スター☆ウォッチャー

泉蒼

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第8章 フランシス・フェルディナンドの過去!

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 母さんが窓のそばへ歩いていき、その前に置いてある机のふちに腰をおろす。

「この机に望遠鏡を置いてね、フランシスさんは星を観測していたの」

 ついに母さんの口から、スターウォッチャーの話が飛びだした瞬間だった。

 驚きであんぐりと口を開けるおれに、母さんが「だって仕方ないでしょう」と、微笑みながら続ける。

「止めたって無駄だったわ。フランシスさんのお父さんはハリスさんだもん。だから今のティムと同じように、フランシスさんも当然、スターウォッチャーを目指していたの」

「……おれが山小屋へ行ってること、やっぱり、母さんは知ってたんだ」

「ふふ、わかるわよ。だからティムが、スターウォッチャーになるって決心したら、話そうと思ってたの。父さんが
どうして行方不明になってしまったのかをね」

 そう話し始めた母さんが、おれの顔をじっと見つめる。黒い瞳がキラキラしていて、おれは、母さんの記憶の中に吸い込まれそうな気がした。ずっと姿を見せなかった父さんがおれの小さな世界に、どんどんと足を踏みいれてくる気配を感じたんだ――。


 おれの父さんは、アルダーニャの船乗りだった。

 大きな船に漁師を乗せて、大西洋を航海していたのだ。そんな父さんも、やっぱりハリスじいちゃんに憧れて、スターウォッチャーを目指していた。

 航海に出るたび、父さんは夜の船上で、星を観測して本を書いていた。

「メイ、すばらしい惑星を見つけたんだ」

 何日も家を空けていたのに、家に帰っても父さんは、母さんに観測の話ばかりを嬉しそうに語る。ろくに母さんの話も聞かず、話題は惑星の物語ばかりだったそう。

 けれど、そんな少年みたいな無邪気な父さんを、母さんは愛していた。そのときの母さんは、スターウォッチャーを目指す父さんを応援していたのだ。

 そんなある日、航海を終えて帰ってきた父さんが、なぜか神妙な顔つきで母さんにこんな相談事をする。

「ひょっとしたら、あれは、惑星ファイアタンクかもしれない!」

 それはハリスじいちゃんでさえ、まだ観測していない伝説の星。

 観測に成功すれば、この大宇宙の謎を解くことができると言われていた。

「20年にいちどしか姿を見せない星。航海の夜に見た星は、おそらく……」

「フランシスさん、観測に専念してみたらどう?」

 船の仕事を抱えて悩む父さんに、母さんはスターウォッチャーを選択するべきだと言った。ハリス・フェルディナンドを超えるスターウォッチャーになる、そんな夢を持っていた父さんを、母さんも応援したかったのだ。

「ありがとうメイ! やってみる、惑星ファイアタンクを観測するよ!」

 そうして、父さんも決心した。次の航海のキャプテンは教え子に任せ、自分は船乗りから距離を置き、観測部屋で伝説の星を観測する道を選んだのだ。

 ところが、観測に没頭して、1か月ほどが過ぎたころだった。

「フランシスっ! 船が、船が遭難したんだっ」

 父さんのところに、仲間の船乗りが血相を変えてやってきたのだ。なんと、教え子が操縦する船が、大西洋の真ん中でこつ然と姿を消したのだという。

「ぼくのせいだっ! ぼくが、航海に出ていればっ!」

 見習い上がりとはいえ、教え子は優秀な船乗りだった。だから、父さんを責める人なんていなかった。けれど、父さんは「ぼくのせいだ」と、自分を責め続けたのだ。

 その事件を境に、父さんは別人になってしまう――。

「姿を見せやがれっ、ファイアタンクめっ。くそ、どこだっ、どこにいるんだあっ!」

 父さんは部屋にこもりっきりで、観測にのめりこんだ。飲まず食わずの日が何日も続いて、まるで自分の中にある後悔や怒りを、すべて伝説の星にぶつけているようだった。

 結局、遭難船は、3か月が過ぎても見つからなかった。

 そして惑星ファイアタンクも、父さんの前に、その姿を見せてはくれなかった。

 ――事件から半年後。

 なぜか朝から胸騒ぎがした母さんが、父さんの観測部屋に足を踏み入れてみると、

「ふ、フランシスさんっ? どこっ!?」

 なんと、父さんと机の望遠鏡が跡形もなく消えていたのだ。

 もぬけの殻になった観測部屋で、母さんはぼうぜんとする。そのとき、開いた天窓から吹く風で、机の本のページがめくれたそうだ。母さんはハッとし、その本を手に取った。

「……?」

 それは書きかけの本のようだった。まだページのほとんどは白紙。ただ、最後のページをめくった母さんは思わず息をのんでしまったのだという。そこには、「この星は呪われている。呪われた惑星だ!」と、父さんの字で書かれていたのだ。父さんはそのメッセージを最後に残し、アルダーニャから、こつ然と姿を消したのだった――。


「あれからもう9年。ティムはまだ幼かったから、何も覚えていないでしょうね」

(――だから町のみんなは、ずっと父さんの話をしなかったんだ……)

 父さんの過去を知ったおれは、ショックでどうにかなりそうだった。
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