43 / 64
第8章 フランシス・フェルディナンドの過去!
8-2
しおりを挟む母さんが窓のそばへ歩いていき、その前に置いてある机のふちに腰をおろす。
「この机に望遠鏡を置いてね、フランシスさんは星を観測していたの」
ついに母さんの口から、スターウォッチャーの話が飛びだした瞬間だった。
驚きであんぐりと口を開けるおれに、母さんが「だって仕方ないでしょう」と、微笑みながら続ける。
「止めたって無駄だったわ。フランシスさんのお父さんはハリスさんだもん。だから今のティムと同じように、フランシスさんも当然、スターウォッチャーを目指していたの」
「……おれが山小屋へ行ってること、やっぱり、母さんは知ってたんだ」
「ふふ、わかるわよ。だからティムが、スターウォッチャーになるって決心したら、話そうと思ってたの。父さんが
どうして行方不明になってしまったのかをね」
そう話し始めた母さんが、おれの顔をじっと見つめる。黒い瞳がキラキラしていて、おれは、母さんの記憶の中に吸い込まれそうな気がした。ずっと姿を見せなかった父さんがおれの小さな世界に、どんどんと足を踏みいれてくる気配を感じたんだ――。
おれの父さんは、アルダーニャの船乗りだった。
大きな船に漁師を乗せて、大西洋を航海していたのだ。そんな父さんも、やっぱりハリスじいちゃんに憧れて、スターウォッチャーを目指していた。
航海に出るたび、父さんは夜の船上で、星を観測して本を書いていた。
「メイ、すばらしい惑星を見つけたんだ」
何日も家を空けていたのに、家に帰っても父さんは、母さんに観測の話ばかりを嬉しそうに語る。ろくに母さんの話も聞かず、話題は惑星の物語ばかりだったそう。
けれど、そんな少年みたいな無邪気な父さんを、母さんは愛していた。そのときの母さんは、スターウォッチャーを目指す父さんを応援していたのだ。
そんなある日、航海を終えて帰ってきた父さんが、なぜか神妙な顔つきで母さんにこんな相談事をする。
「ひょっとしたら、あれは、惑星ファイアタンクかもしれない!」
それはハリスじいちゃんでさえ、まだ観測していない伝説の星。
観測に成功すれば、この大宇宙の謎を解くことができると言われていた。
「20年にいちどしか姿を見せない星。航海の夜に見た星は、おそらく……」
「フランシスさん、観測に専念してみたらどう?」
船の仕事を抱えて悩む父さんに、母さんはスターウォッチャーを選択するべきだと言った。ハリス・フェルディナンドを超えるスターウォッチャーになる、そんな夢を持っていた父さんを、母さんも応援したかったのだ。
「ありがとうメイ! やってみる、惑星ファイアタンクを観測するよ!」
そうして、父さんも決心した。次の航海のキャプテンは教え子に任せ、自分は船乗りから距離を置き、観測部屋で伝説の星を観測する道を選んだのだ。
ところが、観測に没頭して、1か月ほどが過ぎたころだった。
「フランシスっ! 船が、船が遭難したんだっ」
父さんのところに、仲間の船乗りが血相を変えてやってきたのだ。なんと、教え子が操縦する船が、大西洋の真ん中でこつ然と姿を消したのだという。
「ぼくのせいだっ! ぼくが、航海に出ていればっ!」
見習い上がりとはいえ、教え子は優秀な船乗りだった。だから、父さんを責める人なんていなかった。けれど、父さんは「ぼくのせいだ」と、自分を責め続けたのだ。
その事件を境に、父さんは別人になってしまう――。
「姿を見せやがれっ、ファイアタンクめっ。くそ、どこだっ、どこにいるんだあっ!」
父さんは部屋にこもりっきりで、観測にのめりこんだ。飲まず食わずの日が何日も続いて、まるで自分の中にある後悔や怒りを、すべて伝説の星にぶつけているようだった。
結局、遭難船は、3か月が過ぎても見つからなかった。
そして惑星ファイアタンクも、父さんの前に、その姿を見せてはくれなかった。
――事件から半年後。
なぜか朝から胸騒ぎがした母さんが、父さんの観測部屋に足を踏み入れてみると、
「ふ、フランシスさんっ? どこっ!?」
なんと、父さんと机の望遠鏡が跡形もなく消えていたのだ。
もぬけの殻になった観測部屋で、母さんはぼうぜんとする。そのとき、開いた天窓から吹く風で、机の本のページがめくれたそうだ。母さんはハッとし、その本を手に取った。
「……?」
それは書きかけの本のようだった。まだページのほとんどは白紙。ただ、最後のページをめくった母さんは思わず息をのんでしまったのだという。そこには、「この星は呪われている。呪われた惑星だ!」と、父さんの字で書かれていたのだ。父さんはそのメッセージを最後に残し、アルダーニャから、こつ然と姿を消したのだった――。
「あれからもう9年。ティムはまだ幼かったから、何も覚えていないでしょうね」
(――だから町のみんなは、ずっと父さんの話をしなかったんだ……)
父さんの過去を知ったおれは、ショックでどうにかなりそうだった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
児童小説をどうぞ
小木田十(おぎたみつる)
児童書・童話
児童小説のコーナーです。大人も楽しめるよ。 / 小木田十(おぎたみつる)フリーライター。映画ノベライズ『ALWAIS 続・三丁目の夕日 完全ノベライズ版』『小説 土竜の唄』『小説 土竜の唄 チャイニーズマフィア編』『闇金ウシジマくん』などを担当。2023年、掌編『限界集落の引きこもり』で第4回引きこもり文学大賞 三席入選。2024年、掌編『鳥もつ煮』で山梨日日新聞新春文芸 一席入選(元旦紙面に掲載)。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。

氷のオオカミになった少年
まさつき
児童書・童話
遠い昔、まだ人と精霊が心を交わせていたころのお話です。
雪深い山奥で、母ひとり子ひとりで暮らす狩人の少年ルルゥがおりました。
病気がちの母のため、厳しい冬を越して春の季節を迎えるために、ルルゥはひとりで、危険な雪山へと鹿狩りにでかけました。
運よくルルゥは、見事な牝鹿を仕留めるのですが――
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜
うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】
「……襲われてる! 助けなきゃ!」
錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。
人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。
「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」
少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。
「……この手紙、私宛てなの?」
少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。
――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。
新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。
「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」
見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。
《この小説の見どころ》
①可愛いらしい登場人物
見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎
②ほのぼのほんわか世界観
可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。
③時々スパイスきいてます!
ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。
④魅力ある錬成アイテム
錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。
◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。
◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。
◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。
◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。
クラゲの魔女
しろねこ。
児童書・童話
クラゲの魔女が現れるのは決まって雨の日。
不思議な薬を携えて、色々な街をわたり歩く。
しゃっくりを止める薬、、猫の言葉がわかる薬食べ物が甘く感じる薬、――でもこれらはクラゲの魔女の特別製。飲めるのは三つまで。
とある少女に頼まれたのは、「意中の彼が振り向いてくれる」という薬。
「あい♪」
返事と共に渡された薬を少女は喜んで飲んだ。
果たしてその効果は?
いつもとテイストが違うものが書きたくて書きました(n*´ω`*n)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中です!
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる