スター☆ウォッチャー

泉蒼

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第3章 大馬鹿者

3-2

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「いっただきまーす」

 リビングのテーブル上にキツネ色の焦げ目がついたバナナマフィンが並んでいる。

 おれの大好物。きっと晩ご飯を食べずに寝たから、母さんがたくさん用意してくれたのだ。そんな母さんは、台所横の玄関で、扉越しに誰かと話し込んでいた。

「うまい……、でも、こんな朝早くに誰だろう?」

 少し気になって、会話に耳を澄ませる。

「――いいんです、処分してください」

 処分、何を?

 見ると、エプロンをつけた母さんがお辞儀をしていた。唇を真一文字に結ぶ母さんは、疲れているように見えた。

「母さん?」

 座ったまま声をかける。

「何でもないの、ティム」

 母さんはこっちを振り返らず。口元は微笑んでいるが、何度か右手で栗色のショートヘアを触った。

「あやしい」

 小声でつぶやく。というのも、母さんが隠し事をするサインが、それだ。決まって髪の毛を触るのだ。
食べかけのマフィンを皿に戻し、こそっと玄関に近づく。母さんの脇に立ち、おれはいきなり扉を開けた。

「こんちはっ!」

「こら、ティム」

 母さんに怒られる。でも、おれは満面の笑みだ。

「……なんだ、アレンさんかよ」

 だが、外を見てガッカリ。二軒隣に住む、ひょろりと背の高いアレンさんがいた。

「なんだ、はないだろ」

 アレンさんはニッコリしたが、おれの顔から目をそらす。

「気まずそうだね。なんか、隠してる?」

「ティムに? ハハ、そんなことあるか」

 彼は金髪を指でかき、次いで鼻の頭をかいた。

「メイさんに配達があってな。これから戻って、商売開始だ」

 アレンさんは商店街で魚を売っている。良い人で、おれを見かけるたびに声をかけてくれる。恥ずかしくて知らんふりしても、デカい声で挨拶してくるのだ。

「ティム、お客さんを驚かすもんじゃないの」

 母さんがバツが悪そうに誤った。何故か扉を閉めようとする。

「おれがいたらマズい?」

 アレンさんから引き離そうとする素振りが引っ掛かって聞いた。

「そうじゃないわ――」

「あ、そうか! 魚が売れねえから押し売りにきたんだ」

 母さんをさえぎって、一気に外へ飛び出した。アレンさんの背後に回って背中をこそばす。

「ぎゃははっ、ティム!」

 バサバサッ――ドサッ!

「あっ」

 アレンさんが両手をあげると何かが地面に落ちた。表紙がビリビリに破けた本だ。五冊もある。

「あ! ……じいちゃんの本だ」

「違うんだティム! みんなちょっと混乱してて」

 アレンさんがあわてて本を拾い始める。

「触るな! じいちゃんの本に触るな!」

 ついカッとして怒鳴った。

「インモビリアール社を信じたのか? 本が要らねえなら、返せ!」

 アレンさんが怯えた顔になる。

 生意気だと自分でも思うが我慢できない。本の表紙に「嘘つき」と赤い字で落書きまでされていたから。ひどすぎる。

 パチーン!

 だが、頬をぶたれた。目を充血させた母さんが叫ぶ。

「アレンさんに謝りなさい! 広場に捨てられていた本を拾って届けてくれたのよ!」

「……嘘」

 言うも遅し。

 突然始まった親子げんかに、アレンさんは気まずそうに帰って行った。

「さっきの態度は何!」

 だが、母さんの勢いは止まらない。おれはちびりそう。いつぶりだ、本気で怒鳴られたのは。

 地獄の説教は続く。

「目上の人に向かって! 今すぐ謝ってきなさい! 許してもらえるまで、家には帰ってこないで!」

 バタンッ!

 家に入った母さんが思い切り扉を閉めた。

「おれ、マジで馬鹿だな……」

 空を見上げた。まぶしい。両手で頭をかきむしる。心がぐしゃぐしゃになる。

 涙が出そうで、地団太を踏む。

 昨日サリーに「すぐにカッとなるクセを直しなさい」と言われたのを思い出し、絶望した。

「馬鹿馬鹿、おれの馬鹿! 考えたら分かるだろ……アレンさんがじいちゃんの本を破るわけねえし」
おれは、暴言まで吐いてしまった。
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