわ、水浴びでもどうかしら? ほら、アジサイもきれいに咲いてる」
「そっちへは行けません! チビだと、花に笑われてしまいますっ」
短足の馬は、川辺に咲くアジサイを見て尻込みをしている。
ノッポの馬も、「そうです! もう辛い思いはこりごりですよ!」とまくし立てた。
バササッ、ドーンッ!
そのとき突然、空から川辺にバーンズが落下してきた。
「ほら見ろ! こいつらは愚かで、自分のことしか頭にない身勝手な馬なんだ!」
「体が、炎に包まれてるわ!」
変わり果てたバーンズの姿に、ナバービが体を震わせる。
バーンズがくちばしにりんごを突きさして近づいた。
「さあこれで、愚かな馬を燃してしまえ、ぐへへ」
瞬間、2頭の馬がナバービを見つめ、「どうか燃やさないでっ!」と叫んだ。
ナバービは、しばらくだまっていた。だがやがて、「誰にでも悩みはありますわ」と、バーンズのくちばしに手
をかざしたのだ。
「あたしもケイティに会えず、ずっと泣いているもの。だからあたしは、自分と同じように悩める者を、燃やすこ
となんてできないわ」
「なんだと!」
目を赤くしたバーンズの脇をすり抜け、ナバービが2頭の馬のもとへ歩いていく。
ナバービが、短足の馬の背を優しくなで始めた。
「あなたは足が短いことを悪いことだと思っているのね。けれど、それは間違いなの」
「ま、間違いですと?」
「ええ。だって背が低いおかげで、誰よりも大地のお花の美しさが見れるじゃないの」
「お花の、美しさ?」
笑顔でうなずくナバービに、今度はノッポの馬も目を丸くする。
「では、わたしの考えも間違っているのですか? 足が長いことには何の意味がっ?」
「それはね、誰よりも太陽のにおいを感じられるの」
「太陽のにおい……な、そうだったとは!」
ナバービの言葉に、2頭の馬の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ううぅ……ナバービさんっ、わたしたちが間違っていました、うぅ」
その様子を見ていたバーンズは、「ぐわああ」と、大地を揺るがすほどの叫び声をあげた。
そして次の瞬間、バーンズの体が完全に炎に包まれたのだ。
「ぐわあっ! ぐわあああ――――」
うめき声はどんどん小さくなっていく。やがて、塵と化したバーンズは、大地の風に吹かれて消えてしまったの
だ。
★ ★ ★
「やったぜ!」
「今度こそ、本の完成でやんす!」
おれはすぐにヘンリを抱きかかえ、ハシゴの段の本に目を通す。
「うんうん。よし、どのページも文章が埋まってる……あ、ちょっと待てっ!」
ところが、最後のページを見た瞬間、おれは思わずため息をついてしまった。
「なんでだ! どうして最後のページだけ白紙なんだよ? もうバーンズは消えたのにっ」
「そういえばまだ、ケイティとナバービが、再会してないでやんすっ」
「そうだった……」
本の完成まであと少しだというのに、おれはまた難問を抱えた気がする。
「ケイティは雲の上……ナバービは魔法も使えないしな」
「2人が再会するには、空でも飛ばなきゃ無理でやんす」
おれたちはそろって「はぁ」と、肩を落としてしまう。
ドンドンっ、ドンドンドンっ!
そのとき、誰かが山小屋の扉をノックした。
「誰だよ、こんなときに?」
「ノックの音が激しいなり。ティム、早く行ったほうがいいでやんす!」
しかたなく、おれはヘンリを連れて煙突の中から飛びだした。
途中で観測を切り上げて、いそいで山小屋の扉を開けにいく。
「サリーじゃねえかっ! どうしたんだよっ?」
扉を開けると、額に大粒の汗を浮かべたサリーが立っていた。
「ティム、大変よ! またインモビリアール社がアルダーニャにやってきたのっ。ドン・フィッチが、ハリスさんの本を差しだせば雇ってやるって、広場で大騒ぎしてるの!」
そうまくし立てたサリーが、おれの肩にいるヘンリを見て、今度は叫び声をあげた。
「きゃあっ。タキシード姿の、こうもり男っ!」
「どうも、サリーさん」
「ひいいっ、しゃべったぁ……しかも、私の名前まで知ってるぅ……」
驚きで倒れそうになるサリーの腕を、おれが「おっと!」と、あわててつかんだ。
おれはもう慣れたけど、普通はしゃべるこうもり男を見れば、誰だってびっくりする。
(だけど、今はそれどころじゃねえんだ)
「サリー、ヘンリの説明は下山しながらだ! 今からいそいで町に戻る! もうこれ以上、町のみんなを混乱させてたまるかよっ!」
「気もちがいいわ、水浴びでもどうかしら? ほら、アジサイもきれいに咲いてる」
「そっちへは行けません! チビだと、花に笑われてしまいますっ」
短足の馬は、川辺に咲くアジサイを見て尻込みをしている。
ノッポの馬も、「そうです! もう辛い思いはこりごりですよ!」とまくし立てた。
バササッ、ドーンッ!
そのとき突然、空から川辺にバーンズが落下してきた。
「ほら見ろ! こいつらは愚かで、自分のことしか頭にない身勝手な馬なんだ!」
「体が、炎に包まれてるわ!」
変わり果てたバーンズの姿に、ナバービが体を震わせる。
バーンズがくちばしにりんごを突きさして近づいた。
「さあこれで、愚かな馬を燃してしまえ、ぐへへ」
瞬間、2頭の馬がナバービを見つめ、「どうか燃やさないでっ!」と叫んだ。
ナバービは、しばらくだまっていた。だがやがて、「誰にでも悩みはありますわ」と、バーンズのくちばしに手
をかざしたのだ。
「あたしもケイティに会えず、ずっと泣いているもの。だからあたしは、自分と同じように悩める者を、燃やすこ
となんてできないわ」
「なんだと!」
目を赤くしたバーンズの脇をすり抜け、ナバービが2頭の馬のもとへ歩いていく。
ナバービが、短足の馬の背を優しくなで始めた。
「あなたは足が短いことを悪いことだと思っているのね。けれど、それは間違いなの」
「ま、間違いですと?」
「ええ。だって背が低いおかげで、誰よりも大地のお花の美しさが見れるじゃないの」
「お花の、美しさ?」
笑顔でうなずくナバービに、今度はノッポの馬も目を丸くする。
「では、わたしの考えも間違っているのですか? 足が長いことには何の意味がっ?」
「それはね、誰よりも太陽のにおいを感じられるの」
「太陽のにおい……な、そうだったとは!」
ナバービの言葉に、2頭の馬の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。
「ううぅ……ナバービさんっ、わたしたちが間違っていました、うぅ」
その様子を見ていたバーンズは、「ぐわああ」と、大地を揺るがすほどの叫び声をあげた。
そして次の瞬間、バーンズの体が完全に炎に包まれたのだ。
「ぐわあっ! ぐわあああ――――」
うめき声はどんどん小さくなっていく。やがて、塵と化したバーンズは、大地の風に吹かれて消えてしまったの
だ。
★ ★ ★
「やったぜ!」
「今度こそ、本の完成でやんす!」
おれはすぐにヘンリを抱きかかえ、ハシゴの段の本に目を通す。
「うんうん。よし、どのページも文章が埋まってる……あ、ちょっと待てっ!」
ところが、最後のページを見た瞬間、おれは思わずため息をついてしまった。
「なんでだ! どうして最後のページだけ白紙なんだよ? もうバーンズは消えたのにっ」
「そういえばまだ、ケイティとナバービが、再会してないでやんすっ」
「そうだった……」
本の完成まであと少しだというのに、おれはまた難問を抱えた気がする。
「ケイティは雲の上……ナバービは魔法も使えないしな」
「2人が再会するには、空でも飛ばなきゃ無理でやんす」
おれたちはそろって「はぁ」と、肩を落としてしまう。
ドンドンっ、ドンドンドンっ!
そのとき、誰かが山小屋の扉をノックした。
「誰だよ、こんなときに?」
「ノックの音が激しいなり。ティム、早く行ったほうがいいでやんす!」
しかたなく、おれはヘンリを連れて煙突の中から飛びだした。
途中で観測を切り上げて、いそいで山小屋の扉を開けにいく。
「サリーじゃねえかっ! どうしたんだよっ?」
扉を開けると、額に大粒の汗を浮かべたサリーが立っていた。
「ティム、大変よ! またインモビリアール社がアルダーニャにやってきたのっ。ドン・フィッチが、ハリスさんの本を差しだせば雇ってやるって、広場で大騒ぎしてるの!」
そうまくし立てたサリーが、おれの肩にいるヘンリを見て、今度は叫び声をあげた。
「きゃあっ。タキシード姿の、こうもり男っ!」
「どうも、サリーさん」
「ひいいっ、しゃべったぁ……しかも、私の名前まで知ってるぅ……」
驚きで倒れそうになるサリーの腕を、おれが「おっと!」と、あわててつかんだ。
おれはもう慣れたけど、普通はしゃべるこうもり男を見れば、誰だってびっくりする。
(だけど、今はそれどころじゃねえんだ)
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