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第3章 大馬鹿者
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あてもなく一時間町をさまよった。
「もっとマフィン食っとけばよかった……」
商店街に行くとアレンさんは接客をしていた。しばらく待ってみたが長話で、謝るタイミングを逃した。
「はあ、まだ家に帰れねえ」
気付くと町の広場だった。
「はは……結局、朝の計画通りに偵察に来てしまったか」
教会前の石畳にはまだ黒光りする巨大望遠鏡があった。
「……バケモノ望遠鏡め、まだ広場にいやがったのか! でも、演壇は片付けられているのに、どうして望遠鏡だけ残っているんだ?」
ただ、こいつを見ていると無性に腹が立つ。
「おまえの、せいだっ!」
石を拾って投げつけた。
「あ! ……くそ」
放物線を描いた石は左に大きくそれた。
「やることなすこと上手くいかねえ……」
また泣きそうになる。ここにたどり着くまでにじいちゃんの本を十冊も拾った。本が捨てられるだけでもショックだがどの表紙も破かれていた。どの表紙にも「嘘つき」と落書きされていた。辛すぎる。
「みんな……ハリスじいちゃんのこと……大好きだっただろ。それなのに……」
魂を抜かれたような落ち込みがやってくる。腰から力が抜けその場に座った。
「どうして……嘘つきなんて言うんだ」
「アッハッハッハ!」
笑い声がした。
――誰?
ふと顔を上げる。
「……なんだ、こいつ?」
紫のローブに身を包む長身の男が立っていた。肩にはオウムが。フードを深く被っていて顔は見えない。そこから長いブロンドの髪がはみ出している。
「誰だよ」
「ぶざまだな」
謎の男が笑った気がした。肩に乗せた赤毛の鳥を右手でなで始める。
「なんで肩に鳥がいるんだ? まさかお前もインモビリアール社か?」
「オマエ、馬鹿!」
オウムが叫ぶ。憎らしいほどクリンとした瞳の鳥だ。
「なんだと、このヘンテコ鳥めっ!」
頭に血が上って立ち上がる。男は今度こそ笑った。
「アッハッハッ、元気そうじゃないか。泣いて腐って化石にでもなってしまったんだと、私は思っていたんだが」
「オマエ、馬鹿! 馬鹿!」
男が馬鹿笑いし、鳥が叫ぶ。
「うるせえっ」とおれも叫ぶ。
「オウムはジョバンニという名だ。口は悪いが中々の切れ者でね」
「ジョバンニ? じゃあ、おまえはジョバン『イチ』って名か? そんなことより、おれは腹が立ってんだ! 昨日から散々な目にあってんだよ!」
こぶしを握ると謎の男が「私の名はヴィトだ」と言う。フードの下で口元を緩ませた彼は、「ジョバン『イチ』じゃなくて申し訳なく思う」と、白い歯を見せた。
「我慢できねえ!」
超ムカついて、おれは走った。
「もっとマフィン食っとけばよかった……」
商店街に行くとアレンさんは接客をしていた。しばらく待ってみたが長話で、謝るタイミングを逃した。
「はあ、まだ家に帰れねえ」
気付くと町の広場だった。
「はは……結局、朝の計画通りに偵察に来てしまったか」
教会前の石畳にはまだ黒光りする巨大望遠鏡があった。
「……バケモノ望遠鏡め、まだ広場にいやがったのか! でも、演壇は片付けられているのに、どうして望遠鏡だけ残っているんだ?」
ただ、こいつを見ていると無性に腹が立つ。
「おまえの、せいだっ!」
石を拾って投げつけた。
「あ! ……くそ」
放物線を描いた石は左に大きくそれた。
「やることなすこと上手くいかねえ……」
また泣きそうになる。ここにたどり着くまでにじいちゃんの本を十冊も拾った。本が捨てられるだけでもショックだがどの表紙も破かれていた。どの表紙にも「嘘つき」と落書きされていた。辛すぎる。
「みんな……ハリスじいちゃんのこと……大好きだっただろ。それなのに……」
魂を抜かれたような落ち込みがやってくる。腰から力が抜けその場に座った。
「どうして……嘘つきなんて言うんだ」
「アッハッハッハ!」
笑い声がした。
――誰?
ふと顔を上げる。
「……なんだ、こいつ?」
紫のローブに身を包む長身の男が立っていた。肩にはオウムが。フードを深く被っていて顔は見えない。そこから長いブロンドの髪がはみ出している。
「誰だよ」
「ぶざまだな」
謎の男が笑った気がした。肩に乗せた赤毛の鳥を右手でなで始める。
「なんで肩に鳥がいるんだ? まさかお前もインモビリアール社か?」
「オマエ、馬鹿!」
オウムが叫ぶ。憎らしいほどクリンとした瞳の鳥だ。
「なんだと、このヘンテコ鳥めっ!」
頭に血が上って立ち上がる。男は今度こそ笑った。
「アッハッハッ、元気そうじゃないか。泣いて腐って化石にでもなってしまったんだと、私は思っていたんだが」
「オマエ、馬鹿! 馬鹿!」
男が馬鹿笑いし、鳥が叫ぶ。
「うるせえっ」とおれも叫ぶ。
「オウムはジョバンニという名だ。口は悪いが中々の切れ者でね」
「ジョバンニ? じゃあ、おまえはジョバン『イチ』って名か? そんなことより、おれは腹が立ってんだ! 昨日から散々な目にあってんだよ!」
こぶしを握ると謎の男が「私の名はヴィトだ」と言う。フードの下で口元を緩ませた彼は、「ジョバン『イチ』じゃなくて申し訳なく思う」と、白い歯を見せた。
「我慢できねえ!」
超ムカついて、おれは走った。
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