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第7章 まさかの仕打ち?
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「スターウォッチャーの本は嘘つきだ!」
山を下って町の広場につくと、バケモノ望遠鏡をのぞく人たちが、じいちゃんの悪口を叫んでいた。ヴィトのせいで自信をなくしていたおれは、たまらなくなって耳をふさぐ。
おれは一気に広場を駆け抜けると、商店街までやってきた。すると、偶然に母さんを発見したんだ。母さんは腕に買い物袋を下げ、アレンさんのお店で魚を見つめている。
そのとき――、
「よ、ティムじゃねえか!」
と、腰にエプロンを巻いたアレンさんが声をかけてきた。
(――ヤバっ。まだ、アレンさんに謝ってなかったっけ……)
この前、家に本を届けてくれたアレンさんに、おれはひどいことを言ってしまったんだ。
「ティム、そんなとこに突っ立ってねえで、こっちへこいよ!」
けれど、アレンさんはそんなおれを笑顔で迎えてくれた。
(……まったく、アレンさんはどこまでお人好しなんだ)
鼻をすすって店まで歩いていくと、アレンさんは「メイさんのお見舞いだ」って、大きな魚を紙に包んで、おれに持たせてくれたんだ。
「見ろよ、でっけえサーモンだろ? 今朝な、運よく漁港で仕入れたんだぜ」
「えっと……この前は、ひでえこと言って、ええと……ごめん」
「アッハハ、ったくティムは。それで謝ってるつもりなのか?」
そんな指摘に思わず鼻をかくと、母さんが隣で肩をすくめた。母さんの左腕には包帯が巻かれている。
「母さん、腕のケガはもう大丈夫なの?」
「ええ。こんなのへっちゃらよ。そうだ、ティム。アレンさんにもらったお魚で、特製サンドイッチを作ってみようかしら。ティムはサーモンとチーズのサンドが好きだものね」
「よかったな、ティム。……あ、いらっしゃい!」
おれと母さんがしゃべっていると、アレンさんが他のお客さんに呼ばれて接客に走った。その光景をなんとなく見ていたおれは、「えっ、どうして!」と、思わず声をあげてしまうのだ。なんと、アレンさんが魚を買ったお客さんに、本をプレゼントしていたんだ。
(――じいちゃんの本だ!)
でも、おれは本を受けとるお客を見て、何だかヒヤヒヤしてしまった。また、本が捨てられるんじゃないかって。
けれど、そんな心配は無用だった。お客は「私はスターウォッチャーを信じるわ」と微笑んで、アレンさんが差しだす本を受けとってくれた。
「どうだ、見たかよ!」
接客からもどってきたアレンさんが、自慢げに胸を張ってみせる。
「おれの製本がすばらしいんだな。まあ、ちょっと落書きは残っちまったけど、アハハ」
「ティム、アレンさんはね、捨てられた本を読めるように綺麗にしてくれたのよ。商店街の人も協力してくれて、ハリスさんの本を町の人に配ってくれているの」
おれは、おどろきで言葉を失ってしまう。
「ったく、感動しちまったか? みんな、ハリスさんの本を読んで育ってきたからさ、どこかで信じてるんだよ。インモビリアール社がなにを言っても、スターウォッチャーの書く本が本当なんだって。だからティムも、良いスターウォッチャーになれよ……」
そこまで言ってアレンさんは、とっさに自分の口を手でおおう。母さんの前で、家族を奪ったスターウォッチャーの話をしたから、まずいっ、と思ったんだろう。
「おっと、そろそろ仕事にもどるわ……エヘヘ。じゃあな、ティム」
(――あっ、おい、逃げるのかよっ!)
おれがヒヤヒヤしていると、母さんは「ティム、帰ろうか」と、優しく言ってくれた。
そのあとは、ひさしぶりに母さんと家まで歩いた。たぶん母さんは、おれがスターウォッチャーを目指していることに気がついている。それなのに、なんで反対しないのかな? 母さんは、何を考えているんだろう?
そんなことを思って歩いていると、突然母さんが、驚くことを言ったんだ。
「ティム、家に帰ったら話しがあるの。フランシスさん、ティムの父さんのことでね」
「……」
つい、あっ気にとられてしまったおれに、母さんがさらに爆弾発言をする。
「ティムにはだまっていたけど、じつは家に、秘密の部屋があるのよ」
山を下って町の広場につくと、バケモノ望遠鏡をのぞく人たちが、じいちゃんの悪口を叫んでいた。ヴィトのせいで自信をなくしていたおれは、たまらなくなって耳をふさぐ。
おれは一気に広場を駆け抜けると、商店街までやってきた。すると、偶然に母さんを発見したんだ。母さんは腕に買い物袋を下げ、アレンさんのお店で魚を見つめている。
そのとき――、
「よ、ティムじゃねえか!」
と、腰にエプロンを巻いたアレンさんが声をかけてきた。
(――ヤバっ。まだ、アレンさんに謝ってなかったっけ……)
この前、家に本を届けてくれたアレンさんに、おれはひどいことを言ってしまったんだ。
「ティム、そんなとこに突っ立ってねえで、こっちへこいよ!」
けれど、アレンさんはそんなおれを笑顔で迎えてくれた。
(……まったく、アレンさんはどこまでお人好しなんだ)
鼻をすすって店まで歩いていくと、アレンさんは「メイさんのお見舞いだ」って、大きな魚を紙に包んで、おれに持たせてくれたんだ。
「見ろよ、でっけえサーモンだろ? 今朝な、運よく漁港で仕入れたんだぜ」
「えっと……この前は、ひでえこと言って、ええと……ごめん」
「アッハハ、ったくティムは。それで謝ってるつもりなのか?」
そんな指摘に思わず鼻をかくと、母さんが隣で肩をすくめた。母さんの左腕には包帯が巻かれている。
「母さん、腕のケガはもう大丈夫なの?」
「ええ。こんなのへっちゃらよ。そうだ、ティム。アレンさんにもらったお魚で、特製サンドイッチを作ってみようかしら。ティムはサーモンとチーズのサンドが好きだものね」
「よかったな、ティム。……あ、いらっしゃい!」
おれと母さんがしゃべっていると、アレンさんが他のお客さんに呼ばれて接客に走った。その光景をなんとなく見ていたおれは、「えっ、どうして!」と、思わず声をあげてしまうのだ。なんと、アレンさんが魚を買ったお客さんに、本をプレゼントしていたんだ。
(――じいちゃんの本だ!)
でも、おれは本を受けとるお客を見て、何だかヒヤヒヤしてしまった。また、本が捨てられるんじゃないかって。
けれど、そんな心配は無用だった。お客は「私はスターウォッチャーを信じるわ」と微笑んで、アレンさんが差しだす本を受けとってくれた。
「どうだ、見たかよ!」
接客からもどってきたアレンさんが、自慢げに胸を張ってみせる。
「おれの製本がすばらしいんだな。まあ、ちょっと落書きは残っちまったけど、アハハ」
「ティム、アレンさんはね、捨てられた本を読めるように綺麗にしてくれたのよ。商店街の人も協力してくれて、ハリスさんの本を町の人に配ってくれているの」
おれは、おどろきで言葉を失ってしまう。
「ったく、感動しちまったか? みんな、ハリスさんの本を読んで育ってきたからさ、どこかで信じてるんだよ。インモビリアール社がなにを言っても、スターウォッチャーの書く本が本当なんだって。だからティムも、良いスターウォッチャーになれよ……」
そこまで言ってアレンさんは、とっさに自分の口を手でおおう。母さんの前で、家族を奪ったスターウォッチャーの話をしたから、まずいっ、と思ったんだろう。
「おっと、そろそろ仕事にもどるわ……エヘヘ。じゃあな、ティム」
(――あっ、おい、逃げるのかよっ!)
おれがヒヤヒヤしていると、母さんは「ティム、帰ろうか」と、優しく言ってくれた。
そのあとは、ひさしぶりに母さんと家まで歩いた。たぶん母さんは、おれがスターウォッチャーを目指していることに気がついている。それなのに、なんで反対しないのかな? 母さんは、何を考えているんだろう?
そんなことを思って歩いていると、突然母さんが、驚くことを言ったんだ。
「ティム、家に帰ったら話しがあるの。フランシスさん、ティムの父さんのことでね」
「……」
つい、あっ気にとられてしまったおれに、母さんがさらに爆弾発言をする。
「ティムにはだまっていたけど、じつは家に、秘密の部屋があるのよ」
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