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第1章 ずっと忘れていた夢
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「ティム、何やってるのよ!」
「いや、望遠鏡が気になって――」
「それに触っちゃダメって言ったじゃない!」
言い訳がサリーの悲鳴のような声にさえぎられる。
ヤバいヤバいヤバい……。
本気で怒ったときの心がズキンとする嫌な声だ。
くそ、なんでこうなるんだ。
サリーとけんかするつもりなんか、なかったのに。
ちょっと、ちょっとだけ望遠鏡が気になって……。
昔のことを思い出したら、つい望遠鏡が気になって触っただけなんだ。
それなのに――。
「どうして約束を破ったのよっ」
サリーは泣きながら続けた。
おれはショックと後悔で、身動きがとれない。
本気で怒ったときのサリーにどう向き合えばいいのか、おれにはさっぱりわからない。
「その望遠鏡が滅茶苦茶にしたんだよ。ティムの家族を滅茶苦茶にしたんだよ!」
針のような言葉がおれの心臓をキューンと縮こませる。
……そうか。
……そうだ。
……そうだったな。
おれは、バカだったな。
ぼう然と突っ立つバカなおれに、サリーの容赦ない叫び声が飛んでくる。
「望遠鏡のせいでハリスさんは死んだ! ティムのお父さんも! スターウォッチャーになったせいで行方不明になった! もう忘れたの? また同じことを繰り返すの?」
「望遠鏡が……家族を奪う?」
さっきのわくわくしていた心が、嘘のように縮こまる。
まさにサリーの言葉は、おれの脳天を揺さぶるようだった。
「ねえ? ねえ? ねえっ? ねえったら、ティムっ?」
もう、やめてくれ。
おれは耳をふさぎたくてしかたがなかった。
……けど。
けど……。
「そうだったよ」
山小屋に行かなくなったのは、なにも母さんのせいだけじゃない。
おれが決めたんだ……。
こいつが憎くて……。
ああ、おれのバカ。
ほんとバカだな。
なんでそんな大事なこと、おれは忘れてるんだよ。
くそ。
望遠鏡を分解して天井裏に隠したのは、なにをかくそうおれ自身だ。
スターウォッチャーになる夢を無理やり忘れたのも自分だし。
山小屋には行けないと決めたのも自分だ。
夢を捨てたのも自分で。
ぜんぶ。
自分、自分、自分、自分、自分――――――。
ぜんぶ、自分だ。
やっと、思い出した。
「……家族を奪ったこいつを、おれは、忘れたかったんだ」
憎い。
――望遠鏡が憎い。
それが、ずっと忘れていた、おれの記憶。
じいちゃんがいなくなって、悲しくて、当時のおれは、記憶から山小屋を消してしまうことにした。
――そうだ。
おれは、こいつが憎かったんだ。
この望遠鏡がおれたち家族を狂わせた。
おれは、おれは……。
おれは、この望遠鏡が――。
憎くて憎くて憎くて――しかたなかったんだ。
「いや、望遠鏡が気になって――」
「それに触っちゃダメって言ったじゃない!」
言い訳がサリーの悲鳴のような声にさえぎられる。
ヤバいヤバいヤバい……。
本気で怒ったときの心がズキンとする嫌な声だ。
くそ、なんでこうなるんだ。
サリーとけんかするつもりなんか、なかったのに。
ちょっと、ちょっとだけ望遠鏡が気になって……。
昔のことを思い出したら、つい望遠鏡が気になって触っただけなんだ。
それなのに――。
「どうして約束を破ったのよっ」
サリーは泣きながら続けた。
おれはショックと後悔で、身動きがとれない。
本気で怒ったときのサリーにどう向き合えばいいのか、おれにはさっぱりわからない。
「その望遠鏡が滅茶苦茶にしたんだよ。ティムの家族を滅茶苦茶にしたんだよ!」
針のような言葉がおれの心臓をキューンと縮こませる。
……そうか。
……そうだ。
……そうだったな。
おれは、バカだったな。
ぼう然と突っ立つバカなおれに、サリーの容赦ない叫び声が飛んでくる。
「望遠鏡のせいでハリスさんは死んだ! ティムのお父さんも! スターウォッチャーになったせいで行方不明になった! もう忘れたの? また同じことを繰り返すの?」
「望遠鏡が……家族を奪う?」
さっきのわくわくしていた心が、嘘のように縮こまる。
まさにサリーの言葉は、おれの脳天を揺さぶるようだった。
「ねえ? ねえ? ねえっ? ねえったら、ティムっ?」
もう、やめてくれ。
おれは耳をふさぎたくてしかたがなかった。
……けど。
けど……。
「そうだったよ」
山小屋に行かなくなったのは、なにも母さんのせいだけじゃない。
おれが決めたんだ……。
こいつが憎くて……。
ああ、おれのバカ。
ほんとバカだな。
なんでそんな大事なこと、おれは忘れてるんだよ。
くそ。
望遠鏡を分解して天井裏に隠したのは、なにをかくそうおれ自身だ。
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山小屋には行けないと決めたのも自分だ。
夢を捨てたのも自分で。
ぜんぶ。
自分、自分、自分、自分、自分――――――。
ぜんぶ、自分だ。
やっと、思い出した。
「……家族を奪ったこいつを、おれは、忘れたかったんだ」
憎い。
――望遠鏡が憎い。
それが、ずっと忘れていた、おれの記憶。
じいちゃんがいなくなって、悲しくて、当時のおれは、記憶から山小屋を消してしまうことにした。
――そうだ。
おれは、こいつが憎かったんだ。
この望遠鏡がおれたち家族を狂わせた。
おれは、おれは……。
おれは、この望遠鏡が――。
憎くて憎くて憎くて――しかたなかったんだ。
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